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魔王と勇者 勇者と魔王↓
4話(比率:男2・女2)
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ジェニ:♂ 17歳。マイペースな魔王。感情の起伏がほぼ無く、表情がほとんど変わらない。
ハル:♀ 17歳。天然おバカな勇者。回復魔法は得意だけど、その他は平凡な女の子。
ベル:♀ 17歳。ツンデレな魔王。ジェニ様が大好き。
タイガ:♂ 17歳。少し口の悪い勇者。なんだかんだで人のこと考えられる良い子。
・役表
ハル:♀
ジェニ、():♂
ベル:♀
タイガ:♂
ーーーーー
タイガ「せぇぇのっとぉ!」
タイガの力強い声が、森の中に響き渡る。
その声に共鳴するように、手にした剣の刀身は白く輝きを強め、三日月型の斬撃が魔物へとまっすぐ伸びていく。
熊のような見た目をした巨大な魔物は、斬撃を腹で受け止め、血飛沫と共に大きな悲鳴を上げる。
ハル「タイガ、まだまだ来るよ!」
タイガ「よっしゃぁ! どんどんこいやぁ!」
次々と襲いかかってくる魔物たちに、怯えることなく、退くことなく、勇者は立ち向かっていく。
その様子を、少し離れた木の上から見下ろしている、一人の男。
ジェニ「……頑張ってるねぇ、あの二人」
ハル(M)私たちは、勇者。襲ってくる魔物や魔王を倒し、人々の平和を守る。
ジェニ(M)僕たちは、魔王。自分の邪魔をするものがいれば、誰であろうと殺す。
タイガ「ふぅ……。こんなもんか?」
ハル「みたいだね。お疲れ様」
タイガ「おうよ」
ジェニ(M)魔王と勇者は、互いを殺し合う存在。だから、僕たちが出会えば……。
ジェニ「ふふふふふ……!」
ハル「ん?」
タイガ「こ、この声は……!」
ジェニ「僕のしもべたちを倒してしまうなんて……君たち、とっても強いんだねぇ。でも、これ以上は好き勝手させないよ」
タイガ「……は?」
不気味な笑みを浮かべながら、勇者たちの前へ立ち塞がる魔王。安堵の表情を浮かべていた勇者たちの顔色は、みるみるうちに変わっていく。
一人は、恐怖──ではなく呆れた顔に。もう一人は、絶望──ではなく、テーブルに好きな食べ物が置かれた時の無邪気な子どものような笑顔に。
勇者たちのそれぞれの表情をみた魔王は、浮かべていた笑みをスッと消し去り、無となった表情のまま勇者へと歩みを進めていく。
ハル「……!」
ジェニ「久しぶりだね。ハル、タイガ」
ハル「うわぁぁぁ! 久しぶりの、ジェニ! 久しぶりの、ぎゅ~!」
ジェニ「ぎゅ~」
タイガ「出会い頭に抱きつくなよ、お前ら。マジで仲良いよな。つーかジェニ、さっきの登場セリフはなんだよ?」
ジェニ「どう? 魔王っぽかった?」
タイガ「ぽいもなにも、お前は本物の魔王だろうが」
ハル「カッコよかったよ! いつものジェニじゃない感じがした!」
ジェニ「一昨日倒した魔王が言ってたセリフなんだ。カッコいいなぁと思ったから、真似してみた」
ハル「え……倒した……?」
タイガ「魔王が魔王倒したの? お前ら、仲間割れとかすんの?」
ジェニ「君らは勇者同士で殺し合いとかしないの?」
タイガ「そんな恐ろしいことするわけねぇだろ!」
ジェニ「へぇ、そうなんだ」
ハル「な、なんで倒したの……?」
ジェニ「えっとね、森を出てフラフラ散歩してたら『ここは俺様の敷地内だぞ! さっさとでてけ!』とか、よくわからないこと言って襲ってきたからさ」
