「声劇台本置き場」

きとまるまる

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二人台本↓

「幸せの箱」2話(比率:女2)約15分。

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・登場人物

 前園 茜まえぞの あかね:♀ 27歳のOL。

 宮部みやべ  のの:♀ 16歳、もうじき高校二年生。




ーーーーー



 三年前、お昼過ぎのとある公園。前園は缶コーヒー片手にベンチに腰掛け、宮部を待っている。


前園「……ののちゃん、遅いなぁ。今日は、もう来ないのかな?」


前園(M)私が宮部ののと出会ったのは、彼女が小学生の頃。両親が離婚し、父と二人きりで生活している彼女は、たびたび父から暴力を振るわれているらしく……家から逃げ出し、この公園で時間を潰していた。

前園(M)私は、そんな彼女を可哀想に思い、なんとかできないかと考えた結果、時間を見つけては、こうして公園まで会いに来て、彼女のお話を聞いてあげている。少しでも彼女の心を癒してあげられたら、と。


宮部「……前園……さん……」

前園「おっ、その声は……! 待ってたよ、ののちゃ──」


 後ろを振り返った前園は、宮部を見て思わず言葉を止める。宮部は、両手や頬、制服を真っ赤に染めて、どこか遠くをジッと見つめている。


前園「の、ののちゃん……? ど、どうしたの⁈ 大丈夫⁈ これ、血だよね⁈ 何があったの⁈ ここに来るまでに、事故に⁈ あっ、す、すぐに救急車を──」

宮部「──ちゃった……」

前園「……え?」

宮部「わ、私……私……お父さん……殺しちゃった……」

前園「……え?」


前園(M)私は、今でも後悔している。彼女を助けられなかったことを。自分がやっていたことは、彼女を助けていると思い込んで、良いことをしている自分に酔っていただけなんだと。彼女の話を聞いて、助けた気になっていただけなんだと。

前園(M)彼女の辛さを知っていたのに、どうして私は、行動しなかったのだろう……?




 現在、時刻は20時を少し過ぎた頃。大きな紙袋を手提げ仕事から帰ってきた前園は、鍵を開け玄関の扉を開ける。


前園「ただいまー」


 目の前には、制服姿で床にべったりとうつ伏せの状態で倒れている宮部のの。


前園「あんた、何してんの?」

宮部「……おかえり」

前園「いやだから、何してんのって。床にうつ伏せになって、どうしたの?」

宮部「疲れた……」

前園「疲れた? あんた、学校でなんかあったの?」

宮部「告白の件で、朝から放課後まで色んな人からずっと質問攻め……。しんどい、辛い、疲れた……」

前園「イケメンを振るからだわ。その様子だと、ご飯作ってないわね?」

宮部「今から、作る……」

前園「疲れてるんなら、作らなくていいわよ。今日はコンビニでなんか買うわよ。そんで、ちゃちゃっと食べて……これ、やるわよ」

宮部「これ?」

前園「これよ、これ!」


 前園は、これでもかというくらい、紙袋をアピールする。


宮部「……なに、それ?」



ーーー



 ご飯を食べ終えた二人は、先程の紙袋から『VS4』というテレビゲーム機を取り出し、前園はテレビとゲーム機を有線で繋いでいる。


宮部「VS4ぶいえすふぉー?」

前園「あんた、知らないの?」

宮部「ゲーム、したことないから」

前園「あっ、そうなのね」

宮部「買ってきたの?」

前園「違う違う、貰ってきたのよ。同僚が新しく出た『VS5』買って、いらなくなったからあげるってさ。せっかくだし貰ったのよ」

宮部「ふーん」

前園「えっと、この線がここか。んで、こっちの線がここで……」

宮部「茜ちゃんはゲームしたことあるの?」

前園「まぁ、そこそこ。実家で家族と一緒にやったり、元カレと一緒にしたりとか程度だけどね」

宮部「ふーん」

前園「よし、これで電源付ければいける! さぁ、やるわよ!」

宮部「なにやるの?」

前園「『ぽよぽよ』よ」

宮部「ぽよぽよ?」

前園「あんた、ぽよぽよも知らないの? あれよ、あれ。簡単に言うと、同じ色のぽよを4つ並べて消していくゲームよ」

宮部「ぽよって、なに?」

前園「ぽよぽよしたやつらよ」

宮部「……よくわかんない」

前園「見ればすぐわかるわよ。さぁ、コントローラーもって! 対戦するわよ!」

宮部「私、ルール知らないんだけど」

前園「やりながら教えるわよ。そんで、ボコボコにしてあげる!」

宮部「大人気ない」

前園「大人とはそういう生き物なのよ。さぁ、やるわよ~!」


宮部(M)30分後。


 テレビ画面は横二つに分断されており、左側にいる可愛いキャラクターが、悲しそうな顔をしながら『負けたぁ~』と呟いている。
 その悲しそうな姿を、前園は信じられないといったような表情で見つめている。


前園「な、な、なっ、なんで……?」

宮部「よし」

前園「お、おかしい……こんなのは、おかしい……! どうして? どうしてなの……?」

宮部「茜ちゃん」

前園「な、なによ?」

宮部「六連勝」

前園「そんなの言わなくてもわかってるわよ! なによ、あんた! ホントにやったことないの⁈ やったことないくせに、六連勝はおかしいでしょ! 絶対にやったことあるでしょ!」

宮部「初めてだよ」

前園「嘘を吐くな、嘘を! ほら、正直に言いなさい! 今正直に言ったら許してあげるわよ! さぁ、言え!」

宮部「嘘じゃない。だって私の家、ゲームできる環境じゃなかったもん」

前園「……」

宮部「友達と遊んだりとかも、全然なかったから。ホントにしたことない」

前園「……」

宮部「どうしたの?」

前園「あ、いや、その……ごめん……」

宮部「ん? なにが?」

前園(あぁ、やっちゃったぁぁぁ……! バカバカバカ! 何やってんのよ、私! なんで傷を掘り返すようなことしてんの⁈ バカ! ホントにバカ! あぁ、どうしようぅぅ……!)

