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二人台本↓
「ミモザ(アカシア)」(比率:男1・女1)約15分。
しおりを挟む・登場人物
女:♀ 大学生。高校生の時に事故に遭い、記憶を失ってしまう。今現在も失った記憶は戻ってない。
男:♂ 大学生。花屋の息子。女とは小さい頃からずっと一緒だった。
*役表
女:♀
男:♂
*所要時間:約15分
ーーーーー
1月、お昼すぎのとある喫茶店。店内は暖房が効いて暖かく、多くの人がコートや上着を脱ぎ、それぞれが会話や食事を楽しんでいる。女は窓際のテーブルに腰掛け、頬杖をつきながら外を眺めている。
女の視線に男が映ると、女は視線を店内の入口へと向ける。男の姿が店内で見え始めると軽く立ち上がり、周りのことなど気にする様子もなく大声で男に声をかける。
女「おーい! こっちこっち!」
男「見えてるから。デカい声出すなって」
女「ごめんごめん! 何飲む?」
男「コーヒー」
女は、遠くにいる店員に大声で注文をはじめる。
女「すいませーん! コーヒー1つお願いしまーす!
男「だから、大きな声出すなって。恥ずかしい」
女「おいおい、これくらいで恥ずかしがるなよ。男だろ?」
男「うるせぇぞ」
女「うるさいとか言わないでよ! 悲しくなるじゃん!」
男「で、どうしたんだよ? 急に喫茶店に呼び出してさ」
女「あーうん。ちょっと相談事があってさ」
男「相談事?」
女「うん」
男「なんだよ、相談事って?」
女はうつむき、もじもじとしはじめる。
女「えっとですねぇ……その……」
男「なんだよ? 言いにくいことか?」
女「言いにくいというか、ちょっと恥ずかしいというか……?」
男「恥ずかしい? 周り気にせず大声で店員呼べる、お前の恥ずかしい話ねぇ」
女「ちょっと! バカにしてるでしょ!」
男「してねぇよ」
店員が、コーヒーを運んでくる。
男「ありがとうございます」
女「……」
男「そんな言いにくいことなのか? ゆっくりでいいよ。俺、待つのは慣れてるし」
女「ありがと。やっぱりあんたは優しいね」
男「優しさの塊でできてるからな」
女「そういうこと言わなければいいんだけどなぁ~」
男「そういうところひっくるめても、いい男だろ?」
女「ふふっ! そうですね~最高の友達ですよ~! 私と友だちでいてくれてありがとうございます~」
男「……」
女「ん? どうしたの?」
男「いや、なんでもない」
女「ねぇ、なんでこんないい男なのに彼女いないんですか~?」
男「なんででしょうねぇ。俺もわかりません」
女「優しくて、顔もまぁまぁ良くて、花屋の息子なのに。今世紀最大の謎ですね」
男「まぁまぁってなんだ、まぁまぁって。つーか、花屋の息子はモテるポイントの一つになるのか?」
女「花屋の男って、なんかよくない?」
男「俺に聞くな」
女「花屋の男って、なんかめちゃくちゃ優しいってイメージない? 爽やかで、お兄さん系というか?」
男「なに? 俺を褒めるために呼び出したの?」
女「褒めて褒めて、この後の交渉をいい感じに進めようと思いまして!」
男「なんだよ交渉って? ってか、そういうことは思っても口に出すなよ」
女「ごめんごめん」
男「ったく、お前は昔から全然かわんねぇよなぁ」
女「……」
男「あっ、ごめん……」
女「ううん、気にしないで。むしろ、こっちこそごめんね。何にも思い出せなくて」
男「無理して思い出さなくてもいいって言っただろ」
女「うん、ありがと。多分思い出したら、あんたにめちゃくちゃ迷惑とか心配とかかけまくってた記憶ばっかり蘇ってきそうだしね」
男「今すぐ思い出して俺に感謝しやがれ」
女「あーなにも思い出せなーい! うわー!」
男「小中高、そして現在に至るまでずっと迷惑と心配をかけまくった記憶を、今すぐ思い出せ~早く思い出せ~!」
女「やめろ~! うぐっ、頭がぁ~!」
男「(笑う)」
女「(笑う)」
男「この話も、明るくできるようになって本当によかったよ」
女「全部あんたのおかげだよ。本当にありがと。高校の時、事故って、記憶無くなって、何年経っても思い出せなくて……。色々辛かったけどさ、あんたが言ってくれた『新しい人生を歩め』って言葉で、前に進めた」
