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三人台本↓
「百合が咲くのは一年後?」(比率:女3)約30分。
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登場人物
梅林 柚香:♀ 高校二年生。鳥取の幼なじみ。
鳥取 里奈:♀ 高校二年生。可愛くてよくおモテになる。柚香のことが大好き。
馬野 果林:♀ 高校二年生。梅林たちとは高一の頃からのお友達。いつも飴舐めてる。
・役表
梅林:♀
鳥取:♀
母親、馬野:♀
*所要時間:約30分
ーーーーー
梅林(M)恋とは、突然始まるものである。
鳥取「わ、私、ずっとずっと前から、柚香ちゃんのことが好きです! わ、私と……つ、つ、付き合ってください!」
梅林(M)私は梅林柚香、高校二年生。気持ちの良い春風が頬を撫でていく陽気な放課後に、突然幼なじみに屋上へと呼び出され、何事かと思って蓋を開けたらご覧の通り。まさかまさかの展開に思考が停止しそうになっている。
鳥取「い、今すぐに答えを出さなくてもいいし、もしあれだったら、お試しでお付き合いとかでもいいから……!」
梅林(M)お試しでお付き合いとは? レンタルみたいな感じ? というか、私は女だよ? あんたも女だよ? そこわかってるの?
鳥取「ど、ど、どうかな……?」
梅林(M)いや、だからさ、どうかなじゃなくて、私たちは女の子なのよ? そこわかってるの? やれやれ全く……近頃、女の子がイチャイチャする『百合』というのが流行っているとは聞いていたけど、まさか自分自身がこうなるとは思ってもいなかったわ。百合が嫌いってわけじゃないけど。見てる分には別にいいと思うし、互いが好き同士なのであれば別に性別なんてどうでもいいのではって思ってるタイプだからさ。でもね、自分がってなると話は別よ? ってか、私たちはまだ高校二年生だよ? 勢いで物事を決めたい年頃かもしれないけどさ、私は勢いではいかないよ? こう見えて意外としっかりしてるんだからね? 私たちの将来というものをしっかりと考えてさ──
母親「……こ。ゆっこ。おいこら、ゆっこ!」
梅林「……んん?」
母親「やっと起きた。あんたいい加減に一人で起きられるようになってよ」
梅林「……あれ?」
ベッドに寝ていた梅林はゆっくりと上半身を起こす。周りを見渡すと、屋上ではなく見慣れた風景が広がっている。
母親「ご飯できてるから。ちゃっちゃと準備して来なさいよ」
母親はスタスタと部屋を後にする。梅林はもう一度周りをぐるっと見廻し、安心するように大きな欠伸を一つする。
梅林「……夢か。そりゃそうだよね。あんなのが現実に起こってたまるかっての」
梅林は頭を軽くかきながらベッドを降り、重い足取りで部屋を出ていく。
梅林(あぁ、眠たい……。まだもうちょっと寝てたい……)
梅林「ふぁぁぁ……おはよ~……」
リビングの扉を開けると、そこには椅子に座りご飯を食べる母と、制服の上からピンクのフリフリエプロンを身に纏っている幼なじみの鳥取がいる。
母親「おいしぃ~! 里奈ちゃんの作るご飯、めちゃくちゃ美味しいぃ~!」
鳥取「ありがとうございます!」
母親「いや、もうマジで! 私の作るやつより全然美味しいわ~! いつでもウチに作りに来ていいからね!」
梅林「……」
母親「あ、やっと来た。ほら、あんたも早く座んなさい。里奈ちゃんがご飯作ってくれたんだから」
鳥取「おはよう、柚香ちゃん!」
梅林「……はい?」
母親「いやでも、里奈ちゃんってば高校生になってさらに綺麗に可愛く育って……! ウチの子も見習ってほしいわ」
梅林「母さん?」
鳥取「いえいえ、柚香ちゃんは今のままでも十分可愛いですよ!」
母親「見た目だけじゃなくて心も綺麗! ウチのゆっこは完敗ね」
梅林「お母さん!」
母親「なによ? 朝からうるさいわね」
梅林「いやいやいや、なんで朝っぱらからウチに里奈がいるの⁈ なんで⁈」
母親「なんでって……」
母親と鳥取は顔を見合わせる。
母親・鳥取「ねぇ~」
梅林「二人だけでわかり合うな! 私にもわかるように説明して!」
母親「ご馳走様! 里奈ちゃんありがとね」
鳥取「あっ、お片付けも私がやっておきます!」
母親「ホント? 助かるわ~! じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしらね!」
鳥取「はい! 学校行くまでまだ時間ありますから、お任せください!」
母親「はぁ……ホントいい子ね。里奈ちゃん、後でゆっこに爪の垢を煎じて飲ませといて」
鳥取「え? わ、わかりました!」
梅林「本気にしなくていい!」
母親「んじゃ、母さん仕事してくるから。うるさくしないでよ、わかったわね?」
母親は我が娘にビシッと厳しく言い放った後に、鳥取に満面の笑みを見せてリビングを後にする。
鳥取「お仕事、頑張ってください~」
梅林「頑張ってとか呑気なこと言ってないで、説明してよ! な、なんであんたが⁈ な、なんなのよ、これは!」
