「声劇台本置き場」

きとまるまる

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二人台本↓

「愛してる君に、殺されたい」(比率:男1・女1)約20分。

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役表
男:♂
女:♀


所要時間:約20分



ーーーーー



 日が落ち、辺りは暗闇に包まれている。
 男と女が、波の音しか聞こえない静かな砂浜に腰を下ろして、ジッと海を見つめている。


女「ねぇ『ピザ』って10回言ってみて」

男「はい? なんだよ、いきなり?」

女「いいから、言ってみてよ」

男「……ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」

女「じゃあ、ここは?」

男「ひじ」

女「おい、引っ掛かれよ」

男「引っかかるか」

女「ムカつく。ちょっと待ってろ。色んな10回ゲームを調べる」


 女はスマホを取り出し、10回ゲームを調べ始める。


男「おい、海に来てんだから、ここでしかできないことしろよ」

女「暗い+寒い=動きたくない」

男「海行きたいって言ったの、お前だぞ? 何しに来たんだよ?」

女「……」

男「おい、スマホから目を離せ。俺の話に耳を傾けろ。あと、画面の明るさを少し落とせ。眩しい。目、悪くなるぞ」

女「おっ、これ面白そう。絶対に引っかかるぞ、お前」

男「やってみろ。何が来ても引っかかるか」

女「『みりん』って10回言って」

男「みりんみりんみりんみりんみりんみりんみりんみりんみりんみりん」

女「鼻が長いのは?」

男「……ゾウ」

女「おい、遅いぞ。パッと答えろよ」

男「んじゃ、もう一回」

女「もう答えわかってんだろうが。別の探す。んっと……『シャンデリア』って10回言って」

男「シャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリア」

女「毒リンゴを食べちゃった──」

男「白雪姫」

女「は? 早すぎない? まだ最後まで言ってないんだけど?」

男「シャンデリア中に答えを予想してました」

女「なに、それ? 頭いいやつじゃん、ムカつく。お前に頭いいキャラは似合わないからやめろ」

男「ひでぇな、そんなこと言うなよ」

女「次こそは」

男「まだやるの?」

女「『いっぱい』って言って」

男「いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱい」

女「『い』を『お』に変えて言ってみて」

男「言うか。……あっ、おっぱお」

女「おっぱおってなに? アホみたい」

男「クソが。どっちにしろダメなのかよ」

女「よし、私の勝ち」

男「ムカつく。負けたままで終われるか。もう一回、なんか出せ」

女「んー……じゃあ『愛してる』って10回言って」

男「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」

女「おいおい、そんなに私のこと好きなのかよ? 照れるわ」

男「……ん? おいおい、なにこれ?」

女「やれやれ。まぁ、告白してきたのはあんたからだし、それくらい愛してるってのは当たり前っちゃ当たり前だよね」

男「おーい? なんなの、これ? 問題でもなんでもないじゃん?」

女「なに? 私のこと、愛してないの?」

男「……愛してますよ」

女「本当に?」

男「本当です」

女「じゃあ、目を見て10回『愛してる』って言って」

男「はい?」

女「言って」

男「恥ずかしい」

女「言って」

男「……わかったよ」

男「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。これで満足ですか?」

女「……ねぇ、本当に私のこと、愛してる?」

男「愛してるよ。何度言わせんだよ?」

女「……愛してるんだったらさ……私を、殺してよ」

男「……は?」

女「愛してるんでしょ、私のこと? だったら、殺してよ」

男「いやいやいや、なんでそうなる?」

女「愛しているから」

男「愛しているなら殺さないだろ、普通は。なんで愛しているやつを殺さなきゃいけないんだよ?」

女「……私も、あんたのこと愛してるから。だから、あんたに殺されたい。急に出てきた、どこの誰かも分からない変なやつになんて、殺されたくない」

男「……」

女「殺されるのなら、あんたがいい。大好きな人に、殺されたい」

女「……もう、疲れた。早く、楽になりたい」

男「……」

女「愛しているから殺したくない? 好きな人を殺したくない? それだったら……一緒に死んでよ。大好きな私と、一緒に死んで」

男「……なるほどなぁ。海に来たいって言ったのは、こういうことか」

女「……」

男「おい」

女「なに?」


 男は、女を強引に引き寄せ、力強く抱きしめる。


女「……なんなの?」

男「お前がしてほしいこと、してやってるの」

女「話、聞いてたの? 私は、抱きしめてほしくない。一緒に死んでほしい。もしくは、殺してほしいの」

男「お前の気持ち、痛いほどわかるよ。お前はずっと、暗くて、寒くて、静かで、寂しくて、苦しくて……今いるこの場所みたいなところに、ずっといるんだもんな」

