「声劇台本置き場」

きとまるまる

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遊部↓

7話「遊園地にはみんな子どもになる魔法がかかっている」(比率:男3・女3)

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・登場人物


 立花 涼介たちばな りょうすけ:♂ 高校一年生。ごくごく普通な男の子。

 笹原 冬華ささはら とうか:♀ 高校二年生。元気で可愛くて人気者な女の子。

 暁 秋斗あかつき あきと:♂ 高校二年生。明るいムードメーカー的な存在。なんだかんだ顔はいい男。凪先輩のことが大好き。

 不知火 夏帆しらぬい かほ:♀ 高校二年生。小さくて物静かな女の子。なぜか立花には攻撃的。

 五十嵐 賢也いがらし けんや:♂ 高校三年生。遊部の部長。よく下ネタを口にして百瀬に殺されかける人。

 百瀬 凪ももせ なぎ:♀ 高校三年生。いつもニコニコしているおっとりお姉さん系な女の子。お胸がとても大きい。下ネタが大嫌い。


・役表
立花:♂
笹原、女:♀
暁:♂
不知火:♀
五十嵐:♂
百瀬、係員:♀



ーーーーー



立花「こんにちはー」


 放課後、遊部の部室。
 立花が扉を開くと、視線の先では五十嵐が偉そうな態度で椅子に腰掛けている。百瀬は五十嵐の隣に立ち、うちわでパタパタと五十嵐をあおいでいる。二年生組は部長の前に椅子を並べ、静かに座っている。