タイガ「返り討ちにしたと? 魔王の世界は、おっかねぇなぁ……」
ジェニ「僕らは君たち勇者と違って、個人主義のやつらばっかりだからさ。気にくわないやつがいたら、それが魔物だろうが勇者だろうが同じ魔王だろうが、関係なしに殺しちゃうから」
ハル「な、なんと恐ろしい……!」
ジェニ「だから僕も、君たちのこと気にくわない連中になったら、容赦なく殺すからね?」
ハル「ひぇぇぇ⁈」
ジェニ「冗談だよ」
タイガ「冗談に聞こえねぇよ!」
ジェニ「君たちは、この後帰るの?」
タイガ「あぁ。討伐対象の魔物は、これで全部倒したからな」
ジェニ「そっか。最近、忙しいの?」
ハル「うん。ここ近辺で、魔物が大量発生してて……」
タイガ「ハルの手を借りなきゃいけねぇほどだ」
ハル「それ、どういう意味⁈」
ジェニ「なるほどね。沢山の人を守らなきゃいけない勇者は大変だねぇ」
タイガ「念のため確認しとくが、魔物を生み出してるの、お前やベルじゃねぇだろうな?」
ジェニ「あのね、君たち勇者は『魔王全員が魔物を生み出せる』と思ってるけど、めちゃくちゃ強いやつしかできないからね?」
ハル「そ、そうなんだ」
ジェニ「ベルには無理だよ。僕はできるけど」
タイガ「お前はできんのかよ!」
ジェニ「できるけど、僕は絶対にやらない。あれ、めちゃくちゃ魔力使って疲れるから。それに、僕は生み出すより食べる派だし」
ハル「た、食べる……」
タイガ「確かに、お前の場合は生み出しても食べちまうか。疑って悪かったな」
ジェニ「疑いたい気持ちはわかるよ。最近、この森で魔物を見かけることが多くなってきてるからね。もしかしたら……」
タイガ「お前ら以外の魔王が近くにいる、か?」
ジェニ「それも、とびっきり強いやつがね」
ハル「ど、どれくらい強いのかな……?」
ジェニ「ハルは絶対勝てないから。何があっても勝てないからね。瞬殺だよ、瞬殺。戦うだけ無駄だよ。時間の無駄」
ハルの心に、ジェニの言葉が突き刺さる。
ハル「ふぐっ⁈ そ、そこまで言わなくても……! 酷い……!」
タイガ「俺はどうだ? 勝てると思うか?」
ジェニ「うーん……どうだろ? 魔物を生み出してるのがそいつなら、僕と同じくらいじゃない?」
ハル「ジェ、ジェニと同じくらい……⁈」
ジェニ「それなら君に勝ち目はないね。だって、僕に勝ったことないし」
タイガ「言ってくれんじゃねぇか、魔王様よぉ……!」
ジェニ「本当のことじゃん」
タイガ「おいジェニ、暇だろ? 付き合えよ」
ジェニ「うん、いいよ」
ハル「え? ちょ、ちょっと!」
タイガ「んじゃ、久しぶりに……!」
タイガ「殺りあいますか!」
ジェニ「殺りあおっか」
ハル「ちょっ、落ち着いてぇぇぇ!」
ハル(M)勇者と魔王……いや、男という生き物は、何を考えてるのかわからない……。
ーーー
数分後。ジェニの目の前には、うつ伏せで倒れピクピク小さく震える勇者の姿。
タイガ「く、くそが……!」
ジェニ「顔面に一発入れられるとは思ってなかったよ。タイガ、強くなったね」
タイガ「そりゃ……どう……も……!」
ハル「タイガァァァ! 大丈夫なの⁈ ねぇ!」
タイガ「癒しを……回復魔法を……!」
ハル「動かないでね! じっとしててね!」
タイガ「動けねぇよ……ちくしょうが……!」
ジェニ「沢山動いたから、お腹空いちゃった。僕、ご飯探してくるねぇ」
ハル「うん! またね、ジェニ!」
ジェニ「あっ、そうだ。ハル」
