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三人台本↓
「千堂卓士の選択肢」(比率:男1・女2)約30分。
しおりを挟む登場人物
千堂 卓士:♂ 19歳。大学生。
真子:♀ 26歳。社会人。弟大好き。
美奈:♀ 14歳。中学生。思春期なう。
役表
卓士:♂
真子、Na、お母さん、幼馴染、後輩:♀
美奈、Nb、妹、先輩、謎の女の子:♀
*所要時間:約30分
ーーーーー
卓士(M)皆さん、どうもこんにちは。千堂卓士、19歳です。よろしくお願いします。
Na「ちなみに、彼女はいません」
卓士(M)おい、いきなりとんでもないことを暴露するな。
Nb「ちなみに、彼女いない歴=年齢です」
卓士(M)やめろよ! 始まって数秒で悲しい目で見られるだろうが! 少し黙ってろ!
卓士(M)えー皆さま、今さっき聞こえていたナレーションどもの声は、全て記憶から抹消してください。
卓士(M)改めまして、皆さんどうもこんにちは。千堂卓士、19歳です。よろしくお願いします。
卓士(M)私は、千堂家の長男として産まれ、7つ上の姉、5つ下の妹に挟まれ、息苦しい生活をしております。
卓士(M)え? 言葉だけ聞くと羨ましい? おいおいやめておけ。姉と妹がいて『最高じゃぁぁぁ!』って言えるのは、漫画やアニメの世界だけだぞ。俺の生活を見てたらわかる。
Na「千堂家の食卓」
卓士・美奈「いただきます」
真子「いっぱい食べてね~」
美奈「お兄ちゃん、とって」
卓士「え? なにを?」
美奈「はぁ? ご飯食べてるんだから、とってって言ったら醤油以外になにがあるの? 少しくらい自分で考えたら? ホント使えない」
卓士「……」
美奈「なにぼーっとしてんの! 早くとって!」
卓士「はいはい……」
卓士(M)こいつは、妹の美奈。中学生。見てわかる通り、思春期真っ盛り。髪は紺色。身長少し小さめ、胸も小さめ、しかし態度はかなりでかめ。『ツンデレじゃん、羨ましい!』などとほざいているやつ、聞いて驚け。ツンツンツンだ。デレなどどこにも見当たらない。
卓士(M)こいつは兄貴である俺のことを、かなり下に見ている。こいつの中では、俺は地面に頭を擦り付け『ははぁ~美奈様~!』と言っているに違いない。なにかあるたびに俺にぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー言ってくるし、度々暴力もふるってくる。こっちがでるとこでたら勝つぞ、こんちくしょう。
卓士(M)しかし俺は逆らわない。いや、逆らえないと言った方が正しいか。もし俺がこいつに何か言おうものなら……。
美奈は、嘘泣きする。
美奈「うわーん! お母さーん! お兄ちゃんがいじめてくるぅぅぅ!」
卓士(M)などと、平気で嘘を吐き。
お母さん「卓士ぃぃぃぃ! 一週間タンスの中にぶちこむわよ!」
卓士(M)この世でもっとも強い弁護士が召喚される。こちらの勝ち目は0%、有罪確定、タンスの刑なのである。あ、出たとこ出ても勝てなかったわ。だから俺は逆らわない。
美奈「べーっだ!」
卓士(M)ちくしょうが! 末っ子という立場を最大限に活かして攻撃してきやがる! さらに、スキル『お母さんのご機嫌とり』のレベルがほぼMAXであり、母さんからの信頼ゲージもほぼMAX! もうどうしようもないのだ。
真子「たっくん、おかわりあるから遠慮しないでね~!」
卓士(M)こちらは姉の真子ねぇ。この態度を見てわかる通り、妹とは全くと言っていいほど逆である。デレデレデレである。26歳社会人、黒髪ロングでお胸もボイン。ナイスバディなお姉さんなのである。
卓士(M)え? デレデレデレでナイスバディとか羨ましいこと山の如し? 何言ってんだお前? デレくらいならいいが、デレデレデレまでいくとやばいぞ。
真子「たっく~ん、お風呂沸いたから、一緒にはいる~?」
卓士(M)などと平気で言ってくる。もう一度、年齢をおさらいしておこう。俺19歳、姉26歳。誰が入るか! いや、入れるかばかやろう!