鳥取「あっ、このエプロン? えへへ、昨日の放課後に買ってきたの。に、似合ってるかな?」
梅林「エプロンの話なんて一ミリもしてないわよ! なんであんたがここにいて、しかもご飯作ってんのよ⁈」
鳥取「な、なんでって、それは、その……つ、つ、付き合ってるから……!」
梅林「……は? 付き合ってる?」
鳥取「う、うん」
梅林「私たちが?」
鳥取「うん」
梅林「私が?」
鳥取「私と」
梅林「付き合ってんの?」
鳥取「うん。だ、だから、ご飯作りに来たの」
梅林「はいぃぃ⁈ いやいやいや、なに考えてんのあんたは⁈ 付き合って初日に実家にご飯作りに来るやつなんていないわよ! それはもうカレカノじゃなくて夫婦のやりとりだわ!」
鳥取「ふ、夫婦だなんて……! 柚香ちゃん、気が早いよ~!」
梅林「気が早いのはあんただわ! 私たちは付き合ってなんか……」
鳥取「柚香ちゃん、どうしたの?」
梅林「も、もしかして……あの夢は、現実だったの……?」
鳥取「夢? あははは、柚香ちゃんも夢だって思ってるんだ。私も今だに信じられなくて、夢なんじゃないかな~? って思ってるよ」
鳥取「ホント、夢みたいなお話だよ。大好きな柚香ちゃんとお付き合いできてるんだもん」
梅林「ねぇ、一つ聞いていい?」
鳥取「うん、どうしたの?」
梅林「き、昨日さ、屋上でさ……わ、わ、私、オッケーしたの……?」
鳥取「お付き合いの話だよね? うん」
梅林「ほ、ホントに……?」
鳥取「うん。『お試しでもいいなら』って」
梅林「ま、ま、ま……!」
梅林(マジかぁぁぁぁ!)
梅林(夢だと思ってたことは現実だったぁぁぁ! 思考停止しそうとか言ってたけど、停止してたぁぁ! なーんにも覚えてないよ! あの後の出来事なーんにも覚えてないよぉぉ! まさかまさかのこんな展開になってるなんて、誰が予想できるんだよぉぉ!)
鳥取「柚香ちゃん、大丈夫?」
梅林「大丈夫じゃないわよ! 目が覚めたらこんなことになってるんだもん! 大丈夫なわけないでしょぉぉ!」
騒ぎ立てている梅林の後頭部に、ものすごい勢いで一冊の漫画が飛んでくる。
梅林「おぶしっ⁈」
母親「ゆっこ、あんた聞いてなかったの? 母さん仕事するから静かにしろって……! 次、仕事の邪魔したら、広辞苑投げつけるからね……!」
母親は鬼の形相で床を転がり回っている娘を睨みつけながら、スゥッとリビングから消えていく。
梅林「か、角がぁぁ……! 本の角が頭にぃぃ……!」
鳥取「だ、大丈夫……?」
梅林「大丈夫じゃない。頭痛くて辛いから、学校休む……。先生に言っといて……」
鳥取「わ、わかった! 私も学校休んで柚香ちゃんの看病──」
梅林「治ったわ。一瞬で痛みが何処かへ行ったわ。早くご飯食べて学校行こ」
ーーー
ご飯を食べ、諸々の支度を終えた梅林は、重い足取りで学校へと向かっている。
梅林(あぁもぉ……なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……?)
鳥取「あ、あの、ゆ、柚香ちゃん」
梅林「ん? なに?」
鳥取「え、えっと、その……わ、私たち、お試しだけど、お付き合いしてるんだから……え、えっと、その、て、て、手を繋いで登校とか──」
梅林「あのね、今時のカップルはお手て繋いで仲良く登校なんてしないわよ。アニメや漫画の見過ぎよ」
鳥取「え? で、でも、隣のクラスの西崎さんは──」
梅林「あのバカップルを参考にするな。今すぐに脳内から消し去りなさい」
鳥取「わ、わかった」
梅林(はぁ……。別に里奈のことは嫌いじゃないし、好きだけど……。でも、好きは好きでも恋愛の好きじゃない。だから、里奈には悪いけどちゃんと断ろ……)
梅林「あ、あのさ──」
鳥取「えへへへ……!」
梅林「え? な、なんで笑ってんのよ?」
鳥取「あっ、ご、ごめんね! わ、私、ずっとずっと柚香ちゃんのこと好きだったから、今こうやって恋人として隣歩いてるのが信じられないというか」
梅林「お、お試しだけどね!」
鳥取「それでもすごく嬉しいの。すごくすごく嬉しいから、気を引き締めてないとすぐに嬉しくて笑っちゃうというか」
梅林「……」
鳥取「えへへ。柚香ちゃん、これからもずっとよろしくね」
梅林「あ、え、えっと……う、うん。よろしくね」
梅林(言えるかぁぁぁ! 『あの時の話は無かったことに』とか言えるかぁぁぁ! 私にピュアなハートをズタズタに引き裂けと⁈ 悪いがそんな度胸これっぽっちもないわ! でも、いつまでもこの関係を続けるのもぉぉ! あぁぁぁ、どうしたらいいのぉぉぉ⁈)
馬野「ゆ~~……!」
梅林「ん?」
梅林が後ろを振り向くと同時に、馬野が勢いよく肩を叩いてくる。
馬野「こっ!」
梅林「ぬおぉ⁈」
鳥取「あっ、果林ちゃん。おはよう」
馬野「おはよ~。ゆっこもおはよ」
梅林「おはよ……。いきなり後ろから来ないでよ、りん」
馬野「ごめんごめん。お詫びとして、飴ちゃん食べる?」
梅林「ありがと」
馬野「毎度あり。一個50円でございます」
梅林「返品します」
馬野「ちぇ~。せっかくの小遣い稼ぎのチャンスが」
梅林「ってか、あんた早いじゃん。どうしたの?」
