遊部!

きとまるまる

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28話「気になる人の過去は、とても気になるもの」

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 放課後、遊部の部室。


立花「こんにちわ~。」

笹原「こんにちわ、立花くん!」

暁「おいっす~。」

不知火「ん。」

立花「あれ?部長と凪先輩は?」

笹原「まだ来てないよ。」

暁「三年だし、進路のこととかで話し合いしてるんじゃねぇの?」

立花「確かに、そう言われると。三年生は、受験とか就職とかで忙しそうな時期ですもんね。」

笹原「だね~。」

暁「のんびりできんのは、今年までだなぁ~。」

立花「二年生は、進路のことで話し合いとかないんですか?」

笹原「話し合いはないけど、進路どうするんだ~?みたいな、調査表はあるよ~。」

暁「本格的な話し合いは、特にないな~。」

立花「そうなんですね。ちなみに、冬華先輩たちは進路どうするかって決めてるんですか?」

笹原「う~ん...私は、まだかなぁ~。将来やりたいことってのも、今のところ特にないし。」

暁「俺も、右に同じくだな~。」

立花「夏帆先輩は、もう決めてます?」

不知火「就職一択。」

笹原「夏帆、言っとくけど就職したからって勉強しなくて済むわけじゃないからね?」

暁「むしろ、学生の頃に比べてやること山積みだと思うぞ。」

笹原「そう考えると、早いうちにどうするかって決めておいたほうがいいのかもね。」

暁「だな。ギリギリになってあたふたするよりかは、そっちの方が絶対にいいよな。」

立花「冬華先輩たちは、部長たちはどうするかってのは知ってるんですか?」

笹原「...知ってる?」

暁「知らん。」

笹原「よく考えたら、私らそういう話一切しないよね。」

暁「遊んでばっかりだもんな。」

立花「まぁそういう話する雰囲気になりませんもんね、ここにいたら。」

五十嵐「おい~す。」

百瀬「こんにちわ。」

笹原「おっ、噂をすればですね!こんにちわ~!」

五十嵐「なんだよ、噂って?もしかして、俺らの悪口言ってたのか~?」

笹原「そんなわけないでしょうに。」

暁「部長たちが遅かったから、進路の話でもしてんじゃね?って話ですよ。」

五十嵐「そうそうその通り、噂通りの進路の話ですよ。もう二学期だからな~。三年生はお前たちが思ってるよりも忙しい生き物なんだよ。覚えとけ。」

立花「部長と凪先輩は、進路どうするかって決まってるんですか?」

五十嵐「おうよ。つーか、この時期に決まってなかったら流石にヤバいぞ。お前らも、早いうちから決めとけよ~。」

笹原・暁「は~い。」

立花「ちなみに、どうするかってのは聞いていいことですか?」

五十嵐「俺は、進学。」

百瀬「私も、進学です。将来、保育士になりたいので、その資格の勉強ができるところに行く予定です。」

立花「へぇ~凪先輩、保育士が夢なんですね。」

暁「凪先輩が、保育士...!」

笹原「はぁ...これだから、男って生き物は...。」

不知火「キモッ...!」

暁「おいおいおい?なんでそうなる?」

立花「暁先輩はまだ分かりますが、どうして僕も同じく分類されるんですか?僕は違いますからね?」

暁「おいおいおい、立花くん?」

百瀬「部長は、小学校の先生ですよね?」

五十嵐「おうよ。よく覚えてたな。」

立花「え...!?部長が、先生...!?」

暁「保健体育以外、教えられないでしょうに...!」

笹原「生徒に手を出して捕まるとか、洒落になりませんからね...。」

不知火「笑えない...。」

五十嵐「お前ら、失礼すぎるだろ。」

百瀬「私は、結構お似合いだと思いますけどね。」

五十嵐「お前は、中学の頃のやつ見てるからな。」

暁「中学の頃から凪先輩とお知り合いだったなんて...羨ましすぎるぜ...!」

笹原「中学の頃って、お互いどんな感じだったんですか?」

五十嵐「いや、どんなって言われてもな。」