女「今私が笑えてるのは、あんたのおかげ。本当にありがと」
男「……で、そろそろ交渉の話をしてくれてもいいんですよ。俺のご機嫌は今、非常にいいですから」
女「なんだと⁈ じゃあ、早く交渉しなければですね!」
男「なんでも言ってこい」
女「う、うん……! あ、あのさ……い、今って1月じゃん?」
男「おう」
女「んで、次2月じゃん?」
男「おう」
女「バ、バレンタインの季節じゃん?」
男「ですね」
女「そ、そのですね……え、えっと……」
男「……わかったわかった」
女「え?」
男「チョコと一緒に、花を渡してぇんだろ?」
女「う、うん」
男「ったく、急に呼び出してきたから何事かと思ったら……」
女「よ、よくわかったね」
男「お前とは昔からずっといるからな。俺に任せろ。用意してやるよ」
女「ほんと⁈」
男「そのかわり、好きなったやつのこと、たっぷりとここで聞かせてもらうからな」
女「えぇ~!」
男「俺、恋バナめちゃくちゃ好きなのよね~! 手伝ってやるから、詳しく聞かせろ!」
女「し、仕方ないなぁ~!」
男「そいつはあれか? 同じ大学のやつか?」
女「う、うん」
男「ってことは、俺も知ってる可能性があるなぁ」
女「多分、知ってるはず」
男「マジか。まだ言うなよ、当ててやるから……! いや、一発で当てたいから、ヒントをくれ!」
女「(笑う)なんだそれ? 仕方ないなぁ~!」
ーーー
バレンタイン当日。朝、男の実家である花屋。扉を大きく開け、店外の左右に、店内の中に、色とりどりの沢山の花が咲き誇っている。
男は紺色のエプロンを身につけ、入口近くにあるレジ机の前に立ち、机の上に置かれた小さな箱を指で力なくツンツンとつついている。
女「おはよ~!」
男「ん? おぉ、おはよ。ついにバレンタイン当日だな」
女「うん! あぁ、緊張してきたぁ……! うまくいくといいなぁ」
男「きっとうまくいくよ。いつも通りのお前でいればな」
女「ありがと」
男「お礼はまだいいよ。成功してから言ってこい」
女「うん! あ、ちょっと待ってね……!」
男「どうした?」
女はカバンから綺麗に包装されたチョコを取り出し、男に手渡す。
女「はい、ハッピーバレンタイン!」
男「おっ、いいのか?」
女「本命ではありませんがね! どうぞ受け取ってください!」
男「そういうことは、思っても口にだすなって」
女「えへへ~! 申し訳ありませ~ん!」
男「ったく……。ありがとな」
女「私の方こそ、ホントにありがと。色々相談に乗ってくれて。プレゼントも考えてくれて」
男「いいっていいって。そのプレゼントですが、こちらの箱にしっかりとご用意しておりますよ。桃の花をあしらった、ブレスレットでございま~す」
女「ありがと~! 器用で優しくて素敵でカッコいいお友達をもてて、私はとても嬉しいです~!」
男「さては貴様、安くしてもらおうとしているな?」
女「おっ? 安くしてくれるんですか⁈」
男「そうだな……告白、成功したらタダにしてやるよ」
女「マジですか⁈」
男「失敗したら、倍額な」
女「えぇ⁈」
男「失敗しないことを祈ってるわ」
男「あ、そうだ」
女「ん? なに?」
男は机の上に置いていた、黄色のミモザを女に渡す。
男「俺からのプレゼント」
女「なに、これ? なんて花?」
男「ミモザ。花言葉は『優雅』『友情』」
女「ほほう! 優雅かぁ~! 私にぴったり!」
男「ちげーよ。友情の方だわ」
女「そっちかよ」
男「そっちだよ」
男「……頑張れよ」
女「うん! では、行ってきます!」
男「いってら」
女は男に大きく手を振ると、期待を胸に元気よくかけて行く。
男は店先へ出て女の背中をジッと見つめている。
男「……そのまま、お前は新しい人生を歩んでいけよ。こっち、戻ってきたらぶん殴るぞ」
女(M)ミモザ。花言葉は『優雅』『友情』
女(M)オレンジ色のミモザの花言葉は『エレガント』
女(M)黄色のミモザの花言葉は……。
男「幸せになれよ。バカやろう」
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