馬野「なによ~? 私が朝早くに学校行ったらダメなの?」
梅林「ダメじゃないけど……あっ、あれか? 宿題」
馬野「大正解。よくお分かりになりましたね。ってことで──」
梅林「見せません」
馬野「っはぁ~……飴ちゃん渡して断れないようにしとくんだったわ。んじゃ、お先に~」
馬野は軽く手をひらひらと振りながら駆けていく。
梅林「ったく、りんは相変わらずだね」
鳥取「……そうだね」
梅林がふと鳥取の顔を見ると、鳥取は唇をギュッと噛み締めてフルフルと震えている。
梅林「……ど、どうしたの?」
鳥取「ねぇ、柚香ちゃん」
梅林「な、なに?」
鳥取「果林ちゃんって、絶対に柚香ちゃんのこと好きだよね?」
梅林「……はい?」
鳥取「一年生の頃からずっっっと思ってたんだけど……果林ちゃん、柚香ちゃんにすごくベタベタしてるし、事あるごとにお触りしてるし──」
梅林「友達としてのスキンシップだよ! というか、お触りって言い方はやめて! なんかいやらしいから!」
鳥取「友達だとしても異常だよ! 私だって柚香ちゃんとベタベタイチャイチャしたい気持ちを必死に抑えて我慢してるのに──」
梅林「あー! 聞きたくない聞きたくない! 早く学校行くよ!」
鳥取「あっ、柚香ちゃん待ってよ~!」
ーーー
学校、二年Cクラスの教室。一限目の授業が行われている。
馬野は一列目の二番目、梅林はその後ろ、鳥取は三列目の一番後ろに座っている。
梅林(全然集中できない……集中できるわけが無い……。先生の言葉が、右から左へ抜けていく……)
梅林(あぁもぉ、なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……? ってか、里奈はいつから私のことを……というか、私のどこが好きなのよ……?)
梅林(里奈のことは嫌いじゃない。だからこそ、どうしたらいいのかわからない……。一度オッケーしたのにやっぱりダメとか言ったら、すごく傷つくだろうし……。私は友達の悲しむ顔は見たくない。でもずっとこのままってのは、私にとっても里奈にとってもダメだと思う。でも正直に言う勇気が……)
梅林(あぁぁ、いくら考えても答えが出てこない……。今は考えるのはやめよう、授業に集中しよう。このことは家に帰ってからゆっくり考えよう。よし、授業に集中。集中、集中集中集中集中集中……!)
ーーー
一限終了後。梅林は頭を抱えて机に突っ伏している。
梅林(集中できるかぁぁぁ!)
馬野「ゆっこ、あんたどうしたの? 頭痛いの?」
梅林「痛い……とても頭が痛い……!」
馬野「風邪でも引いたの?」
梅林「風邪よりもたちが悪い悩みに侵されてます……」
馬野「ふーん。あんたも大変なのね。飴ちゃん食べる?」
梅林「いただきます……」
馬野「一個75円ね」
梅林「後払いで……」
馬野「あーあー、こりゃ思ったより重症だね。なんのことで悩んでるのか知らないけど、私で良ければ相談乗るから。元気だしなって」
梅林「ありがと……」
馬野「とりあえず、今は飴ちゃんにでも癒されて」
梅林「そうします……」
馬野「んじゃ、動かないでよ」
梅林「はい?」
馬野は梅林の両頬をしっかりと掴む。
梅林「え? なに?」
馬野「なにって、飴ちゃんあげるのよ。私の口の中でトロトロに程よく溶けた飴ちゃんを、口移しで──」
梅林「冗談でも変なこと言わないでよ……」
馬野「冗談だからいいじゃん。ってかさ」
梅林「なに?」
鳥取は自分の席から二人のやりとりを唇を噛みしめながらジッと見つめている。
鳥取「……!」
馬野「あんた、里奈にめちゃくちゃ睨まれてるけど、なんかしたの?」
梅林「あんたのせいだよ」
馬野「は? なんで私?」
ーーー
三限目の開始を知らせるチャイムが学校内に響き渡る。梅林と鳥取は教室にはおらず、校舎裏で向き合っている。
鳥取「柚香ちゃん、どうしたの? 話があるって……というか、三限目始まっちゃったけど」
梅林「授業よりも話し合いの方が大切だと思ったから校舎裏に呼び出しました。申し訳ないけど暫しのお付き合いをお願いします」
鳥取「え? う、うん。私はいいんだけど……というか、授業受けずに二人でお話なんて、なんかドキドキしちゃうね」
梅林「私は将来のことを考えて、常にドキドキしてるわよ……」
鳥取「それで、どうしたの?」
梅林「あーえっと、その……た、単刀直入に聞くけどさ……あんた、ホントに私のこと好きなの?」
鳥取「え?」
梅林「冗談とかじゃなくて、本気なの? 本気で私のことが好きなの?」
鳥取「……」
梅林「里奈?」
鳥取は一度顔を俯かせて、大きく深呼吸をする。息を吐き終わると、顔を上げて真っ直ぐ梅林を見つめる。
鳥取「うん、本気だよ。私は、本気で柚香ちゃんのことが好き」
梅林「い、いつからなの……?」
鳥取「えっと、中二の時……かな? 強く意識するようになったのは」
梅林(そ、そんな前から……)
梅林「ってかさ、なんで今告白してきたの? なんていうか、すごく微妙な時期というか何というかさ。こういうのって、卒業式とか文化祭とか、何かしらのイベント時に──」
鳥取「私ね、ずっと閉まっておくつもりだったの」
