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10:招待状
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「言っておくけどね、私はあんたの事を認めてないから」
スカーレットの言葉に、後ろの栗毛の子がハラハラしながら、こちらを見つめていた。
「そう。貴女に認めてもらう必要があるとは思えないけど」
つい、言い返してしまうのは私の悪い癖だ。後ろで、アリアが小さくため息をついているのが聞こえた。もちろん、ここはてきとうに謝ってやり過ごす方が賢いのは分かっている。
それが出来るのなら、私だって喜び勇んで社交界に行くよ。
「やっぱり、生意気ね。私にそんな口のきき方する子なんていないわ」
「貴重な経験が出来ましたね。お礼はいらないので、どいて下さる?」
私がそう言葉を返すと、スカーレットが眉間に皺を寄せて、令嬢らしからぬ表情で私を睨み付けた。それ、皺取れなくなるよ?
「あんたに言いたいことがあって来たのだからどかないわよ」
「宣戦布告ならさっき聞きましたけど? そもそも一方的過ぎて会話になっていませんし」
そう私が茶化すと、しかしスカーレットは真面目な顔で、いっそ泣きそうなほどの表情で、私に訴えかけた。
「あんたのせいで……あんたのせいでユリウス様はずっと苦しんでいたのよ! 私は十年間ずっとそれを側で見てきたわ! 私はあんたを許さない。あんたは、いい加減ユリウス様を解放すべきよ。そうやって罪の意識を彼に植えて束縛するなんて……ズルい。だから――あんたをとことん虐めるわ。社交界にあんたの居場所なんてないし、あんたがこの国を去るまでそれを止めない」
……こう、真っ正面から言われると、結構くるものがある。彼女の言い分は言いがかりに近いものだけども、納得できる部分もあった。
でも、なぜだろうか。私は少しだけ、この子の事が好きになった。
だからだろう。私は思わず微笑んでしまう。
「何を笑ってるのよ! 何がおかしいの!」
「スカーレット様は……優しいんですね」
私がそう言うと、スカーレットが顔を真っ赤にした。急に褒められたので、どういう顔をして良いか分からず、彼女は怒っているような笑っているような変な表情になった。それがおかしくって私は余計に笑ってしまう。
「はあ!? 虐めるって言っているのに優しいわけないじゃない!」
「ちゃんと、事前にそうやって言ってくださるからですよ。いきなりであれば、嫌でしょうけど……こうして言ってくださったおかげで、ちゃんと覚悟が出来る状態で臨めますもの。覚悟と度胸があれば……なんとでもなりますわ」
それは、私の亡き母の言葉だ。私は母似なのか、母も決して社交的な性格ではなかった。だけども、彼女は強かった。覚悟と度胸があればなんとでもなると、幼い私にいつも小さく囁いてくれた。
「とにかく、言ったからね! それに竜学院に挑むみたいだけど、無駄よ! だって入学試験に合格できる人なんてこれまでもほとんどいないし、仮に合格しても――私も進学するのだから。あんたの居場所は王宮だろうが竜学院だろうがないと知りなさい! それじゃ! 行くわよリュスカ」
スカーレットは言いたいことは言ったとばかりに、大股で私の横を通り過ぎた。その横顔に未練も後悔も一切なく、いっそ清々しいほどに美しかった。
「あ、待って! え、エステル様、それでは!」
置いていかれた栗毛の少女――リュスカという名前らしい――が律義にお辞儀を私にすると、慌ててスカーレットの後を追いかけていった。
「ふう……だから社交界って嫌いなの」
そんな私の呟きを聞いて、アリアが聞こえるようにため息をついた。
「その理由はなんとなく分かりますが……あまり喧嘩を売るのは控えたほうが」
「あら、あんなの喧嘩でもなんでもないわ。ただのじゃれ合いよ、じゃれ合い。可愛い子じゃない、スカーレット」
「それ、スカーレット様の前で絶対に言わないでくださいね……」
やれやれ。これでまた一つ、私がパーティーやら夜会やらに出たくない理由が出来てしまった。願わくば、ずっとこの図書塔に籠もっていたい。
しかし……そんな私の願いは、一通の招待状によってすぐに砕かれてしまうのだった。
そこにはユリウスの直筆でこう書かれていた。
〝ユリウス第二王子主催――エステル快気祝いパーティ(若者限定!)〟
スカーレットの言葉に、後ろの栗毛の子がハラハラしながら、こちらを見つめていた。
「そう。貴女に認めてもらう必要があるとは思えないけど」
つい、言い返してしまうのは私の悪い癖だ。後ろで、アリアが小さくため息をついているのが聞こえた。もちろん、ここはてきとうに謝ってやり過ごす方が賢いのは分かっている。
それが出来るのなら、私だって喜び勇んで社交界に行くよ。
「やっぱり、生意気ね。私にそんな口のきき方する子なんていないわ」
「貴重な経験が出来ましたね。お礼はいらないので、どいて下さる?」
私がそう言葉を返すと、スカーレットが眉間に皺を寄せて、令嬢らしからぬ表情で私を睨み付けた。それ、皺取れなくなるよ?
