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第22話:ティーパーティに向けて

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 丁度、ライラがリゼへと最後の一撃を放った瞬間。

 見学していたアレシアが愉快そうな表情を作り、涼しい顔をしているレヴへと視線を送る。

「あれは……ね。なるほど、磁力を操れる魔女にうってつけの武器だわ。誰の入れ知恵かしら?」
「さあ?」

 とぼけるレヴだったが、最近赴任してきた〝暗殺術〟の教師であるエイシャの部屋に彼とライラが出入りしていることを、アレシアも把握済みだった。

 武器作成さえもこなすあの教師の部屋なら――鋼の材料となる砂鉄ぐらいいくらでも手に入るだろう。

「竜脈型魔術で、家柄と素質は保証済み。磁力で操った砂鉄は盾にも矛になり、彼女の磁力圏内はまさに絶死領域――負けは必須。君でも苦戦するんじゃない?」

 アレシアがそうレヴを挑発する。

「どうかな?」
「ふふふ、まあいいや。でもこれで、ようやく〝イレブンジズ〟の席が空いたね」
「まあね。ライラには感謝しかない」

 アレシアはレヴの言葉に何も返さず、試合が終わり、姉を助け起こすライラを見下ろす。

 そしてレヴに背を向けたまま、こんな事を言った。

「ま、こんな〝お茶会〟……

 その言葉を受け、レヴがアレシアの背中を睨み付けた。

「それはどういう意味?」
「確かに〝イレブンジズ〟の席は空いた。でも私はね……リゼもそうだけど、〝夜庭園ガーデン〟の理念を馬鹿にしたような現〝イレブンジズ〟が気に食わなくてね。だから――ライラちゃんが勝とうが負けようが、〝イレブンジズ〟を総入れ替えしようと思っていたの」
「総入れ替え……そんな権限あるのかよ」

 いくらなんでも、〝ナイトキャップ〟に権利ありすぎない? と思うレヴだったが、アレシアが前を向いたままそれに答えた。

「いいえ。でも、それに近しいことはできる」
「近しいこと?」
「そう。きっと……君も気に入ると思う」

 そう言って、アレシアがパチンと指を鳴らした。

 するとこの部屋の扉が開き、月の仮面と竜の仮面を被った生徒が入ってくる。

 アレシアが両手を広げ、言葉を紡いでいく。

「全〝夜庭園〟の魔女に通達――〝ナイトキャップ〟の権限を行使し、〝イレブンジズ〟の席を賭けた……〝ティーパーティ〟の開催をここに宣言する。開催日は次の満月。皆様……こぞって参加してくださいね」

 その言葉を一字一句漏らさずに紙に書き始める仮面を被った生徒達。

 その紙はやがて鳥となり、さらに無数に分裂していき、あっというまに群れとなって明け放れた窓から夜空へと羽ばたいていく。

「何を企んでいる」

 レヴがアレシアにそう問うも、答えが返ってこないことは分かっていた。

「企むだなんて……人聞きが悪い。私はただ、君に興味があるだけ。ああ、そうそう。これは秘密だけど、一つだけ教えてあげる」

 そんな言葉とともに、振り返ったアレシアがレヴへと妖しく微笑んだ。

「〝ティーパーティ〟には、ジリス先生も参加するよ」

 それは――悪魔の誘いだった。

***

 翌日。
 レヴとライラが、いつものように自室のソファで座って喋っていた。その前にミオが器用に宙に座りながら浮いている。

「いやはや、今代の〝ナイトキャップ〟はなかなかに派手なことをやる」

 ミオが楽しそうにそう言うので、レヴが眉をひそめた。

「派手なのはいいけども意味が分からない。そもそもティーパーティってなんだよ」

 その疑問にミオが得意気に答える。

「私の記憶が正しければ、最後にティーパーティが行われたのは二十年以上前の話だ。それぐらいには珍しい」
「で、結局なんなの? お茶会とは何が違う」


 ミオがそう言って、足を組み直す。目の前でわざとやるので、レヴが鬱陶しそうに目を逸らした。

「お茶会はどこまで行っても、一対一の決闘形式だ。まあ何度か二対二の形式もあったらしいが、これは例外中の例外だ。だけど、ティーパーティは違う。文字通り――なのさ。招待客の数に制限はなし。つまりやろうと思えば、〝夜庭園ガーデン〟全員が参加できる」
 
 その言葉に、ライラが目を丸くする。レヴはそれとは逆に、スッと目を細めた。

「全員? でもそんなことをしてどうする気?」

 ライラが当然の疑問をミオへとぶつけた。多数が参加したとしても、どう決着を付けるかが分からなかった。

「ティーパーティにルールはない。逆に言えばなんでもありとも言う。ルールは当日に開催者が発表するけど……今回は少なくとも、勝者が十一人決まるのは間違いない」
「……そうだね」