百瀬「今と変わらないですよね?」

五十嵐「変わらん変わらん。俺も凪も、凪のおっぱいも今とーーー」

百瀬「部長~~?」

五十嵐「あだだだだだだ!?!?肉がちぎれるぅぅぅぅ!?」

笹原「なんか想像できるわ、中学の頃の二人...。」

立花「昔もこんな感じだったんでしょうね...。」

暁「これは、羨ましいような、羨ましくないような...。」

五十嵐「いや、変わってたわ...めちゃくちゃ変わってるわ...!昔は、こんなことしてくるやつじゃなかったのに...!」

百瀬「部長は、今も昔も変わらないですね。ほんと、残念です。」

笹原「中学の頃からこれだなんて...凪先輩、可哀想。」

暁「ほんとだぜ。ちなみに、凪先輩の中学時代のお写真ってありますか?」

不知火「キモ...!」

笹原「マジでそれはキモい。」

暁「キモくないだろうが!男だったら、誰だって凪先輩の過去のお姿が気になるもんだろ!!なぁ、立花!?」

不知火「キモ。土に埋まれ。」

立花「夏帆先輩、僕が答える前に発言するのやめてください。」

百瀬「そんな気になります?私の中学時代。」

暁「なりますなります!超気になります!!」

百瀬「別に、写真くらい見せてもいいですけど。」

暁「本当ですか!?いやっふぅ~~!!今日は最高の一日だぜぇ~~!!」

百瀬「でも、タダで見せるのは面白くないので...今から私と遊んで、勝ったら見せてあげますね。」

暁「おっ、いいですね!やりましょうやりましょう!!」

百瀬「うふふ、決定ですね。では、部長は私チームですよ。」

五十嵐「ん?俺?まぁ、いいけど。」

暁「んじゃ、こっちはーーー」

笹原「私は、凪先輩チーム~~!」

暁「なっ!?と、冬華、どうしてだ!?どうして俺を裏切る!?お前も、凪先輩の中学時代が見たいだろ!?」

笹原「私は写真よりも、あんたの邪魔がしたいで~す!なので、凪先輩チームで~す!」

暁「くっ...!絶対に負けられない戦いだというのに...!まぁ、いい...お前がいなくとも、俺には頼れる仲間が他にもいるからな!!」

不知火「私、参加しないから。」

暁「夏帆ちゃんや、俺のチームに入って勝ったら、ゲームソフト一個買ってあげる。どう?」

不知火「あんたたち、手ぇ抜いたらただじゃおかないからね?」

暁「よっしゃぁぁ!やってやるぜ!!」

立花「そこまでして見たいんですか、暁先輩...。」

笹原「流石に引いたわ...。」

百瀬「うふふ、楽しみですね~。」

五十嵐「んじゃまぁ、今日も今日とて、遊びますか~!」

全員「おぉ~~!!」



ーーー



 学校指定のジャージに着替えてテニスコートへと移動してきた立花たち。先にコートで待っていた五十嵐と百瀬は、なぜかテニスウェアに袖を通していた。


五十嵐「んじゃ、ルール説明しま~す。本日は、テニス部がお休みということで、コートお借りしてテニスしま~す。後片付けは、しっかりやるようにお願いしま~す。」

五人「は~い。」

五十嵐「基本的なルールは、通常のルールと変わりませ~ん。違うのは、三人同時にコートに入るのと、サーブは一人二回やったら交代です。わかりましたか~?」

五人「は~い。」

五十嵐「ボールは、硬式は硬いので柔らかいゴムのボール使いま~す。いわゆる、ソフトテニスで~す。先に6ゲーム取ったチームの勝ちで~す。」

五人「は~い。」

五十嵐「質問ある人~?」

笹原「はい!」

五十嵐「どうぞ~。」

笹原「なぜお二人は、テニスウェア着ているんですか!?」

百瀬「テニスやるということで、お友達に借りてきました~。」

五十嵐「形から入るタイプなんです、俺たち。」

笹原「それなら同じチームの私にも言ってくださいよ!一人だけ省かれてるみたいじゃないですか!?恥ずかし!一人だけジャージで、なんか恥ずかし!!」

暁「よっしゃお前ら!絶対に勝つぞ!!」

不知火「いやいやいや、テニスでこのメンツは無理でしょ。やる前から負け決まってるもんでしょ。」

暁「何言ってんだ、夏帆!やる前から諦めんじゃねぇ!!ちなみに、テニス経験ある人~?」