五十嵐「遅い! 遅すぎるぞ、立花涼介ぇ!」

立花「僕が遅いんじゃなくて、皆さんが早いんですって」

笹原「立花くん、こんにちは!」

立花「こんにちは、冬華先輩」

暁「立花、部長が大切な話があるから座れってよ」

立花「大切な話?」

不知火「いいから早く座りなさいよ、地味男」

立花「はーい」

五十嵐「よーし、ようやく揃ったな~バカどもめ!」

笹原「バカって言わないでくださいよ」

暁「なんでいきなり喧嘩売ってくるんですか?」

立花「この四人の中でバカなのは、夏帆先輩だけですよ」

不知火「あ"ぁ"?」


百瀬(M)しばらくお待ち下さい。


 不知火が、立花に腕ひしぎ十字固めをきめている。


立花「あだだだだだだだ⁈ ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!」

笹原「立花くん……」

暁「今のは誰がどう見たってお前が悪いぞ、立花」

百瀬「腕ひしぎ十字固め、綺麗に決まってますね~」

五十嵐「立花も攻撃的になってきたなぁ。成長してるってことか? んなことは、どーでもいい! お前ら、今日は大事な大事な話があるんだ! よーく聞きたまえ!」

笹原「はい」

暁「なんですか?」

立花「ギブギブギブギブッ! 夏帆先輩、ギブアップです! 開放してくださいぃぃぃ!」

不知火「もっと強くしてほしい? 仕方ないわねぇ……!」

立花「あぁぁぁぁ⁈」

笹原「大切な話って、なんだと思う?」

暁「ん~大切な話だろ……はっ! 部長が、下ネタ言わなくなるとか!」

笹原「それは、大切かつ大事な話!」

五十嵐「おい、下級生どもー! 話を聞けー!」

百瀬「うふふ、元気でいいですね」

五十嵐「やれやれ、全く……。こいつらを黙らせるためには、あれしかねぇか。百瀬く~ん、皆さんに例のものを~」

百瀬「はぁ~い、ただいま~。みなさ~ん、こちらをどうぞ~」


 百瀬は、下級生たちに長方形の紙を1枚ずつ手渡していく。


笹原「ん?」

不知火「なんですか、これ?」

暁「なになに? ぱっぱらランド、入場券んん⁈」

笹原「こ、こ、これって!」

五十嵐「言わなくてもわかるだろ? でも、言っちゃうぜ~! それは、遊園地『ぱっぱらランド』の入場券だぁぁぁ! てめぇらにタダでくれてやるよ! 感謝したまえ!」


 立ち上がり、椅子に片足を乗せて堂々と発言する五十嵐。笹原と暁はすぐさま椅子から離れ、床に正座し頭を下げる。


笹原「ははぁ~! 五十嵐様ぁ~!」

暁「ありがたき幸せぇぇ~!」

立花「ありがとうございます。ってか、どうしたんですか、これ?」

五十嵐「どうした、か。どうやって手に入れたか、聞かせてやるよ!」


 バシッと下級生たちに言い放つと、勢いとは裏腹にゆっくり椅子に座る。


五十嵐「ふぅ、今日も疲れたなぁー」

百瀬「お疲れ様。元気してますか?」

五十嵐「あっ、店長! お疲れ様でーす!」

不知火「なに、これ?」

立花「なんか小芝居が始まったんですけど」

暁「おいこら、貴様ら! 何をしている!」

笹原「部長たちのお芝居は正座で見なさい! ほら、早く!」

立花「入場券一枚で、部長への信仰度が爆上がりですね」

不知火「やれやれ……」

百瀬「あのね、遊園地の無料券を手に入れたんだけど、いる?」

五十嵐「はーい! 欲しいでっす!」

五十嵐「と、まぁこんな感じだ」

不知火「短っ」

立花「もう終わりですか? 芝居しなくてもいい長さでしたよ?」

暁「(拍手)素晴らしい! 最高です!」

笹原「(拍手)今年の主演男優賞は、あなたに決まりです!」

五十嵐「よせやい、照れるぜ!」

立花「あの、部長たちはチケットあるんですか?」

五十嵐「チケットは四枚しかもらってないから、お前らにやるよ。俺と凪は自腹で行くから」

立花「え? いいんですか?」

暁「よっ! 部長、男前ぇぇ!」

笹原「最高ですっ! 超絶怒涛にカッコイイですっ!」

五十嵐「はっはっは! もっと褒めたまえ! 今回は凪の分も俺が払うんだけどさ、凪が『払ってくれたら、おっぱい揉んだり、その他色々とさせてくれる』って言うからさぁ~! 頑張っちゃうよね~!」