 レヴが相づちを打つ。確かに、アレシアはこう言ってた――〝イレブンジズを総入れ替えする〟、と。

「おそらく今回のティーパーティで勝った十一人が、次の〝イレブンジズ〟となる。そういう戦いになるだろうね」
「……ええ!? それって……」

 露骨に落ち込みはじめるライラを見て、ミオが意地悪そうな笑みを浮かべた。

「君の決闘はまあ、無駄だったわけだ!」
「そんなことはない」

 楽しそうなミオに、レヴが即座に言葉を返す。

「ライラは強くなった。無駄だったことなんて何一つない。それに、もしティーパーティが複数戦を想定しているなら……僕にとっては心強い味方となる」

 レヴが頷きながら、ポンとライラの肩に手を置いた

「……私、ティーパーティに参加するなんて一言も言ってないんだけど!?」

 途中まで泣きそうになっていたライラが、眉をつり上げる。

「ありがとう、ライラ。助かるよ」

 レヴは聞いていないふりをして、ライラの手を取った。お願いのポーズ付きで。

「僕と一緒に参加してくれるよね、ね?」
「うー……そんな顔でお願いされたら断れないよ……」
「よし。一人味方確保」

 あっけなく手を離したレヴを、ライラが恨みがましい目で見つめた。

「釈然としない……」
「まあまあ、いいじゃないか! 二人とも勝てばイレブンジズ入り確定だ。これからの学園生活のためにも頑張りたまえ。それと私の目的のためにもな!」

 ミオの言葉にレヴが渋々頷く。

「しかしどういう勝負か分からないとなると、対策しようがないね」

 決闘であれば相手を調べるとかそういうことができるが、今回は誰が参加するかも分からず、さらにどんな勝負内容なのかも不明だ。

 しかしそれを読んだか、ミオが得意気な表情を浮かべた。

「そうでもないさ。十一人の勝者を決めるやり方なんて、そういくつもあるもんじゃない。総当たりもトーナメント方式も、時間が掛かりすぎて無理だろうし、もっと分かりやすい方法のはずだ」
「つまり?」
「簡単さ。参加者全員を同じ場所に集めての……さ。規定時間までに生き残った十一名が勝者となる」
「確かに……分かりやすいね」
「ううう……一人が相手でも精一杯なのに、乱闘なんて無理だよお」

 ライラが弱気な発言をして、俯いてしまう。姉との決闘で一皮剥けたのは間違いないが、本来の弱気な性格が変わったというわけではなさそうだった。

 でもレヴはそれでいいと思っていた。
 ライラには人を傷付けるような戦いに、自ら望んでいくような魔女になって欲しくないからだ。

「大丈夫。僕もいるし、他にも声を掛けたら助けてくれそうな子は何人かいる」

 レヴがそう言って、悪い笑みを浮かべた。

「ふふふ、君も悪党だねえ」

 その意図を見抜いたミオも同じような笑いを浮かべる。

「どういうこと?」
「勝者は十一人。しかも〝夜庭園ガーデン〟の本来のルールを無視して、いきなり〝イレブンジズ〟に入れるチャンスだ。声を掛ければ、協力してくれる子は必ずいる。例えば、〝ファイブ・オ・クロック〟という地位にいながら、せいで、最下位に落ちた魔女とか――」

 レヴの言葉にミオが続く。

「――とか。勝者の枠が一つしかないなら協力しようがないが、十一もあるなら、事前に協力体制を築けるという話なんだよ。だから、ティーパーティはもう始まっていると言っても過言ではない。どれだけ仲間を用意できるか否かで勝敗が決まる……かもしれない」
「なるほど!」
「とりあえず、僕とライラは確定。最低でもあと三人か四人は欲しいな。それに……僕は最悪、イレブンジズに入れなくてもいい」

 レヴが暗い炎を瞳のなかで燃やしながらそんな言葉を吐いた。

「それはどういう意味だい? 君はジリスとの決闘をするために、〝イレブンジズ〟に入りたいんだろう?」

 ミオが理解できないとばかりにそう問うた。

「その必要がなくなったからだよ。ティーパーティには――ジリスが参加する」
「……はあ?」
「えええ!?」

 ミオとライラがそれぞれ、驚きの声を上げる。それはそうだろう。お茶会やティーパーティはあくまで生徒同士で行うものであって、教師が参加する例などミオが知る限りこれまでなかった。

「主催者がそう言っていた。そんな嘘をつく理由が僕には分からないし、本当のことを言っていると思う」
「そりゃあそうだけども……」
「じゃあ、レヴ君は……ティーパーティでは、ジリス先生を?」
「うん。あいつとさえ戦えればいい」

 レヴの言葉を聞いて、ミオとライラが顔を見合わせた。

「そうなると……いや、それでも、と言うべきか。間違いなく他の生徒が邪魔だし、力を温存するには、代わりに戦ってくれる仲間が必須だ」
「うん。だから改めてライラにはお願いしたんだ。僕と一緒にティーパーティに参加してくれないか?」

 レヴにまっすぐに見つめられ、ライラはすぐに頷いた。

「分かってるよ。レヴ君にはいっぱいお世話になっているから」
「ありがとう。あとは……」

 レヴは脳内で、協力してくれそうな生徒の顔を思いうかべた。明日、早速声を掛けてみよう。

「さて……当日はどうなるかな」

 いずれにせよ――そこで全てが決まる。

 そんな予感が、レヴにしていたのだった。
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