「声劇台本置き場」

きとまるまる

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二人台本↓

「読み聞かせ」(比率:男1・女1)約10分。

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役表
パパ:♂
ママ、おばあさん、総長、手下:♀



ーーーーー



ママ「ねぇ、あなた」

パパ「ん? なんだい?」

ママ「お願い事があるんだけど。いいかしら?」

パパ「どうした、改まって」

ママ「あのね、この前『寝る前に絵本読んで』って言われたんだけどね。私、読み聞かせなんてしたことなくて……。その時は、本を準備してる間に眠っちゃったからよかったんだけど。また絵本読んでって言われたら、上手く読める自信なくて……」

パパ「なるほどなるほど。つまり、俺相手に読み聞かせの練習がしたいと?」

ママ「うん。下手に読んで『全然寝られない』とか言われたくないから。ごめんね、めんどくさいお願い事して」

パパ「めんどくさいだなんて思ってないよ。むしろ、我が子のために一生懸命頑張ろうとしてるママをとても誇らしく思うよ」

ママ「パパ……! ありがとう! じゃあ、早速練習してもいいかしら!」

パパ「もちろん」

ママ「ありがとう! じゃあ、パパはベッドに横になって! 椅子準備してくる!」

パパ「……え? そんな本格的にやるの?」

ママ「え? だって、練習よ? 本番を想定していない練習は、練習とは言わないわよ?」

パパ「いや、そうかもだけども……」

ママ「ほら、早く横になって!」

パパ「は、はい……」

ママ「パパ、なりきってね」

パパ「なにに?」

ママ「息子に」

パパ「本気で言ってる?」

ママ「じゃあ、まずはパパの『ママ~絵本読んで~』から始めます。準備はよろしいですか?」

パパ「思ってた数倍本格的! ちょっ、待って待って! 気持ちが追いついてないから! ちょっ──」

ママ「よーい、アクション!」

パパ「あ、え、あ……マ、ママ、絵本読んでほしいな~……」

ママ「カット。止めて。なに、今の?」

パパ「え、あ、いや、何と言われましても……」

ママ「やるって言ったんだから、本気でやりなさいよ。そんな中途半端な気持ちでやるんだったら、今すぐベッドから降りなさい」

パパ「舞台から降りろみたいに言わないで! 鬼監督みたいにならないで!」

ママ「そうやってやるって言ったこともできないから、いつまで経っても昇進できないのよ」

パパ「刺さるって! その言葉、すごく刺さるってば! パパ、この後寝られなくなっちゃうよ!」

ママ「お小遣い上げたいんなら、真剣に取り組みなさい。わかりましたか?」

パパ「は、はい。頑張ります……恥を捨てます……!」

ママ「シーン1、息子のセリフまで、3.2……!」

パパ「ママ~! 眠れないから絵本読んで~! 早く早く~!」

ママ「もぉ、わかったわかった。読んであげる」

パパ「わ~い! やった~! 楽しみだな~!」

ママ「こんばんわ~! 今日は、来てくれてありがとう~! 今日の読み聞かせをやる、ママで~す! 気軽に、ママって呼んでね~!」

ママ「えっと、まず読み聞かせを始める前に聞きたいんだけど~。今日、読み聞かせ初めてだよ~って人~!」

パパ「ストップ。一旦止めて」

ママ「え、どうしたの?」

パパ「いらないよ。上演前の前説みたいなの、なくていいって。読み聞かせはスッと入っちゃって大丈夫だから」

ママ「そ、そうなのね。わかったわ。スッと入ります」

パパ「読み聞かせ、楽しみだな~!」

ママ「むか~しむかしあるところに、おじいさんとおばあさん、戦士パッツァオがおりました」

パパ「ストップッッ!」

ママ「え⁈ 止められるところ、あった⁈」

パパ「あったよ! 止めなくちゃいけないところあったよ! 止めなきゃダメだよ、これは!」

ママ「そ、そうよね。何事も出だしが肝心だもんね。どこがダメだった?」

パパ「ママに問題点はないよ! 内容だよ! え、なに⁈ あるところに、おじいさんとおばあさんと⁈」

ママ「戦士パッツァオ」

パパ「誰ぇ⁈ 戦士パッツァオ、誰ぇぇ⁈ 聞いたことないよ、戦士パッツァオが出てくる昔話なんて! 今読んでるの、なに⁈」

ママ「peachピーチ~伝説の果実~」

パパ「桃太郎のこと言ってんのかな⁈ なんだよ、peachって! 何でもかんでも英語にすればかっこいいと思うなよ! あと、サブタイトルなんだ⁈ カッコつけすぎだろ!」

