「声劇台本置き場」

きとまるまる

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二人台本↓

「こたつと蜜柑とあなたと私」(比率:男1・女1)約10分。

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・役表
男:♂
女:♀





ーーーーー




 とある冬の日。男がパンパンに膨れ上がった買い物袋を片手に、部屋の扉を開く。


男「ただいま~」

女「あぁー寒い寒い寒いぃぃ!」

男「寒いより先に言うことがあるだろ」

女「寒い!」

男「ただいまくらい言えよな。もし子どもがいたら、こんなお前を見本にしなきゃいけないのか。あーあ、可哀想に」

女「うるせー! まだ子どもいないからいいんですぅ! あぁ、寒っ……! なんでこんなに寒いのよ……?」

男「冬だから寒いんです」

女「うるせー。あー冬なんて大っ嫌いだ」


 二人は短い廊下を通り、部屋の扉を開ける。
 女は扉を開けるや否や、部屋の中央に設置されているこたつへ吸い込まれるように入っていく。


女「あ~~こたつぅ~! 私を暖めて~!」

男「おい、こたつに入る前にやることがあるだろ」

女「早く温まれよ~! 火力フルMAX!」

男「はぁ……」


 男は一人スタスタとキッチンへと歩いていき、買い物袋を台に置く。


女「ん? なによ、ため息なんて吐いて」

男「別に~」

女「あれだろ。『あぁ~なんで俺はこんな女と付き合ってしまったのだろうか……? 昔はもっと可愛かったのにぃ』とかいうため息だろ!」

男「ちげぇよ」

女「じゃあなによ?」

男「いつも元気だなぁって思っただけだよ」

女「悪い?」

男「悪くない。それがお前のいいところだよ」

女「なっ……⁈ きゅ、急にそんなこと言うな! バーカ!」

男「褒めても怒られる俺は今後どうしていけばいいですか?」

女「どうもしなくてよき! お前はそのままでいろ!」

男「はいはい」

女「ほら、話してないで食材を冷蔵庫に詰め込め!」

男「少しくらい手伝ってくれよ」

女「手伝いたいんだけど、こたつが離してくれないの~」

男「俺は今こたつに凄く嫉妬してま~す」

女「後でギュッと抱きしめてやるから。嫉妬するなって」

男「抱きしめなくていいから手伝って」

女「ずっと嫉妬してろ!」

男「へいへい」


 男は冷蔵庫を開け、食材を詰め込んでいく。


女「あぁ~あったかくなってきたぁ~! こたつ最高~! 冬最高~!」

男「さっき冬嫌いって言ってたくせに」

女「うるせー。こっち来る時ミカン持ってきてね」

男「なんで?」

女「こたつと言えばミカンでしょうが! なんでわからないの!」

男「いやいや、こたつと言えばアイスじゃね?」

女「は? アイスってバカじゃないの? なんで寒いのにアイス買うの? バカなの?」

男「寒い日は、温かいこたつに入りながら冷たいもん食べたいだろ?」

女「その発想はバカ」

男「暑い日は、冷房ガンガンに入れて熱々のラーメンが食べたい」

女「その発想はバカ」

男「お前も食うか? アイス、お前の分も買ってきてるし」

女「いつの間に⁈ 絶対に食べません! 身体冷たいから温めてるのに、なんでまた内側から冷やさなきゃいかんのだ! こたつにアイス廃止運動を開始します!」

男「今すぐにその運動を無くさないと、ミカン持っていかないからな」

女「うぐっ⁈ それだけは勘弁! こたつから出たくないぃぃ!」


 男はカップアイスと紙袋に入ったミカンを持ち、こたつへと歩みを進めていく。


男「ほ~らほら、ミカンだぞ~。こたつから出ないと届かないぞ~」

女「わかった、無くします! 無かったことにしますから!」

男「それでよろしい」


 男は女にミカンを手渡す。


男「ほら、ミカン」

女「サンキュー!」


 女は袋からミカンを一つ取り出し、皮を剥き始める。
 男は女の対面に腰を下ろす。


男「さてと、アイス食べますか~」

女「ちょっと、私の目の前で食べないでよ! こっちまで寒くなるじゃん!」

男「んじゃ、こっち見るな」

女「はいぃ~? 酷くない~?」

男「ミカン持ってきたんだから、これくらい我慢しろ」

女「うぐぐぐ……!」

男「黙ってミカン食ってろ」


 男はカップアイスの蓋を外し、一口すくって口へと運ぶ。女はジッとその様子を見つめている。


男「ん? なんだよ、ジッと見つめて? やっぱりお前もアイス──」

女「こっち来て」

男「は?」

女「こっち来て」

男「なんで?」

女「いいから。こっち来て!」

男「はいはい。わかったよ」


 男はゆっくりと立ち上がると女の後ろまで行き、寄り添うように腰を下ろす。