梅林「え?」
鳥取「柚香ちゃんのこと好きだって気持ちは、伝えずにずっと心の奥にしまっておこうって思ってたの。女の子同士だし、私の気持ちを伝えたって、柚香ちゃんには迷惑だって思ってたから」
梅林「じゃあ、なんで?」
鳥取「……可愛いから」
梅林「……はい?」
鳥取「柚香ちゃん、歳を重ねるたびにどんどんドンドンと可愛くなっていくから……。好きな人がすごく可愛くなっていくのを見ているのはすごくすごく嬉しいし幸せな気持ちだったよ! でもね、ふと思ったの……どんどん可愛くなっていく柚香ちゃんを、このまま放っておく人なんていないって。いつか柚香ちゃんは誰かと付き合って、結婚して……そうやって幸せになっていくんだって……」
梅林「え、えっと……それで?」
鳥取「私じゃない他の誰かと幸せそうに仲良く暮らしてる柚香ちゃんを想像した時ね……その時、すごく気持ち悪くなって、吐いた……」
梅林「吐いた⁈」
鳥取「その時思ったんだ。私は自分が思ってるよりも、すごくすごく柚香ちゃんが大好きなんだって。このまま自分の気持ちを抑えて生きていくことなんて、私はきっとできないって……。高校卒業する時には、勇気を出して告白しようって思ってたんだけど……高二になって、柚香ちゃんますます可愛くなったから、卒業まで待ってたら絶対に他の人に取られるって思ったら、勢いでつい……」
梅林「……あのさ、一つ言いたいことがあるんだけど」
鳥取「な、なに?」
梅林「あんた、私が告白された回数って知ってる?」
鳥取「え、えっと……私が知ってる限りでは、一回もなかったはず」
梅林「正解。んじゃ、あんたは何回告白されてきた?」
鳥取「……えっと……」
梅林は鳥取の両頬を力任せに引っ張る。
梅林「思い出すのに時間がかかるくらいあるよねぇぇ? なに? 私に喧嘩売ってるの? 売ってるよね? 強者の余裕ですか? そうなんですか? 誰しもあんたみたいにバンバカ告白なんてされるわけがないでしょうがぁぁぁ!」
鳥取「痛い痛い痛い、ほっぺ引っ張らないでぇぇぇ!」
梅林「心配しなくても告白なんてされないし可愛くもないわ、バァァカ!」
鳥取「ご、ごめんなさいぃぃ!」
梅林「はぁ……。あんたの気持ちはよくわかった。私のこと、本気で好きなんだってことも。だけど──」
鳥取「大丈夫、言わなくてもわかってるよ。柚香ちゃんはそんな気持ちないって」
梅林「……」
鳥取「柚香ちゃんはホントに優しいよね。私を傷つけないように、お試しならいいって言ってくれたんだよね。私、そういう優しいところも大好きだよ」
鳥取「でもね、どうしてもこれだけは譲れないよ。私、柚香ちゃんが思ってるよりも、何倍も何倍も大好きなんだよ。だから、手にしたチャンスは絶対に離さないよ」
鳥取「このお試し期間中に、絶対に柚香ちゃんを振り向かせるから。恨むなら、お試し期間をオッケーした自分を恨んでね」
梅林「……はぁ。わかったわよ。私も一回オッケーしちゃったんだし、付き合ってあげるわよ」
鳥取「ホント⁈」
梅林「お試しだからね! そこ勘違いしないように! お試し期間終わったら、はっきりと私の気持ち伝えるから。その時はどんな結果であれしっかり受け止めてよ」
鳥取「うん! 私、頑張る!」
梅林(頑張らなくてもいいんだけどなぁ……。まぁ、お試し期間って一週間くらいだろうし、それくらいなら──)
鳥取「柚香ちゃん! 改めて、これから一年間よろしくね!」
梅林「……え?」
鳥取「ん?」
梅林「え? ちょっ、待って。今、一年って言った?」
鳥取「え? うん」
梅林「い、一週間の間違いじゃなくて……?」
鳥取「一年だよ。柚香ちゃん、一年でいいよって言ってくれたよ」
梅林「……」
鳥取「柚香ちゃん?」
梅林「はいぃぃぃぃ⁈」
梅林(M)こうして、私は里奈と一年間お試しでお付き合いすることになってしまったのである。一年お試しって、それもう購入してるのと変わんないじゃん……。
梅林(M)お試し期間が終わる頃、私たちの関係はどうなっているのか……? 今の私には、全く想像がつきません……。
梅林 柚香:♀ 高校二年生。鳥取の幼なじみ。
鳥取 里奈:♀ 高校二年生。可愛くてよくおモテになる。柚香のことが大好き。
馬野 果林:♀ 高校二年生。梅林たちとは高一の頃からのお友達。いつも飴舐めてる。
・役表
梅林:♀
鳥取:♀
母親、馬野:♀
*所要時間:約30分
ーーーーー
梅林(M)恋とは、突然始まるものである。
鳥取「わ、私、ずっとずっと前から、柚香ちゃんのことが好きです! わ、私と……つ、つ、付き合ってください!」
梅林(M)私は梅林柚香、高校二年生。気持ちの良い春風が頬を撫でていく陽気な放課後に、突然幼なじみに屋上へと呼び出され、何事かと思って蓋を開けたらご覧の通り。まさかまさかの展開に思考が停止しそうになっている。
鳥取「い、今すぐに答えを出さなくてもいいし、もしあれだったら、お試しでお付き合いとかでもいいから……!」
梅林(M)お試しでお付き合いとは? レンタルみたいな感じ? というか、私は女だよ? あんたも女だよ? そこわかってるの?