笹原「まぁ、遊園地代を払ってもらえるなら、おっぱいの一つや二つ……うんうん、仕方ない」

不知火「冬華、なに言ってるの?」

暁「あぁぁ! んんんん! ひ、一揉み……一揉みくらいならぁぁぁ!」

立花「チケット一つで手のひら返しすぎでは?」

五十嵐「おいおい、遊園地のチケットはここまで人を変えてしまうのか……! ってことは……凪ちゃ~ん! さっきの話は、ありか無しかで言ったら、もちろん──」


不知火(M)しばらくお待ち下さい。


 五十嵐が右頬を押さえ膝を崩し嘆いている。右頬には、真っ赤な手のひらの痕がついている。


五十嵐「痛い……痛すぎるわ……! 酷すぎる……!」

百瀬「さぁ、次は左頬を差し出しなさい」

笹原「ストップ! 落ち着いてください、凪先輩! 押さえて押さえて!」

百瀬「冬華ちゃーん、早くそこを退いてください」

五十嵐「秋斗ぉぉ! なにボーッと突っ立ってる! 王を守るのが、貴様の役目だろうが!」

暁「ぐっ……! お、俺は……俺はどうしたら……⁈ どうしたらいいんだぁぁ!」

立花「あの方達は楽しそうですね、夏帆先輩」

不知火「そうね。地味男、喉乾いたから飲み物とって」

立花「はいはい、わかりましたよ」


立花(M)こうして僕らは、土曜日に遊園地へと行くことになった。



ーーー


 土曜日、午前10時を過ぎた頃。ぱっぱらランドのゲートを潜った遊部部員たち。


笹原「さぁ、ついにきました!」

暁「ぱっぱらランドォォォ!」

五十嵐「遊んで遊んで、遊びまくるぞ~!」

笹原「いえぇぇぇい!」

暁「ふぅぅぅぅ!」

百瀬「うふふ、楽しみですね~!」

不知火「(あくび)」

立花「テンション高いですね、先輩方は」

不知火「そうね」

笹原「さぁ! まずは、なに乗りますか!」

暁「どうする? 悩むなぁ~!」

百瀬「悩んでいるのなら、あれに乗りませんか?」


 百瀬は、上空を指さす。その先では、四人ほどが乗れる小さな乗り物が、空中にひかれたレールの上をゆっくりと移動している。


百瀬「あれに乗れば、遊園地内を上空からゆっくり眺められますし」

五十嵐「そうだなぁ~! 上空から全体見回して、なに乗るか決めるか~!」

笹原「賛成でーす!」

五十嵐「よーし! じゃあ、まずは……あの上空をゆっくり進んでる、名前よくわからん乗り物に乗るぞー!」

笹原・暁・百瀬「おぉー!」
立花・不知火「おぉー」



ーーー



笹原「うわぁ~! 景色、綺麗~!」


 上空を移動する乗り物に乗り込んだ女性三人組は、それぞれが景色を楽しんでいる。


笹原「ほら夏帆、見てみて!」

不知火「うん、綺麗だね」

百瀬「今日は風が気持ちがいいですね~。素敵な空の旅ですね」

笹原「ですね! 次は、どれ乗ろうかなぁ~? 夏帆は、なに乗りたい?」

不知火「私は冬華に合わせる」

笹原「了解! 凪先輩は、乗りたい物ありますか?」

百瀬「私も、冬華ちゃんに合わせますよ」

笹原「了解でっす! うーん、どれにしようかなぁ~! 悩むなぁ~!」


 楽しげに会話する女性陣たちの後ろを、ゆっくりと追いかける乗り物──そこには男性陣三人が乗り込んでいる。女性陣とは違い、遊園地に来たとは思えないほどテンションが落ちている。


五十嵐「わぁ~……景色、綺麗だなぁ~……」

暁「ですねぇ~……」

立花「け、け、結構高いですね、これ……。こ、怖い……」

五十嵐「立花、怖いからって抱きついてくんなよ」

暁「男のテメェに抱きつかれても、こちとら何にも嬉しくねぇんだからな」

立花「抱きつこうだなんて考えは一切無いんで、安心してください。ってか、さっきまでテンションアゲアゲだったのに、どうしたんですか?」

五十嵐「んなもん、聞かなくてもわかんだろうが……」

暁「なんで、女の子が一人もこっちにいないんだよ……」

五十嵐「ジャンケンなんて、しなきゃよかった……」

暁「なにが楽しくて、やろうどもと空の旅しなきゃなんねぇんだよ……」

五十嵐「風で乗り物が揺れて、女の子がふらっとこっちに倒れて来て~のラッキースケベっていうお約束ができると、期待したのに……」

暁「凪先輩との、ToLOVEるとらぶるが……」

立花「やましい考えしてるからですよ」

五十嵐「クソが! 俺は、神を恨んでやる!」

暁「あぁ……前の車両から、凪先輩の楽しげな声が聞こえて来る……。あそこは天国じゃ……」

五十嵐「この細いレールを渡って、天国に行くか?」

暁「たどり着ければ天国、落ちれば地獄……!」

立花「楽しい遊園地で、恐ろしいカイジごっこしないでください」

五十嵐「ざわざわざわ……!」

暁「ざわざわざわ……!」

五十嵐「秋斗は進む! 一歩、一歩、また一歩と!」

暁「お、俺はいける、俺はできる! 想像しろ、想像するんだ! 負けた自分じゃない、勝った自分を! 天に辿り着き、上から見下ろしてきた奴らに、指を指して言ってやるんだ! 『俺はできる! 俺はやれる男だ! てめぇらの思い通りにはいかねぇぞ、バカどもめ!』と!」