立花「僕、そこそこやってましたよ。中学は帰宅部だったんですけど、うちのテニス部めちゃくちゃゆるゆるだったんで、一緒に練習混ぜてもらったりして遊んでました。」

暁「あ~立花がテニス、っぽいわ~。」

立花「なんですか、っぽいって?」

不知火「モテたいからってテニスしてそうだわ~。」

立花「その理由でテニスやる中学生、なかなかいないと思いますよ。ちなみに、お二人は?」

暁「俺、野球部。冬華はバレー部。」

不知火「私、帰宅部。」

立花「あぁ~っぽいわ~。」

五十嵐「ちなみに、俺も帰宅部!」

百瀬「私も、帰宅部ですよ~。」

立花「帰宅部率高すぎませんか?中学で帰宅部って、結構レアでしたよ?」

暁「つーことは、テニス経験者は立花だけってか!こりゃ、勝ったも同然だな!!」

不知火「何浮かれてんのよ?地味男なんて、期待するだけ無駄よ。」

立花「めちゃくちゃできるとこ見せつけますので、しっかり見ててくださいよ。」

笹原「んじゃ、私からサーブ!いきま~す!」

暁「一発目、任せたぜ経験者!!」

立花(まぁ、遊び程度と言っても、そこそこ練習混ぜてもらってたし...この人たちよりはできる自信はーーー)

笹原「ふんぬぅぅ!!」


 勢いある掛け声と共に、振り抜かれるラケット。ボールは凄まじい勢いのままネットを超え、経験者がラケットを振りかぶる前に地面を跳ね上がり、後方へと飛んでいく。


立花「...え?」

笹原「おっしゃぁ!サービスエース!!」

五十嵐「ナイッサー!冬華!」

百瀬「ナイスで~す!」

暁「なにやってんだ、立花ぁぁぁ!!」

不知火「ふっ...!やっぱ地味男は口だけの男。役立たずね。」

立花「いやいやいや、いやいやいやいや!なんですか、今のサーブ!?早っ!?早すぎません!?経験者、一歩も動けずですよ!?冬華先輩、バレー部だったのでは!?」

笹原「バレーのサーブとテニスのサーブって、なんか似てない?」

立花「似て非なるものですよ!!その感覚で、アレですか!?僕の練習、なんだったの!?一瞬で自信が崩れ落ちていったんですけど!!」

不知火「一瞬で自信を打ち砕かれる地味男、最高に面白い。ざまーみろ。」

暁「やはり立花は立花だったか...!これだから、立花は...!」

立花「今これ、3対2対1やってます!?どこにも僕の味方いないんですけど!?」

暁「どけ、立花!お前には、もう頼らん!!俺は、俺の手で勝利を掴み取る!!」

笹原「んじゃ、いきま~す!」

暁(冬華のサーブは、確かに早い。が、ただ早いだけ...!一度見てしまえば、怖いものなど何もない...!)

暁(...目の前の凪先輩、とても可愛い。テニスウェア凪先輩、めちゃくちゃ可愛い。そして、改めて思う...凪先輩のおっぱい、めちゃデカーーー)


 暁の顔面に、ボールがうなりをあげて食い込む。


立花「暁先輩ぃぃぃぃ!!」

笹原「よしっ。」

五十嵐「ナイッサー冬華!」

暁「ナイスじゃねぇよ!どこ打ってんだ、お前は!?」

笹原「よそ見してるあんたが悪いんでしょ。はい、次は凪先輩ですよ~。」

笹原「ありがとうございます、冬華ちゃん。」

暁「あのやろう...絶対に許しはしない...!」

立花(この流れだと、凪先輩もとんでもサーブしてきそう...。)

百瀬「では、いきま~す。え~い。」


 ポンと当てただけの打球は、大きく山なりを描きながらゆっくりとネットを超える。


立花(よかった、凪先輩はちゃんと初心者っぽい。あれなら遅いし、誰でも返せるーーー)


 地面に着地し、ゆっくり大きく跳ね上がるボール。不知火は、ボールめがけて勢いよくラケットを振り抜くーーーが、ブォン!と力強い音だけを残し、ボールは点々と地面を転がっていく。


不知火「......。」

暁「何やってんだ、夏帆ぉぉぉぉぉ!!」

不知火「......。」

暁「なぜラケットを見つめている!?悪いのはラケットではない!お前だ!お前の実力だ!!道具のせいにするなぁぁぁ!!」

立花(よくよく考えたら、夏帆先輩ってゲーム好きの超インドア派人間だから、運動できなくても不思議ではないんだよな...。)


