74 / 159
二人台本↓
「お江戸の華」(比率:男2)約10分。
しおりを挟む・役表
甚兵衛:♂
助芥、男:♂
*所要時間:約10分
ーーーーー
夜の道。背中に大量の刀を背負った男──甚兵衛が、歌いながら歩いている。
※歌はオリジナルなので、思うままに歌ってください
甚兵衛「お江戸にゃ~華がなくっちゃなぁ~♪」
甚兵衛「きれぇな~華がなくっちゃな~♪」
甚兵衛「ねぇなら、俺様が咲かせましょ~♪」
甚兵衛「ぱぁ~と、きれぇな赤い華~♪」
甚兵衛「お江戸に華は~今日も咲く~♪」
お昼の街中。団子屋には助芥という男が一人、店の外に出されたベンチに腰掛け、お茶を飲んでいる。
店の奥から女性が団子を手に、助芥の前へと運んでいく。
助芥「ありがと、菊さん。では」
助芥は、団子を口に運ぼうとする。が、目の前にいる甚兵衛にジッと見られていることに気づき、手を止める。
甚兵衛「……」
助芥「……」
甚兵衛「……」
助芥「……あの」
甚兵衛「……」
助芥「あの、すみません」
甚兵衛「……ん? 俺のこと呼んだかい?」
助芥「なんですか? 僕に何か用ですか?」
甚兵衛「え? いやぁ、そこの店ん団子、ちょーうめぇだろ? いいもん食ってんなぁとおもってよぉ!」
助芥「なら、あなたも食べればいいじゃないですか」
甚兵衛「たべてぇのは山々なんだがな! 今、懐がちと寒くてよぉ~!」
助芥「そうなんですか。それは残念ですね」
甚兵衛「あ~いいなぁ~。俺も食いてぇ~なぁ~~!」
助芥「……」
甚兵衛「あ~! 団子が食いてぇぇ~!」
助芥「はぁ……。菊さん、団子一つ追加お願いします」
甚兵衛「おっ?」
助芥「ジッと見られて、さらにうるさくされたんじゃ、団子もまずくなってしまいます」
甚兵衛「なんでぇなんでぇ! 素直に奢りますよって言えばいいじゃねぇかよ!」
助芥「あなたの団子を頼んだとは言ってないですよ。僕が二つ目食べたくて注文しただけかもしれないじゃないですか」
甚兵衛「おいおい! それはねぇんじゃねぇの! ここまで期待させといて、それはねぇって! それによぉ……!」
甚兵衛は、助芥に近づき耳打ちする。
甚兵衛「あんた、ここにいる菊ちゃんのことが好きなんだろ? 菊ちゃんにかっこいいところを見せる、いい機会だぜ」
助芥「んなっ⁈」
甚兵衛「よぉ、菊ちゃん! こっちこっち! この団子は俺のもんなのよ! ここにいる、かっちょいいお兄ちゃんが俺のためにって! いやぁ、こういう人と一緒になれると、あんた幸せになれると思うぜ!」
助芥「ちょ、ちょっと!」
甚兵衛「つーことで! いただきまーす!」
助芥「はぁ……なんなんだよ……」
甚兵衛「んん~! うめぇ~! やっぱここん団子はうめぇなぁ! ほらっ、あんたも食えって!」
助芥「あんた、一体なんなんですか?」
甚兵衛「ん? おれかい? 俺は甚兵衛って言うんだ! あんたは?」
助芥「僕は助芥って言います。というか、なんで僕が菊さんのこと──」
甚兵衛「そりゃ見てたらわかるってぇの。あんた、ここ最近ずぅっとこの団子屋にきてるじゃねぇか」
助芥「な、なぜそれを……⁈」
甚兵衛「俺も好きでよ。よく来てっから! あれ、気づかなかったかい?」
助芥「全然気がつかなかった……」
甚兵衛「あっ、俺が好きなのは団子であって、菊ちゃんじゃねぇからな! まぁ、菊ちゃんはべっぴんさんだからよ。いつでも大歓迎なんだけどな!」
助芥「あなたのような人に、菊さんは似合いません」
