「声劇台本置き場」

きとまるまる

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遊部↓

12話「ウサギじゃなくても寂しかったら死にそうになる」(比率:男3・女3)

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・登場人物

 立花 涼介たちばな りょうすけ:♂ 高校一年生。ごくごく普通な男の子。

 笹原 冬華ささはら とうか:♀ 高校二年生。元気で可愛くて人気者な女の子。

 暁 秋斗あかつき あきと:♂ 高校二年生。明るいムードメーカー的な存在。なんだかんだ顔はいい男。凪先輩のことが大好き。

 不知火 夏帆しらぬい かほ:♀ 高校二年生。小さくて物静かな女の子。なぜか立花には攻撃的。

 五十嵐 賢也いがらし けんや:♂ 高校三年生。遊部の部長。よく下ネタを口にして百瀬に殺されかける人。

 百瀬 凪ももせ なぎ:♀ 高校三年生。いつもニコニコしているおっとりお姉さん系な女の子。お胸がとても大きい。下ネタが大嫌い。


・役表
立花:♂
笹原:♀
暁:♂
不知火:♀
五十嵐:♂
百瀬、妹、女子生徒:♀



ーーーーー



 放課後、遊部部室。


立花「こんにちわー」

百瀬「立花くん、こんにちわ」

暁「よっす」

五十嵐「うぃーす」

不知火「ん」

立花「……あれ? 冬華先輩はいないんですか?」

百瀬「冬華ちゃんはまだ来てないですよ」

立花「珍しいですね。いつも元気よく挨拶してくれるので、いないとちょっと寂しいです」

五十嵐「やれやれ、仕方ない。寂しがっているお前のために、この俺が冬華の真似をして元気よく挨拶してやるよ! 感謝しろよ!」

立花「いらないんですけど」

五十嵐「ちょっと待ってろよ~。今、喉をチューニングするから。あ~、あぁ~!」

暁「部長、冬華の真似ならば俺に任せてくださいよ。幼少期からずっとアイツのことを見てきた俺ならば、どこからどう聞いても瓜二つな冬華ボイスを提供できます。ここは俺に。あ~、あぁぁ~~!」