ハル「ん? なに?」
ジェニ「もし暇ができたら、ベルに会ってあげて。すごく寂しそうだからさ」
ハル「え? ベルちゃんが? もぉ~なんだかんだ言って、やっぱり寂しがってるんだぁ~! 可愛いなぁ~!」
タイガ「お前ら、ホント仲良いよな……。いてててて……!」
ジェニ「じゃあね。ハル、タイガ」
タイガ「おう」
ハル「うん! また遊びに行くね!」
ジェニ「うん、待ってるね」
無表情のまま二人に軽く手を振り、森の奥へと消えていくジェニ。勇者二人の話す声がなにも聞こえなくなると、歩みを止め、辺りを見回す。
ジェニ(M)僕は、魔王。気にくわないやつがいたら、それが魔物だろうが勇者だろうが、同じ魔王だろうが、関係なしに殺しちゃう、怖い存在。
ジェニ「僕の大切なものを傷つけるのなら、容赦しないからね? 名前も顔も知らない、魔王さん」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべる魔王──その姿に恐怖を抱いたか、周りの草木たちは身を震わせた。
ーーー
ぽっかりと大きな円状に開け、他の場所と違い太陽の光がサンサンと降り注ぐ明るい森の中。
ベル「んもぉぉぉぉぉ! なんでできないんですのぉぉぉ⁈」
穏やかな景色には似合わない声が、森の中を駆け巡る。
声の主であるベルは、情けない自分自身に苛立ちを隠せず『きぃぃぃ!』と呟きながら頭を掻きむしっている。
ベル「未だに一個目の回復魔法すら使えないんですけど! どうなってるんですの⁈ あの本、嘘書いてあるんじゃないでしょうね!」
ベル「うぅ……魔王たちは回復魔法を使うのが苦手というのは知ってましたけども、ここまでとは……! ハルにコツを聞こうかしら? いや、ダメよベル! ハルには完璧に使えるところを見せるの! そして……!」
胸に手を当て、妄想を始める。
目の前には、指を少し切っただけなのに大泣きしている勇者のハル。
ハル「うわーん、痛いよー!」
ベル「もぉ、ハルってば。ほら、傷を見せなさい。私が治して差し上げますわ」
ハル「ベルちゃん、回復魔法も使えるの⁈ すごーい! さすがベルちゃん、だーいすき!」
ベル「おほほほ! ハルってば、くっつきすぎですわよ~!」
ベル「うふふふふ! 可愛い可愛いお友達のために、頑張りますわよ!」
妄想を終え元気を取り戻したベルは、苛立ちの勢いでぶん投げた本を拾い上げ、優しく土を払う。
ベル「……最近、ハルに会えてませんわね。忙しいのかしら? それとも……」
ベル「……ハル……私、寂しいですわ……」
回復という言葉と友を重ねる。寂しさを紛らわすように、本を強く、優しく抱きしめる。
ジェニ「あれ、ベル?」
ベル「ジェ、ジェニ様! いつからそこに⁈」
ジェニ「ついさっき。君はここでなにしてるの?」
ベル「えっと、その……!」
ジェニ「ん? その本、なに?」
ベル「あ、や、こ、これは……ち、違いますわ! なんでもないですわ! 気にしないでくださいまし!」
ジェニ「ふーん」
ベル「と、ところで、ジェニ様はこんなところでなにしてるのですか?」
ジェニ「僕? 僕は、探してるの」
ベル「探してる? なにを探しているのですか? 私もお手伝いしますわ!」
ジェニ「ありがと。でも、一人でなんとかなるから大丈夫」
ベル「そ、そうですか」
ジェニ「あっ、そうだ」
ベル「どうしました?」
ジェニ「さっきね、ハルとタイガと会ったよ」
ベル「な、なんですって⁈」