甚兵衛「なんでぇ! そんなこと言うなよ~!」
助芥「はぁ……。うるさい人だ……」
甚兵衛は助芥の隣に置いてある刀を、ジッと見つめている。
甚兵衛「……」
助芥「なんですか? 急に黙って。静かだったりうるさかったりと、お忙しい人ですね」
甚兵衛「あんた、いいもん持ってんねぇ」
助芥「いいもん?」
甚兵衛「隣」
助芥「隣? あぁ、この刀ですか? いいもんでもないですよ。そこかしこ歩いてる人たちがぶら下げてるのと一緒ですよ」
甚兵衛「いぃや、俺にはわかる! そいつはいいやつだぜ!」
助芥「あなたは、鍛冶屋かなにかですか?」
甚兵衛「そこら辺ふらついてる阿呆だ!」
助芥「ですよね。聞いた僕がバカでした」
助芥は、ゆっくりと立ち上がる。
甚兵衛「もう行っちまうのかい?」
助芥「あなたと話すこともありませんし。では」
甚兵衛「なぁ、おい!」
助芥「なんですか?」
甚兵衛「その刀、名はなんてゆうんだ?」
助芥「名? 刀に名前なんてつけるわけないじゃないですか。刀はただの道具ですよ」
助芥「菊さん。お代はここに置いておきますね。また来ます」
甚兵衛「……刀はただの道具、か。悲しいこと言うねぇ」
甚兵衛「しかし、人は見た目じゃわからんもんだな」
甚兵衛は、団子を口に放り込む。
ーー
月の明かりだけが辺りを照らす深夜。人一人出歩いていない静かな道を、助芥はフラフラと歩いている。
助芥「……」
助芥「……早く……早く、早く、早く」
助芥「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……!」
助芥「ダメだ、抑えられない……! でも、あの人はもうちょっと後に──」
後ろに人の気配を感じとり、助芥は刀に手を置き振り返る。
助芥「誰だ⁈」
甚兵衛「よっ。元気してるぅ~?」
助芥「あんた、昼間の……!」
甚兵衛「どったのよ? 夜道を一人ふらふらしてよ」
助芥「ただの散歩ですよ。あなたこそ何してるんですか?」
甚兵衛「俺は、ふらふらしてるだけだ」
助芥「そうですか。早く帰った方がいいと思いますよ」
甚兵衛「辻斬りが出るから。か?」
助芥「……そうですよ。知ってるなら──」
甚兵衛「あんたもこんな時間に散歩って、危ないんじゃないの?」
助芥「僕は大丈夫ですよ」
甚兵衛「なんで?」
助芥「僕は、強いですからね」
甚兵衛「ほんとかよ~? 見た感じじゃ、あんたひ弱そうだぜぇ~!」
助芥「……」
甚兵衛「ん? 怒った? すまんすまん!」
助芥「はぁ……。あなたといると、調子が狂う」
甚兵衛「それは褒めてんのかい?」
助芥「褒めてませんよ」
甚兵衛「あっ、そうだそうだ。団子のお返し。少ないけど受け取ってくれや」
助芥「え?」
甚兵衛は、銭を数枚助芥へと投げつける。
甚兵衛「ほいっと!」
助芥「なっ⁈ くそっ、なんだ⁈ お金⁈」
甚兵衛「おいおい、よそ見すんなよ」
助芥「いつの間にっ⁈」
甚兵衛は、助芥を蹴り飛ばす。
甚兵衛「よっと!」
助芥「がはっ⁈」
甚兵衛「あんたの方が、菊ちゃんとは似合わねぇと思うがねぇ。人殺しさん」
助芥「(咳き込む)な、なんなんですか……⁈ 急に僕のこと蹴り飛ばして! 僕になにか恨みでもあるんですか⁈」
甚兵衛「そういうのは、ダダ漏れの殺気を懐に隠してから言えよ」
助芥「……いつから気づいてた?」
甚兵衛「あんたが団子屋に通い始めた時からだ。あんた、毎日毎日団子屋行くからよぉ。俺の財布が悲鳴あげちまって……」