鳥取「ど、ど、どうかな……?」
梅林(M)いや、だからさ、どうかなじゃなくて、私たちは女の子なのよ? そこわかってるの? やれやれ全く……近頃、女の子がイチャイチャする『百合』というのが流行っているとは聞いていたけど、まさか自分自身がこうなるとは思ってもいなかったわ。百合が嫌いってわけじゃないけど。見てる分には別にいいと思うし、互いが好き同士なのであれば別に性別なんてどうでもいいのではって思ってるタイプだからさ。でもね、自分がってなると話は別よ? ってか、私たちはまだ高校二年生だよ? 勢いで物事を決めたい年頃かもしれないけどさ、私は勢いではいかないよ? こう見えて意外としっかりしてるんだからね? 私たちの将来というものをしっかりと考えてさ──
母親「……こ。ゆっこ。おいこら、ゆっこ!」
梅林「……んん?」
母親「やっと起きた。あんたいい加減に一人で起きられるようになってよ」
梅林「……あれ?」
ベッドに寝ていた梅林はゆっくりと上半身を起こす。周りを見渡すと、屋上ではなく見慣れた風景が広がっている。
母親「ご飯できてるから。ちゃっちゃと準備して来なさいよ」
母親はスタスタと部屋を後にする。梅林はもう一度周りをぐるっと見廻し、安心するように大きな欠伸を一つする。
梅林「……夢か。そりゃそうだよね。あんなのが現実に起こってたまるかっての」
梅林は頭を軽くかきながらベッドを降り、重い足取りで部屋を出ていく。
梅林(あぁ、眠たい……。まだもうちょっと寝てたい……)
梅林「ふぁぁぁ……おはよ~……」
リビングの扉を開けると、そこには椅子に座りご飯を食べる母と、制服の上からピンクのフリフリエプロンを身に纏っている幼なじみの鳥取がいる。
母親「おいしぃ~! 里奈ちゃんの作るご飯、めちゃくちゃ美味しいぃ~!」
鳥取「ありがとうございます!」
母親「いや、もうマジで! 私の作るやつより全然美味しいわ~! いつでもウチに作りに来ていいからね!」
梅林「……」
母親「あ、やっと来た。ほら、あんたも早く座んなさい。里奈ちゃんがご飯作ってくれたんだから」
鳥取「おはよう、柚香ちゃん!」
梅林「……はい?」
母親「いやでも、里奈ちゃんってば高校生になってさらに綺麗に可愛く育って……! ウチの子も見習ってほしいわ」
梅林「母さん?」
鳥取「いえいえ、柚香ちゃんは今のままでも十分可愛いですよ!」
母親「見た目だけじゃなくて心も綺麗! ウチのゆっこは完敗ね」
梅林「お母さん!」
母親「なによ? 朝からうるさいわね」
梅林「いやいやいや、なんで朝っぱらからウチに里奈がいるの⁈ なんで⁈」
母親「なんでって……」
母親と鳥取は顔を見合わせる。
母親・鳥取「ねぇ~」
梅林「二人だけでわかり合うな! 私にもわかるように説明して!」
母親「ご馳走様! 里奈ちゃんありがとね」
鳥取「あっ、お片付けも私がやっておきます!」
母親「ホント? 助かるわ~! じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしらね!」
鳥取「はい! 学校行くまでまだ時間ありますから、お任せください!」
母親「はぁ……ホントいい子ね。里奈ちゃん、後でゆっこに爪の垢を煎じて飲ませといて」
鳥取「え? わ、わかりました!」
梅林「本気にしなくていい!」
母親「んじゃ、母さん仕事してくるから。うるさくしないでよ、わかったわね?」
母親は我が娘にビシッと厳しく言い放った後に、鳥取に満面の笑みを見せてリビングを後にする。
鳥取「お仕事、頑張ってください~」
梅林「頑張ってとか呑気なこと言ってないで、説明してよ! な、なんであんたが⁈ な、なんなのよ、これは!」
鳥取「あっ、このエプロン? えへへ、昨日の放課後に買ってきたの。に、似合ってるかな?」
梅林「エプロンの話なんて一ミリもしてないわよ! なんであんたがここにいて、しかもご飯作ってんのよ⁈」
鳥取「な、なんでって、それは、その……つ、つ、付き合ってるから……!」
梅林「……は? 付き合ってる?」
鳥取「う、うん」
梅林「私たちが?」
鳥取「うん」
梅林「私が?」
鳥取「私と」
梅林「付き合ってんの?」
鳥取「うん。だ、だから、ご飯作りに来たの」
梅林「はいぃぃ⁈ いやいやいや、なに考えてんのあんたは⁈ 付き合って初日に実家にご飯作りに来るやつなんていないわよ! それはもうカレカノじゃなくて夫婦のやりとりだわ!」
鳥取「ふ、夫婦だなんて……! 柚香ちゃん、気が早いよ~!」