立花「話聞いてください。いりませんってば」

百瀬「うふふ、楽しそうですね」

不知火「不快な音になる確率100%なんで、今すぐにやめてください。秋斗もやめろ」

立花「冬華先輩、今日はお休みなんですか?」

不知火「いるわよ。用事あるから先行っててって」

百瀬「用事って、なんでしょうね?」

五十嵐「放課後に学校で用事つったら、一つしかないだろ……! そう、告白だっ!」

立花「冬華先輩、元気で明るくて可愛いですからね。ないとは言い切れないですよね」

百瀬「ですね!」

暁「冬華が褒められているのを聞くと、嬉しくなってくるな。幼馴染として、鼻が高いぜ!」

不知火「まぁ、悪い気はしないわね」

笹原「こんにちわ~! すいません、遅くなっちゃいました!」

百瀬「あら、冬華ちゃん。こんにちわ」

暁「おっす!」

不知火「遅かったね」

笹原「ちょっと色々あってね~」

五十嵐「冬華、隠さなくたっていいんだぜ? 本当のこと、言っちゃいなよ!」

笹原「え? なにをですか?」

五十嵐「お前さん、告白されてたんだろっ!」

笹原「……え?」

立花「放課後に用事って言ったら告白だって、部長が。でも、冬華先輩可愛いですから、それもなくはないな~って話を──」

笹原「あの、なんで知ってるんですか?」

五十嵐「……え?」

立花「え?」

百瀬「あら」

笹原「あっ、もしかして見てたんですか? あの、流石にそれはどうかと思いますよ? 私にも、プライバシーってもんが──」

五十嵐「マジか⁈ マジなのか、冬華⁈」

立花「ホントなんですか⁈ ホントに告白されたんですか⁈」

笹原「え、えっと……まぁ……。ってか、近いんだけど! 立花くんも、部長も!」

五十嵐「どんなやつなんだ⁈ お相手はどんなやつなんだ⁈」

立花「告白までの経緯を詳しく教えてください!」

笹原「えぇい! 暑苦しいわ! ってか、なんであんたたちがグイグイ来てんの⁈ こういう話は、女の子が積極的に来るんじゃないの⁈」

五十嵐「俺たちのハートは、ピュアピュアだからな! 心は乙女なの……!」

立花「先輩の恋愛事情、気になるじゃないですか……!」

五十嵐「って、ことで!」

立花「教えてください!」

笹原「嫌だわ! そこまでグイグイ来られると、なんか嫌だわ!」

五十嵐「だとよ、立花」

立花「部長、冬華先輩が話しやすい環境を僕たちが提供しなければですよ」

五十嵐「だな」


 五十嵐は、近くにあった椅子をスッと優しく手前に引いてくる。


五十嵐「笹原様、お座りくださいませ。こちらでゆっくりとお話しください」

立花「お飲み物はお茶でよろしいですか? あっ、ジュースの方がいいですよね! すみません、気が回らなくて!」

笹原「そこまでされると逆に話しづらいわ! あんたたちには絶対に話さないから! こっち来ないで! あっち行って!」

立花「そんなぁ! 僕らをキュンキュンさせてくださいよ! お願いします、冬華先輩!」

五十嵐「キュンキュンするためならば、たとえ火の中水の中! どこまでも追いかけるからな!」

笹原「ぜっったいに嫌です! 今日は帰ります! お疲れ様でした!」

五十嵐「追いかけるぞ、立花! 俺たちの乾き果てた青春を潤すチャンスを逃してたまるか!」

立花「はい! 冬華先輩、待ってくださいぃぃぃ!」

五十嵐「俺たちの乾きに乾いた乙女なハートを、潤してぇぇぇ!」

笹原「嫌ぁぁぁ⁈ 来るなぁぁぁ!」

百瀬「あらあら、行ってしまいましたね」

不知火「あのバカどもが。見てて恥ずかしい」

百瀬「ところで、夏帆ちゃんと秋斗くんは驚かないんですか?」

暁「あいつ、中学の頃も何度か告白されてましたから」

不知火「もう慣れました」

百瀬「あら、そうなんですか。私は少し気になっちゃうので、部長たちの後を追いますね。では~」

百瀬「冬華ちゃ~ん、私もキュンキュンさせてくださ~い」

不知火「……」

暁「行っちまったな」

不知火「そうね」

暁「どうする? 俺たちも追いかける?」

不知火「めんどくさい」

暁「んじゃ、部室で待機してますか~」

不知火「そうね。オセロでもなんでもいいから、二人で遊べるものを──」


 言いながら暁に視線を送る。暁は、四人が出て行った先をジッと見つめている。


不知火「……秋斗、どうしたの?」

暁「ん? いや、なんでもない。ごめん、なんか言ってた?」

不知火「二人でなんかするかって聞いたの」

暁「あぁね。いいぞ~! 何して遊ぶ? ってか、お前と二人で遊ぶのなんていつぶりだ? いつもは凪先輩とかと一緒か、冬華含めて三人だもんな~!」

不知火「……」

暁「うーん……二人って言ったら、王道のオセロか? とりあえず、帰ってくるまでまだまだかかるだろうし、オセロやるか!」

不知火「……そうね」



ーーー



 部活動を終え、それぞれ帰宅した部員たち。夜ご飯を食べ終えた暁は、ソファーに深々と腰掛け、ボーッとテレビを見つめている。
 暁に背後から声をかけ続ける、風呂上がりの中学生の妹。


