「声劇台本置き場」

きとまるまる

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遊部↓

16話「夏と猫と立花と」(比率:男3・女3)

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・役表
立花:♂
笹原、ニャン丸:♀
暁:♂
不知火:♀
五十嵐:♂
百瀬:♀



ーーー




百瀬(M)遊部、前回のあらすじ~。

暁(M)夏休み、ゴロゴロダラダラ暇していた立花涼介は、母親から猫カフェ無料券を手に入れた!

笹原(M)そしてそして、誰を誘おうか悩みに悩み、ふと思い浮かんだ顔……それは、可愛い可愛い部活の先輩、不知火夏帆ちゃんだった!

五十嵐(M)なんやかんやで猫カフェに行き、なんやかんやで猫と戯れ……そして、二人の距離は縮まっていき……!


不知火「地味男、今からうち、来る?」


五十嵐(M)女の子の家に上がり込むという、超絶ラッキーイベントが発生ぃぃぃぃ!

暁(M)果たして、立花涼介と不知火夏帆は、これからどうなってしまうのやら⁈

笹原(M)二人から目が離せませんっ!

百瀬(M)それでは、始まり始まり~。



不知火「くしゅん……! 誰かに噂されてる気が……あっ、缶ジュースあるじゃん。これでいいや」


 冷蔵庫を開け、缶ジュースを手にする不知火。いつも通りの、何の変わりもない不知火とは対照的に、立花は未だに靴を履いたまま玄関で突っ立っており、一向に動く気配はない。


立花(な、な、なぜ……なぜ、こんなことに……? 夏休みに女性の家にお呼ばれなんて、僕はそんなラブコメ展開を起こせるほどの徳を積んできていたのか……⁈ このパターンは、家に誰もいないがお決まりだが……そもそも夏帆先輩が誰かいる時に僕を家に上げるなんて絶対にあり得ない! つまり、今この家には、僕と夏帆先輩の二人きりだということ! つ、つつつまり、これは……!)

五十嵐「おいおいおいおい! 大チャンスじゃねぇか、立花くんよぉ~!」

立花(はっ⁈ こ、この声は……!)


 ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて立花の右肩に座る、悪魔の姿をした手のひらサイズの五十嵐賢也。


五十嵐「お前の思う通り、今この家にはお前と夏帆ちゃんしかいない。そしてこの後、夏帆ちゃんはお前を部屋へと連れ込む……つまりつまり、そういうことだよ立花の旦那ァ~!」

立花(い、いやいやいや、何を言ってるんだ、この悪魔は! 夏帆先輩にはそんな考えこれっぽっちもあるはずがない! そう、あるはずがぁぁない!)

五十嵐「立花くん、よく考えてよぉ。女の子が、何の考えもなしに家に上げると思います~? 誰もいない家に、自分の部屋に、上げると思いますぅ~?」

立花(や、やめろ……! やめてくれぇぇ……!)

五十嵐「嫌いな男なんて家に上げないよ。特に何とも思ってない男を部屋になんて連れ込まないよ。夏休み、誰もいない家でやることといえば……へっへっへ! 大人の階段を登る時だぜ、立花涼介ぇ~! 夏帆ちゃんの生おっぱいを、これでもかと揉み倒すチャンスだぜ~!」

立花(違う……絶対に違う……! 違うんだ……! そんなこと、絶対に……!)

五十嵐「ほらほらほら~! 元気になれよ、はっちゃけろよ、立花Jr.~! けっけっけ~!」

立花(やめろやめろやめろ! どこ攻撃してんだ、貴様はぁぁ!)

五十嵐「想像しろ~想像しちゃいなよ立花涼介くんよぉ~! 可愛い可愛い夏帆ちゃんの下着姿を。そしてそして、可愛い可愛い夏帆ちゃんの裸を……!」

立花(あ、あぁぁ……! あぁぁぁ……⁈)

暁「落ち着けよ、立花ァァ!」

立花(はっ⁈ この声は……!)