卓士(M)うちは、父親がいない。病気で亡くなってしまった。だから、母さんと姉ちゃんが俺たちを一生懸命育ててくれた。母さんが美奈をよく見て、姉ちゃんが俺を。つまり姉は小さい頃からずっとずっと面倒見てきた弟が、可愛くて可愛くて可愛くて仕方ないのである。彼女の中で、俺はまだ精神年齢小学生で止まっているのである。
真子「たっく~ん、今日一緒に寝る?」
卓士(M)もう一度年齢をおさらいしよう。俺19歳、姉26歳。寝るかバカ!
美奈「大学生にもなって……マジきも」
卓士(M)俺が一体なにをしたというのだろうか? こんな息苦しい生活はもう嫌だ……逃げ出したい……! そうだ、いいことを思いついた! 俺はもう大学生だ、19歳だ。もう立派な大人だ。つまりは……!
卓士の部屋。卓士はエロゲを手にしている。
卓士(M)エッチなゲームが堂々とできる。
Na「どうしてそうなる? 今の流れは完全に『一人暮らししよう!』の流れだろう?」
卓士(M)これで逃げ出せる、この息苦しい生活から。
Nb「家を出ろ。二次元に逃げるな」
卓士(M)初めての……初めてのエロゲ……! 興奮が最高潮である。
Na「こいつ、もうダメだ」
Nb「ダメ人間だ」
卓士(M)しかし、この時の俺はまだ知らなかった。このエロゲが、俺の人生を大きく変えることになるなんて……!
Na「第一章『妹、襲来』」
卓士の部屋。卓士はヘッドフォンをしてパソコンの前に座っている。
卓士(M)千堂卓士、19歳。ただいま、エロゲなうです☆
卓士(M)いやはや、今まで恥ずかしくて手を出せなかったエロゲだが、こんなに素晴らしいものだなんて思いもしなかった。なんで俺は、もっと早くプレイしなかったのだろう? 全く、エロゲは最高だぜ。
卓士(M)このゲームは、五人の女の子が攻略対象となっている。まず一人目は、主人公の妹。
妹「お兄ちゃん! だーいすき!」
卓士(M)『妹がいるのに妹に手を出すのか?』と思ってる、そこのあなた。ゲームと現実を一緒にしちゃいかんぞ。それに、こっちの妹はうちの妹と比べ物にならないくらいかわいい。そりゃ手を出しちゃうよ。
卓士(M)そして二人目は、主人公の幼馴染み。
幼馴染み「ほら、早く学校いこ!」
卓士(M)こんな可愛くて俺思いの幼馴染みがいたら、ものすごい勢いで恋に落ちるだろう。ドッキリに引っかかって、落とし穴にものすごい勢いで落ちていく芸人さんを想像してくれ。それくらいの勢いだ。とにかく可愛い。
卓士(M)三人目は、学校の先輩。
先輩「困ったことがあったら、先輩に任せな!」
卓士(M)面倒見がよくて優しくて、可愛い。そしてなにより『先輩!』と呼ぶと少し照れる、喜ぶ。なんだこの生き物は? 先輩と呼ぶだけでそんなに喜んでくれるんですか? 俺でよければ何千何万回でも先輩と呼びますよ? いや呼ばせてください。先輩という単語を生み出した人に金一封を差し上げたい。この人の笑顔は、あなたが生み出したと言ってもいい。ありがたやありがたや。
卓士(M)四人目は、学校の後輩。
後輩「せーんぱいっ! 頼りにしてますよ!」
卓士(M)彼女の気持ちがとてもわかる。先輩と呼ばれるのはこんなにも気持ちがいいものなのか。先輩と呼ばれただけで、なんでもしたくなる、頑張りたくなる。『先輩』と君が呼んでくれるだけで、可愛い君がまたさらに可愛く見えてしまう。これが先輩マジック、これが後輩の罠。中高と帰宅部だった自分を死ぬまで殴りたい。
卓士(M)そして最後は、謎の女の子。
謎の女の子「ふふっ……。私はあなたを、ずっと待ってたんだよ」