立花(M)このメンツで対等に戦えるわけもなく、あっという間に3ゲーム取られました。


暁「ターーーイムッ!!作戦会議!お前ら、集合ッ!!」

不知火「なによ?」

立花「作戦立てたところで、どうにもならないと思いますよ?」

暁「落ち着け。まずは状況の整理だ。今、俺たちは3ゲームを連取された。その原因は、なにか? 俺、立花は、まぁ上手くやれてる。こいつだ。このお荷物だ。このお荷物が全てをダメにしている。このお荷物ちゃん、キングオブお荷物ちゃんがだ。」

不知火「次、お荷物って言ったらぶん殴る。」

暁「そして、次はお荷物ちゃんからのサーブだ。お荷物ちゃんのサーブは、奇跡的に入った一回を除き全滅。つまり、次の二回も全滅の可能性大...いや、100%全滅だろう。」

不知火「......。」

立花「あだだだだだ!?なんで僕の腕をつねるんですか!?やるなら暁先輩...あだだだだだだ!?」

暁「このままでは、確実に負ける...!が、安心しろ、お前たち。まだ、勝機はある...!」

立花「どこをどう見たら、そんな勝機があるんですかぁぁぁ!?というか、まずこの人止めてくださいぃぃぃぃ!痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!」

暁「思い出せ、お前たち...!このテニスというスポーツは、相手にボールをぶつけても点が入るスポーツだ。」

不知火「そういや、あんたにノーバウンドでぶつかっても向こうに点入ってたわね。」

暁「つまりは、こうだ...! 夏帆、部長めがけて思っきしサーブ打て。」

立花「真面目な顔でなんつーこと言ってんですか、あんたは?」

不知火「それで当てられるのなら、今頃やってるわよ。」

暁「大丈夫だ、夏帆。いいか、よく聞け?あそこに突っ立てる男は、部長ではない...立花 涼介だ。あそこにいるのは、立花 涼介...地味男だ。こう思えば、簡単にぶつけられるだろ?」

不知火「......!」

立花「なんで「その手があったか!」みたいな顔してんですか、夏帆先輩!! つーか、本人目の前によくそんなこと言えるな!?」

五十嵐「お~い、いつまで作戦会議してんだよ~?どうせ作戦立てたところで、勝てっこないんだからさ~。さっさと始めようぜ~落ちこぼれくんたちよぉ~。今のゲームカウント教えてあげまちょうかぁ~?3-0でちゅよ~3-0~!ぷ~くすくすくす!情けないねぇ~君たちぃ~!」

立花「あの、別に僕に置き換えなくてもいいんじゃないですか?そのままでもムカつきますよ?素であれですよ?僕以上にムカつきますよ? 夏帆先輩、部長にぶつけてください。部長に。」

暁「まだまだ勝負はこっからじゃ!!いけっ、夏帆!!」

五十嵐「どうせ夏帆ちゃんはサーブ入んないって~。さっさと別の人に変わった方がーーー」

不知火「くたばれ、地味男ぉぉぉぉぉ!!」

立花「あれプラスしても、まだ僕の方が上なのぉぉぉぉ!?」

五十嵐「は?おぶふぅぅ!?!?」

不知火「よし。」

暁「ナイスサー、夏帆!!」

立花「ナイスですけど、僕とても複雑です!!」

五十嵐「あ、あのやろう...!」

笹原「さぁ、次次!」

百瀬「切り替えていきましょ~!」

五十嵐「少しくらい心配してくれないの、君たち...?」


暁(M)地味男効果をこれでもかと受けた夏帆は、サーブ以外でも活躍し...。


不知火「くたばれぇぇぇ!!」

五十嵐「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


立花(M)あっという間に3ゲーム取り返したが、凪先輩チームも黙ってやられるわけもなく...。


笹原「この、クソがぁぁぁぁ!!」

暁「だぁぁぁぁぁぁ!?!?」


立花(M)気づけば、ゲームカウント5-4と、思ってた以上に白熱した試合となっていた。そして...。


笹原「せいやぁぁ!!」

不知火「くっ...!」

笹原「よっしゃぁぁ!マッチポイントォォ!」

百瀬「ナイスレシーブです、冬華ちゃん!」

五十嵐「あの、あなたたち...喜ぶ前に、心配して...!俺のこと、心配して...!」

不知火「おい秋斗、いつまで寝てんのよ?」

立花「早く立ってください、暁先輩!」

暁「俺たち、テニスしてるんだよね...?テニスって、こんな身体ボロボロになるスポーツだっけ...?俺たちは、今何をしているの...?」

笹原「次は、凪先輩のサーブですよ!これで決めちゃってください!」

百瀬「任せてください!」

不知火「地味男、ミスしたらどうなるかわかってんでしょうね?」

立花「言われなくても、わかってますよ。」

立花(凪先輩のサーブは、初心者丸出しの超ゆるゆるサーブ...!あんなの、返せないわけがない...だからこその、めちゃくちゃに緊張する!!)