 怒りの表情で立花の頬を何度も何度も叩く、天使の姿をした手のひらサイズの暁秋斗。


暁「このっ! このやろうっ! 夢を見るんじゃねぇ、立花! 現実に帰ってこい、立花!」

五十嵐「天使め、何をしている! こんなチャンス滅多にないんだぞ! 大チャンスなんだぞ! 同じ男として、応援してやるべきだろ!」

暁「俺だって、応援できるのなら応援してやりてぇ! でも、こんなのは違う、違うだろ! 夏帆にそんな気は一切ない! 一切ないぞ、立花!」

五十嵐「やめろ! 立花、こいつの言葉に耳を傾けるな! 真っ直ぐ前だけを見ろ! さぁ、階段を駆け上がれ! 大人の階段を! さぁ!」

暁「駆け上がるな、立花ぁぁ! 駆け上がるのは目の前の、現実世界の階段だけにしろ! 大人の階段を駆け上がるなんて、絶対に許さないからなぁぁ!」

五十嵐「大丈夫だ、立花涼介! この世界には『夏の魔法』というものが存在している! 『夏に浮かれてやっちった⭐︎』なんてことは誰しもありえる! だから心配するな! 性欲に素直になるんだ、立花涼介ぇ!」

暁「立花やめろぉぉぉ! 絶対にダメだ! 絶対にだ! もし行為に及んだとして、その後のことを考えろ! 考えるべきは、今じゃない! 未来のことだ!」

五十嵐「えぇい、口を閉じんか! このバカもんが! 男の夢を、立花の夢を邪魔するんじゃない!」

暁「クソが! やめろ! 離しやがれ! 俺は絶対に認めない! 立花が……立花が俺よりも先に大人の階段を駆け上がるなんて、絶対に許さねぇからなぁぁぁ!」

五十嵐「止める理由がクソすぎるな、こいつ! 天使の格好してるけど、こっち側だろ!」

暁「わかってんだろうな、立花ぁぁ! 俺よりも先に大人になるなど、許されるわけがない! お前は俺よりも後だ! そう、俺が凪先輩とイチャイチャチュッチュッしてからだ! 順番はしっかりと守りやがれぇぇ!」

五十嵐「おやおや、残念だったな暁秋斗……! 立花の心の天秤を、見ろぉぉ! お前が自らの欲望をぶちまけたことにより、立花の心は悪の道へと傾いているぞ!」

暁「な、なぜだ、どうしてだ立花! や、やめろ……やめろぉぉぉぉ! お前に『え? 暁先輩はまだなんですか? 僕よりも歳上なのに……僕の方が人生の先輩なんで、これからは立花先輩と呼んでくださいね』とか、言われたくないぃぃぃ! やめろぉぉぉ!」

五十嵐「俺は応援するぞ、立花ぁぁ! 夏帆のおっぱいを、揉んで揉んで吸って揉んで、挟んでもらってまた揉んで! 夢のようなひと時を過ごしやがれ! これが夏の魔法だぁ~! けっけっけ~!」

百瀬「うふふ~」

五十嵐・暁「ん?」


 五十嵐たちの背後に突然現れた笑顔の女性──百瀬凪は、立花の頭上で言い合う虫ケラを力任せに手で握りしめる。


五十嵐「おぶっ⁈」
暁「あふんっ⁈」

百瀬「たーちーばーなーく~ん」

五十嵐「お、お前は……!」

暁「大天使、凪様!」

百瀬「立花くんはこの虫ケラと違って賢い子ですから、言わなくてもわかっていると思いますけど……一応、伝えておきますね。『そういうことは、大人になってから』ですよ? あなたは、まだ高校生なんだから……わかってるよね?」