立花「暁先輩、マジでやめてくださいよ」

暁「止めるんじゃねぇ、立花ぁ! 俺は、俺はぁぁ!」

立花「あんた、絶対に落ちるタイプの人間ですから! 楽しい楽しい遊園地を、恐怖の遊園地に変えないでください!」

笹原「なんか後方がうるさいわね」

百瀬「うふふ、盛り上がってますね~」

不知火「レールから外れて落ちればいいのに」

暁「凪先輩ぃぃぃぃ! 今、行きますぅぅ!」

立花「やめてくださいぃぃぃ!」



ーーー



笹原「さぁさぁ、遊園地と言えば、やっぱりこれでしょ!」

暁「ジェットコースター!」

五十嵐「いぇぇぇい! 叫びまくるぞぉぉ!」

立花「あの、僕はここで待ってますね」

百瀬「あら、立花くんはジェットコースター苦手なんですか?」

立花「高いところがあんまり得意じゃないので。先輩方で楽しんで──」


 肩に優しく手が置かれる。振り向くと、不知火がニコニコと眩しい笑顔を向けている。


不知火「せっかく来たんだから、一緒に乗ろ?」

立花「乗りません」

不知火「そんなこと言わずに」

立花「なに言われても乗りません」

不知火「地味男」

立花「乗りません」

不知火「そっか、残念。私一人じゃちょっと怖いから、地味男と一緒ならって思ったんだけど……仕方ない。無理強いはよくないもんね」

立花「夏帆先輩? なんか嫌な予感がするんですけど?」

不知火「地味男の代わりに、この『メイド姿の可愛い立花涼子ちゃんの写真』をお守りとして持っていくわ」

立花「おいぃぃぃ! どっから出した、その写真!」

不知火「よーし、ジェットコースター乗りましょ~」

暁・笹原・百瀬・五十嵐「おぉ~!」

立花「待てぇぇぇ! その写真を置いていけぇぇぇ!」

不知火「私、地味男がいないと不安だから。あ、乗ってる時に風で写真飛ばされたらごめんね」

立花「ふざけんな! そんな写真を見知らぬ誰かに見られたら──」

不知火「レッツゴー」

立花「あぁぁぁ! 待てぇぇぇぇ!」



ーーー


 立花涼子ちゃんの写真で脅され、嫌々ながらもジェットコースターに乗ることになった立花。胸元まで降りてくる安全バーを力強く握り締め、ガクガク大きく震えている。


係員「安全バーは、しっかりと握っていてくださいね~!」

立花「あ、あ、あぁ……! な、なぜ、こんなことにぃぃ……!」

不知火「地味男、あんた今、最高にいい顔してるわよ。写真に撮れないのが残念だわ」

立花「夏帆先輩、降りた時に必ずや復讐して──」

係員「それでは、いってらっしゃ~い!」

立花「あぁぁぁぁぁ! お、降ろしてくださいぃぃぃ! あぁぁぁぁぁ!」

不知火「ふ、ふふふ……! 面白っ……!」

笹原「夏帆も楽しんでるみたいで、よかったよかった!」

暁「楽しみ方えげつないけどな」


 ジェットコースターは、ゆっくり、ゆっくりと上昇していく。高度を上げるごとに、立花の震えも増していく。


立花「あ、あ、あぁぁぁ……! お、落ちる……落ち……!」

不知火「まだまだ落ちないわよ。ってか、大丈夫なの? 目、開いてて」

立花「閉じたいですけど、閉じたらいつ落ちるかわからないじゃないですか!」

不知火「仕方ないわね。私が落ちる時『落ちる』って言ってあげるから。閉じてなさいよ」

立花「お願いしますよ! 信じてますからね!」

笹原「おぉ~! 上がる上がる~!」

暁「テンションも上がる~!」

五十嵐「凪ちゃ~ん! 怖かったら、俺の手をギュッと握ってもいいんだよ~!」

百瀬「うふふ。安全バーが外れないように気をつけてね、賢也」

五十嵐「凪さん、それはマジで洒落にならないからね?」

立花「うぅ……! うぅ……!」

不知火「落ちるわよ~」

立花「ぬぅぅ……!」

不知火「ごめん、まだだったわ」

立花「貴様ぁぁぁ! 絶対に許さないからなぁぁぁ!」

不知火「落ちる」

立花「今度は騙されませんから──」