梅林「気が早いのはあんただわ! 私たちは付き合ってなんか……」
鳥取「柚香ちゃん、どうしたの?」
梅林「も、もしかして……あの夢は、現実だったの……?」
鳥取「夢? あははは、柚香ちゃんも夢だって思ってるんだ。私も今だに信じられなくて、夢なんじゃないかな~? って思ってるよ」
鳥取「ホント、夢みたいなお話だよ。大好きな柚香ちゃんとお付き合いできてるんだもん」
梅林「ねぇ、一つ聞いていい?」
鳥取「うん、どうしたの?」
梅林「き、昨日さ、屋上でさ……わ、わ、私、オッケーしたの……?」
鳥取「お付き合いの話だよね? うん」
梅林「ほ、ホントに……?」
鳥取「うん。『お試しでもいいなら』って」
梅林「ま、ま、ま……!」
梅林(マジかぁぁぁぁ!)
梅林(夢だと思ってたことは現実だったぁぁぁ! 思考停止しそうとか言ってたけど、停止してたぁぁ! なーんにも覚えてないよ! あの後の出来事なーんにも覚えてないよぉぉ! まさかまさかのこんな展開になってるなんて、誰が予想できるんだよぉぉ!)
鳥取「柚香ちゃん、大丈夫?」
梅林「大丈夫じゃないわよ! 目が覚めたらこんなことになってるんだもん! 大丈夫なわけないでしょぉぉ!」
騒ぎ立てている梅林の後頭部に、ものすごい勢いで一冊の漫画が飛んでくる。
梅林「おぶしっ⁈」
母親「ゆっこ、あんた聞いてなかったの? 母さん仕事するから静かにしろって……! 次、仕事の邪魔したら、広辞苑投げつけるからね……!」
母親は鬼の形相で床を転がり回っている娘を睨みつけながら、スゥッとリビングから消えていく。
梅林「か、角がぁぁ……! 本の角が頭にぃぃ……!」
鳥取「だ、大丈夫……?」
梅林「大丈夫じゃない。頭痛くて辛いから、学校休む……。先生に言っといて……」
鳥取「わ、わかった! 私も学校休んで柚香ちゃんの看病──」
梅林「治ったわ。一瞬で痛みが何処かへ行ったわ。早くご飯食べて学校行こ」
ーーー
ご飯を食べ、諸々の支度を終えた梅林は、重い足取りで学校へと向かっている。
梅林(あぁもぉ……なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……?)
鳥取「あ、あの、ゆ、柚香ちゃん」
梅林「ん? なに?」
鳥取「え、えっと、その……わ、私たち、お試しだけど、お付き合いしてるんだから……え、えっと、その、て、て、手を繋いで登校とか──」
梅林「あのね、今時のカップルはお手て繋いで仲良く登校なんてしないわよ。アニメや漫画の見過ぎよ」
鳥取「え? で、でも、隣のクラスの西崎さんは──」
梅林「あのバカップルを参考にするな。今すぐに脳内から消し去りなさい」
鳥取「わ、わかった」
梅林(はぁ……。別に里奈のことは嫌いじゃないし、好きだけど……。でも、好きは好きでも恋愛の好きじゃない。だから、里奈には悪いけどちゃんと断ろ……)
梅林「あ、あのさ──」
鳥取「えへへへ……!」
梅林「え? な、なんで笑ってんのよ?」
鳥取「あっ、ご、ごめんね! わ、私、ずっとずっと柚香ちゃんのこと好きだったから、今こうやって恋人として隣歩いてるのが信じられないというか」
梅林「お、お試しだけどね!」
鳥取「それでもすごく嬉しいの。すごくすごく嬉しいから、気を引き締めてないとすぐに嬉しくて笑っちゃうというか」
梅林「……」
鳥取「えへへ。柚香ちゃん、これからもずっとよろしくね」
梅林「あ、え、えっと……う、うん。よろしくね」
梅林(言えるかぁぁぁ! 『あの時の話は無かったことに』とか言えるかぁぁぁ! 私にピュアなハートをズタズタに引き裂けと⁈ 悪いがそんな度胸これっぽっちもないわ! でも、いつまでもこの関係を続けるのもぉぉ! あぁぁぁ、どうしたらいいのぉぉぉ⁈)
馬野「ゆ~~……!」
梅林「ん?」
梅林が後ろを振り向くと同時に、馬野が勢いよく肩を叩いてくる。
馬野「こっ!」
梅林「ぬおぉ⁈」
鳥取「あっ、果林ちゃん。おはよう」
馬野「おはよ~。ゆっこもおはよ」
梅林「おはよ……。いきなり後ろから来ないでよ、りん」
馬野「ごめんごめん。お詫びとして、飴ちゃん食べる?」
梅林「ありがと」
馬野「毎度あり。一個50円でございます」
梅林「返品します」
馬野「ちぇ~。せっかくの小遣い稼ぎのチャンスが」
梅林「ってか、あんた早いじゃん。どうしたの?」
馬野「なによ~? 私が朝早くに学校行ったらダメなの?」
梅林「ダメじゃないけど……あっ、あれか? 宿題」
馬野「大正解。よくお分かりになりましたね。ってことで──」