妹「──ちゃん! お兄ちゃんってば!」

暁「ん? なんだ?」

妹「『なんだ?』じゃない! お風呂空いたって言ってるでしょ! 耳ついてないの?」

暁「あぁ、すまんすまん」

妹「どうしたの? なんかぼーっとしてるけど。風邪ひいたの?」

暁「いや、元気よ? 元気だから、風呂出たら一緒にゲームするか?」

妹「やるわけないでしょ。さっさと風呂いってこい」

暁「んだよ、冷てぇなぁ……。これが中学生の思春期か……お兄ちゃん、悲しくなってくるわ」

妹「う、うるさいな! さっさと入らないなら、栓抜いてくるからね!」

暁「わかったわかった! 入ってくるわ!」

妹「あーあ、こんな頼りなくて情けないお兄ちゃんより、可愛いくて頼りになるお姉ちゃんが欲しかったなぁ」

暁「おい、実の兄の前でそんな悲しいことを口にするな。姉なら冬華にでも頼め。アイツなら喜んで引き受けてくれるぞ、きっと」

妹「お兄ちゃんにしてはナイスアイデアね! よーし、今から冬華先輩に連絡しよ~! ってことで、お兄ちゃんはお風呂出たらとっとと荷物まとめて出てってね」

暁「あの、一瞬で兄を見捨てないでくれる? 浴槽いっぱいの涙を流しちゃうぞ?」

妹「そのまま水分枯らして干からびろ」

暁「あーあ、お兄ちゃん怒りましたわ~! スマホをよこせ! 自分の身は自分で守る! 連絡などさせてたまるかぁぁ!」

妹「ぎゃぁぁ~! ちょっ、触んなっ! 汚っ! 離れろ、バカ!」

暁「汚いとはなんだ! こちとら毎日風呂入っとるわ! 今日はまだだけど!」

妹「お母さぁぁぁん! お兄ちゃんが気持ち悪いことしてくるぅぅ! 助けてぇぇぇ!」

暁「気持ち悪くはないだろうが! お前、ホント生意気になったな! お兄ちゃんが風呂から出てくるまでに、その生意気っぷりを治しておけよ!」

妹「お風呂出たら呼んでね。シャワー浴びるから」

暁「お兄ちゃんを汚物扱いするな! 泣いてくる!」

妹「そのまま帰ってくるな」

暁「ったく、いつのまにあんな生意気なやつになったんだか……」

暁「……」

暁(なんだろ? なーんかモヤモヤするってか、なんていうか……。どうしたんだろ? 別に体調悪いってわけじゃないし……まぁ、風呂入って寝たらなんともなくなるだろ)