 ジェットコースターは、勢いよく急降下していく。


笹原「きゃぁぁぁ~!」

暁「うおぉぉ~!」

立花「あぁぁぁぁぁぁぁ⁈」

五十嵐「いやっふぅぅ~!」

百瀬「うふふ~!」

立花「がぁぁぁぁぁぁ⁈ 助けてぇぇぇぇぇぇ!」



ーーー



係員「お疲れ様でした~! レバーから、手を離してくださ~い!」

笹原「あ~楽しかった!」

暁「おい立花、生きてるか~?」


 立花は真っ白に燃え尽き、口から魂が抜けている。


立花「……」

笹原「立花くん、大丈夫……?」

暁「真っ白に燃え尽きていらっしゃる……」

不知火「ふ、ふふ……! 顔、死んでる……面白っ……!」

五十嵐「おいお前ら、さっさと次行くぞ~」


笹原(M)その後、お昼を食べ終えた私たちは、メリーゴーランドに乗ったり、コーヒーカップで回ったり、バイキングに揺られたり、ゴーカートに乗ったりと、休むことなく遊びまくりました!

暁(M)そして、次に俺たちの前に現れたアトラクションは……!



 6人は『深夜の病棟』と書かれたお化け屋敷の前に立っている。


五十嵐「おぉ、ヤバそうな匂いがプンプンするなぁ~」

百瀬「このお化け屋敷は『深夜の病院』をテーマに作られたそうですよ。楽しみですね」

暁「うわぁ……もう入り口から怖いわ……」

笹原「わかる~」

立花「僕、お化け屋敷入るの初めてなんで、ちょっと楽しみです」

百瀬「立花くん、お化けとかは大丈夫なんですか?」

立花「ホラー映画も問題なく見れるので、大丈夫かと思われます」

五十嵐「お化け屋敷は人数多いと怖さ半減するかもだから、二人一組で行くぞ~! ペアは、さっきゴーカートで1着だった秋斗から決めていいぞ」

暁「よっしゃい! ではでは、この俺、暁秋斗とお化け屋敷に一緒に行く人は~?」

笹原(どうせ凪先輩でしょ。知ってる知ってる)

暁「笹原冬華! 君に決めたぁ!」

笹原「……へ? わ、私?」

暁「そうだ、お前だ! では、暁秋斗、笹原冬華、深夜の病院へ行ってまいります! 行くぞぉぉ!」

笹原「え? あ、ちょっ! 待ちなさいよ!」

立花「いってらっしゃ~い」

五十嵐「次のペアは、五分後に出発するぞ~」

百瀬「は~い」



ーーー



 お化け屋敷内。中の壁や床は至る所に血飛沫が舞っており、暗く肌寒い。


暁「や、やべぇ……絶対やべぇって、ここ……。生きて帰れる自信ねぇ……」

笹原「ね、ねぇ」

暁「ん? なんだよ?」

笹原「や、そ、その……な、なんで、私なの?」

暁「ん? なにが?」

笹原「だ、だから、その……あ、あんたは、凪先輩のことが好きなんでしょ? なんで凪先輩じゃなくて、私選んだの? せっかく二人きりになれるチャンスだったのにさ」

暁「あー……だって、お前知ってるだろ?」

笹原「え? なにを?」

暁「俺が、こういう系苦手だって」

笹原「……え?」

暁「俺だって、本当は凪先輩と二人っきりで行きたかったけどさ~。凪先輩に俺の情けない姿なんて見せたくないからなぁ~」

笹原「な、なによそれ? 私には情けない姿見せてもいいみたいな」

暁「なに言ってんだよ? お前とは、幼稚園の頃からずっと一緒なんだぜ? 俺の情けない姿なんて、見飽きてるだろ?」

笹原「……」

暁「今さらお前に見られて恥ずかしい姿なんて、なんにもねぇよ。裸だって見られてるしな!」

笹原「んなっ⁈ そ、それは小さい頃の話でしょ!」

暁「小さい頃は一緒にお風呂とか入ってたしなぁ~。あれ、いつから一緒に入らなくなったんだっけ?」

笹原「し、知らないわよ、そんなこと! ほ、ほら、さっさと行くわよ!」

暁「待て待て、落ち着け! ゆっくり、ゆっくり行こう! 」

笹原(あぁ~もぉ~! こいつってやつは……ほんと、なんていうかさぁー! あぁーもぉー!)

笹原(なんだよ『情けない姿なんて見飽きてるだろ』って! あぁそうだよ! 見飽きてるよ、バーカ! バカバカバカバカ!)