男「これで満足ですか?」

女「おうおう、満足じゃ!」

男「俺はお前の家来か?」

女「恋人です」

男「マジレスすんな」

女「これで背後からの冷気も完全シャットアウト! あ~あったか~い」

男「働いた分の給料はきっちりと払ってもらいますからね」

女「あ~ミカンうま~」

男「おい、無視すんな。ったく、お前は昔から変わんないよな」

女「いいじゃんいいじゃん。変わんないって素敵なことじゃん」

男「はいはい、そうですね~」


 女は、ふと手を止める。口へ運ぼうとしたミカンを、ただ黙ってジッと見つめている。


男「どうした?」

女「……変わりたく、なかったなぁ」

男「……」

女「なんで、私なんだろ?」

女「なんでなんだろう……?」

女「……あぁ~! ほらみろ! お前がアイスなんて食べるから、身体冷えてきちゃったじゃんか! こたつ~私を暖めて~!」

男「……」

女「ん? なによ? なんか話せ──」


 男は女の言葉を遮り、優しく強く抱きしめる。


女「……なに?」

男「抱きしめてる」

女「んなこと、聞かなくてもわかってるわ。どうしたの? こたつに嫉妬したか?」

男「こたつが仕事してねぇみたいだから、あっためてやってる」

女「なんだ、それ? バカみたい」

男「バカでもいいよ。お前と一緒にいられるなら」

女「……どこで覚えてきた、そのセリフ?」

男「俺のオリジナル」

女「……」

男「どうした? 感動したか?」

女「するわけねぇだろ」

男「それは残念」


 数秒の沈黙が続く。


女「……」

男「……」

女「……アイス、溶けちゃうよ?」

男「もう少し、このままでいたい」

女「……バカ」


 またも数秒の沈黙が部屋を包み込む。カチカチと時計の針が進む音だけが響き渡る。


女「……」

男「……」

女「……ねぇ」

男「なんだ?」

女「帰ってきた時さ、子どもがどうとか言ってたじゃん?」

男「あぁ」

女「私たちからは、どんな子どもが産まれてくると思う? どんな子が産まれるかな?」

女「私はね、私に似なければそれでいい」

女「すごくすごく元気で、こんな寒い日でも外走り回っちゃうくらいの……そんな子がいいなぁ」

男「……」

女「……未来って、語りたくないね」

男「そうか? 俺は語りたいな」

女「なんで?」

男「例えば、デートとかさ。この日にここに行こう。これやろう。あれやろうって色々考えて。当日までドキドキしてさ。なにか嫌なことがあっても『もう少ししたら楽しいことがあるんだ! だから頑張ろう!』って、なれるじゃん」

男「楽しい未来があれば頑張れるじゃん。だから、俺は語りたいな」

男「お前と、明るくて楽しい未来を」

女「……」

男「ずっとお前のそばにいるよ。一緒に頑張ろ」

女「……うん」

男「一週間後のこと。一ヶ月後のこと。一年後のこと。十年後のこと。ずっとずっと先の未来も語ろうぜ」

女「……うん。いっぱい……いっぱい……ずっと、この先のこともさ……。だから……」


 女は男の手をギュッと力強く握りしめる。


女「この手、離しちゃ嫌だからね……」

男「……残念だけど、そのうち離すよ。こんな寒い日なのに手袋も付けず、外をギャーギャー走り回るくらい元気でバカで、こたつとミカンが大好きで……お前にそっくりな顔した可愛い子どもが、俺たちの真ん中で手を握ってるんだからさ」

女「……なんだよ、それ。めちゃくちゃ素敵な未来じゃんか……。そんなの語んないでよ……。私、めちゃくちゃ頑張らないといけないじゃんか……!」

女「……絶対、絶ッ対にその未来を叶えてやる。だから……お前はこたつ入ってゆっくりアイスでも食ってろ。バカ」




ーーー



 数年後、とある冬の日。
 男が小さな買い物袋を提げて、玄関に入ってくる。


男「ただいま~。寒いなぁ……」


 男は早歩きで廊下を抜け、こたつへと吸い込まれるように入っていく。


男「ふぅ、寒い寒い。こたつさん、お仕事よろしくお願いします」


 男は、こたつの電源を入れる。


男「早くあっためてくれよ~」

男「……」

男「……ミカンは買ってきてねぇからな。何度も言っただろ。俺はこたつにはアイスだって」

男「……何のアイス買ったのって?」


 男は買い物袋からカップアイスを一つ取り出すと、こたつの上に置く。


男「ミカン味のアイス」

男「お前の好きと、俺の好きを合わせたやつ」

男「……あ~早く温まってくれよ~。こたつさん、早く仕事しろよ~。早く俺を温めてくれよ~」

男「早く温めてくれないとさぁ……アイス、食えねぇじゃんかよ……」

男「……寒いなぁ……」






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