百瀬「もし大人じゃない立花くんがそういうことしちゃったら……立花くんの、そこのそれが、どうなるかなんて……これも、言わなくてもわかるよね? うふふ~」

五十嵐「た、立花ぁぁぁ……! 男に、男になるんだぁぁぁ! このチャンスを逃したら、もう二度と──」


 手の内で騒ぐ虫ケラを、百瀬は力任せに握り潰す。


五十嵐「ぐ、ぐぎゃぁぁぁぁ⁈」

暁「凪様ぁぁぁ! 俺は、止めてた側の人間ですよぉぉぉ! ですから、握り潰すならそっちのアホだけでぶぅぅ⁈」

百瀬「立花くん。私は、いつでも、あなたのこと見ていますからね……! うふふふ~」


 笑顔を浮かべたまま消えていく、大天使百瀬凪。
 缶ジュースを二つ手にした不知火が玄関へと戻ってくる。


不知火「あれ? あんた、何してんの?」

立花「あ、いえ。特になにも」

不知火「部屋の場所言ったじゃん。なに、忘れたの? この短時間で? おめでたい脳みそね」

立花「いや、先に部屋に上がるのはどうかと思いまして」

不知火「別にいいわよ、それくらい。ってか、上がってほしくなかったら場所伝えないわ。考えろ、カニ味噌」

立花「その悪口はなんなんですか? あっ、さっきの脳みそからの派生ですね。すみません、気づくの遅れました」

不知火「ほら、飲み物」

立花「ありがとうございます」

不知火「さっさと上がれ。ボコボコのギタギタにしてやるから」

立花「その言葉、そっくりそのまま……って、あそこに見えるは猫様ではありませんか⁈」

不知火「ん? あぁ、うん。あんたがうるさいから様子を見に来たのよ。謝れ」

立花「騒がしくしてすみません。夏帆先輩の後輩の立花涼介です。よろしくお願いします」

ニャン丸「なぁう」

立花「返事をしてくれました! この子、賢いですね!」

不知火「ニャン丸は地味男よりも賢いもんね~?」

ニャン丸「なぁぁう」

立花「言い返したいけど、可愛いから許す……!」

不知火「ほら、さっさとこい」

立花「はい。では、お邪魔しま~す」


笹原(M)凪先輩のおかげで、いつも通りの冷静さを取り戻した立花くんであった。



ーーー



 不知火の部屋へ上がり、約束通り超大乱闘3スーパーだいらんとうスリーで遊ぶ二人。
 10回勝負の最終ラウンド、ここまで2勝7敗と大きく負け越し、これ以上負けられない立花。だが、頑張り虚しく立花の操作するキャラは強烈な一撃を食らい、ステージ外へと吹き飛ばされてしまう。


立花「だぁぁぁぁ! これはマズい! めちゃくちゃにマズい!」

不知火「死ね、雑魚」


 ステージに復帰しようとする立花のキャラを追いかけ、不知火もステージ外へと移動する。立花のキャラがジャンプをして距離を稼いだ隙を見逃すことはなく、不知火は攻撃ボタンを押し込み、立花のキャラを画面外へと叩きつける。


立花「嘘でしょ⁈ だぁぁぁぁ! メテオ上手すぎでしょ! なんであれ当てられるんですか⁈」

不知火「これが実力の差よ。これで8勝2敗。私の快勝」

立花「くそぉぉぉぉ! めちゃくちゃに悔しいぃぃぃ! スパランは結構自信あったのにぃ……! 修行してくるんで、またやってください!」

不知火「やってください?」

立花「か、夏帆先輩を楽しませられるように、この私一生懸命努力して参りますので、時が来たらもう一度私めと勝負してくださいませんか、夏帆様……!」

不知火「ふっ。次はもっと楽しませてよ」

立花「くそぉぉぉ……! 覚えてろよぉ……!」

ニャン丸「なぁう」

立花「ニャン丸ぅ~僕を慰めておくれぇ……!」


 ニャン丸は近づいてくる立花の顔面へ、軽く猫パンチをお見舞いする。


ニャン丸「なう」

立花「あだっ」


 攻撃し終えたニャン丸は、立花にお尻を向け不知火の膝の上へと移動する。目的地に到着すると、前足で顔を擦り毛繕いを始める。


不知火「ニャン丸も、あんたみたいな雑魚地味男を相手にしたくないってさ」

立花「でも、猫パンチをしてくださった……! ありがとうございます……!」

不知火「ニャン丸、もっと勢いよくパンチしてもいいんだよ? それか思い切り引っ掻いてやりなさい」

立花「引っ掻くのは洒落にならないんでやめてください、お願いします。ってか、めちゃくちゃに懐いてるんですね。うちの子もたまに寄っては来てくれますけど、お膝に乗ったりはしてくれませんよ。羨ましいです」

