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第15話:引き金
しおりを挟む「今のは……磁力操作!?」
「正解。ライラが銃弾に込めてくれた魔術である磁力操作を、そんなものは一切使えない僕が発動させた」
「信じれない……」
魔術は魔女の数だけあると言われ、どの魔女も基礎魔術を自分独自の魔術へと改良していく。だから同じ爆発の魔術でも、イクスとエクリシスでは全く別物であり、それと同様に、ライラの磁力操作もまた彼女独自のものだ。
それをレヴがいとも簡単に発動させてみせた。
「こいつは〝魔封弾〟といってね。銃弾自体としてはあまり有用なものじゃない。至近距離で当ててようやく多少のダメージを与えられる程度だよ。だけど本来の機能は、魔術の封印と解放なんだ」
そんなレヴの説明に、ライラは驚くしかなかった。
「魔術の……封印と解放。そんなことが可能だなんて」
「とはいえ、色々と準備はいるけどね。この銃弾を作れるのも今のところエイシャしかしないし。それに事前に魔術を封印する必要がある。だから普段は自分の魔術を封じて使っているよ」
「自分の魔術を?」
でも、それに何の意味があるのだろうか? そうライラは疑問に抱いてしまう。
それを察したレヴが笑みを浮かべる。
「そういえば気付いた? 今魔封弾で発動させたライラの魔術って……一切エーテルに干渉にしてないんだ。つまり、現象としては銃を撃っただけ。なのに魔術を発動出来た」
「それって……あ、クラス分け試験の時の!」
レヴがクラス分け試験の時、明らかに回避不可能なユーレリアの魔術を防いだのにもかかわらず、魔術を使っていないと評価されたのは――この魔封弾を使ったからだということにライラが気付く。
「この魔封弾はね、魔術そのものを封じているんだ。つまり、魔術を封印する段階ではエーテル干渉は必要だが、一度込めてしまえば――どこでどう解放しようが、エーテルは一切干渉しない」
レヴの説明にライラが何度も頷いた。
「凄い……しかも引き金を引くだけで発動できるから、本来なら発動に時間が掛かる魔術もすぐに発動できる!」
「その通り。だから使われた相手からすればわけが分からないのさ。エーテル干渉もなく魔術を使い、しかも発動時間はほぼゼロに近い。さらに協力者がいれば、さっきみたいに使えない魔術だって使えるという風に偽装できる」
そうレヴがライラへと言ったが、その本来の目的は語っていない。
彼が扱う魔術は強力であるがゆえに、その代償が大きかった。ゆえに、戦闘中にその代償を払うリスクを取るより、事前に魔術を使って込めておく方が、戦闘中は少なくとも負担にはならない。
この魔封弾は代償なしには魔術を扱えない、レヴを補助する為にエイシャによって発明されたものだった。
レヴは、ライラに彼の魔術に代償があることを、無意識のうちに隠そうとしていた。
その理由は、彼にも分からない。
「そんなことができるなんて」
「ま、そういうわけだからさ、ライラにもちょっと協力してほしいなあって」
「協力?」
「さっきみたいに磁力操作の魔術をいくつか込めてほしいんだ。もちろんタダとは言わない」
それこそが、レヴがわざわざライラをここに連れてきた理由の一つであった。
磁力操作の魔術はシンプルだが、応用が効く魔術だ。奥の手の一つとして持っておきたいと考えていた。
「それはいいけど……じゃあ、私の質問にレヴ君が答えてくれたら、やってあげる」
ライラがレヴをまっすぐに見つめた。その目には、嘘を許さないという強い意思が含まれていることを、嫌でもレヴは気付かされた。
「答えれるものならね」
「レヴ君がこの学園に来た目的は何? ただ凄い魔女になりたいとか、勉強しに来たとか、親や家族に一人前と認めて欲しいからとか、そういうのじゃないよね」
そのライラの鋭い質問に、レヴもエイシャも驚いていた。
「……ふふふ、やっぱりライラは凄いよ」
レヴが微笑みを浮かべながら、ムーンハウルを握る手に力を込めた。