卓士(M)まだ始めたばっかりなので、謎に包まれすぎてわからない。でも、謎に包まれた女の子って、なんかいいよね。このゲームは男たちの気持ちをよく理解している。謎だからこそ、彼女の正体を知ろうと彼女をずっと見てしまう。そしてその魅力にいつのまにかハマってしまい、知れば知るほど抜け出せない。底のない沼の中へ、アイルビーバッグ。
卓士(M)さて、この中でまず誰を攻略するか……悩みに悩み、出した結論は……。
妹「おにーちゃん! 起きてー! 朝だよー!」
卓士(M)俺の妹はこんなに可愛いわけがない? 馬鹿野郎、かわいいぞ。可愛くないのはうちの妹だけだ、馬鹿野郎。
卓士(M)せめて二次元の中だけでも妹に優しく扱われたい。お兄ちゃんとして扱ってもらいたい。だから、俺は妹に手を出す。そう決めたのだ。
Na「お前に罪悪感はないのか?」
卓士(M)ない。
Na「言い切りやがった」
卓士(M)むしろ、興奮すら覚えてきたところだ。これがエロゲの力。
Na「男を最低な人間に変えてしまう、エロゲとは恐ろしい」
卓士(M)違う。『男を最高の人間に変える』それがエロゲだ。ここテストに出るぞ、覚えておけ。
Na「こうして、妹に手を出しはじめ……ついに、あのイベントが起こってしまった」
卓士「……」
卓士(千堂卓士、19歳。エロゲ経験はこれまでゼロだ。しかし、ゼロの俺でもこれはわかる……!)
卓士(次、エッチなシーンだ!)
卓士(落ち着け、落ち着け……。一旦ストップしよう、ヘッドホン外そう。よし、気持ちを落ち着かせろ、落ち着かせるんだ。ついにここまできたぞ、妹をめちゃくちゃにしてやる時が……! な、なんだ、この胸の高鳴りは……⁈ これがドキドキ、これが興奮……⁈ これで俺は妹に目覚めてしまい、我が妹にも興奮を覚えるなんてことはないよな⁈ そうなったら、このエロゲを作った会社を訴えてやる! 絶対に)
卓士(……なんかよくみたら、この妹、うちの妹に似てなくもないな。髪の色一緒だし、ショートカットだし……まぁ、性格が全然違うし、胸なんて、うちの妹がよく言って『みかん』だとしたら、こっちの妹は『スイカ』これがお胸の格差社会。まるで皇帝と奴隷。これから始まるイベントに、ざわざわざわ……!)
卓士(さて、気持ちもいい感じにざわざわして盛り上がってきたので、そろそろいきましょうか! 千堂卓士、19歳! 初エロゲ、初エッチシーン! 卓士、イッきまーす!)
美奈が部屋に入ってくる。
美奈「ねぇ、お兄ちゃん」
卓士「くぁwせdrftgyふじこlp!」
卓士は、パソコンを抱いて画面を隠す。
美奈「……頭、大丈夫?」
卓士「心配どうもありがとう! 珍しいな、お前が俺の部屋にくるなんて! 一体どうしたんだ⁈」
美奈「ってか、パソコン抱いてなにしてんの?」
卓士「パソコンが愛おしくなって、抱きしめてるんだ! はっはっは!」
美奈「キモすぎてキモい」
卓士「俺のことはどうでもいいんだ! で、なにしにきたんだ⁈」
美奈「パソコン貸して」
卓士「……え? 今?」
美奈「今すぐ」
卓士「な、な、な、なにすんの……?」
美奈「動画見たいの」
卓士「ど、ど、動画なら、スマホで見ればいいじゃないか!」
美奈「好きなアイドルのLive映像なの! だから、少しでも大きな画面で見たいの! それくらいわかってよ! ホント使えない!」
卓士(ど、ど、どうする⁈ どうする、千堂卓士19歳! このままでは、まずい! 確実にバレる! この性格最悪な妹に! 妹とエッチしてると! 下手すりゃ刑務所行き! ぎえぇぇぇぇ! 神さま仏様エロゲさま、助けてくださいぃぃぃ!)
卓士(ん? 待て待て、よく考えろ。もしかしたら、もしかしたらだ。こうなる可能性もあるんじゃないか? 正直に堂々と見せたら……!)
