「声劇台本置き場」

きとまるまる

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15話「夏と猫」(比率:男1・女3)

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・登場人物

 立花 涼介たちばな りょうすけ:♂ 高校一年生。ごくごく普通な男の子。

 不知火 夏帆しらぬい かほ:♀ 高校二年生。小さくて物静かな女の子。なぜか立花には攻撃的。


・役表
立花:♂
不知火:♀
母、店員:♀
妹、猫:♀


ーーーーー



 肌を焼くような暑さが連日続く、八月上旬。
 立花涼介はエアコンの効いたリビング内でソファに寝転がりながらテレビを見るという贅沢を行なっており、夏休みをこれでもかと満喫していた。


母「ただいま~」

立花「おかえり~」

母「あっ、涼介。あんたいいところに」

立花「なに?」

母「これ、あんたにあげる」

立花「なに? ……猫カフェ、無料券?」

母「二人までは無料みたいよ。あんた、どうせ彼女とかいなくて寂しい夏休みを過ごしてんでしょ? これ使って気になる女の子誘って行きなさい」

立花「ストレートに言わないで。悲しくなる。ってか、どうしたのこれ?」

母「買い物帰りに配ってたのよ。新しくオープンしたみたいよ」

立花「ふーん。ありがたく貰っとくけど……母さん、猫好きじゃん。行かないの?」

母「猫は好きよ。でもね、どんな猫もうちのモカちゃんの可愛さには敵いっこないのよ! それに、他の猫と遊んでたらモカちゃんに『浮気だにゃ!』って言われちゃうじゃないの! そんなの私、耐えられないわ……!」

妹「お、お母さぁぁぁん!」

母「うるさいわね。あんた、階段くらい静かに降りてきなさいよ」

妹「み、見て! これを見て! めちゃくちゃ可愛いモカちゃんが撮れました!」

母「な、何ですってぇぇぇぇ⁈ 早く見せなさい! 今すぐに! 早く! 内容によっては、お小遣いアップよ! というか、可愛い可愛いモカちゃんはどこよ⁈」

妹「今、私の部屋のベッドでのんびりしてる!」

母「絶対に可愛い! モカちゃん、今すぐに会いに行くわぁぁぁ!」

妹「ちょっ、お母さん! まずは写真見てよ! 待ってってば!」

立花「……あんなにメロメロになるなんて、父さんも思ってなかっただろうな」


 開けっぱなしにされたリビングの扉から、手にした猫カフェ券へと視線を戻す。店名、場所、そして手書きの猫が数匹描かれている可愛らしい券。


立花「……二人まで、か。誰を誘おう? 友達誘おうにも、僕の周り犬派だらけだし……猫カフェに男二人は、なんか嫌だ。でも一人もなぁ……。できれば女の子誘って行きたいけども、誘えそうな女子なんて……」

立花「……あっ、そうだ」


 立花はテーブルに置いていたスマホを手に取ると、猫好きの女の先輩へとメッセージを飛ばした。



ーーー



 次の日。時計の針は午前10時50分を指そうとしている。駅前の噴水広場では、薄手のパーカーにショルダーバックを掛けた不知火が、イヤホンを付け音楽を聴きながらスマホの画面をポチポチといじっている。


立花「夏帆せんぱ~い。おはようございます」

不知火「ん」

立花「すいません、待たせちゃいました? ってか、早くないですか? まだ集合時間の10分前ですよ?」

不知火「お前よりも遅く来るのが嫌だっただけ」

立花「早く来る理由が捻くれてますね」

不知火「うるさい」

立花「というか、急な誘いだったのにありがとうございます。猫カフェ一人は中々にハードルが高い気がしまして」

不知火「あんた、友達いないの?」

立花「安心してください、ちゃんといますから。でも、奇跡的に犬派ばっかりで。夏帆先輩は猫好きだから、付き合ってくれるかなぁと思いまして」

不知火「あっそ。よかったわね、優しい先輩で」

立花「今回は素直にお礼を言いましょう。ありがとうございます」

不知火「礼はいいから、飲み物奢れ。ほら、そこの自販機。10秒で買ってこい」

立花「10秒は無理ですよ。なんでもいいですか? ってか、近くなんですし、こっちきて自分で選んでくださいよ」

不知火「仕方ないわね」

立花「で、どれにするんですか?」

不知火「フルーツ・オレ」

立花「夏帆先輩って、甘いの好きですよね」

不知火「うるさいぞ」

立花「そんなうるさくないでしょ。はい」

不知火「ん」

立花「んじゃ、行きましょうか」

不知火「ん」



ーーー



 猫カフェへとやってきた二人。受付で店内の利用方法を聞いている。


店員「荷物は、そちらのロッカーに入れてください」

立花「はい、わかりました」

店員「猫ちゃんたちのいるお部屋に入る際は、必ず消毒をお願いします」

立花「はい」

店員「では、ごゆっくりどうぞ」

立花「へぇ~猫カフェってこんな風になってるんだ」

不知火「あんた、初めてなの?」

立花「初めてだから一緒に来てくださいってお願いしたんですよ。夏帆先輩は、何度か来たことあるんですか?」

不知火「ここはないけど、別の場所は。ほら、さっさと荷物入れろ」

立花「そんな急かさないでくださいよ」

不知火「……」


 荷物をロッカーに入れて鍵を回す。
 不知火へと視線を上げると、不知火はジッと猫のいる部屋を見つめている。


立花(猫のいる部屋見つめてる。夏帆先輩、ホント猫好きなんだな)

立花「夏帆先輩、準備できました」

不知火「ん」


 二人は消毒を済ませ、猫がいる部屋の扉を開ける。


猫「にゃー」

立花・不知火「ん?」


 扉を開けると、目の前には真っ黒な猫がちょこんと座り、ジッと二人を見つめている。


立花「か、か、かかかかか可愛いぃぃ……! まさかまさかのお出迎え! こんなことされたら、また来たくなるじゃんか! この黒猫、わかってるな……! 夏帆先輩、この子めちゃくちゃ可愛くないですか!」


 不知火はスマホを構え、写真を撮りまくっている。


立花(もう撮影会始めてるし!)

猫「にー」


 猫は鳴きながら立花に近づくと、足首にスリスリと頭を擦り付ける。


立花「はぁぁ~……! 可愛い、可愛すぎて可愛い……! もうこの場から一歩も動けないよ……! よーしよしよし~♡」

不知火「地味男、そのままジッとしてろ。写真撮ってあげる」

立花「え、いいんですか⁈」

不知火「静かにしてろ。いくわよ」

立花(猫効果か、夏帆先輩がとても優しい気がする)


 写真を撮り終えると、猫はトコトコ部屋の奥へと去っていく。


猫「にー」

立花「あっ、行っちゃった」

不知火「いつまでも入り口にいるなって言われてんのよ。他の人の迷惑だから、とっとと移動するわよ」

立花「は、はい」


 不知火は、足早に部屋の奥へと歩いていく。


立花(本当に猫好きなんだなぁ、夏帆先輩)



ーーー



 奥は広々と開けており、十匹前後の猫たちが、高いところでゴロゴロしていたり、猫じゃらしで遊んでいたり、猫同士で戯れあったりと、個々が楽しそうにのんびりと過ごしている。


立花「な、なんだ、ここは……! ここは天国か……? あの子もあの子も、あの子も可愛い……! 夏帆先輩、めちゃくちゃ可愛くないですか⁈」

不知火「……」

立花(あっ、めちゃくちゃに写真撮ってる。邪魔しないでおこう)


 真っ白な毛並みの猫と不知火の目が合う。不知火は写真を撮るのを中断して、その場にしゃがみ込む。


不知火「おいでおいで~」


 白猫は、ゆっくりゆっくりと不知火に近づいていく。不知火と触れ合える距離まで近づくと、ゴロンと寝転び、ゴロゴロと床を転がり始める。
 不知火は微笑み、手を伸ばすことなく白猫を眺める。