男「俺だって、一日二日くらいなら平気だろうけど、毎日毎日ずっとこんなところにいたら、おかしくなっちまうわ」

女「……いつもいつもね、砂浜に一人で座ってるの。真っ暗で、静かで、何にもない砂浜に。それで、ジッと海を眺めてる」

女「たまに海が荒れて、大きな波が私を呑み込む。冷たくて、痛くて、苦しくて……もがいて、もがいて、もがいて、ようやく砂浜に戻ってきて」

女「もう苦しい思いはしたくないって、必死に海から逃げるように砂浜を走るの。走って、走って、走って走って走って……」

男「走っても走っても、なにも変わらない」

女「……うん」

男「そして、後ろからまた波が押し寄せてくる」

女「うん……」

男「ずっとずっと、その繰り返し」

女「うん……」

男「わかるよ、お前の気持ち。こんなところに連れて来なくたって、痛いほどわかってるよ。お前のこと、愛しているから」

女「……わかってんなら、殺してよ……。早く殺してよ……! もう、嫌だよ……痛いよ、辛いよ、苦しいよ……! こんな場所、早く出たいよ……! 冷たいのは嫌だよ、寒いのは嫌だよ……一人ぼっちは、嫌だよ……!」

女「早く、私を解放してよ……楽になりたいよ……。もう、耐えられないよ……」

男「……俺さ、お前のこと、すごく愛してるよ。お前の気持ち、わかってるよ。だから……俺は、お前を殺さない」

女「なんでよぉ……! 殺してよ……私の気持ち、わかってんなら、殺してよ……!」

男「わかってるからだよ。わかってるよ、俺は。お前がそう思っちまうくらいに苦しんでるってことを。でも、それを望んでいないことを」

女「早く楽になりたい……楽になりたいよぉ……! 死にたいよ……早く死んで、楽になりたいよ……! もう、苦しみたくないよ……!」

男「そっかそっか。よしよし」

女「早く私の手を引いて、海に引きずり込んでよ……!」

男「おうおう。手を引いて、遊園地に引っ張ってってやるよ」

女「私の首を、力いっぱい絞めてよ……!」

男「寒いからな。おそろいのマフラー巻いてやるよ」

女「包丁でもなんでもいいから、私に死ぬまで突き刺してよぉ……!」

男「お前が安心するくらい、励ましてやるよ。言葉で、行動で。どんな手を使っても、お前を安心させてやる」

男「ほら、次は何してほしいんだ?」

女「……バカァァ……! バカバカバカァァァ……!」

男「わかったわかった。もうちょっと、力強くな。この甘えん坊さんめ」


 男は、改めて女をギュッと抱きしめる。


男「寒くないか?」

女「寒いよ、バカ……!」

男「苦しくないか?」

女「苦しいよ、バカ……!」

男「……死にたいか?」

女「生きたいよ、バカァァァ……!」

男「よしよし。もう泣くなって」

女「嫌だよぉ……もう嫌だよぉ……! 何で、何で私がさぁ……! 痛いのは、苦しいのは、もう嫌だよぉ……! 助けてよ……私を、早く助けてよぉ……!」

男「お前が波に呑まれたら、手を引っ張って連れ戻すよ。寒い寒いって震えてるなら、こうやって抱きしめて温めてやるよ。お前が本気で死にたいって思ったのなら……俺が、生きたいって思うくらい、お前に愛を突き刺してやるよ」

女「そこはさぁ……殺してくれるんじゃないのかよ……?」

男「殺してやるもんか。自殺しようもんなら、どんな手を使ってでも止めてやる。それくらい、俺はお前のこと愛してるよ」

女「……ねぇ」

男「なんだ?」

女「『愛してる』ってさ……10回、言ってよ……」

男「……愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる」

男「愛してるよ」

女「おいおいおい……私は、10回って言ったぞ……? 一回多いぞ、馬鹿野郎が……。どんだけ私のこと、愛してんだよ……?」

男「まぁ、告白したのは俺だし。これくらい愛してるってのは、当たり前っちゃ当たり前だよな?」

女「……その通りだな、馬鹿野郎」

女「ねぇ」

男「なんだ?」

女「私のこと、愛してる?」

男「おう。めちゃくちゃ愛してる」

女「それならさ……私の最期の時まで、こうやって抱きしめててよ。私のこと愛してるんなら、簡単でしょ?」

男「おう。すごく簡単なことだな」


 男は、力強く女を抱き直す。


男「どんだけしわくちゃになっても、離さねぇよ」

女「言ったからな? 絶対だぞ?」

男「おう。だからお前も、どこぞの誰かわかんねぇやつに身体奪われんな。俺、泣いちゃうぞ?」

女「おうおう、任せとけ。こんなやつ、とっとと身体から追い出してやるわ」

男「本当か?」

女「本当だ。信じろ、バカ」

男「信じてほしかったから『愛してる』って10回言え」

女「やだ」

男「おい、なんでだよ?」

女「10回もめんどくさい。だから、一回だけ言ってあげる。百回分の……いや千回、もっともっと、数えきれないくらいの気持ちを込めたもんを、あんたに言ってあげる。しっかり受け止めてよ」

男「そんなどでかいもん、受け止められるかな?」

女「受け止めろ、バカ」

女「……ねぇ」

男「なんだよ?」

女「私、あんたのこと……」

女「愛してるよ」



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