不知火「まぁ、ニャン丸とはなんだかんだ長いから。ねぇ~?」

ニャン丸「なぁ~う」

立花「いつから飼ってるんですか?」

不知火「私が中学の頃に拾ったから、三年目くらい?」

立花「拾ったんですか?」

不知火「うん。怪我した状態で道端に倒れてたのよ」

立花「え⁈ 倒れてたんですか⁈」

不知火「傷だらけだったから、誰かにいじめられてたんだと思う。まだニャン丸も小さかったし、どうしても放っとけなくて」

立花「そうだったんですね。よかったな、ニャン丸。優しい人に拾ってもらえて。というか、そんな優しさを持ち合わせているなら、僕にも優しくしてくださいよ」

不知火「雑魚の分際で優しくしてもらえると思うなよ。スーパー雑魚地味男が」

立花「クソが! 次は絶対に勝ち越してやるからな! ってか、夏帆先輩めちゃくちゃにソフト持ってますね」

不知火「ゲームが趣味だからね」

立花「へぇ~。デーモンクエストに、EE……王道ものからよくわからないものまでって、あぁぁぁぁ⁈」

不知火「う、うるさいわね。いきなり何よ?」

立花「か、か、夏帆先輩、エルデンソウル持ってるんですか⁈」

不知火「あんたも持ってんの?」

立花「はい! 僕、フローズン・ソフトウェアのゲームめちゃくちゃ好きなんですよ! あっ、オオカミもあるし、ブラックシリーズも! 夏帆先輩もフローズンファンですか⁈」

不知火「あんたほど熱狂的ではないけど、新作も買ってるからそれなりによ」

立花「ちなみにどこまで行きましたか、エルデンソウル!」

不知火「朽ち果てた教会よ」

立花「マジですか⁈ 進んでるところもほぼ一緒! 一個前のボス、めちゃくちゃ強くなかったですか⁈」

不知火「あいつは攻撃力バグってる。倒すのに一時間くらいかかったし……」

立花「一時間で倒せたらなかなかすごい方でしょ! あいつ、ディレイが多すぎてめちゃくちゃ死にましたよ! 倒せなさすぎて一回やめましたもん!」

不知火「まぁ、一撃食らったらほぼ終わりだからね。気持ちはわからんでもないわ」

立花「『まだ回避しちゃダメだ!』ってわかってはいるんですけど、ついつい回避しちゃうんですよねぇ。僕、魔術中心なんで、HPあんま上げてないんですよ。だから、基本一撃食らったら終わりなんで、死にたくない思いからついやっちゃうんです」

不知火「魔術系だとMP優先しなきゃ攻撃手段ないもんね。魔法はエフェクトかっこいいから、たまに使いたくなる」

立花「わかりますわかります。ド派手でかっこいいですよね~。夏帆先輩は、ステ何に振ってるんですか?」

不知火「ゴリゴリの脳筋」

立花「脳筋かぁ~! いいですね~! ってことは、あれ使ってます? 神殺しの大剣」

不知火「今それメインで使ってる」

立花「マジですか⁈ ちょっ、見せてください!」

不知火「別にいいけど」


不知火(M)私は、冬華や秋斗と違って友達がいない。二人が別の誰かといるときは、基本一人だし。

不知火(M)だから、趣味のゲームについて話す相手も、もちろんいた事がない。ずっと一人でやって、たまにお兄ちゃんと話すくらい。


 不知火は立花に言われるがまま、エルデンソウルをプレイしている。


立花「神殺し、秘技がめちゃくちゃカッコいいですね! しかも炎上まで付くのか。いいな、これ」

不知火「……使ってみる?」

立花「え、いいんですか?」

不知火「死んでソウル落としたら、お前をぶん殴るけど」

立花「ソウルを落とす悲しみは僕自身が一番わかってますから。序盤のエリアで試すんで、安心してください」

不知火「いやいや、序盤の雑魚敵相手じゃ神殺しの強さがわかんないでしょ? 竜の巣穴に行きなさい」

立花「初武器で竜の巣穴は、遠回しに死ねって言ってるもんですよ! アラサ高原で!」

不知火「じゃあ、間をとって巨人の山脈ね。」

立花「巣穴よりの間なんですけど! 巣穴よりはマシですけど!」


不知火(M)冬華や秋斗も、ゲームをやらないわけじゃない。でも、私ほどはやらない。だから、深いところまで話せない。話したって、伝わんないから。わかんないから。


 巨人の山脈というステージで神殺しの大剣を振るう立花。攻撃を受けた巨人が咆哮を放ち、頭を抱えて何度も何度も足踏みを始める。


立花「あぁぁぁぁ⁈ 危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ないぃぃぃぃ!」

不知火「ちぃ! あと少しで殴れたのに……!」

立花「危なかったぁぁぁ! もう少しで、こいつも僕の人生も終わるところだった……! いやでも、いいですね神殺し! 攻撃力も高いし、炎上も付くしでいいことだらけですよ!」