卓士の妄想。
美奈「お、お兄ちゃんも、男の子だもんね……! ね、ねぇ、お兄ちゃん……お兄ちゃんは、美奈とそういうこと……したい?」
卓士「美奈……!」
美奈「お兄ちゃん……」
二人の唇が、徐々に近づいていく。
卓士(なんてことに!)
Na「なるわけないだろ。エロゲのしすぎだ、今すぐ頭を氷水につけてこい」
卓士(どうする⁈ どうするんだ、千堂卓士! 俺は、どうしたらいいんだぁぁぁ⁈)
Na「千堂卓士の選択肢は……堂々と見せる! 正直に話そう! 隠し通そう!」
卓士(俺は……俺はぁぁぁ!)
卓士(正直に、話そう!)
卓士「み、み、美奈!」
美奈「な、なによ?」
卓士「す、すまん。今は、パソコン貸せない……。だから、出てってくれ……」
美奈「はぁ? なんでよ?」
卓士「お兄ちゃんはな……今、あれなんだ」
美奈「あれって?」
卓士「……『男の子の時間』なんだ」
美奈「……は?」
卓士「だから、出てってくれ」
美奈「意味わかんないんだけど」
卓士「美奈、お前は中学生だろ? 察してくれ」
美奈「意味わかんないから。いいから早く──」
卓士「美奈! 男の子が! 必死にパソコンを隠して! 女の子に部屋から出て行ってほしいと言っている! わかるだろ⁈」
美奈「だから、意味わかんないって!」
卓士「お兄ちゃんは今! 男の子の時間なんだ!」
美奈「だーかーら! 男の子の時間ってなによ⁈ 意味わかんな……い……」
美奈「……」
状況を察した美奈の顔が、どんどん赤くなっていく。
美奈「も、も、もしかして……?」
卓士「察してくれたみたいだな、美奈。すまん、男の子の時間が終わり次第、すぐ貸してやる。だから、もう少しだけでいい……待っててくれないか?」
美奈「あ、いや、え、えっと、その……だ、だ、大丈夫! ス、スマホで見るから! 画面ちっちゃくても大丈夫! うん!」
卓士「え? いいのか?」
美奈「うん! 大丈夫! うん! じゃ、じゃあね!」
卓士「お、おう」
美奈「……お、お兄ちゃん」
卓士「な、なんだ?」
美奈「え、えっと、その……お、お、男の子の時間を、邪魔してごめんね……。次からは、ちゃんとノックします……」
卓士「美奈……! わかってくれて嬉しいよ。お前みたいな妹がいてくれて、俺は幸せさ」
美奈「ほ、ホントにごめんね……」
卓士(M)そう言って、美奈は出て行った。これでよかったのだろうか? まぁ、妹に手を出しているってことを知られなかっただけマシだろう。それに、あいつももう中学生なんだし、男は性欲の塊だってわかっているだろうしな。兄がエロゲやってるって知っても、なんも思わんだろ。そうさ、男は性欲の塊。エロがあるところに男は転がる。これこそ、塊魂。
Na「そして、この選択が思わぬ結果を生むことになるのだった」
Na「一時間後。美奈の部屋」
美奈は顔を真っ赤に熱らせながら、ベッドに寝転がっている。
美奈(お、お、お、お兄ちゃんが……お兄ちゃんがエッチなゲームを……! エ、エッチなゲームしてるってだけなら、別にいいんだけど……男の子はエッチなこと好きな生き物だし……!)
Na「妹の美奈は、あの後なんかわかんないけど、兄がどんなものを見ているのか気になってしまい……ダメだとわかっていながらも、こっそりドアを開け、見てしまったのだ」
美奈(お、お、お兄ちゃんがやってたやつ……エ、エ、エッチなことしてたの……い、い、妹だよね? あれ、どう見ても妹だよね? だって『お兄ちゃん』って画面に書いてあったもん……! 『兄妹なのにイケナイコトしてる』とかなんとか書いてあったもん……! 妹以外の何者でもないよ、あの子! そ、そ、それに、髪型も髪色も私そっくり……! も、も、もしかして、お兄ちゃんって……!)
美奈(わ、わ、私のこと! エッチな目で見ちゃうくらい好きなのぉぉぉぉ⁈)
Na「どうしてそうなる?」
美奈(そうだよ! 絶対そうだよ! だって、お前みたいな妹がいて幸せだとかなんとか言ってたし!)