ジェニ「今、忙しいみたいだよ」
ベル「そ、そうなんですか……」
ジェニ「ハルに『会えなくて寂しがってる』って、伝えといたよ」
ベル「……え?」
ジェニ「じゃあ、僕は探し物の続きしてくるねぇ」
ベル「ジェニ様、別に私は寂しがってなど……って、お待ちになってぇぇぇ!」
ジェニ「……しもべでも作って、探させるか」
ベルの声を無視し、目を閉じ魔力を練る。わーわー騒ぐベルの声が小さく小さくなっていく。
十分な魔力が練り終わると同時に、ベルの声が完全に消えてなくなる。ジェニは、ゆっくりと目を開け──
ジェニ「……ん? あれ、ここは?」
目の前に広がるのは、白。辺り一面、どこを見回しても白だけが続く世界。木々や、草花や、鳥や小動物、そしてベルの姿はどこにもなく、全てが白に塗り潰された世界。
()「ねぇねぇ」
白しか映さなかった瞳がぼやける。ふっと現れた小さな黒い点──少しずつ、少しずつ身を大きくし、形を整えていく。
ジェニ「……君は、誰?」
()「僕? 僕は、君だよ」
ジェニ「僕?」
()「ねぇ、一つ聞いていい?」
ジェニ「なに?」
()「どうして、そんなに一生懸命になってるの?」
()「なんで君は、勇者を守ろうとしてるの?」
ジェニ「勇者じゃない。ハルは、タイガは、友達だよ」
自分と同じ声を発し、自分と同じ姿をした謎の人物に、恐ることなく言葉を投げつける。
目の前の自分は投げつけられた答えを受け取ると、不気味な笑みを浮かべながら、受け止めた答えになにも返すことなく、白の世界と共に姿を消した。
ーーー
ハル「こんにちはー!」
森の中にひっそりと建つジェニの家に、元気で明るい声が響く。
ベル「え⁈ ハ、ハ──」
ハル「ベールーちゃーん!」
ベル「え? きゃぁ⁈ ちょ、ちょっと、急に抱きつかないでくださいまし!」
タイガ「そう言いながらも、嬉しそうだな」
ベル「な、なにを言ってますの! 私は、べ、別に……!」
ハル「え? 嬉しくない? 抱きついてほしいくないの……?」
ベル「いや、えっと……! し、仕方ありませんわね! 今日だけ特別ですわよ! ぎゅ~!」
ハル「私も! ぎゅ~!」
タイガ「あれ? ジェニはどこにいんだ?」
ベル「ジェニ様なら、最近ここに来てませんわよ」
ハル「え? そうなの?」
タイガ「なにしてんだ、あいつ?」
ベル「探し物があるとかなんとか言ってましたわよ」
ハル「探し物? 一体、なに探してるの?」
ベル「私も気になって聞いてみたんですけど、教えてくれないんです」
タイガ「……」
ハル「タイガ、どうしたの?」
タイガ「いや……ちょいと用事思い出してな。ちょっくら出てくわ」
ハル「え? あ、うん」
タイガ「戻るときは連絡入れるわ。んじゃぁな~」
二人にヒラヒラと軽く手を振り、家を出て行く。
タイガ「えっと……親指だっけか?」
タイガ「……おーい、ジェニ? 聞こえてっか? 今、どこいんだ? ちょいと会って話してぇことあんだけど」
タイガ(探し物って、あれだろ? ホントバカだよな、あいつは)
ジェニとの通信を終えたタイガは、軽く頭を掻きながら森の奥へと足を進める。
ーーー
ジェニの家に残されたハルとベル。ハルは未だにベルから離れようとはせず、頬を擦り付けたり甘えた声を出したりしてベルに好きを伝えている。
ハル「ぎゅ~!」
ベル「ハル、いつまでギューしてるんですの?」
ハル「いいじゃん、久しぶりなんだから!」
ベル「そうですけど……さすがに長すぎですわ! そろそろ離れなさい!」