不知火「大剣は基本ヒット&アウェイだからね。逃げてる時に炎上でダメージ入るから、なかなかいいわよ」

立花「対一なら無敵ですよ、こいつ。でも、さっきみたいに囲まれるとしんどいですね。モーションデカいし攻撃遅いしで、左右から連続攻撃されたら簡単に死にますね」

不知火「縦振りしかしてないからよ。大剣は通常だと縦から横振りだけど、溜め攻撃の時は横から縦振りになんの」

立花「なるほど。横振りだと広範囲に当たるのか。よくできた武器だな、大剣は。他の武器も使ってみていいですか?」

不知火「いいけど」

立花「ありがとうございます! ちなみに、夏帆先輩は他だと何使うんですか?」

不知火「さっきみたいに囲まれたり敵多いと、巨人の大槌おおつち

立花「えっと、大槌は~あったあった。要求ステ、エグいですね」

不知火「その分、秘技もエグいわよ」

立花「うわ、使うの楽しみ」


不知火(M)別に、話せる相手が欲しいとは思わない。一人でやってても、ゲームは楽しいから。だから、一人でもいい。私は、一人でもいいんだ。


立花「いいなぁ~ゴリゴリの脳筋も思ってた以上にいいなぁ~。脳筋にハマってしまったかもしれない。でも、僕には魔術がある……魔術が……!」

不知火「脳筋はいいわよ~。一撃で相手の体力がごっそり削れる快感は最高よ~」

立花「うぅ……! これこそ悪魔の囁き……! やめてください……!」

不知火「あんた、ステ振り直しのアイテム持ってないの?」

立花「持ってますけど、あれって数に限りがあるみたいですし……あれですよ、貴重なアイテムほど使えないやつです。EEのエリクサーですよ」

不知火「だからって、ずっと残してたって意味ないでしょ。一個は残しといて、余ってるんなら変えたら?」

立花「そう言われると……次会うときは、脳筋になってるかもしれません」

不知火「心も身体もゴリラになれ。私も、たまには別のやつに変えようかな?」

立花「魔術いいですよ! おススメです! 魔術についてわからないことがあれば、いつでも聞いてくださいね!」

不知火「……まぁ、もし変えるとなったら聞くわ」

立花「お任せください! あっ、そうだ! 夏帆先輩!」

不知火「な、なによ?」

立花「今日の夜、エルデンソウルのマルチしませんか!」

不知火「は? マルチ?」

立花「知らないんですか? これ、マルチも出来るんですよ! 僕の周り誰一人として持ってないんで、やったことないですけど!」

不知火「別にいいけど……私、マルチなんてしたことないから、やり方わかんないんだけど」

立花「あっ、もしかしてマルチ自体が初ですか?」

不知火「……わ、悪い?」

立花「だったら、やり方教えますんで! ちなみに、僕喋りながらやりたい派なんですけど、夏帆先輩はボイスチャットOKですか?」

不知火「ボイスチャットって、スマホで通話しながらってこと?」

立花「いえ、ゲーム内で出来るんで、そっちです! 本体買った時、一緒にイヤホンマイク付いてたと思うんですけど、あります?」

不知火「多分箱の中に入ってると思うけど……見てみる」


不知火(M)一人でもいいけど、自分の好きなことについて話せる相手がいるのなら、それはそれで別にいい。一人じゃなくても、別に……。


 ゲームをし終えた立花は、玄関で靴を履いている。


立花「んじゃ、また連絡します!」

不知火「ん」

立花「今日は色々とありがとうございました!」