「あんたに言いたいことがあって来たのだからどかないわよ」
「宣戦布告ならさっき聞きましたけど? そもそも一方的過ぎて会話になっていませんし」
そう私が茶化すと、しかしスカーレットは真面目な顔で、いっそ泣きそうなほどの表情で、私に訴えかけた。
「あんたのせいで……あんたのせいでユリウス様はずっと苦しんでいたのよ! 私は十年間ずっとそれを側で見てきたわ! 私はあんたを許さない。あんたは、いい加減ユリウス様を解放すべきよ。そうやって罪の意識を彼に植えて束縛するなんて……ズルい。だから――あんたをとことん虐めるわ。社交界にあんたの居場所なんてないし、あんたがこの国を去るまでそれを止めない」
……こう、真っ正面から言われると、結構くるものがある。彼女の言い分は言いがかりに近いものだけども、納得できる部分もあった。
でも、なぜだろうか。私は少しだけ、この子の事が好きになった。
だからだろう。私は思わず微笑んでしまう。
「何を笑ってるのよ! 何がおかしいの!」
「スカーレット様は……優しいんですね」
私がそう言うと、スカーレットが顔を真っ赤にした。急に褒められたので、どういう顔をして良いか分からず、彼女は怒っているような笑っているような変な表情になった。それがおかしくって私は余計に笑ってしまう。
「はあ!? 虐めるって言っているのに優しいわけないじゃない!」
「ちゃんと、事前にそうやって言ってくださるからですよ。いきなりであれば、嫌でしょうけど……こうして言ってくださったおかげで、ちゃんと覚悟が出来る状態で臨めますもの。覚悟と度胸があれば……なんとでもなりますわ」
それは、私の亡き母の言葉だ。私は母似なのか、母も決して社交的な性格ではなかった。だけども、彼女は強かった。覚悟と度胸があればなんとでもなると、幼い私にいつも小さく囁いてくれた。
「とにかく、言ったからね! それに竜学院に挑むみたいだけど、無駄よ! だって入学試験に合格できる人なんてこれまでもほとんどいないし、仮に合格しても――私も進学するのだから。あんたの居場所は王宮だろうが竜学院だろうがないと知りなさい! それじゃ! 行くわよリュスカ」
スカーレットは言いたいことは言ったとばかりに、大股で私の横を通り過ぎた。その横顔に未練も後悔も一切なく、いっそ清々しいほどに美しかった。
「あ、待って! え、エステル様、それでは!」
置いていかれた栗毛の少女――リュスカという名前らしい――が律義にお辞儀を私にすると、慌ててスカーレットの後を追いかけていった。
「ふう……だから社交界って嫌いなの」
そんな私の呟きを聞いて、アリアが聞こえるようにため息をついた。
「その理由はなんとなく分かりますが……あまり喧嘩を売るのは控えたほうが」
「あら、あんなの喧嘩でもなんでもないわ。ただのじゃれ合いよ、じゃれ合い。可愛い子じゃない、スカーレット」
「それ、スカーレット様の前で絶対に言わないでくださいね……」
やれやれ。これでまた一つ、私がパーティーやら夜会やらに出たくない理由が出来てしまった。願わくば、ずっとこの図書塔に籠もっていたい。
しかし……そんな私の願いは、一通の招待状によってすぐに砕かれてしまうのだった。
そこにはユリウスの直筆でこう書かれていた。
〝ユリウス第二王子主催――エステル快気祝いパーティ(若者限定!)〟
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