ハル「ねぇねぇ、ベルちゃん! 寂しかった?」
ベル「え?」
ハル「寂しかった? 寂しかったんだよね⁈」
ベル「な、なにを言ってますの! 私は全然寂しくなんてなかったですわ!」
ハル「本当に?」
ベル「本当ですわ!」
ハル「本当に~?」
ベル「本当ですわ! 少し会えなかっただけで寂しくなんてなりませんわよ!」
ハル「そっか! やっぱりベルちゃんはすごいね!」
ベル「すごい?」
ハル「私ね、すごく寂しかったんだ。すごくすごくすごーく、寂しかった」
ベル「……」
ハル「全然会えなくなっちゃったから、何度か指輪で連絡しようと思ったんだけど……誰かに見つかったらどうしようって思ったら、なかなか連絡できなくて……。私一人だとさ……ほら、私ってバカでドジだから、もしなにかあったらって思ったらさ、えへへ……! あーあ、ほんと嫌になっちゃうよ!」
ベル「ハル……」
ベルは唇を噛み、ギュッとハルを強く抱き直す。
ハル「ベルちゃん?」
ベル「ハル、ありがと」
ハル「え? お礼言われることなんて──」
ベル「離れていても、私たちのこと考えてくれて、ありがと」
ハル「私たち、友達でしょ? 当たり前だよ、迷惑かけたくないもん」
ベル「……私、少し不安だったんですわ」
ハル「え?」
ベル「私たちは魔王と勇者、互いに殺し会う存在ですわ。最近ハルたちが、ハルがここに来なくなって、連絡も無くなって……勇者のことはまだよくわかりませんが、きっと忙しいのだろうって。ここに来られないくらい、連絡取れないくらい……」
ベル「でも、もしかしたら……あなたたちは勇者、私たちは魔王……その関係に戻ったのではないかって……。だからハルたちは、ここに来なくなったの──」
自分を抱きしめていた友の腕に、グッと力が入る。突然強く締められる自身の身体に、ベルは思わず言葉を止める。
ハル「バカ……そんなわけないじゃん……! 会いたかったよ……すごく会いたかった……!」
ベル(M)私は、バカですわ。
ハル「ベルちゃんは、大切な友達だもん……これからも、ずっとずっと……!」
ベル(M)何年一緒にいたんですの? この子と、何年一緒にいたんですの?
ハル「ねぇ、なんで勇者と魔王は仲良くしちゃダメなの……? なんで一緒にいちゃダメなの……? なんでさ、友達と会うだけなのに……友達と会って、笑って、抱き合って、そんなことするだけなのに、なんでコソコソしてなきゃいけないの……? なんでなんだろう……? 私たちは、こんなに仲良くできるのにさ……。おかしいよ……」
ベル(M)この子は、誰よりも……私よりも、魔王と勇者について考えてくれてるのですわ。
ハル「どうしたらいい……? 私は、なにすればいいんだろ……?」
ベル(M)私は、ほんとバカですわ。ハルは、私なんかより大人ですわ。ずっと抱え込んでたのね、私たちの関係を……。全然気づかなかったわ。
ベル「ハル……私、嘘吐いてましたわ。私も、あなたに会えなくて、すごくすごく寂しかったですわ」
ハル「ベルちゃん……えへへへ」
ベル「なんで笑ってるのよ?」
ハル「ベルちゃんが、私に会えなくて寂しいって言ってくれたから」
ベル「……おバカなんだから」
ベル(M)私たちの……魔王と勇者という関係を壊すには、どうしたらいいんでしょう?
ハル「ベルちゃん」
ベル「なんです?」
ハル「ずっとずっと、友達だよ」
ベル(M)私たちが『友達』と認められるには、どうしたらいいんでしょう?