不知火「ん」

ニャン丸「なぁーう」

立花「ニャン丸、またね~。また遊びに来るからねぇ~」

不知火「なに勝手にまた来ようとしてんだ」

立花「スパランの件、忘れたとは言わせません。勝ち逃げなんて絶対に許しません」

不知火「あんたは永遠に私には勝てないから。諦めろ」

立花「諦めたら、そこで試合終了です! 諦めなければ、必ず勝機はある!」

不知火「わかったから、さっさと帰れ」

立花「では、お邪魔しました!」

不知火「ん」

ニャン丸「なぁーう」

不知火「……あいつ、楽しそうだったわね」

ニャン丸「なーう」

不知火「ん? どうしたの、ニャン丸?」

ニャン丸「なぁぁう」

不知火「なによ? もしかして、構ってほしいの? 地味男も帰ったし、いっぱい遊んであげるよ~」

ニャン丸「なぁぁ~う」

不知火「……マルチか。あいつの前で戸惑うの嫌だし、今のうちにやり方調べとこ」


不知火(M)正直、こんなに話せると思ってなかった。『なに、それ?』とか『どういうこと?』とか、そう言われて会話が終わるって思ってた。でも、どれだけ専門用語を言っても、会話は途切れることなく、むしろ盛り上がった。次々に新しい話題が増えていった。

不知火(M)自分の好きについて何も考えずに話せるのって、こんなに楽しいことなんだって……初めて思った。


 時刻は21時を過ぎた頃。不知火は自室でスマホを見つめながらゲームのコントローラーを手に、ぶつぶつマルチのやり方を呟いている。


不知火「えっと、イヤホンマイクつけた。マイクもオンにした。で、招待されたグループに入れば……」

立花「……あっ、来た。夏帆先輩、聞こえますか?」

不知火「聞こえるわよ、あんたの地味な声が」

立花「開口一番にとんでもないこと言わないでください。音量とか大丈夫そうですか?」

不知火「うん」

立花「んじゃ、早速やりましょ!」

不知火「はいはい」


不知火(M)冬華とか秋斗とか、お兄ちゃんとか、誰かと一緒の空間にいながら一緒にゲームしたことは何度かある。でも、こうやって離れた場所で、ゲーム内で話しながらゲームしたことは、一度もない。一度たりとも、ない。


立花「だぁぁぁぁ⁈ 死んだ! すいません!」

不知火「ここから、こうで……あっ、バカッ! 違っ……! ぐっ……このクソ……!」

立花「ちくしょぉ……! 強過ぎでしょ、こいつ! 夏帆先輩、まだできますか⁈」

不知火「当たり前でしょうが……! 負けたままで終われるわけがない……! こいつを倒すまで寝られると思うなよ、地味男……!」

立花「僕だって、負けたままじゃ終われませんよ! どらぁぁぁ! もう一勝負じゃぁぁぁ!」

不知火「次こそは、ぶっ殺す!」


不知火(M)なんか……なんというか……自分と同じくらいゲームが好きなんだろう、地味男こいつは。だから、その……なんというか……。


 時刻は深夜1時を過ぎた頃。未だに同じボスと死闘を繰り広げている二人。


立花「夏帆先輩! 僕、回復最後です!」

不知火「わかった! とりあえず、回避優先!」

立花「了解!」

不知火「あと少し……あと少しぃ……!」

立花「ここまで来て負けたくは……あっ、このモーションは……! 夏帆先輩、下がって下がって!」

不知火「いや、私は突っ込む!」

立花「えぇ⁈」

不知火(回避の無敵時間を使って、このタイミング!)