もしかしたら……ライラは何かを察したのかもしれない。自分が男で、暗殺者であると気付いたのかもしれない。
だとすれば――始末するしかない。
ここならエイシャがいる。死体を処理することも簡単だろう。
エイシャもそれを察したのか、視線を送ってくる。
「ライラ、それはね――」
その言葉と共に――レヴが笑顔で引き金を引いた。
***
「え?」
レヴが跳ね上げたムーンハウルから放たれた銃弾が――ライラの横を通り過ぎて、部屋の出入り口となっている扉へと命中する。
「盗み聞きは良くないなあ」
レヴがそう扉へと声を投げると、銃弾が当たって僅かに凹んだ扉がゆっくりと開いた。
「盗み聞きだなんて……言い掛かりですね」
そこから入ってきたのは、薄い緑色の髪をサイドテールにした少女――〝イレブンジズ〟のリーダー、リゼだった。
「お、お姉ちゃん!?」
ライラがリゼを見て、そんな声を思わず上げてしまう。
まさか、こんなところで出会うとのは思ってもみなかった。
手が……自然と震えてくる。
「ふーん、あれがね」
レヴがライラの様子がおかしいことに気付くも、リゼから視線を外さない。リゼとライラは流石終いだけあって顔がよく似ているが、纏っている雰囲気が違った。
リゼはこの状況でなお微笑みを浮かべているが、僅かに悪意と敵意が漏れ出ている。
「エイシャ先生。ジリス先生がお呼びですって」
リゼがそうエイシャへと伝えた。どうやら、連絡係を仰せつかっていたようだ。
「ああそうかい。ありがとう、あとで顔を出すよ。まったく……あいつは昔から手紙鳥を使わないからなあ。ご苦労さん」
「はい、それでは」
リゼが何事もなく退室しようとするので、慌ててライラが口を開いた。
「お、お姉ちゃん……!」
しかしまるで聞こえなかったかのように、リゼが扉へと手を掛けたので、再びレヴがムーンハウルを構えた。
彼は気付いていた。この部屋に入ってからリゼは視線を送るどころか、ライラの存在自体を完全に無視していた。まるで、そんな妹なんて存在しないとばかりに。
「あんた、流石に酷いんじゃない? ライラは妹なんでしょ?」
レヴがそう低い声で、リゼへと投げかけた。もし無視すれば、再び銃を撃つと暗に脅しながら。
「はあ……困りましたね。何か勘違いされているようですが、エクリシス程度に勝ったぐらいで調子乗るのはやめてほしいです。〝夜庭園〟の品位が下がる」
振り返ったリゼが笑顔のまま、悪意ある言葉をレヴへと叩き付けた。
「あんたも〝夜庭園〟に入ってるんだ」
「ええ。一応、〝イレブンジズ〟ですが」
「じゃあ丁度良いや、僕と〝お茶会〟を――」
レヴがそう言いかけた瞬間――彼の頬を何かが掠めた。
「私も、そして他の〝イレブンジズ〟も、貴女とは絶対に〝お茶会〟はいたしません。する価値も理由もありませんから。それでは」
そんな言葉を吐いて、リゼが退室した。結局彼女は最後まで、実の妹であるライラと目を合わせすらしなかった。
「ふーん。凄いね」
レヴが自分の頬を撫でつつ、素直にそうリゼを賞賛する。
「っ!? レヴ君! そのほっぺ!」
ライラがそれに気付き、思わず声を出してしまう。
レヴの右頬には確かに、細い、ムカデのような形の火傷ができていた。
「なかなかの魔術精度に速度だ。流石は〝雷下の魔女、ケイラ〟の娘だね」
エイシャがレヴの背後にある壁を見て、感心したような声を上げた。
見れば、壁の一部が黒焦げになって炭化していた。
もしそれが直撃していれば、レヴもただでは済まなかっただろう。
「お姉ちゃん……」
ライラが顔を俯かせて、必死に震える手を抑えようとしている。
「厄介な魔女だね、あれは。どうするんだいレヴ」
エイシャの言葉に、レヴは何も答えることはできなかった。
「さて、どうしようか」
どうやら〝イレブンジズ〟に入るのは相当に難しそうだということに、今更気付いたレヴだった。
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