立花(もしあのサーブでミスをすれば、袋叩きにあうのは間違いない...!経験者とか調子こいたこと言っといて、あの初心者丸出しサーブでミスるとか、笑い者もいいところ!絶対に夏帆先輩のネタにされる!卒業まで...いや、卒業以降も僕は笑い者だ...!そ、それだけは避けなければ...それだけは...!)

暁「退いていろ、立花。俺がやる。」

立花「あ、暁先輩...!」

暁「これは、俺の勝負だ。俺と凪先輩の勝負なんだ。だから、邪魔をするな。」

立花「...任せて、いいんですね?」

暁「もちろんだ。大船に乗ったつもりでいろ。」

暁(ゲームカウントは5-4。そして、相手のマッチポイント...これをミスれば、敗北...。)

暁(だがしかし、決めればデュースとなり、相手としてはまた追いつかれたことになる。3-0という楽勝ムードから追いつかれ、さらにまた追いつかれる...焦りが生まれないはずがない。だからこそ、ここで叩く...!!ここでレシーブ一発で仕留めれば、流れは完全にこちらに傾く!そして、その傾いた勢いそのままに、俺たちが喰らう!お前たちを!!)

暁(俺は勝つ...絶対に勝つ...!そう、勝つのは俺だ...勝つ自分を想像しろ...勝つ自分だけを信じろ...!!俺は、勝つ...勝つ...勝つ勝つ勝つ...!)

百瀬「いきますよ~?そ~れ!」

暁(俺は勝って、凪先輩の写真を見る...!だから、この勝負...!!)

暁「負けるわけには、いかねぇぇぇんだよぉぉぉぉ!!」


 ふわふわと飛んでくるボールにタイミングを合わせ、暁は大きくラケットを振りかぶる。
膝を軽く曲げ、腰を回し、身体全体でボールに勢いを乗せるーーーはずだったのだが、ボールは地面に着地すると、見たこともない軌道を描き、大きく右へと跳ね上がる。
予想だにしていなかった軌道に、暁の身体が即座に対応できるわけもなく、ブォォンッ!と不知火にも負けぬ大きな音を発しながら空気を切り裂いていく。


五十嵐「ナイッサー、凪!!」

百瀬「これで、私たちの勝ちですね!」

笹原「え!?すごっ!めちゃくちゃ曲がった!凪先輩、あれなんですか!?」

百瀬「体育の時、何度か友達と練習してたやつです。ここぞという時に使おうって、今まで隠してました!」

笹原「えぇ、すごっ!私もできるかな!?凪先輩、やり方教えてください!」

百瀬「いいですよ~。部長もやってみます?」

五十嵐「お前よりも大きく曲げてやるよ!さぁ、やるぞやるぞ!」

暁「......。」

不知火「地味男さん地味男さん、さっきの聞きました?」

立花「聞きました聞きました。負けるわけにはいかねぇぇ!とか、めちゃくちゃ熱いこと言ってました。」

不知火「めちゃくちゃ熱いこと言った結果が、これですよ。ダッサ。はっず。」

立花「綺麗な空振りでしたね。今、どんな気持ちなんですかね?何思ってんでしょうね?」

不知火「私だったら恥ずかしくて死ぬわ。恥ずか死ぬわ。切腹ものだわ。」

立花「ですね。今は、そっとしておいてあげましょう。」

不知火「そうね。これ以上は、見てられないわ。」

暁「......。」

笹原「秋斗~そこいると邪魔~。早く退かないと、ぶつかっても知らないよ~?」

暁「...ちくしょう...ちくしょうが...こんちくしょうがぁぁ!!」



ーーー



 後片付けを終えた一行は、下駄箱前の自販機に集まっていた。


百瀬「ありがとうございます、秋斗くん!ごちそうさまです!」

暁「ちくしょう...勝ちたかった...。ってか、本当に飲み物一本だけでいいんですか、凪先輩?」

百瀬「もちろんです。私の写真なんて、それくらいの価値しかありませんし。」

暁「何言ってるんですか!?ご謙遜はおやめください!あなた様の写真なんて、国宝と同じ!国の宝です!飲み物一本で釣り合うものではありません!!家一軒でも足りぬくらいです!!」