 頭を軽く掻きながら、暁は浴室へと向かっていく。



ーーー



 次の日。二限目の授業終わりを知らせるチャイムが学校内に鳴り響く。暁は机にグッタリと突っ伏している。


笹原「秋斗~? どったの? 大丈夫?」

不知火「あんた、朝からずっとそんな調子だけど、どうしたの?」

暁「なんか……なんだろ?」

笹原「風邪引いたの? 熱は? ほら、測ってやるからデコだせ」

暁「ん」


 暁は髪をかきあげ、おでこを見せる。笹原はなにも躊躇うことなく、掌を暁のおでこに当てる。


笹原「うーん……特になんともなさそうね」

不知火「隠していたバカさが今になって出てきただけじゃないの?」

暁「俺はなにも隠してねぇよ。それに、俺がバカだったらお前はどうなる? 救いようなくなるぞ?」

不知火「あ"ぁ"……?」

笹原「夏帆、落ち着いて。うーん……風邪でもなし、バカでもなし、となると残るものは……はっ! ウイルス感染⁈ 突如、謎のウイルスが秋斗に感染っ!」

暁「それならば、この変なモヤモヤも納得がいく! やべぇよ! ついに俺はゾンビになっちまうのか⁈ うぅ……⁈ うがぁ……!」

笹原「あ、秋斗⁈ どうしたの、しっかりして!」

暁「と、冬華……! 俺が俺であるうちに……早く……!」

笹原「嫌よ! そんなのできないっ!」

暁「早く……早くぅ……!」

不知火「はいはい。夫婦漫才めおとまんざいはいいから」

笹原・暁「誰が夫婦めおとだ!」

不知火「あんたたちよ。秋斗、寝不足なんじゃないの?」

暁「そうなのかなぁ? でも、昨日は日を跨ぐ前に寝たぞ?」

笹原「早っ! よくそんな早く寝られるわね?」

暁「なんでもできるのが暁秋斗ですからね!」

笹原「あーはいはい、調子に乗らないでくださいませ~」

暁「んだと! その反応はなんだ! もっと敬え!」

女子生徒「冬華~」

笹原「ん? なに~?」

女子生徒「深見ふかみくんが呼んでるよ~」

笹原「は~い。今行く~」


 笹原は二人に背を向けて、スタスタと教室を出て行く。不知火は暁へと視線を向ける。未だに笹原が出て行った先を見つめ続ける暁。


不知火「……ねぇ、秋斗」

暁「ん? なんだ?」

不知火「あんた、もしかして冬華のこと気にしてんじゃないの?」

暁「冬華のこと? なにを?」

不知火「なにって、そりゃ……」

不知火「……」

暁「ん? なんだよ?」

不知火「……別に。なんでもない」

暁「はいぃ? なんでもないことはないだろ? ほら、言え! そこまで言ったなら、言え!」

不知火「自分で気づけ。んじゃ」

暁「待て待て待て! 逃すわけないだろうが! 途中まで言っておいて、そりゃないだろ!」

不知火「うっさい。さっさと離せ、バカ」

暁「いやいやいや、バカはお前だろ! お前よりは頭いい自信ありますけど!」

不知火「なんか言った?」

暁「いえ、なにもございません! 失礼しました!」

不知火「ったく」


 不知火は暁の腕を払いのけ、自席へ戻っていく。


暁(冬華のこと? 俺、なんか冬華のことでモヤモヤすることあったっけ?)