ーーー
木々が生い茂り、根っこが四方八方に地を張っている。薄暗く肌寒い、不安を掻き立てる森の中──タイガは怖がる様子もなく、木にもたれかかり腰を下ろしている。
ジェニ「タイガ」
タイガ「おっ、きたか」
ジェニ「話ってなに?」
タイガ「探し物は見つかったか?」
ジェニ「え? 探し物?」
タイガ「探してんだろ? 魔王」
ジェニ「……どうして、魔王探してるってわかったの?」
タイガ「お前の考えてることなんてわかるよ。何年友達やってると思ってんだ?」
ジェニ「よくわかったね。君は、ハルやベルよりも短い付き合いなのに」
タイガ「俺たち男同士だろ? 男同士にしか伝わらんもんがあるってことさ」
ジェニ「なに、それ?」
タイガ「説明させんな! 感じろ!」
ジェニ「感じろって言われても」
タイガ「んで、見つかったのか?」
ジェニ「見つけてない。でも、いるのはわかった」
タイガ「本当か?」
ジェニ「うん。僕ら魔王は、自分たちの血を魔物に飲ませると、そいつらを操ることができるんだ」
タイガ「マジかよ、おっかねぇな……」
ジェニ「全員ができるわけじゃないけどね。前言ってたように、これも強いやつだけ。ベルは多分できないよ」
タイガ「んで、それがなんだってんだ?」
ジェニ「何匹か血を飲ませて探させようとしたんだけどね……一匹、血を飲ませた瞬間死んだ」
タイガ「死んだ?」
ジェニ「別の魔王の血を飲んでたんだよ」
タイガ「つまり、その……血を飲んで契約してたやつは、契約者以外の魔王の血を取り込むとアウトってことなのか?」
ジェニ「うん」
タイガ「となると、やっぱりどこかにいやがんのか」
ジェニ「この広い森の中に、とびっきり強い魔王様がね」
タイガ「……なぁ、ジェニ」
ジェニ「なに?」
タイガ「お前は抵抗ないのか?」
ジェニ「なにに?」
タイガ「お前、殺す気だろ? 同じ魔王じゃねぇか」
ジェニ「前言ったでしょ。僕らは個人主義者だよ。僕の邪魔するやつは、魔物だろうが勇者だろうが魔王だろうが殺すよ」
タイガ「やつがお前の邪魔するって根拠はあるのか?」
ジェニ「勇者を殺さない魔王なんていないよ」
タイガ「……俺らのためか?」
ジェニ「友達のためだよ」
タイガ「……バカハル菌は、ホントすげぇな」
ジェニ「バカハル菌? なに、それ?」
タイガ「言葉のまんまだよ。魔王様をここまで変えちまうなんて……どういう出会い方したら、恐怖の魔王様が勇者のために身体を張るんだよ?」
ジェニ「どういう出会い……今思い返すと、ハルって本当にバカだよね」
タイガ「だな。大バカ野郎だよ」
ジェニ「……ねぇ、タイガ」
タイガ「なんだ?」
ジェニ「僕さ、勇者が大嫌いなんだ」
タイガ「知ってるよ、んなこと」
ジェニ「ハルと出会った時、なんでハルを殺さなかったと思う?」
タイガ「勇者って知らなかったんじゃないのか?」
ジェニ「ううん、出会った時から知ってたよ。ハルが勇者だってことは」
タイガ「じゃあ、なんでだ?」
ジェニ「最初から勇者のこと、嫌いだったわけじゃないんだ。僕もね、勇者と友達になろうって考えてた、バカだったんだ」
タイガ「……は?」
ジェニ「僕さ、親も友達もいなくて、ずっと一人だったんだ。だから、誰かお話できる人が欲しかったんだ」
タイガ「話できる相手なら、魔王でいいじゃねぇか。なんでわざわざ?」
ジェニ「僕、なんでか知らないけど、周りの人より魔力が多いんだ。僕らは個人主義の弱肉強食の世界で生きてるから、僕に近づくと殺されると思ってる人ばっかりで、だれも近づいてこなかったんだ。だから、僕のことをなにも知らない人たちと関わろうって思ったんだ」
ジェニ「でも、みんな僕が魔王だってわかると、話をする前に殺そうとしてきた。みんな僕に殺意の眼差しを向けて。僕は、いろいろ試したよ。話し方が怖いのかな? もっと丁寧に話そう。顔が怖いのかもしれない。もっと笑顔で……でも、なにをやっても『魔王だから』ただそれだけの理由で、僕を殺そうとしてくる」
タイガ「……」