Na「そういう意味で言ったのではない」
美奈(そ、そんな……! お、お兄ちゃんが私のこと、好きだったなんて……! 現実では叶いっこない恋だから、せめてゲームでだけでも叶えようって……そう思って、私に似たキャラが出てくるあのゲームを買って、コソコソやってたに違いない!)
Na「なぜそんな発想ができる? 連想ゲームの天才か?」
美奈「お、お、お兄ちゃんが、私のことを……! うぅ……こ、これから、どんな顔で会えばいいの……?」
Na「こんな感じで、おかしな勘違いをしてくれたことにより……数日後の夕食時」
卓士・美奈「いただきます」
真子「いっぱい食べてね~」
美奈「お、お、お兄ちゃん……と、と、とって」
卓士「え? なにを?」
美奈「お、お、お醤油……」
卓士「おう。ほれ」
美奈「あ、あ、あ、あり、ありがとう……」
卓士「ん?」
美奈(うぅ……か、顔見れないよぉぉぉ!)
卓士(なんか、最近妹が優しくなってきた気がする。もしかして、これがエロゲの力……⁈)
Na「千堂卓士は、妹から優しくしてもらえるようになったのであった。第二章へ進む」
卓士(M)え? まだ続くの?
Nb「第二章『姉の愛はとても重い』」
卓士の部屋。卓士はヘッドフォンをしてパソコンの前に座っている。
卓士(M)千堂卓士、19歳。ただいまエロゲなうです☆
卓士(M)いやはや、妹を攻略しはじめ、手を出してしまい……俺はいつの間にか、妹という名の沼にどっぷりとつかってしまったようだ。そのおかげなのかわからないが、なんか最近リアル妹が優しくなったというか? キツいこと言ってきてもすぐ謝ってくるようになったり……まぁ、なんか知らんが俺の顔は全然見てくれなくなったが。
卓士(M)あっ、もしかして嫌われた? いやでも、それにしてはやけに話しかけてくるし。この前なんか『手を繋ぐくらいなら、い、いいよ』とか言ってきて。『お前はいつのまに清純派中学生になったの?』って疑問を投げ込みたい気持ちになってる。もうブルペンで何球も投げ込んで肩温まったから、いつでも投げれるよ? 『いつもの悪魔みたいなお前はどこにいったの⁈』って。大谷翔平ばりのスピードで投げれるよ? 『オオタニサーン!』って言われるよ? まぁ、優しいのは俺としては嬉しいからいいんだけど。
卓士(M)さてさて、そんなこんなで妹と愛を育み、イケナイコトだとわかっていながらも手を出し続け……ついに、この時がやってきてしまったのだ。
卓士(千堂卓士、19歳。エロゲを始め、やり続け、いろんな経験を積んできました。そして、感じとってしまいました)
卓士(次が、妹との最後のエッチだ……!)
卓士(よし、落ち着け。一旦ヘッドホンを置こう。なんだろう、この気持ちは? 興奮はしている、しているのだが……それとは別の感情が俺の中で生まれている。この感情は一体?)
卓士(M)その時、俺の目から一雫の涙がこぼれ落ちた。俺はわかってしまった。もう一つの感情の正体が。
卓士「感動……そうか! 俺は今、感動しているのだ!」
卓士(M)エロゲを始めるまで『エッチなシーンだけあれば良くね?』と思っていた。エロゲ初心者の男たちは、俺と同じ考えをしている人たちが多数存在しているだろう。だが、それは間違いだと気づいた、気づいてしまった……! エロゲにもっとも必要なこと、それは『エロ』ではない。『愛』だ。
卓士(M)『エッチなシーンを見る』この行為だけでも、興奮は生まれる。だがしかし、彼女たちとのストーリーを見て、彼女たちと愛を育んでいき、そしてエッチをする。そう、愛を見ることにより、さらにまた興奮度が増すのだ!