梅林「見せません」
馬野「っはぁ~……飴ちゃん渡して断れないようにしとくんだったわ。んじゃ、お先に~」
馬野は軽く手をひらひらと振りながら駆けていく。
梅林「ったく、りんは相変わらずだね」
鳥取「……そうだね」
梅林がふと鳥取の顔を見ると、鳥取は唇をギュッと噛み締めてフルフルと震えている。
梅林「……ど、どうしたの?」
鳥取「ねぇ、柚香ちゃん」
梅林「な、なに?」
鳥取「果林ちゃんって、絶対に柚香ちゃんのこと好きだよね?」
梅林「……はい?」
鳥取「一年生の頃からずっっっと思ってたんだけど……果林ちゃん、柚香ちゃんにすごくベタベタしてるし、事あるごとにお触りしてるし──」
梅林「友達としてのスキンシップだよ! というか、お触りって言い方はやめて! なんかいやらしいから!」
鳥取「友達だとしても異常だよ! 私だって柚香ちゃんとベタベタイチャイチャしたい気持ちを必死に抑えて我慢してるのに──」
梅林「あー! 聞きたくない聞きたくない! 早く学校行くよ!」
鳥取「あっ、柚香ちゃん待ってよ~!」
ーーー
学校、二年Cクラスの教室。一限目の授業が行われている。
馬野は一列目の二番目、梅林はその後ろ、鳥取は三列目の一番後ろに座っている。
梅林(全然集中できない……集中できるわけが無い……。先生の言葉が、右から左へ抜けていく……)
梅林(あぁもぉ、なんでこんなことになっちゃったのかなぁ……? ってか、里奈はいつから私のことを……というか、私のどこが好きなのよ……?)
梅林(里奈のことは嫌いじゃない。だからこそ、どうしたらいいのかわからない……。一度オッケーしたのにやっぱりダメとか言ったら、すごく傷つくだろうし……。私は友達の悲しむ顔は見たくない。でもずっとこのままってのは、私にとっても里奈にとってもダメだと思う。でも正直に言う勇気が……)
梅林(あぁぁ、いくら考えても答えが出てこない……。今は考えるのはやめよう、授業に集中しよう。このことは家に帰ってからゆっくり考えよう。よし、授業に集中。集中、集中集中集中集中集中……!)
ーーー
一限終了後。梅林は頭を抱えて机に突っ伏している。
梅林(集中できるかぁぁぁ!)
馬野「ゆっこ、あんたどうしたの? 頭痛いの?」
梅林「痛い……とても頭が痛い……!」
馬野「風邪でも引いたの?」
梅林「風邪よりもたちが悪い悩みに侵されてます……」
馬野「ふーん。あんたも大変なのね。飴ちゃん食べる?」
梅林「いただきます……」
馬野「一個75円ね」
梅林「後払いで……」
馬野「あーあー、こりゃ思ったより重症だね。なんのことで悩んでるのか知らないけど、私で良ければ相談乗るから。元気だしなって」
梅林「ありがと……」
馬野「とりあえず、今は飴ちゃんにでも癒されて」
梅林「そうします……」
馬野「んじゃ、動かないでよ」
梅林「はい?」
馬野は梅林の両頬をしっかりと掴む。
梅林「え? なに?」
馬野「なにって、飴ちゃんあげるのよ。私の口の中でトロトロに程よく溶けた飴ちゃんを、口移しで──」
梅林「冗談でも変なこと言わないでよ……」
馬野「冗談だからいいじゃん。ってかさ」
梅林「なに?」
鳥取は自分の席から二人のやりとりを唇を噛みしめながらジッと見つめている。
鳥取「……!」
馬野「あんた、里奈にめちゃくちゃ睨まれてるけど、なんかしたの?」
梅林「あんたのせいだよ」
馬野「は? なんで私?」
ーーー
三限目の開始を知らせるチャイムが学校内に響き渡る。梅林と鳥取は教室にはおらず、校舎裏で向き合っている。
鳥取「柚香ちゃん、どうしたの? 話があるって……というか、三限目始まっちゃったけど」
梅林「授業よりも話し合いの方が大切だと思ったから校舎裏に呼び出しました。申し訳ないけど暫しのお付き合いをお願いします」
鳥取「え? う、うん。私はいいんだけど……というか、授業受けずに二人でお話なんて、なんかドキドキしちゃうね」
梅林「私は将来のことを考えて、常にドキドキしてるわよ……」
鳥取「それで、どうしたの?」
梅林「あーえっと、その……た、単刀直入に聞くけどさ……あんた、ホントに私のこと好きなの?」
鳥取「え?」
梅林「冗談とかじゃなくて、本気なの? 本気で私のことが好きなの?」
鳥取「……」
梅林「里奈?」
鳥取は一度顔を俯かせて、大きく深呼吸をする。息を吐き終わると、顔を上げて真っ直ぐ梅林を見つめる。
鳥取「うん、本気だよ。私は、本気で柚香ちゃんのことが好き」
梅林「い、いつからなの……?」