ジェニ「やっぱり何やってもダメなんだって。僕らは魔王、彼らは勇者。それだけでもうダメなんだって。そこから僕は、一人で生きてく決意を固めた。一人でいいって思ってた」
タイガ「じゃあ、なんでハルと?」
ジェニ「ハルはさ、勇者のくせに魔王と仲良くしたいとか、魔王も勇者もない世界を作るとか、わけのわからないこと言ってるし。それに出会った時さ、僕のこと魔王って知ってるのに、僕の傷を治してくれたり、ゴブリンに武器奪われたから、取り返すの手伝ってくれって言ったんだよ?」
タイガ「あいつ、本当にバカだな……」
ジェニ「だから、知りたいと思ったんだ。なんでこの子は勇者なのに、魔王の僕に殺意の眼差しを向けてこないのかなって。なんでこの子は、魔王である僕に笑顔を向けてくるのかなって。ハルは弱いからさ、何かあってもすぐ殺せるから、少しの間生かしておいたんだ」
ジェニ「でも、ハルと関わって、出会いを重ねるたび、もっともっと知りたいと思った。もっともっと、一緒に居たいと思った。おかしいよね、魔王が勇者のこと知りたいとか、一緒にいたいとか」
タイガ(M)心の隅に、一つの可能性を置いていた。『こいつらは魔王だ。仲良くしてるのは、俺らを油断させて後で殺すためではないか?』と。でも、その小さな可能性とは、今日でお別れだ。
ジェニ「守りたいと思った、ハルを。どんな手を使っても」
タイガ「おいおい、マジかよ……」
タイガ(M)ありえねぇって。どうすんだよ、お前は? これからお前らは、どうする気だよ……?
タイガ「お前さぁ、険しい道を突き進んでいくなぁ」
ジェニ「え? どういうこと?」
タイガ「言葉のまんまだよ」
ジェニ「ん?」
タイガ「ジェニ」
ジェニ「なに?」
タイガ「……早めに答えだすわ」
ジェニ「え?」
タイガ(M)俺は、これからどうすんだろ……?
タイガはジェニに背を向けると、そのまま言葉を交わすことなく歩みを進めていった。
ーーー
ジェニ「ベル、ただいま~」
ベル「ジェ、ジェニ様……! 静かにしてくださいですわ……!」
家に返ってくるや否や、人差し指を口に当て注意を促してくる魔王。床に腰を下ろす彼女の膝には、頭を乗せ気持ちよさそうに眠っている勇者の姿が。
ジェニ「ハル、寝てるの?」
ベル「えぇ。最近忙しいみたいですし、疲れが溜まってるんですわ」
タイガ「可愛い可愛いハルちゃんにお膝で寝てもらえて、あなたは今どんなお気持ちですか~?」
ベル「タイガ、あなた後でぶん殴りますわよ」
タイガ「おーこわっ」
ベル「というか、あんたハルと同じところに住んでるんでしょ? 危ない目に合わせたら、わかってるわよね?」
タイガ「あーはいはい、わかってますよ。つーかお前ら、姉妹みたいだよな。こんなベタベタ仲良くしちゃって」
ジェニ「それじゃあ、僕とタイガは兄弟だね。僕、お兄ちゃんがいい」
タイガ「絶対ならんし、お前が兄貴は死んでも嫌だ」
ジェニ「なんで? もしかして、本当にお兄ちゃんいるの? だからダメなの?」
タイガ「そうだよ。兄貴がいるからお前は嫌なんだ」
ジェニ「へぇ。どんなお兄さんなの?」
タイガ「強くてカッコよくて優しくて、俺の憧れだよ。今はどこでなにしてんのかわかんないけどな」
ジェニ「どこかいってるの?」
タイガ「旅に出てんだよ」
ジェニ「なんで?」
タイガ「んーとな、勇者ってぇのは、俺とハルみたいに決められた街や村に住み着いて、そこ近辺に出てくる魔物や魔王を討伐するやつらと、旅にでて遠くの魔物や魔王を討伐するやつらがいるんだよ」
ジェニ「ふーん」
ベル「それって、ハルもタイガもいつか旅に出ちゃうってことですの? 会えなくなるんですの……?」
タイガ「旅に出る勇者は強いやつだけだ。ハルは多分無理だから安心しろよ」
ベル「そ、そう」
ジェニ「タイガは?」
タイガ「……さぁな。もしその時が来たら、てめぇらとはお別れだよ」
ベル「……ねぇ、タイガ」
タイガ「ん? なんだ?」
ベル「あなたは私たちのこと、どれだけ考えてますの?」
タイガ「あ? なんだよ、急に」