卓士「やられたよ……やられちまったよ……! くそ、エロゲ製作者め……! 俺は、まんまとお前たちにやられたよ!」
卓士(M)なぜ、ここにくるまでそれに気付けなかったのか? それは、ストーリーがあまりにも俺の心に溶け込んでいたからだ。ストーリーを読みながら『いい話だなぁ~』となるのではない。終わり際に、終わった後に『いい話だった』と。幕が閉じる直前にそう思わせる……。俺はゲームをしているのではない。あそこは、あの世界は……現実だ。だから俺は、終わり際まで気づけなかった。作られたストーリーではなく、自分自身が歩んでいたストーリーだと錯覚していたからだ。
卓士「エロゲ製作者は、魔法使いなのか……? ちくしょうが……!」
卓士(M)そう、俺は気づいてしまった。もうじき、妹とのストーリーが終わってしまう。終わってしまうのだ……。彼女と育んできた愛も、今まで俺が歩んできたストーリーは、俺自身のものではない……作られた、偽物の……!
卓士「いや、違う! 偽物なんかじゃない! 偽物なんかじゃ!」
卓士(M)そうだよ、なに言ってんだよ千堂卓士! 偽物なんかじゃない! 彼女との、妹と歩んできた道は、育んできた愛は、してきたエッチは、本物だ! 本物なんだ!」
卓士「ありがとう」
卓士(M)ふと、俺の口から感謝の言葉がこぼれ落ちた。まさか、エロゲをしていてこんなことを言うなんて。いや、エロゲをしていたからこそ、言ってしまったんだろうな。自然と『ありがとう』が言えてしまう。『ありがとう』が止まらない。
卓士(M)『お兄ちゃん』と妹が呼んでいる。『わかってるよ。今、いく』俺は彼女に微笑みながら答えた。そして、ヘッドホンを手にし、呟いた。
卓士「ありがとうございます。貴方様たちのエロゲ、別作品も買わせていただきます……!」
卓士(M)さぁ、いこう。妹の待つ世界へ。これはゲームじゃない、現実だ。現実世界へ、リンクスタート!
真子が部屋に入ってくる。
真子「たっく~ん!」
卓士「くぁwせdrftgyふじこlp!」
卓士は、パソコンを抱いて画面を隠す。
真子「あら、どうしたの? 変な声出して?」
卓士「ま、ま、真子ねぇ! 部屋入る時はノックしてよ!」
真子「あ、ごめんなさい。クッキーが焼けたから、早くたっくんに食べてほしくて♡」
卓士「そ、そ、そうなんだ! あ、後で食べに行くよ!」
真子「今持ってきてるから、食べて♡」
卓士「え⁈ 今⁈」
真子「うん! 出来たてだから、すごく美味しいはずだよ~。あーんしてあげるね、たっくん♡」
卓士「え、あ、え、えっと……!」
真子「ところで、パソコン抱きかかえてどうしたの? 抱いてほしいなら、お姉ちゃんが抱きしめてあげようか~?」
卓士(まずいまずいまずいぞぉぉぉぉ! このままだと、確実にバレる! バレてしまう! どうすれば⁈ いや、待てよ? 真子ねぇは、俺にデレデレのデレだ! つまり、もしかしたら……!)
卓士の妄想。
真子「あらあら、たっくんったら。まぁ、たっくんも年頃の男の子だから、仕方ないわよね。じゃあ~お姉ちゃんが、手取り足取り、いろ~んなことを、たっくんに教えて……あ・げ・る♡」
二人の唇が、徐々に近づいていく。
卓士(なんて展開も!)
Nb「だから、あるわけないだろう。いい加減現実に帰ってこい」
真子「たっく~ん? どうしたの?」
卓士(どうする⁈ どうするんだ、千堂卓士! 俺は、どうしたらいいんだぁぁぁ⁈)
Nb「千堂卓士の選択肢は……堂々と見せる! 正直に話そう! 隠し通そう!」
卓士(俺は……俺はぁぁぁ!)
卓士(隠し通そう!)