助芥「う、嘘だろ……! そんな前から……! な、なんで⁈ どうして気づいた⁈」
甚兵衛「刀が教えてくれたよ」
助芥「か、刀……? お前は何を言っている⁈」
甚兵衛「刀っていうのはよ、なんのために存在してると思う? 人を殺すためのもんか? いいや、ちげぇ」
甚兵衛「人を、守るためのもんだ」
甚兵衛「刀っていうのは、そのためにつくられんだよ。なのに手前さんは、人を殺すことにしかつかわねぇ」
甚兵衛「泣いてんぞ。刀がよぉ」
助芥「泣いてる? 刀が? お前は何を言っている! 刀が泣くわけがないだろう! お前には聞こえるとでもいうのか! 刀の声が聞こえるのか⁈」
甚兵衛「あぁ。泣いてるぜ、こいつ」
助芥「ぼ、僕の刀! いつの間に⁈」
甚兵衛「もっと大事に握ってやんなよ。刀も大事に握れねぇ奴は、女の手ぇ握ってもすぐ手離しちまうぜ」
助芥「く、くそっ! なんなんだよ! なんなんだよ、手前は!」
甚兵衛「……お江戸にゃ~華がなくっちゃなぁ~♪」
助芥「……は?」
甚兵衛「きれぇな~華がなくっちゃな~♪」
甚兵衛「ねぇなら、俺様が咲かせましょ~♪」
助芥「この歌……まさか⁈」
甚兵衛「ぱぁ~と、きれぇな赤い華~♪」
助芥「お前、刀狩りの……!」
甚兵衛「お江戸に華は~♪」
助芥「ま、待て! 待ってく──」
甚兵衛は、助芥から奪った刀で助芥を斬る。
助芥「あぁぁぁぁ⁈」
甚兵衛「今日も咲く~♪っと」
甚兵衛「……今まで、よく頑張ったな。お前、名前もねぇんだって? 俺がつけてやんよ」
甚兵衛「今日から手前は──」
ーーー
数日後の昼。団子屋の前で男がヒソヒソと噂話をしている。
男「おいおい、聞いたか? 出たらしいぞ、刀狩りの甚兵衛が……!」
男「……ん? 夜遊びできねぇって? お前は夜遊びやめねぇと、甚兵衛より先に華ちゃんに殺されるぞ」
男「はっはっは! お前は甚兵衛よりも、華ちゃんに気をつけなきゃなぁ!」
団子屋に甚兵衛がやってくる。
甚兵衛「よっ、菊ちゃん! 今日も可愛いねぇ~! いや、団子まけてもらおうと思って言ってんじゃねぇよ! 今日は、たーんまりと金はあるからよ! とりあえず、団子三つちょうだい!」
甚兵衛「……ん? こいつかい? いいだろ~! 最近のお気に入りでな!」
甚兵衛「ん? 名前? 仕方ねぇな、菊ちゃんには特別に教えてやんよ!」
甚兵衛「刀の名前は、助芥って言うんだ!」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜
摩訶子
大衆娯楽
ボイコネのみで公開していた声劇台本をこちらにも随時上げていきます。
ご利用の際には必ず「シナリオのご利用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
フリー台詞・台本集
小夜時雨
ライト文芸
フリーの台詞や台本を置いています。ご自由にお使いください。
人称を変えたり、語尾を変えるなどOKです。
題名の横に、構成人数や男女といった表示がありますが、一人二役でも、男二人、女二人、など好きなように組み合わせてもらっても構いません。
また、許可を取らなくても構いませんが、動画にしたり、配信した場合は聴きに行ってみたいので、教えてもらえるとすごく嬉しいです!また、使用する際はリンクを貼ってください。
※二次配布や自作発言は禁止ですのでお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる