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9話 「幸せと不幸せは、紙一重」
しおりを挟む暁「はいはぁ~い。今、開けますよ~っと。」
リビングでダラダラとテレビを見ていた暁は、部屋に響くインターホンの音に反応し、玄関へと駆けていく。
扉を開けると、笹原が半袖半ズボンのラフな格好で立っている。
笹原「よっ! 遊園地ぶり!」
暁「ぶりぶり! 上がれ上がれ。」
笹原「お邪魔しま~す!」
暁「夏帆は、なんだって?」
笹原「疲れたから、今日はやめとくって。もう、寝てるかも。」
暁「まぁ、だいぶギャーギャーしてたからなぁ~。お前は、大丈夫なのか?」
笹原「私は楽しみが爆発して、まだまだ疲れてない! むしろ、遊びたい! だから来ました!」
暁「俺も、同じ気持ちだ! 先、部屋上がってろ~! お菓子と飲みもんとってくらぁ~!」
笹原「へいへ~い!」
笹原(M)私が、こうやって秋斗の家に遊びに来るのは、特別なことでもなんでもない。私たち、幼馴染みにとっては当たり前のことなのである。
暁の部屋で、二人はテレビゲーム(格闘ゲーム)をしている。
笹原「よっしゃぁぁい! 大勝利!!」
暁「クソがぁぁ! もう一回!!」
笹原「おやおや、言い方が違うんじゃないのかぁ~い?」
暁「も、もう一度、対戦してくださいませ!」
笹原「仕方ないのぉ~!」
笹原(M)秋斗とは、小さい頃からずっと一緒だった。お互いに、仲のいい友達というか、双子の兄妹みたいな感じで接してきた。秋斗は高校生になった今も、双子の兄妹のような感覚なんだろう。
笹原(M)私も、彼を兄妹のように思っていた。兄妹のように、ずっと近くで、仲良く...ずっとずっと、一緒にいられると思ってた。
一年前の4月上旬。現在と同じように、暁の部屋で二人はテレビゲームをしている。
笹原「ねぇ、秋斗~。」
暁「なんだ?」
笹原「部活、決めた?」
暁「おう、決めた。」
笹原「え、マジで? どこ入るの?」
暁「「遊部」ってとこ。」
笹原「遊部? あぁ、あのよくわからないところね~。なんで、そこにするの?」
暁「なんで、か...。聞きたいかぁ?」
笹原「早く教えろ、この野郎~。」
暁「仕方ねぇなぁ~! 部活紹介の時さ、部長って言ってた人の隣にいた人、覚えてるか?」
笹原「あぁ、あの胸がデカい人?」
暁「そうそう、お胸がデカい...って、お、お、俺は、そんなやらしい目で見てないんだからね! 勘違いすんなよ!」
笹原「あーはいはい、わかりました。んで、その人がどうしたの?」
暁「...惚れた。」
笹原「...へ?」
暁「俺は、一目であの人に惚れた! だから俺は、遊部に入部する!!」
笹原「......え?」
笹原は、手の動きを止め、テレビ画面から視線を外す。暁も、急に動かなくなったゲームのキャラクターに疑問を持ち、視線を笹原へと向け、不思議そうに見つめる。重なり合う、二人の視線。
暁「冬華、どうしたんだよ?」
笹原「......。」
暁「冬華? おい、冬華?」
暁「おーい、冬華? どうした?」
笹原「ん? ううん、なんでもない。はーい、ゲーム終了~! 次、なにする?」
暁「次は、カードゲームでもすっか?」
笹原「おっ、いいねぇ~。ボコボコにしてやんよ! ってか、カードあんの?」
暁「ふっ、当たり前よ...! ベッドの下に仕舞い込んでるお宝BOXに、たーんまりと入ってるぜ!」
暁は、ベッドの下からダンボールを取り出す。中には遊魔王と書かれたカードが大量に入っている。
笹原「あはは~なっつかし~! 遊魔王やるの、いつぶり? ってか、よくこんなに集めたわね。」
暁「がっつりハマってたからな。お前のカードも、この中に紛れ込んでるぞ。」
笹原「あーそういや、私のカード全部あんたにあげたっけ?」
暁「そうそう。お前は、変な動物みたいなのばっかり使ってたよな?」
笹原「変って言うな。あんたは、よくわかんない機械っぽいの使ってたわよね。」
暁「よくわかんないって言うな! 機械には、男のロマンが詰まってんだよ!」
笹原「はいはい。じゃあ、私はロマンを求めちゃおうかなぁ~?」
暁「じゃあ俺は、動物カード集めましょうかね~!」
笹原(M)中学の時まで、ずっと隣を歩いていた彼は...高校生になると、前へ走って行ってしまった。私は、置いていかれるのが嫌で...隣にいたくて、一生懸命走った。
笹原(M)その時、気付いたんだ。私が彼に抱いている「好き」という感情は、そういうものなんだって。
笹原(M)私は、彼のことを兄妹として見ていなかったんだって。
笹原(M)彼に合わせて、そう見ていたように思っていただけなんだって。
笹原(M)嫌われたくない。ずっと一緒にいたい。だから私は、合わせていたんだ。そうすれば、ずっと一緒にいられるって思い込んでたから。
笹原(M)でも、彼が私のそばから離れて行って...隣に居なくなって...合わせる人がいなくなって...自分の本当の気持ちに、気づいてしまった。
笹原(M)それからは、楽しくも辛い日が続く。彼の隣にいる幸せな時間が、苦痛な時間にもなる。
笹原(M)気付きたくなかった。こんなに苦しい思いをするのなら、気付きたくなかった。
笹原(M)でも、私はもう小さい子どもじゃない。だから、知っている。知ってしまった。幸せになるためには、苦しいことも経験しなきゃいけないって。
暁「おっ! 」
笹原「どったの?」
暁「ほら、機械デッキのキーカードだ! 大切に使えよ!」
笹原「サンキュー!」
笹原(M)彼の笑顔を隣で見続けるためには、苦しい試練を乗り越えて行かなければいけないんだって。
笹原(M)私が、幸せになるには...。
笹原「おっ!? 強力魔術カードを手に入れました! いや~これは勝ったも同然ですわ~!」
暁「おい、待て待て! そのカードを先に見つけたのは、俺だぞ! よこせ!」
笹原「嫌で~す! 欲しかったら、力づくで奪ってみなさ~い!」
暁「ほほぉ...俺様と力比べをすると?」
笹原「ん? え? マジでくるの?」
暁「俺様を怒らせたこと、後悔させてやるわぁぁぁ! さっさとカードをよこせ! こしょぐるぞぉ!?」
笹原「これは、我がデッキのキーカードだ! 渡すわけないだろうが~!」
暁「ほ~れ! こしょこしょ攻撃じゃぁ~!」
笹原「おい、こら! やめろ、変態が~! あ、あはははっ! やめろってばぁぁ~!」
笹原(M)私が自分の気持ちに気付いて、一年が経った。たまに、ふと思うんだ。
笹原(M)本当に彼のことが好きなら...彼の恋を、応援してあげた方がいいんじゃないかって。
笹原(M)私の幸せは「幼馴染」なんじゃないかって。
笹原(M)彼にとっても、私にとっても...今が一番幸せなんじゃないかって...。
笹原「ぬおぉぉ!?」
カードを取られまいと、必死に抵抗していた笹原だったが、バランスを崩し、暁に押し倒されてしまう。
暁「はっはっは! さぁ、大人しくカードを渡すのだ!!」
笹原「......。」
逃さまいと、笹原の両腕を暁はガッチリと握りしめる。笹原は身動き一つせず、ただただ近い暁の顔をジッと見つめている。
暁「ん? どうした?」
笹原「あ、い、いや、え、えっと...そ、その...!」
暁「隙ありっ!」
笹原「あぁ!?」
暁「はっはっは! 隙を見せたお前が悪い! 恨むなら、自分を恨むんだなぁ!」
笹原「あぁ、もぉぉぉ! バカ! バーカ!!」
暁「そんな怒んなって。次、強いカード見つけたらお前に譲ってやるからさぁ~。」
笹原(M)私たちが付き合っても、今となにも変わらない気がする。だったら...もう、幼馴染でいいのかな...?
暁「よし、デッキ完成!」
笹原「私も、完成!」
暁「では...いざ、勝負!の前に、トイレ行ってくらぁ~。」
笹原「はいよ~。」
暁「俺のデッキにさわんなよ。」
笹原「触るか、バカ。さっさと行ってこい!」
暁「へいへい。」
部屋の扉が、ゆっくりと閉まる。笹原はゴロリと床に寝転がると、真っ赤に染まっていく顔を、両手で隠す。
笹原「あぁ~~もう! バカバカバカバカ...! 秋斗のバカァ...! 私たち、高校生だぞ? 二年生だぞ? 夜にさ、男女二人っきりでさぁ...押し倒されてさぁ...。そんなん、ちょっぴりと期待しちゃうじゃんかぁ...。あぁ、バカバカバカバカ......夢見んなよ...自分の、バカァ...。」
笹原(M)あぁ...私は、私は...あんたと、幸せになりたいよ...。
暁「お待たせぇ~! ついでに、お菓子の補充もしてきてやったぞ~! 感謝したま...って。」
笹原「(寝息)」
暁「おいおいおい、これから勝負だってのに...。おーい、冬華~。」
笹原「うぅ~~ん...。(寝息)」
暁「ダメだ、こりゃ起きねぇやつだ。まぁ、もう0時過ぎてるしなぁ~。仕方ねぇか。」
暁「おい、冬華。寝るなら布団で寝ろ。床は硬いだろ~。冬華~。」
笹原「(寝息)」
暁「やれやれ...。優しい優しい俺様が、ベッドまで運んでやる。感謝しろよっと。」
暁は、軽々と床で寝そべっている笹原をお姫様抱っこする。幸せそうに眠る幼馴染の顔を、じっと静かに見つめる。
暁「......デカくなったなぁ。お前も、俺も。」
暁「おやすみ、冬華。」
暁は笹原をベッドに寝かせ、丁寧に布団を被せると、電気を消し、静かに部屋の扉を閉め出ていく。
笹原(M)夢を見た。遊園地に遊びに行く夢。
笹原(M)大きな大きなお城の前で、秋斗と二人...ギュッと、手を握って......そして......。
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