笹原「何言ってんだか。」

不知火「マジきもい。」

百瀬「ふふふ、秋斗くんはほんとに面白いですね。では、今日楽しませてくれたお礼に、特別サービスで見せてあげます。」

暁「え!?い、いいんですか!?本当に、いいんですか!?」

百瀬「はい。もちろんですよ。」

暁「よかったぁぁ...!俺、生きててよかったぁぁ...!」

立花「大袈裟ですよ、暁先輩。」

百瀬「でも私、自撮りとかしないからスマホにはないと思うんですよね...。一応探してみますけど。」

暁「待ちます!!いつまででも待ちます!!暁 秋斗、いつまでも待っております!!」

百瀬「あっ、そうだ。部長。」

五十嵐「ん~?」

百瀬「部長のスマホに、私の写真あります?中学の頃の。」

暁「...え?」

五十嵐「あぁ~あるんじゃね?ほら、あいつらと遊んだ時のやつとか。多分探せば......おっ。ほら、あった。」

百瀬「懐かしい~!この頃は、みんなとよく遊んでましたよね~!」

五十嵐「あいつら、お前にすぐ懐いてさぁ~。特に、こいつとこいつ。」

百瀬「久しぶりにまた会いたいな~。」

五十嵐「...ん?あれ?なんか似たようなこと、前にも話したな?」

百瀬「そうでしたっけ?...あぁ、そういえば、そんなこともありましたね。」

五十嵐「いつだっけ?」

百瀬「ここでは言わない方がいいと思いますよ。」

五十嵐「なんで?...あっ、思い出した思い出した。あれだ、あれ。」

百瀬「ふふ...!あれです、あれ。」

立花「部長と凪先輩、昔からずっとこんな感じだったんでしょうね。」

笹原「ね。一緒に遊部なんてわけわかんない部活やるわけだわ。」

立花「でも、冬華先輩たちも負けないくらい仲良いと思いますよ。見てて羨ましいなって思います。」

笹原「そう?まぁ、私たちは向こうと違って幼稚園からの付き合いですからねぇ~。そんじょそこらのやつらとは、年季が違いますわ!ねぇ、夏帆!」

不知火「まぁ、そうね。」

笹原「んで、秋斗くんはなんでそんな微妙な顔してるんですか?私たちと付き合い長いの、そんな嫌なの?」

暁「そうじゃねぇよ。言わせんなバカやろう。」

笹原「なによなによ?言わないとわかんないわよ?ほら、さっさと言え。」

暁「そりゃ、その...好きな人が楽しそうに他の男と話してたらさぁ~...いやでもこんな顔しちまうさ...。」

笹原「あーはいはいそうですねー。可哀想可哀想。」

暁「なんだ、その慰めは!?もっとちゃんと、真剣に慰めろ!」

笹原「真剣に慰めるってなによ!?ってか、なんで私があんたを慰めなきゃいかんのだ!?意味わかんないわ!」

暁「なんでそんな冷たいこと言うんだよ!?俺たち、大がつくほどの親友だろ!? さぁ、可哀想な俺を慰めてくれ、冬華!!今日の俺、心傷つきまくりなんだよ!慰めてくれぇぇぇ!」

笹原「うっさいわ!悪いけど、今日の私はあんたの敵よ、敵!だから近づいてくんな!あっちいけ!」

暁「んな冷たいこと言うなってのぉぉぉ!」

立花「...なんというか、僕たち蚊帳の外ですね。」

不知火「ほんとよ。」

立花「んじゃ、余り物はさっさと帰りますか。」

不知火「そうね。」

立花「あっ、そうだ。夏帆先輩、今日はゲーム一緒にします?」

不知火「どっちでもいい。」

立花「んじゃ、帰って準備できたら連絡します。あっ、そうそう!夏帆先輩、昨日の忍々堂ダイレクト見ました!?」

不知火「見ないと思ってんの?」

立花「ドラゴンハンター、新作ですって!夏帆先輩、買います!?」

不知火「買わない理由、ない。」

立花「ですよね!?買ったら一緒にやりましょうね!!」


 ゲームの話で会話に花を咲かせる二人。そんな二人の背を見つめ、四人は互いに顔を見合わせ小さく微笑む。
四人は立花たちを追いかけることなく、自販機前でしばらく会話を続けるのであった。

























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