暁「なぁ、待てって! 待ってくれよ冬華ぁぁ! 俺を置いてくなってぇぇ!」

笹原「うるさいうるさい! バーカ! バーカ!」

笹原(あぁ、もぉぉぉ……! ヤバい……ヤバいって……! 今顔見られたら、絶対ニヤけてる……! 絶対見せたくない! バカバカバカバカ! ほんとバカ!)

暁「マジで、お願い! 肩! 肩でいいから掴ませて! お願い! マジでお願い!」

笹原「わかったわかった! 掴むならさっさと掴め、アホ!」

暁「ありがとうございます冬華様! このご恩は一生忘れません!」

笹原「一緒忘れんなよ、アホ。ほら、いくぞ」

暁「おうよ! さぁ進め進め! いけ冬華~!」

笹原「変なことしたら置いてくから、よろしく~」

暁「おぉぉぉい! それはマジダメなやつだからな! わかってんだろうな!」

笹原「あーもぉ、ほんと情けないっ! 凪先輩に見せつけてやりたいわ~!」

笹原(好きな人には見せられない姿、私には見せていいんだ。好きな人差し置いてでも、私を選んでくれた。こんなの、嬉しくないわけないだろ、馬鹿野郎……!)




ーーー



立花「部長たちが入ってから五分経ちましたし、僕らもいきましょうか」

不知火「……」

立花「夏帆先輩、大丈夫ですか? さっきから一言も話さないですけど」


 立花は不知火の顔へと視線を向ける。不知火の顔は青ざめ、冷や汗が滝のように流れている。


不知火「……」

立花「……夏帆先輩、もしかしてなんですけど、お化け屋敷──」

不知火「は、はぁ⁈ べ、別に、お化けとか全然怖くないし! 余裕だし! ほ、ほら、さっさと行くわよ!」

立花「……いや、絶対に苦手じゃん」




ーーー



 お化け屋敷の中へと入った不知火たち。不知火は先頭を歩いているが、カクカクとぎこちなく歩いている。


立花「あの、夏帆先輩?」

不知火「な、な、なによ……?」

立花「大丈夫ですか? 歩き方、変ですよ」

不知火「は、は、はぁ? わ、わ、私は元々、こ、こ、こんな歩き方だったわよ!」

立花「そんなカクカクした歩き方してませんでしたよ」

不知火「う、うるさい! 黙れ! バ、バカ!」

立花「悪口がとても雑ですよ、夏帆先輩」

不知火(や、やばいやばい、どうしよう……! か、帰りたい、めちゃ怖い……! で、でも、地味男の前で弱気なところ見せたら……!)


立花「夏帆先輩、こういうの苦手なんですねぇ~! プププッ! お手手、握ってあげましょうか~?」


不知火(って、バカにされる未来しか見えない! それだけは、なんとか阻止しなければ……!)