暁「……ダメだ。全然思いつかん」


 頭を掻き、再び机に突っ伏す。自席からその様子を見る不知火は、大きなため息を吐き出した。



ーーー



 放課後、遊部の部室。


立花「こんにちわー」

笹原「こんにちわ、立花くん!」

百瀬「こんにちわ」

五十嵐「おっす」

不知火「ん」

立花「あれ? 今日は暁先輩がいないんですね」

不知火「よく気付いたわね、地味男。凄いわ」

立花「この程度で褒めないでください。バカにしてます?」

不知火「いつもしてる」

立花「さぁ、今日はなにして遊ぶんですか! ボコボコのギタギタにしてやりますよ!」

不知火「やれるもんならやってみろや……!」

百瀬「あらあら、来てすぐにバチバチですね」

笹原「仲がいいのか悪いのやら……」

五十嵐「つーか、なんで秋斗のやつは来ないんだ? あいつも用事という名の告白か?」

立花「まぁ、暁先輩なんだかんだカッコいい気がしますからね」

五十嵐「わからんでもない。でも、アイツがモテるのはなんかムカつくな」

立花「わかります」

五十嵐「よし、立花! 校内中にアイツのアホみたいな写真をばら撒き、秋斗の評価を地の底まで落としてやろうぜ!」

立花「そこまでの悪にはなれません」

五十嵐「んだよ、つまんねぇな」

笹原「秋斗は『このモヤモヤが晴れなければ、遊びにもなにもかも集中できん! 治療に専念する!』とかなんとか言って帰っていきました」

百瀬「モヤモヤですか?」

五十嵐「何にモヤモヤしてんだ?」

笹原「さぁ? 朝からずっとモヤモヤしてる感じでしたよ」

立花「なにか変なものでも食べたんですかね?」

五十嵐「秋斗ならありえる」

笹原「もしかして、たけのこの村が好きなのに、きのこの森を食べたんじゃ……!」

不知火「それ、ありえるわね」

五十嵐「なにやってんだ、あのバカは……」

立花「そりゃモヤモヤしますよ……」

百瀬「あなたたち、秋斗くんをなんだと思っているんですか?」

五十嵐「ちなみに、たけのこの村派の人ー? はーい」

立花「はーい」

五十嵐「きのこの森派の人ー?」

笹原・不知火「はーい」

立花「あれ、凪先輩は?」

百瀬「私はどっちも好きですよ~」

笹原「凪先輩、それはいけませんよ!」

立花「今すぐにどちらか決めてください! 奴らに殺されますよ!」

五十嵐「まぁ待て待て。今回は2・2・1でいい感じに別れたから、このまま遊ぶぞ! 凪、審判を頼む! 公平にジャッジしてくれ!」

百瀬「うふふ、お任せください」

笹原「さてと、何して遊びます? 何しても、たけのこなんかにゃ負けませんけどね~!」

五十嵐「んだと、てめぇ! たけのこ様の力を見せつけてやるわ! きのこなんて、ぽっきりと折ってやるわ!」

不知火「……ん?」


 受信音を鳴らしたスマホに目をやる不知火。暁からメッセージを受信しており、ポチポチと画面をタップして開いていく。


暁『モヤモヤの正体がわかったぞ! 部活終わったら、みつば公園まで来てくれ!』


不知火「……はぁ。めんどくさ」

笹原「ん? どうしたの、夏帆?」

不知火「なんでもない。さっさとたけのこの村を焼き払いましょ」

笹原「そうね! きのこ様の力を見せつけてやるわ!」

五十嵐「おいおいおい! 言われてますぜ、立花の旦那ァ!」

立花「先輩方に教えてあげましょう、たけのこの素晴らしさを! そして、勝利の祝杯として、冬華先輩の恋バナを聞きながらたけのこの村を食しましょう!」

五十嵐「いよっ! ナイスアイデアです、立花の旦那ァ!」

笹原「まだ諦めてなかったんかい! 絶対に話しません!」

百瀬「では、きのこチームが勝った時の罰はどうします?」

笹原「凪先輩、勝手に話を進めないで!」

不知火「じゃあ、私たちが勝ったら『きのこ様、バンザーイ!』って言いながら廊下をパンツ一丁で走るで」

立花「夏帆先輩は僕らを刑務所にぶち込みたいんですか?」

五十嵐「せめてふんどしにしてくれ!」

立花「問題はそこではないんですけど!」

百瀬「では続いて、勝負内容を決めましょうか~」

立花・笹原「話を進めないでぇぇぇ!」



ーーー



 日が落ちかけた公園内。暁はみつば公園のブランコに揺られながら、不知火の到着を待っている。


暁「おっ、お疲れ!」

不知火「帰っていい?」

暁「待て待て待て! 今来たばっかりだろ! 話を聞いてくれよ! 何しにここに来たの、お前!」

不知火「なによ? さっさと話して」


 不知火は暁の隣に腰掛けると、小さく揺られ始める。


暁「俺さ、言ってただろ? モヤモヤするって」

不知火「そういうのいいから、結論だけ言え」

暁「お前なぁ……。はいはい。んじゃ、結論だけ言いますよ」

暁「……お前が言ってた通り、冬華のことだったわ」

不知火「……え?」

暁「あれから一人になって色々考えてみたんだが……お前の言った通り、俺は冬華のことを気にしてた。それがモヤモヤの原因だった」

不知火「……」


 揺れを止め、暁を見つめる。気にすることなく揺られ続ける暁。


暁「つーか、お前もモヤモヤしてるだろ?」

不知火「……え? な、なにに?」

暁「なににって、お前、冬華の行動を思い出してみろよ? 今までと違ってる点があるだろ? 俺たち幼馴染ならすぐに分かることだ」

不知火「え? なに? 私は特になにもモヤモヤしてないわよ」

暁「はぁ、やれやれ……。自分じゃ気付けてないみたいだな。お前もモヤモヤしだしたら嫌だろうし、優しい俺様が教えてやるよ。モヤモヤの正体……それは『冬華が付き合っているかどうかがわからない』ことだ!」

不知火「……はい?」

暁「夏帆、中学の頃を思い出せ! あの時の冬華は、告白された後『付き合ってない』『断った』って俺たちに教えてくれてただろ?」

不知火「う、うん」

暁「でも、今回はどうだ? 告白されたとは言っていたが、未だに結果を言ってきていない! 中学の頃はスッと言ってきたのに、言ってこないんだぞ! モヤモヤするだろ⁈」

不知火「……」

暁「あれなのか? 結果を言ってこないってことは、付き合っているということなのか? そうなのか、冬華……! あのやろぉ、俺よりも先に幸せになりやがってぇぇ……!」

不知火「……ねぇ、秋斗」

暁「なんだ?」

不知火「嫌なの?」

暁「ん? なにが?」

不知火「冬華が、誰かと付き合うの」

暁「え?」

不知火「だってアンタ、凪先輩のことが好きなんでしょ? だったら、冬華が誰と付き合おうが関係ないじゃん。アンタがモヤモヤする必要ないじゃん」

暁「まぁ、そう言われれば……」

不知火「……嫌なの?」

暁「嫌ってことはないぞ! むしろ、祝福してやらなきゃいけないことだと思っている! 相手が誰とか、いつからなのかとかはさっぱりわからんけども、冬華が好きになったのならば全力で応援してやるのが、幼馴染として、友達としてだろ? アイツも高校生だし、そういうことはあんまり言いたくないのかもだけど……今まで俺たちには言ってきてくれてたことだからこそ、なんというか、寂しいというか? ちょっぴりモヤモヤしたというか? 夏帆はモヤモヤしないのか?」