鳥取「えっと、中二の時……かな? 強く意識するようになったのは」
梅林(そ、そんな前から……)
梅林「ってかさ、なんで今告白してきたの? なんていうか、すごく微妙な時期というか何というかさ。こういうのって、卒業式とか文化祭とか、何かしらのイベント時に──」
鳥取「私ね、ずっと閉まっておくつもりだったの」
梅林「え?」
鳥取「柚香ちゃんのこと好きだって気持ちは、伝えずにずっと心の奥にしまっておこうって思ってたの。女の子同士だし、私の気持ちを伝えたって、柚香ちゃんには迷惑だって思ってたから」
梅林「じゃあ、なんで?」
鳥取「……可愛いから」
梅林「……はい?」
鳥取「柚香ちゃん、歳を重ねるたびにどんどんドンドンと可愛くなっていくから……。好きな人がすごく可愛くなっていくのを見ているのはすごくすごく嬉しいし幸せな気持ちだったよ! でもね、ふと思ったの……どんどん可愛くなっていく柚香ちゃんを、このまま放っておく人なんていないって。いつか柚香ちゃんは誰かと付き合って、結婚して……そうやって幸せになっていくんだって……」
梅林「え、えっと……それで?」
鳥取「私じゃない他の誰かと幸せそうに仲良く暮らしてる柚香ちゃんを想像した時ね……その時、すごく気持ち悪くなって、吐いた……」
梅林「吐いた⁈」
鳥取「その時思ったんだ。私は自分が思ってるよりも、すごくすごく柚香ちゃんが大好きなんだって。このまま自分の気持ちを抑えて生きていくことなんて、私はきっとできないって……。高校卒業する時には、勇気を出して告白しようって思ってたんだけど……高二になって、柚香ちゃんますます可愛くなったから、卒業まで待ってたら絶対に他の人に取られるって思ったら、勢いでつい……」
梅林「……あのさ、一つ言いたいことがあるんだけど」
鳥取「な、なに?」
梅林「あんた、私が告白された回数って知ってる?」
鳥取「え、えっと……私が知ってる限りでは、一回もなかったはず」
梅林「正解。んじゃ、あんたは何回告白されてきた?」
鳥取「……えっと……」
梅林は鳥取の両頬を力任せに引っ張る。
梅林「思い出すのに時間がかかるくらいあるよねぇぇ? なに? 私に喧嘩売ってるの? 売ってるよね? 強者の余裕ですか? そうなんですか? 誰しもあんたみたいにバンバカ告白なんてされるわけがないでしょうがぁぁぁ!」
鳥取「痛い痛い痛い、ほっぺ引っ張らないでぇぇぇ!」
梅林「心配しなくても告白なんてされないし可愛くもないわ、バァァカ!」
鳥取「ご、ごめんなさいぃぃ!」
梅林「はぁ……。あんたの気持ちはよくわかった。私のこと、本気で好きなんだってことも。だけど──」
鳥取「大丈夫、言わなくてもわかってるよ。柚香ちゃんはそんな気持ちないって」
梅林「……」
鳥取「柚香ちゃんはホントに優しいよね。私を傷つけないように、お試しならいいって言ってくれたんだよね。私、そういう優しいところも大好きだよ」
鳥取「でもね、どうしてもこれだけは譲れないよ。私、柚香ちゃんが思ってるよりも、何倍も何倍も大好きなんだよ。だから、手にしたチャンスは絶対に離さないよ」
鳥取「このお試し期間中に、絶対に柚香ちゃんを振り向かせるから。恨むなら、お試し期間をオッケーした自分を恨んでね」
梅林「……はぁ。わかったわよ。私も一回オッケーしちゃったんだし、付き合ってあげるわよ」
鳥取「ホント⁈」
梅林「お試しだからね! そこ勘違いしないように! お試し期間終わったら、はっきりと私の気持ち伝えるから。その時はどんな結果であれしっかり受け止めてよ」
鳥取「うん! 私、頑張る!」
梅林(頑張らなくてもいいんだけどなぁ……。まぁ、お試し期間って一週間くらいだろうし、それくらいなら──)
鳥取「柚香ちゃん! 改めて、これから一年間よろしくね!」
梅林「……え?」
鳥取「ん?」
梅林「え? ちょっ、待って。今、一年って言った?」
鳥取「え? うん」
梅林「い、一週間の間違いじゃなくて……?」
鳥取「一年だよ。柚香ちゃん、一年でいいよって言ってくれたよ」
梅林「……」
鳥取「柚香ちゃん?」
梅林「はいぃぃぃぃ⁈」
梅林(M)こうして、私は里奈と一年間お試しでお付き合いすることになってしまったのである。一年お試しって、それもう購入してるのと変わんないじゃん……。
梅林(M)お試し期間が終わる頃、私たちの関係はどうなっているのか……? 今の私には、全く想像がつきません……。
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