不知火「ふふっ、可愛い」


 普段部室では見せない先輩の柔らかな笑顔。思わず見入ってしまう立花。


立花「……」

不知火「ん? なによ?」

立花「え? あ、いや、べ、別になんでもないです! 猫、可愛いなぁ~と思いまして!」

不知火「地味男、猫じゃらし取って来い。ダッシュ」

立花「は、はい! ただいま!」



ーーー



 数十分後、立花は一人で猫じゃらしを使って猫と戯れている。


立花「ほ~らほら、こっちだぞ~。ほら、ほらほらほら! あ~捕まった~! 離せ、こんちくしょ~!」

立花「あっ、行っちゃった。あ~何しても猫は可愛いなぁ~! ずっとこの空間にいたい……けど、あと10分かぁ……。時が経つのは早いなぁ……」


 立花は辺りを見回し、不知火を探す。不知火は部屋の奥にあるクッションスペースに座り、ジッと遠目で猫を眺めている。


立花「夏帆先輩」

不知火「ん? なによ?」

立花「夏帆先輩は遊ばないんですか?」

不知火「前半いっぱい遊んだし写真撮ったから」

立花「なるほど。前半は全力で遊んで、後半はまったり猫を眺めるのが猫カフェの楽しみ方なんですね?」

不知火「私は、よ。あんたは好きに遊んできたら?」

立花「僕もいっぱい遊んだので、最後はゆっくり眺めます」


 立花は不知火の隣に腰を下ろし、部屋で自由気ままに過ごす猫たちを眺め始める。


立花「あ~可愛い……! 猫って、見てるだけで癒されますよね~」

不知火「それは同感」

立花「夏帆先輩、やっぱりめちゃくちゃ猫好きなんですね。誘ってよかったです」

不知火「はぁ?」

立花「だって、猫と触れ合ってる時ずっと笑顔でしたもん。あんな笑顔の夏帆先輩、なかなか見ないですよ」

不知火「……うるさっ」


 不知火は少し頬を赤く染め、ふいっと顔を逸らす。立花は不知火に顔を向けることなく、店内を見回す。


立花(いや~しかし……どこ見てもカップルばっかりだなぁ。やっぱ猫カフェって、カップルで来るところなのか? いや、あの人たちがカップルかどうかなんてわかんないけど、友達であの距離感はさすがにないよな)

立花(……これ、僕らも周りから見たら、カップルだと思われてるのかな?)


 立花は、ふと隣を見る。二人の距離は、肩が触れるか触れないかという距離──立花は顔を赤らめ、少し不知火と距離をとる。


不知火「ん? どうしたのよ?」

立花「あ、いや、別に! なんでもないです!」

立花(な、なにやってんだ僕は! 肩が触れるか触れないかの距離だったぞ! これは流石に先輩後輩の距離じゃないぞ! どう考えてもカップルの距離! 猫で機嫌良い夏帆先輩じゃなかったら『近い』って引っ叩かれてたぞ! あ、危ない危ない……!)

猫「にー」

立花「ん?」


 目の前には、立花たちを出迎えてくれた黒猫。ジッと立花を見つめている。


立花「あっ、あの猫は」

不知火「出迎えてくれた子ね」

猫「にー」


 黒猫はトコトコ立花へと近づくと、あぐらをかく立花の足元にすっぽりと収まり、自分の前足を舐め、くつろぎ始める。


立花「はぁぁ……! 僕の膝の上に……!」

不知火「あんた、結構気に入られてるじゃん」

立花「可愛すぎる……!」

不知火「ね。よしよし」


 不知火は微笑みながら身体を立花へと寄せ、猫と触れ合い始める。
 先ほどよりも縮まった距離──立花は顔を真っ赤に染める。


立花「あ、あ、あの、夏帆先輩!」

不知火「ん? なによ?」

立花「あ、いや、なによじゃなくて、その……!」

立花(近い近い近いってば! これはダメだ! いけません! これはカップルの、恋人の距離です! いけませんいけません、これ以上は……!)