不知火「まぁ、そう言われると……うーん……」

暁「だろ? でもさぁ、冬華とは小さい頃からずっと一緒で、家族と同じくらい共に過ごしたと言っていい存在だからさ。もし付き合ってたら、俺たちとの時間も少しずつ減っていくんだろうなって思ったら……それはそれで、ちょっぴり寂しいけどな」

不知火「……」

暁「つーわけで、夏帆、冬華に付き合ってんのかどうか聞いてくれない? 俺たちのモヤモヤを、一緒に晴らそうぜ!」

不知火「……」

暁「ん? 夏帆、どうした?」

不知火(言ってやりたい。声を大にして言ってやりたい。冬華は絶対に付き合ってないって。目の前にどんだけカッコいい男が現れたとしても、見向きもしないって。このバカに言ってやりたい。教えてやりたい……!)

暁「夏帆~? どうした~?」


 不知火はブランコから立ち上がると、右手を大きく振り上げ、小さく揺られている暁の背中を力任せに引っ叩く。


不知火「っ!」

暁「だぁぁぁぉ⁈ お、おまっ、なんで叩く⁈」

不知火「ムカついたから」

暁「なんで⁈ なにに⁈」

不知火「モヤモヤしてんの、アンタでしょ? なら、自分で聞け。私を巻き込むな」

暁「いやだって、なんというか……ちょっと聞きづらいというかさ……その……」

不知火「私は冬華が付き合おうが付き合ってなかろうが、気にせず遊べるから。気になんないし、モヤモヤもしない。んじゃ」

暁「え? だぁぁぁ! 待て待て待て! お願いしますよ夏帆様! ちょっ、待てってばぁぁぁ!」


 不知火は暁の声に耳を傾けることなく、足早に公園を出ていく。


暁「ちくしょぉ……! 少しくらい手伝ってくれよぉ……」

暁「……確かに俺は、凪先輩のことが好きだ。だから、付き合ってようがなかろうが、関係ないっちゃないんだけども……」

暁「……だぁぁぁ! でもなんかモヤモヤすんだよ~!」



ーーー



 暁と別れた不知火は、鈍感すぎる幼馴染に怒りを覚え、強く地を踏みつけながら帰路を歩いている。


不知火(あのバカが! 冬華の気持ちも知らないで……! 鈍感やろう、純粋すぎんだろうが! どっかで汚れてこい! バカ! クソ野郎が!)

不知火(……でも、アイツもなんだかんだ冬華のことを想ってるんだろうな。想ってなかったらモヤモヤなんてしないし、気にもしないだろうし。家族みたいって言ってたから、好きが一周二周くらい回って感覚が麻痺してるだけなんじゃないの? 本当は、アイツも冬華のこと……)


 不知火の歩みが止まる。


不知火(もし……もし、あの二人が付き合ったら……私、どうなるんだろ……? 私は、あの二人と違って友達なんていない。二人が私から離れていったら、私は……)


 顔を俯かせ、肩にかかる鞄の紐をギュッと強く握りしめる。


不知火(M)私は、冬華みたいに誰かを好きになったことがない。だから、冬華の気持ちはよくわからない。秋斗の気持ちもよくわからない。

不知火(M)小さい頃から、ずっと三人で遊んでた。でも、二人は私と違って、友達もたくさんいて、人気者で……そして、恋をして。私には無いものをたくさん持っている。

不知火(M)歳を重ねるにつれて、隣を歩いていた二人と、なんだか距離を感じるようになった。二人はきっと『そんなことないよ』って言うと思う。優しいから。優しい友達だから。

不知火(M)でもね、私は思うんだ。あなたたちは、もし私がいなくても……きっと、きっと……。


不知火「……寂しくなんて、ないもん」


 紐を強く握りしめたまま、不知火は足早に帰路を歩いて行く。



ーーー



 時刻は22時を過ぎ──食事を終え、お風呂も済ませた笹原は、家族と共にソファに腰掛けリビングでテレビを見ていた。
 テーブルの上に置いた自身のスマホが画面を明るく照らす。幼馴染の暁からの着信を知らせている。