宮部「茜ちゃん」

前園「な、なんでしょうか……?」

宮部「気にしなくていいよ」

前園「……え?」

宮部「茜ちゃんが思ってるより、私傷ついてないよ。だから、謝らないでいいよ」

前園「ホ、ホントに?」

宮部「うん。まだ全部が全部、消えたわけじゃないけど。でもね、私の心の傷は、茜ちゃんのおかげで、少しずつ、少しずつ消えてるから」

宮部「これも、嘘じゃなくてホントのことだよ。だから、そんなに心配しなくていいんだよ」

宮部「ありがとね、茜ちゃん」

前園「……」

宮部「ねぇ、茜ちゃん」

前園「なに?」

宮部「茜ちゃん、私の心の傷を消すのは上手いのに、ぽよ消すのは下手だね」

前園「よーし、いいだろう! その言葉は私への挑戦状として受け取った! 30分後、もう一度ここへ集まれ! 次はボコボコにしてあげるわ!」

宮部「今からしないの?」

前園「ぽよの上達法を検索してからよ! 待ってなさい!」

宮部「私も見る」

前園「あんたは見るな! テレビ見てなさい!」

宮部「嫌だ。見る」

前園「それ以上強くなるな! こらっ、近づくな! 離れなさいぃぃ!」


前園(M)『心の傷は消えている』その言葉を聞いて、飛び跳ねて喜びたくなっている自分がいる。

前園(M)彼女が自分からそう言ってくれた。嘘偽うそいつわりのない言葉を言ってくれた。その言葉に、私も救われる。


 二人は寝そべりながら、スマホで動画を見ている。


前園「へぇ~階段積かいだんづみねぇ~。積み方にも色々あるのね」

宮部「階段積み……階段積み……」

前園「おい、こら。頭の中でシュミレーションするな。それ以上技術を身につけるな。強くなるな」

宮部「それにしても、この人すごいね」

前園「ね。何時間やったら、こんなにホイホイとぽよを高速で置けるのかしら?」

宮部「……」

前園「あっ、こら! ジッと見るな! 技術を盗もうとするな! 目を閉じなさい、目を!」


 宮部は、頬を前園の頬へピッタリとくっつける。


前園「……なにしてんの?」

宮部「ぽよの真似」

前園「はい?」

宮部「茜ちゃんは、何色がいい?」

前園「何色でもいいから、離れなさい。近すぎ」

宮部「私たちは同じ色だから離れられません」

前園「私は赤、あんたは青。違う色だからくっつきません。はい、離れた~」

宮部「宮部ののは、赤色に変わりました。くっつきます」

前園「ぽよに色変えなんて技は存在しないわよ! こらっ、寄るな! 離れなさいってば!」

宮部「くっつくのは、同じ色の宿命しゅくめいです。離れたければ、同じ色をあと二つそろえてください」

前園「赤色! 赤色はどこ⁈ 赤の物は、って、やめなさい! 頬を寄せるな! くっつくなぁぁ!」


前園(M)心の傷は、綺麗さっぱりと消えることはない。彼女が受けた傷は、彼女が死ぬまで、ずっとずっと彼女の身体に、心に、残り続けるだろう。

前園(M)悲しいけど、完全に消すことはできない。でも、薄くすることはできるはず。濃く、はっきりと見える傷を、目をらしてよく見ないと見えない程に、薄く薄く……。

前園(M)いつか、彼女が消えたと錯覚さっかくするほど、薄く薄く、薄く……。私が、薄めていくんだ。


前園「よし、積み方は頭に叩き込んだ! さぁ、勝負よ! コントローラー持って!」

宮部「……」

前園「あれ? どうしたの? ののー?」

宮部「(寝息)」

前園「そういえば、疲れてるって言ってたっけ」

前園「のの、寝るなら布団で寝なさい。ののー」

宮部「……んん……」

前園「ほら、起きて。寝るなら布団で寝なさい」

宮部「うぅん……」

前園「うぅんじゃなくて。もぉ、わかったわよ。ほら、布団まで運んであげるから。さっきみたいにくっつきなさい。ほーら」


宮部(M)ぽよは、同じ色同士でくっついて、四つ並べば、消えていく。

宮部(M)私と茜ちゃんは、同じ色。だから、ピッタリくっつく。

宮部(M)でも、私たちは消えない。二人だから、消えないんだ。

宮部(M)私の願いが叶うのならば、このまま二人でくっついたまま、人生ゲームの終わりを迎えたい。

宮部(M)そして、スッと……消えていきたい。
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