立花「夏帆先輩~?」

不知火「ひぃぁ⁈ な、な、なによ! 急に声かけないでよ!」

立花「いや、さっきから何度も呼んでますけど? あの、大丈夫ですか? 怖いのなら──」

不知火「だ、だから、怖くないって言ってるでしょ! あ、あんたは一回言ったことを何回も言わなきゃ伝わらないの⁈ ざ、残念な脳みそね!」

立花「……ん? 今、なんか聞こえませんでした?」

不知火「へ? な、なによ……? そんなこと言って、ビビらせようたって──」

女「いやぁぁぁぁぁぁ!」

立花「うわぁぁぁ⁈」
不知火「ひぃぃぃぃ⁈」

立花「び、び、びっくりしたぁ! なに、今の⁈ いきなりあんなことされたら、そりゃビビるわ! こ、これがお化け屋敷か……! 夏帆先輩、大丈夫でしたか?」


 前方にいる先輩へと視線を向ける。しかし、先ほどまで姿を見せていた先輩の背中はどこにも見当たらない。


立花「あれ? 夏帆先輩?」

不知火「う、うぅ……!」


 足元から微かに声が聞こえ、立花は視線を落とす。不知火は頭を抱えてうずくまり、ガクガクと震えながら瞳を潤ませている。


立花「……夏帆先輩」

不知火「な、な、な、なによぉ……!」

立花「怖いんですか?」

不知火「こ、こ、怖くなんてないわよ……! こ、怖くなんて……!」

立花「……」

不知火「う、うぅ……! こ、怖くない、怖くない怖くない怖くないぃぃ……!」

立花「……夏帆先輩、出ます?」

不知火「……へ?」

立花「怖いんでしょ? 強がらなくていいですよ。進みたくないなら、入り口も近いですし、戻りましょう」

不知火「な、な、なに言ってんのよ! わ、私は、怖くなんてないんだから!」

立花「怖くないなら、進みます?」

不知火「うぅ……!」

立花「だから、強がらなくていいですってば。で、どうします?」

不知火「……で、出るぅ……!」



ーーー



 一足先にお化け屋敷を堪能した笹原と暁は、出口付近で楽しげに話をしている。


五十嵐「ふぅ、やっと出られた」

百瀬「楽しかったね!」

五十嵐「まぁな」

笹原「おっ、部長」

暁「凪先輩、お疲れ様です!」

百瀬「お疲れ様です」

五十嵐「いや~思った以上に怖かったなぁ~」

笹原「手術室なんか、めちゃやばくなかったですか?」

五十嵐「あそこはマジでやべぇって。人が行っていい場所じゃねぇ」

百瀬「ホントですねぇ。思わず叫んじゃいました」

暁「ホントですね! めちゃ怖かったですよね! はっはっは!」

笹原「……目、つぶってたくせに」

暁「ん? なんだって、冬華? シュークリームが食べたい? 仕方ねぇ、後でおごってやるよ」

笹原「よっしゃ! ごちになりまーす!」

立花「せんぱーい」

笹原「ん? あっ、立花くん」

暁「あれ? なんでお前ら、出口から出てこないの?」

五十嵐「おいおい、もしかしてお前たち?」

不知火「うぅ……!」

立花「いや~僕、めちゃくちゃ怖くて怖くて。最初の女の人の叫び声でダメでしたよ。立花涼介は、夏帆先輩に無理言って入り口に逆戻りしました」

百瀬「あら、そうだったんですね」

笹原「戻りたくなる気持ちわかるわぁ。あれはマジでビビった……」

五十嵐「なんだよ立花~! 最初でギブアップか~! お前、ビビりちゃんだなぁ~!」

暁「はっはっは! 男のくせに情けないなぁ~!」

笹原「へぇ~。男のくせに、ねぇ~?」

暁「な、なんだよ?」

笹原「いや~? 秋斗は全然ビビってなかったもんね~」

百瀬「あら、そうなんですか? 秋斗くん、すごいですね~!」

暁「こ、こんなの、俺は余裕でしたよ~! もう一回行ってもいいレベルですね~!」

笹原「よーし! じゃあ、もう一回行こう!」

暁「……ん? え?」

笹原「秋斗が言ったもんね~! 私も、もう一回行きたいって思ってたし! せっかくだし行こうよ!」

暁「あ、いや……で、でも~! せっかくみんなで来てるんだし、みんなで回ったほうが──」

百瀬「うふふ。私たちのことは気にしないでいいんですよ、秋斗くん」

五十嵐「お前たちの行きたいところ、乗りたいもんに乗ってこい!」

暁「え? あ、いや──」

笹原「と、言うことで~! いくぞ~!」

暁「いや、待て待て待て待て! マジで待てって! 嫌ぁぁぁぁぁ!」


 暁は笹原に手を引かれ、もう一度お化け屋敷の入り口へと引きづられていく。


百瀬「うふふ、いってらっしゃ~い」

五十嵐「立花のように素直に言わないからだ。バカめがっ!」

不知火「……」