笹原「ん? 秋斗だ。もしもし~?」

暁「お、おっす」

笹原「おっす。どったの?」

暁「今、大丈夫か?」

笹原「うん。あっ、部屋に移動するからちょっと待ってね~」

暁「お、おう」

暁(な、なんだろう? なんかめちゃくちゃ緊張するな……。つーか、教えてくれるのかな? 教えてくれるのなら、そもそも自分から言ってくるだろうし……やっぱ聞かない方がいいのかもしれん。でもでも、それだといつまでもモヤモヤするしなぁ……)

笹原「お待たせ。んで、どったの?」

暁「え? あ、え、えっとだな……あーえっと……その……!」

笹原「大丈夫? なんかあったの?」

暁「大丈夫だ! 俺は大丈夫!」

笹原「そう? ならいいけど。ってかさ、モヤモヤだっけ? 治ったの?」

暁「あー……えっと、そのことなんだが……」

笹原「なによ? まだモヤモヤしてんの? やっぱりアンタ、たけのこの村ときのこの森を間違えて食べたんでしょ?」

暁「……はい? なんだよ、それ?」

笹原「違うの? 部室では、秋斗がモヤモヤしてんのはそれだって話でまとまったんだけど」

暁「お前たちは俺をなんだと思ってんの?」

笹原「バカ」

暁「おい、バカって言うな! バカって!」

笹原「はいはい、ごめんなさいね~。んで、どったのよ? なんか悩み? 私でよければなんでも聞くよ?」

暁「……な、なぁ、冬華?」

笹原「なに?」

暁「あの……その……さ、最初に言っておく! 言いたくなかったら、言わなくてもいいからな!」

笹原「うん。で、何を聞きたいの?」

暁「そ、その……えっとだな……こ、こ、告白されたって言ってたじゃん? お前」

笹原「うん。言った」

暁「そ、その件なんだが……その……」

笹原「なによ? あっ、そういや私、付き合ってるかどうかとか、言ってなかったっけ?」

暁「それだ!」

笹原「びっくりした~! いきなり大声出さないでよ!」

暁「す、すまん……!」

笹原「……え? なに? もしかしてあんた、私が付き合ってるかどうか気になってモヤモヤしてたの?」

暁「恥ずかしながら、その通りだ」

笹原「……マジなの?」

暁「だってお前、中学の時は断っただの付き合ってないだの、すぐに結果言ってきたじゃん! それなのに今回は何も言ってこないから、なーんかモヤモヤしてさ! つまり、お前がサッと俺と夏帆に結果を言わないのが悪いんだ! さぁ、言え! 付き合ってんのか⁈ 付き合ってないのか⁈」

笹原「……ぶっ! あはははは~!」

暁「はいぃ⁈ おまっ、何笑ってんだ!」

笹原「だって、あんた……! 私のこと思って、あんな情けない顔してたんだって思うと……ぷっ! ふふふ……!」

暁「おい、笑うな! 俺の純粋な心を返せ!」

笹原「ふ~ん、そっかそっか~! 秋斗は私が他の男のものになるのが嫌なんだ~? 寂しいんだ~?」

暁「おい、変な勘違いしてんじゃねぇぞ! 確かにお前が誰かと付き合ったのなら、遊んだりする回数が減るだろうから寂しいっちゃ寂しいけども! お前が心から好きと決めた相手になら、お前を任せられると言うか、背中を押して送り出してやれるぞ!」

笹原「なによ、それ? あんたは私の父親か?」

暁「父親ではないが、家族みたいなもんだ! 小さい頃からずっと一緒にいるからな!」

笹原「ふふ……! そっか、そうだよね」

暁「だから、その、ちょっと気になったというかさ……。最初に言ったけど、言いたくないなら言わなくても──」

笹原「ないよ」

暁「……へ?」

笹原「付き合ってない。告白してもらえたのは嬉しかったけど……私は、友達としか見れなかったから。断った」

暁「そ、そっか」

笹原「うん」

暁「……」

笹原「どうした? 安心したか?」

暁「はい?」

笹原「気になって気になってモヤモヤしちゃうくらいだもんね~? どう? モヤモヤは晴れましたか~? どうですか~?」

暁「おい、やめろ! なんか恥ずかしいだろ! 今まで言ってきてたのに言ってこなかったから気になっただけで、お前が付き合うことになったら拍手して『おめでとう!』と元気よく言って送り出してやるぞ!」