卓士「ま、真子ねぇ! 今は大学の課題やってるからさ! 終わったら食べに行くよ!」
真子「あら、そうなの? でも、せっかく持ってきたんだし、一口くらい──」
卓士「真子ねぇのクッキーがめちゃくちゃ美味しいのは知ってるから! 一つ食べたらやめられない止まらないのは知ってるから! だから、課題終わってから食べたいんだ!」
真子「そう? なら、下で待ってるわね」
卓士「う、うん!」
真子「たっくん」
卓士「な、なに?」
真子「課題、どんなのしてるの? お姉ちゃんに見せて──」
卓士「ダメです!」
真子「なんで~?」
卓士「ダメだからです! これは秘密事項の課題なのです! 一人で成し遂げなければいけないものなんです!」
真子「そんなこと言わずに、ちょっとだけでいいから♡」
卓士「ダメです!」
真子「お・ね・が・い♡」
卓士「絶対にダメです!」
真子「もぉ~たっくんのケチ! じゃあ下で待ってるから、終わったらすぐ降りてきてね」
卓士(M)そう言って、真子ねぇは出て行った。これでよかったのだろうか? 真子ねぇは大人だから、俺がエロゲしてるって知っても『男の子だから』と広い心で受け止めてくれるとは思うのだが……なぜだろう? 脳内で小さい俺が『絶対に見せるな! 何があっても隠し通せ!』と命令を出している。とりあえず危機は去った。まずはセーブして、クッキーを食べて、また現実に帰ってこよう。
Nb「そして、この選択が思わぬ結果を生むことになるのだった。数分後、リビング」
真子(うふふ~! たっくんったら、あんな必死に画面を隠して……きっと、エッチな動画を見ていたんだわ。お姉ちゃん似の黒髪ロングでお胸もボイン、ナイスバディなお姉ちゃんとエッチしてる動画を! もぉ~たっくんってば~! そこまでお姉ちゃんのこと好きだなんて~!)
Nb「どうしてそうなる?」
真子(お姉ちゃんには見せられないよね。だって見せたら、お姉ちゃんのことが好きだってバレちゃうもんね! んん~たっくんってば、かわいい~♡)
Nb「どんな動画だろうと、見せられないぞ」
真子(もぉ~たっくんってば、可愛い可愛い弟なんだから~♡ 大丈夫だよ、お姉ちゃんにはちゃぁんと伝わってるぞ♡ うふふ~♡)
美奈「お姉ちゃん、どうしたの? ニヤニヤしてるけど、なんかいいことあったの?」
真子「な~んにもないよ~!」
卓士「お、お待たせしました」
真子「あ、たっくん! 大学の課題は終わったの~?」
卓士「ぶ、無事終わりました!」
真子「それはよかった~♡ クッキーいっぱい焼いてるから、いっぱい食べてね♡」
卓士「あ、ありがとう! や、やった~!」
美奈は、卓士をジッと見つめている。
美奈「……!」
卓士「な、なんだよ?」
美奈「(ボソッと)またエッチなゲーム、してたんでしょ?」
卓士「ぎくっ⁈」
美奈「(ボソッと)へ、変態兄貴め……!」
卓士「(ヒソヒソと)み、美奈! 真子ねぇには絶対に言うなよ! 言わないでくれよ!」
美奈「(ヒソヒソと)わ、わ、わかってるわよ! ってか、顔近い! 離れて!」
卓士「す、すまん……!」
美奈(い、言えるわけないじゃんんん! お、お兄ちゃんが……お兄ちゃんが、私のこと好きだなんてぇぇぇ! 恥ずかしくて、言えないよぉぉぉ!)
真子(最近、美奈ちゃんがたっくんとすごく仲良くなってる気がするんだけど、気のせいかな~?)
真子「こら~! 兄妹だからって、ベタベタしちゃダメよ~」
卓士「真子ねぇ、何言ってんの? ベタベタなんて──」
美奈「ベ、ベタベタなんてしてないよ! な、な、なに変なこと言ってんの⁈ お、お姉ちゃんってば! や、やめてよ!」
真子(この反応……もしかしてこの子……!)
真子「うふふ、うふふふ~♡」
卓士「ま、真子ねぇ、どうしたの……?」
美奈「ほ、ほら、早くクッキー食べよ! きょ、今日も隣座っていいから……!」
卓士「お、おう」
真子「たっく~ん! お姉ちゃんが、あーんってしてあげるね~!」
美奈「お、お姉ちゃん⁈ あんまベタベタしちゃダメだよ! 離れてー!」
Na「卓士がやばいやつだと思っていたが、妹も姉も、なかなかにやばいやつだった」
Nb「千堂卓士の選択は、まだまだ続きそうである」
卓士(あ~早くクッキー食べて、エロゲの続きがしたいなぁ~)
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