五十嵐「よーし、俺たちは四人でなんか乗り回すか~」

立花「あの、僕はちょっと休憩しててもいいですか?」

不知火「あ、わ、私も……」

五十嵐「オッケー。凪はどうする?」

百瀬「うふふ、私はまだまだ元気いっぱいですよ」

五十嵐「よし、じゃあ二人で回るか! 休憩終わったら、連絡してくれ~!」

立花「わかりました。いってらっしゃ~い!」

不知火「……」

立花「んじゃ、休みますか。夏帆先輩」

不知火「う、うん……」



ーーー



 五十嵐たちと別れ、ベンチに腰掛け休憩をとっている立花。


立花「あぁ~疲れたぁ~。ってか、先輩たちはすごいなぁ。休憩なしでバンバン遊んで……どんだけ体力あるんだよ」


 背もたれに身体を預け、空を眺める。
 トイレへと行っていた不知火が、飲み物を手に戻ってくる。


立花「あっ。夏帆先輩、お帰りなさい。あの、トイレどこにありました? 僕も今から行ってきますね」

不知火「……」

立花「夏帆先輩?」


 不知火は何も言わず、スッと立花に飲み物を差し出す。


立花「ん? なんですか? 飲み物持ってろってことですか? トイレ行ってからでいいですか?」

不知火「ち、違うわよ! あ、あ、あげる……」

立花「え? いいんですか? ありがとうございます。喉乾いてたんで、後で買いに行こうと思ってたんですよ。夏帆先輩も、優しいところあるんですね~」


 立花は飲み物を受け取ると、蓋を開けごくごく喉を鳴らしながら飲み始める。不知火は立花の隣に座ると、俯きながらチラッと立花に視線を送る。


不知火「……ねぇ」

立花「ん? なんですか?」

不知火「……なんで、嘘吐いたの?」

立花「え?」

不知火「出たいって言ったの、私じゃん。なんで自分がって嘘吐いたの?」

立花「うーん……なんででしょうね? よくわかりません」

不知火「はい?」

立花「でも、僕も怖かったってのは事実ですし、どっちでもいいじゃないですか」

不知火「……あんたは、進みたかったんじゃないの?」

立花「まぁ、この先どうなるのかってのは気になりましたけど。それは出口までたどり着いた人たちに聞くので、気にしないでいいですよ、夏帆先輩」

不知火「……お、おい、地味男」

立花「ん? なんですか?」

不知火「あ、いや、その……あ、あ、あり──」

立花「あ、そうだ。僕、トイレ行きたいんです。トイレどこですか?」

不知火「え? あ、えっと……あっち」

立花「わかりました。飲み物、持ってもらってもいいですか?」

不知火「あ、うん」

立花「夏帆先輩」

不知火「な、なによ?」

立花「その飲み物は僕のなんで、飲まないでくださいよ。飲んだら、夏帆先輩が泣いてたの言いふらしますからね」

不知火「んなっ⁈ わ、私は泣いてなんか……! ってか、お前が口つけた飲み物なんて飲むわけないでしょ! クソ地味男が!」

立花「ですよね~。んじゃ、いってきま~す」

不知火「ぬ、ぬぬぬぬ……! なんなのよ、あいつ……!」


 不知火は立花を見送った後、渡された飲み物へと視線を落とす。ふと浮かび上がる後輩の顔。
 顔を赤く染めながら、手にした飲み物を強く握りしめる。


不知火「クソ生意気な、後輩め……!」



ーーー



 数時間後、夕日があたり一面を真っ赤に染めている。六人は、ぱっぱらランドを出て楽しげに歩いている。


五十嵐「いや~楽しかったなぁ~!」

笹原「めちゃくちゃ大満足です!」

暁「また来たいなぁ~!」

百瀬「ですね~。」

不知火「はぁ、疲れた……」

立花「僕も、歩き回ってたから疲労が……」

五十嵐「体力ねぇなぁ~。あ、そうだ」

笹原「ん? どうしました?」

五十嵐「お前ら、回れ右!」


 五十嵐の号令に、部員たちは迷うことなく回れ右をし、身体の正面をぱっぱらランドへと向ける。


五十嵐「えーぱっぱらランド様、本日はとてもとても楽しませていただきました! ありがとうございました!!」

笹原「ありがとうございました!」
暁「ありがとうございました!」
百瀬「ありがとうございました~」
不知火「ありがとうございました」
立花「ありがとうございましたー」

五十嵐「また遊びに来た時は、是非ともよろしくお願いします! よーしお前ら、気をつけて帰るぞー!」

全員「おぉ~!」


 六人はぱっぱらランドに背をむけ、楽しげに話をしながら帰路へと向かっていくのであった。









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