不知火「一、二発! よし!」

立花「素晴らしい! 夏帆先輩、素晴らしいです!」

不知火「よしよしよし、欲張るな欲張るな……! あと少しだからこそ欲張るな……落ち着け落ち着け……!」

立花「このタイミングなら、一発はい、るっ!」

不知火「ナイス地味男!」

立花「よしよしよしよし! いけますよ、いけますよ!」

不知火「慌てるな慌てるな、隙を見せるまで回避優先回避優先……! 他のことは絶対にするなぁ……!」

立花「咆哮、来た!」

不知火「その攻撃は、見飽きてんのよ!」

不知火「回避、回避で……攻撃っ!」


 不知火のキャラが剣を大きく振り抜く。血を激しく噴き上げたボスが膝を折り、灰と化していく。


立花「お、おぉ……! よっしゃぁぁ! 勝った! やった! 夏帆先輩、ナイスです!」

不知火「やっと倒せた……! 疲れたぁ……」

立花「夏帆先輩、さすがですわ! あそこで突っ込むのはさすがですよ!」

不知火「回復、あと一個あったからね。一回は無茶しても大丈夫だったし。タイミングあってよかった……!」

立花「うわっ、もう一時過ぎだし! 夏帆先輩、キリいいんで僕はこの辺で落ちますね。あんま長いことやってると怒られるんで」

不知火「ん、わかった。もう一時なのね。思った以上にやってたわね」

立花「これ、時間忘れてやっちゃいますよね。楽し過ぎます」

不知火「わかる」

立花「いや~でもやっぱり、一人よりも二人のが進むのも早いし、楽しいですね!」

不知火「……」

立花「夏帆先輩? どうしました?」

不知火「あ、いや、別に……な、なんでもない!」

立花「そうですか。あっ、夏帆先輩、明日の夜は暇してます? 続き、やりましょうよ!」

不知火「またぁ?」

立花「あっ、予定あるなら別の日に! また暇な日教えてください! 僕、基本暇してるんで! いつでも誘ってください! 僕も声かけますから!」

不知火「……」

立花「いや~楽しかった~! やっぱ喋りながらゲームやるのは楽しいな~!」

不知火「……し、してる」

立花「ん? なんですか?」

不知火「だ、だから、明日も暇してるって言ったの! 一回でちゃんと聞け!」

立花「そんな怒らないでくださいよ。じゃあ、明日も今日と同じ時間からでいいですか?」

不知火「う、うん」

立花「よし! では、また明日に……あっ、そうだ。夏帆先輩、途中、音がどうとか言ってましたけど、大丈夫そうですか?」

不知火「あぁ、うん。片耳イヤホンだから、あんたの声とゲーム音が一緒になると聞こえづらいのよ。別にそれ以外は特に問題ないから大丈夫」

立花「なるほど。夏帆先輩って、お金あります?」

不知火「なによ、急に? お小遣いとかお年玉貯めてるから、あるっちゃあるけど」

立花「夏帆先輩が良ければ、明日ヘッドセット買いに行きませんか?」

不知火「ヘッドセット?」

立花「はい。安いやつでも片耳イヤホンよりはいいと思いますし。僕も、そろそろヘッドセット欲しいなぁ~って思ってたところなんですよ」

不知火「ヘッドセットねぇ。安いのでいくらくらいなの?」

立花「安いのだと、2000円前後で買えるみたいですよ」

不知火「思ったより安いのね」

立花「高いのはバカ高いですけど、僕らなら2~5000円くらいのやつでも十分だと思いますよ」

不知火「ヘッドセット……買うか」

立花「素晴らしい判断です! 明日、一緒に見にいきましょうよ!」

不知火「昼過ぎね。私、昼まで寝たい」

立花「僕も夏休みなんで多分11時ぐらいまで寝てると思うんで、起きたらまた連絡しますね!」

不知火「わかった」

立花「では、今日はこの辺で! お疲れ様でした!」

不知火「ん。お疲れ」

不知火「……ヘッドセットか。ちょっと調べてみよ。その前に、ちょっとだけ先進めよ。あいつと一緒の進行度ってのは、なんか嫌だし」


不知火(M)結局、地味男と解散した後も二時間くらいゲームをしてた。無言で、黙々と……たまにクソとか言っちゃうけど。あんなに喋ってたのが嘘みたいに、ただ黙々とやってた。

不知火(M)私、意外と喋るんだ。そう思った。喋りながらゲームするの、こんなに楽しいんだ。そう思った。一緒にゲームやってるの、話してるの、地味男なんだ。なんかムカついた。明日も地味男とゲームをすることを、ほんのちょっぴり楽しみにしてる自分がいた。なんか、悔しかった。

不知火(M)でも、そんなことどうでもいい。相手が誰であろうとどうでもいいんだ。私が楽しければそれでいい。私が楽しければ、なんでもいい。

不知火(M)そう、私が楽しければ、それだけでいいんだ。





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 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

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