ベル「もしですわよ、もし……私たちで殺しあわなければいけない時が来たら……あなたは、どうします?」
タイガ「……」
ベル「あり得なくはないですわ。むしろ、こちらの方が可能性としてはありますわよ。だって私たちは、魔王と勇者は殺しあうというルールがある世界で生きているのですから」
タイガ「……急にどうしたんだよ?」
ベル「私たちは、もっともっと自分たちの関係について考えなきゃいけませんわ。でないと、最悪の事態はすぐに来ると思うんですの」
タイガ(M)考えてはいたんだ。いつかそんな日がくるって。その時、俺はどうするのか? なにをするのか? 考えて考えて考えて……俺は、逃げた。難しい問題から目を背けた。俺はまだ子どもだ。今はそれでいいと思ってた。
タイガ(M)目を背けていた問題に回答しなきゃいけない日……それは、俺たちが大人になる日だ。いつまでも甘ったれてグズグズしていられない。大人になんかなりたくないって駄々をこねたって、時間は待っちゃくれないんだ。
ベル「私は、もしそんな時が来てしまったら……」
ベル「……私は、あなたたちのために死にますわ」
タイガ「……は?」
ベル「私はきっと、そうしますわ。どんなことがあっても。だって私は、あなたたちのことが……ハルのことが、大好きですから」
タイガ「……バカじゃねぇの?」
タイガ(M)いつまで甘ったれてんだよ? いつまで駄々こねてんだよ? もう時間だ。そろそろ回答する時だ。答えを出して、それに向かって進んで行かなきゃいけない時だ。
ハル「……言わないでよ」
ベル「ハル? あなた、起きてたの?」
ハル「ベルちゃんのバカ……! 死んじゃったら私、許さないからね……! バカ……バカバカバカ……!」
タイガ(M)おいタイガ、大人になれ。答えをだせ。お前はどうするんだ? お前は、こいつらのために何かするのか? 自分のために何かするのか? ジェニのために? ベルのために? ハルのために? どうすんだよ、なぁ?
タイガ(M)あーくそ、考えなきゃいけないことが山積みだよ……。なんで出会っちまったんだよ、俺たちは……。なんでこんな仲良くなっちまったんだよ、俺たちは……。バカかよ……バカ野郎どもがよ……。
ハル(M)私たちは勇者。
ジェニ(M)僕たちは魔王。
ハル(M)私たちは殺しあう。
ジェニ(M)僕たちは殺しあう。
ハル(M)それが、この世界のルールだから。
ジェニ(M)なんで僕たちは、出会ってしまったのだろう?
ハル(M)なんで私たちは、仲良くなってしまったのだろう?
ジェニ(M)楽しいだけじゃいられない。
ハル(M)いつまでも、この関係ではいられない。
ジェニ(M)自分のため、そして彼女たちのため。
ハル(M)私たちは、子どものままじゃいられない。
ジェニ(M)大人にならなきゃいけない。
ハル(M)どうしたらいい?
ジェニ(M)なにをしたらいい?
ハル(M)どうして、私たちはさ……。
ジェニ(M)こんな窮屈な世界に、生まれてしまったのだろうか。
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ご使用の際には必ず「シナリオのご使用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
フリー台詞・台本集
小夜時雨
ライト文芸
フリーの台詞や台本を置いています。ご自由にお使いください。
人称を変えたり、語尾を変えるなどOKです。
題名の横に、構成人数や男女といった表示がありますが、一人二役でも、男二人、女二人、など好きなように組み合わせてもらっても構いません。
また、許可を取らなくても構いませんが、動画にしたり、配信した場合は聴きに行ってみたいので、教えてもらえるとすごく嬉しいです!また、使用する際はリンクを貼ってください。
※二次配布や自作発言は禁止ですのでお願いします。
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