ママ「私に問題がないのなら、続けて読んでもいいかしら?」

パパ「まぁ正直なところ、パパも続きが気になって気になって仕方ない。戦士パッツァオがどう物語に絡んでくるのか、楽しみで仕方ない」

ママ「じゃあ、続き読んでいくわね。三人はとても仲が良く、近所では仲良し家族として有名でした」

ママ「毎日、おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山へエイリアン狩りに行きました」

パパ「エイリアン狩り⁈ しばではなく、エイリアン⁈ そりゃ戦士パッツァオが必要なわけだ!」

ママ「エイリアンの血液は強力な酸でできており、とても危険でした」

パパ「危なすぎるよ、エイリアン! おばあさんも、衣類の汚れを気にしてる場合じゃないよ! 家にいた方がいいよ!」

ママ「ある日、おばあさんが川のそばで洗濯をしていますと──」

パパ「なんでエイリアン狩りと洗濯で、洗濯の方にスポットライトがあたるの⁈ みんな気になってるのはエイリアン狩りの方だよ! おじいさんだよ!」

おばあさん「おや、川上がずいぶんと騒がしいねぇ。なにかあったのかしら?」

パパ「ここはちゃんと桃が流れてくるんだ。パッツァオが桃太郎の役割じゃなかったんだ」

ママ「ぱらりらぱらりら! ぶぉんぶぉんぶぉぉぉぉん!」

パパ「な、なにごとぉ⁈」

総長「おい、クソババァ! てめぇ、ここでなにやってんだ?」

おばあさん「な、なにって、洗濯を──」

総長「そういうこと聞いてんじゃねぇよ! 一体誰の許可もらって、あたいらのシマで洗濯してんだって聞いてんだよ! ここはあたいら、雪花刹月せっかせつげつのもんなんだよぉ!」

パパ「川上から、ピーチじゃなくてチームが来ちゃったよ! とんでもない展開だよ! おばあさん、大丈夫なの⁈」

おばあさん「そうなのかい。それはすまなかったねぇ。すぐに片付けるから──」

総長「おい、ババア。まさかあたいらのシマ汚しといて、何もなしに帰れると思ってんのか? 雪花刹月なめてんじゃねぇぞ! おい、お前ら──」

手下「そ、総長……!」

総長「あ? んだよ? もしかしてあんた、ババア相手にビビってんの? ババアの前に、てめぇの根性入れ直してやろうか……!」

手下「い、いえ! その……! あ、あのババア、もしかしてなんですが……!」

おばあさん「おやおや、あんた若いのに私のこと知ってるのかい? 私も有名人になったもんだねぇ~! あっはっはっは~!」

手下「ま、間違い無いっす、総長! あの頬の傷……昔、たった一人で全国を制覇した伝説の……! 鬼神きしん、桃!」

総長「な、なんだって⁈」

パパ「タイトルの桃って、おばあさんのことだったの⁈ この話の主役、パッツァオじゃなくておばあさんなの⁈ おばあさんが主役ぅ⁈」

おばあさん「あんたたちと遊んであげたい気持ちはあるんだけど、私は洗濯の他にも、ご飯作ったり掃除したりと、やることが山積みでねぇ」

おばあさん「だから、あんたたちには申し訳ないけど、スピードコースで洗濯させてもらうよ」

総長「クソババアが、なめやがって……! あんたの伝説と人生、あたいが幕下ろしてやんよ!」

総長「いくぞ、てめぇら! あたいに続けぇぇぇ!」

ママ「総長を合図に、何百、何千もの軍勢がおばあさんへと向かっていく。ある者は鉄パイプを手に。ある者は金属バットを。ナイフを。定規を。モーニングスターを。武器を手にした女たちが、雪崩と表現してもおかしくはない勢いで迫ってくる。生死が関わる危機的状況……だというのに、おばあさんは笑みを浮かべた」

おばあさん「やっぱり若いもんは、元気な姿がよく似合うよ」

ママ「場にふさわしくない笑顔を消すことなく、おばあさんは腰に当てていた両の手を、前へ突き出した」

パパ「かっけぇぇぇ! おばあさん、超かっけぇぇぇ! これは主人公だよ、おばあさん! あんたが主役だ、おばあさん! え、この後どうなるの⁈ ねぇ、どうなるの⁈ 早く早く! 早く続き読んで!」

ママ「一方その頃、おじいさんは──」

パパ「今じゃないよぉぉぉ! おじいさん、今じゃないよぉぉぉぉ! おじいさん気になるって言ったの俺だけどさぁぁぁ! 今はおばあさんが気になる……けど、おじいさんも気になるぅぅ~! もうこの際どっちでもいいから、早く聞かせて! ねぇ、早く早く! お願い早く!」

ママ「……」

パパ「ママ、どうしたの?」

ママ「……すぴ~すやすや。すぴ~すやすや……」

パパ「いや、読み手が寝るのは絶対にダメぇぇぇぇ!」

パパ「起きてぇぇぇ! ママ、早く起きてぇぇぇ! 僕、先が気になって気になって全然眠くないよ! 寝られないよ! 目がギンギンだよ! 早く続き教えてよ! どうなっちゃうの⁈ おじいさんとエイリアンはどうなの⁈ おばあさん、どうなっちゃうの⁈ 戦士パッツァオ、今一人でなにしてんの⁈ 気になって気になって眠れないよ!」

ママ「すぴ~すやすや……すぴ~すやすや……」

パパ「お願いだから続き読んで! 絵本読んで! 眠れないから、早く絵本読んでよ! ママァァァ~~!」

ママ「すぴ~すやすや……すぴ~すやすや……」






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