笹原「秋斗は寂しがり屋さんでちゅね~? 優しい優しい冬華ちゃんが、よちよちしてあげましょうか~?」

暁「だーかーら! 違うっての! お前は一人っ子だからわからんかもしれんが、あれだ! まいに彼氏ができたって言われたら、お前だって気になるだろ!」

笹原「た、確かに……! 舞ちゃんに彼氏が出来たとなれば、どんなやつか見たいし、めっちゃ気になる!」

暁「だろ? つまり今回もそういうことだ。わかったな?」

笹原「はいはい、わかりました。アンタが私のこと家族同然と見ていることは、嫌というほど伝わりました~」

暁「んだよ? 嫌なのか?」

笹原「嫌なわけあるか。ってかさ、舞ちゃんはそういう話してこないの? 中学生でしょ?」

暁「話すわけないだろ。というか、最近生意気度が増し増しでさぁ……お兄ちゃん、悲しくなってる」

笹原「あ~。まぁ、思春期ですからなぁ~」

暁「なぁ、お前からなんとか言ってやってくれよ。あいつ、お前にはめちゃくちゃ懐いてるしさ」

笹原「私が言ってもどうにもならないと思うけどなぁ」

暁「そんなことねぇよ。一度ガツンと言ってやってくれ! 今から呼んでくるから! ちょっと待ってろ! 舞ぃ~!」

笹原「待て待て待て待て!」


笹原(M)家族同然……嬉しいような、悲しいような? 私は、どの立場なんだろ? 妹なのかな? 姉なのかな? それとも、同い年の双子? それだったら、悲しすぎて泣けてくる。でもでも、家族ってことはさ、アイツの奥さんって可能性も無きにしもあらず。無いだろうけどね。

笹原(M)私のことを恋愛対象として見ていないってことは、嫌ってほど伝わった。でも、それでも、嬉しい。笑いたくなるほど嬉しい。跳ね上がりたくなるほど嬉しかった。私のことでモヤモヤしてくれてたんだって。だって、嫌いだったら、なんとも思ってなかったら、モヤモヤなんてしないもん。気にもなんないもん。

笹原(M)アイツの中に、ほんの少しだけど、私という存在がいるんだって、改めてわかった。それがめちゃくちゃ、めちゃくちゃ嬉しい。


笹原「……うぅん……。……あ、寝てた……。いつのまに……。今、何時だ……?」


 笹原は寝ぼけながらも、ベッドに置いてあるであろうスマホを手探りで探す。


笹原「……あれ?」


 手にしたスマホを覗き込む。画面は通話中のままになっており、微かにだが暁の寝息も聞こえてくる。


笹原「……お前も寝落ちしてんのかよ? やれやれ……」


 通話を切ろうとボタンに指を伸ばす笹原。スマホから布が擦れ合う音が聞こえてくると、動きを止め、ジッと画面を見つめる。


笹原「別にこのままでもいっか。あーもぉ……好きな人と寝落ちするまで通話って、なんだよそれ? テンション上がるわぁ~……! って、充電充電! やばいやばいぃ……!」


笹原(M)アイツは、超がつくほど純粋野郎だから、本当のことを言っていたんだろう。私と遊べなくなるのは寂しいって。そんなこと言われたら、ますます好きになるじゃんか。バカ。

笹原(M)今はまだ、あんたの中の私は全然小さいかもしれない。でもさ……私、諦めないからね? 絶対、大きくなってみせる。お前を振り向かせてやるんだから。覚悟しておけ、超純粋バカのクソ秋斗。


笹原「ふふ……! おやすみ、秋斗」


 充電コードの刺さったスマホに小さく呟き、笹原はもう一度目を閉じる。


笹原(M)何分経っても、何も聞こえてこない。でも、耳を澄ませば、よーく澄ませば、微かに、ほんの微かに聞こえてくる。まるで隣で彼が寝ているような感覚……幸せに包まれている感覚……。

笹原(M)この感覚が、ずっとずっと、続けばいいのにな。







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