不知火「あんた、どうしたの? プルプル震えて?」

立花「え⁈ あ、えっと……あ、足が痺れちゃって! あははは~!」

不知火「ふーん。わかってると思うけど、猫様を第一に考えろよ。一歩でも動いたら、猫様の代わりに私がお前を引っ叩く」

立花「いやいやいや、少しだけ動き──」

不知火「終了時刻まで、ジッとしてろ」

立花「は、はい……」

不知火「うふふ、気持ちよさそうにだらだらくつろいじゃって。地味男のことが気に入っちゃったの? ダメだよ、こんなやつを気に入っちゃ。こいつのことは下僕として扱わないと、すぐ調子に乗るからね。わかった?」


 微笑みながら猫と戯れる不知火。髪が、腕が、太ももが、先輩の色んな部位が身体に触れ、さらに顔を赤らめていく立花。


立花(あ、あぁぁぁ……⁈ い、色んな部位が……夏帆先輩の色んな部位が当たる……当たってくるぅ……! あ、なんかすごく良い香りがする気が……いかんいかんいかん! いかんぞ立花涼介! 気をしっかりと持て! これ以上は……夏帆先輩、なんかすごく柔らかい……いかんいかんいかん! このままでは変な方向に妄想が加速していく! 気を逸らすために、何か話を……!)

立花「か、夏帆先輩!」

不知火「うるさっ。何よ?」

立花「か、夏帆先輩は、お休みの日は何をしていらっしゃるのですか⁈」

不知火「休み? ん~……ゲーム」

立花「そうなんですか! どんなゲームするんですか!」

不知火「なんであんたに言わないといけないのよ?」

立花「ぼ、僕も、ゲームめちゃくちゃする人なんです! だから、気になっちゃいました! あははは~!」

不知火「そういや、あんたもゲーム好きだったわね。そうね……最近やってるのは、超大乱闘3スーパーだいらんとうスリー

立花「え、スパラン3やってるんですか⁈ 僕も最近はスパランやってますよ!」

不知火「ふーん。どうせレベル1のCPUにもボコボコにされる雑魚でしょ? 知ってる」

立花「いやいやいや、自分で言うのもアレですけど、結構強いですから!」

不知火「あーはいはい、そうですか」

立花「じゃあ、今度勝負しましょうよ! ボコボコのギタギタにしてあげますよ!」

不知火「やれるもんならやってみろ」

立花「いいですよ、やってやりますよ! 負けた時の言い訳、今のうちに考えといてくださいね!」

不知火「……おい、地味男」

立花「なんですか?」

不知火「どうせこの後、暇でしょ?」

立花「ムカつきますね、その聞き方。暇ですけど」

不知火「だったら、この後うち来てやるわよ。あんたを完膚なきまでに叩き潰してあげる」

立花「どうぞどうぞ、できるものならやってください! できるものならね!」

不知火「ふんっ、雑魚がギャーギャー騒ぎ立てて見苦しい。実力の差を思い知らせてあげるわ」

立花「それはこっちのセリ……ん?」

不知火「なによ?」

立花「……夏帆先輩の、家?」



ーーー



 ファミレスでお昼を食べ終えた二人は、不知火の家へと歩を進めている。
 家にたどり着くと、不知火はバックから鍵を取り出し扉を開ける。


不知火「何ボーッとしてんの? さっさと入りなさいよ」

立花「あ、は、はい。お、お邪魔します」


 玄関前でボーッと突っ立っていた立花は、言われるがままに家の中へと入っていく。


不知火「私、飲み物用意するから先上がってていいわよ。私の部屋、階段上がってすぐのとこだから。んじゃ」


 不知火は特に変わった様子もなく、リビングへと消えていく。
 立花は靴を脱ぐことなく、動くことなく、ただひたすらに天井を見つめ、固まっている。


立花(……え? ん? あ? おっ? んん? なに、これ? なんなの、これ? 何がどうなってこうなったのぉぉぉ⁈)






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