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【第4章デザート・ナイト・フライト】
72話「デザート・ナイト・フライト」
しおりを挟む「では、第1回どこを攻略するか会議始めまーす」
メンテナンスが終わり、サービス再開した【前々前世オンライン】内の私のマイハウス。
いつものように丸テーブルに私、ミリー、蔵人さん、ユーナちゃんが座っている。
「ストーリークエストを進めるか、新フィールドに行くかのどっちかやなあ」
「俺はストーリークエが良いと思うが。こういうのは一からやっていくタイプでな」
ゆっくりとお茶を飲みながら蔵人さんがそう発言した。うんうん、真面目そうだもんね。それに対しユーナちゃんが返す。
「ユーナは新フィールド派にゃん。行く条件がストーリークエのクリアじゃない以上、経験値効率も素材もしょっぱいストーリーを攻略するのは後でも良いと思うニャン。何より——新フィールド、新要素のネタバレ食らう前に見たいにゃん!」
ユーナちゃんが鼻息荒くそう主張した。私はあんまりネットとかの情報を見ないからあれだけど確かにネタバレされる前に見たい気持ちはわかる。
「あたしもどっちかいうたら先に行きたい派やなあ。Day3のフィールド【宙に沈みし神の山城】はどうもDay2のフィールド【デザート・ナイト・フライト】のクリアが条件っぽいし。新素材やら何やらを先に取っておかんと、うちらも油断できんよ」
「新素材! 欲しい!」
どんな武器や防具が作れるんだろう……ワクワク。
「それは一理あるな。ストーリークエをクリアしている間にレベルも装備の質も追い抜かれる可能性はある。まあそれでも——負ける気はしないが」
不敵に笑う蔵人さんに同調するように頷くミリーとユーナちゃん。
「じゃあ、新フィールド行きで良いかな?」
「おっけー」
「それでいいにゃん」
「了解だ」
こうして私達は装備やアイテム、イベント中に上がったレベルで得たステータスポイントの割り振りなどの準備を整えて——新フィールド【デザート・ナイト・フライト】の攻略を開始した。
☆☆☆
【砂礫の国の廃墟——夜へ誘う女王の館B4F】
私達は、廃墟フィールドのとある建物の地下に向かっていた。
「公式によるとここっぽいけど——邪魔ぁ!」
私は膝まで砂で浸かる部屋で、飛び出てきた【キラー・スコーピオン】の群れを斧槍で払った。
足を砂に取られるせいで、ミリーや蔵人さんは戦いづらいらしく私が先頭で敵を請け負う形で進んでいる。
「もはやちょっとしたダンジョンやな。敵もまあまあ強いし」
「これぐらいは突破出来ないとそもそも辿り着いたところでクリア出来ないっていう運営の優しさにゃん……多分」
「砂が……邪魔だ……」
ようやく砂まみれの部屋を抜けると、そこは広い祭壇のある部屋に続いていた。
元々は純白だったであろう立ち並ぶ柱はくすんでおり、部屋全体が砂で覆われている。
目の前には階段が続いており、階段の上には祭壇があった。
「いかにもな場所にゃん」
「やな。ほな行ってみよか。周囲をよく見といてな」
「了解だ」
私達はゆっくりと階段を上っていく。周囲を警戒するも何も出てくる様子はないし、プレイヤーの気配もない。
「プレイヤーもいないね」
「ここはPK禁止エリアになってるからその心配はいらないにゃん」
「なるほどー」
階段の上に到着すると、底には祭壇があり、その上に——なんだろこれ?
「なんやこれ? なんかカプセルっぽいが」
「日焼けマシーンみたいだな。あれと違って多人数で入れそうだが」
「転送させる機械にゃん。イベント用に作ったフィールドだから、このゲームの他のフィールドと地続きになっていないはずにゃん」
ユーナちゃんがそう言ってひょいと祭壇に上がると、その、ガラスでできた円柱状の大きなカプセルの扉を開けた。
「なるほどね。ほなサクッといこか」
「はーい」
全員がそのカプセルに入ると、扉が自動的に止まった。
キュイーンという甲高い起動音と共に、外の風景が高速回転していく。
それはあまりに速く、大量の線が横へ横へと流れていく。
「目が回る~」
「下手に動体視力良いとそうなるんやろな。あたしにはもはや速すぎて何にも見えない」
「あれが視認できるとかラノアはバケもんにゃん……VRに愛されているにゃん」
「なるほどその辺りも脳の差か。俺もまだまだだな……」
「ラノアがおかしいだけにゃん」
どれぐらい時間が経っただろうか?
5分のように思えたし、実際は10秒ぐらいかもしれない。
だけどその回転が徐々にゆっくりになり、そして完全に止まると扉が開いた。
そこは暗い小さな部屋だった。祭壇の部屋と同じく砂まみれだけど、なんというか、妙に冷たい。
「さって! 行きますか!」
「足がふらつく~」
「支えようか?」
ふらつく私に手を伸ばす蔵人さんに私は首を振った。斧槍を杖代わりにすれば問題ない。
「大丈夫、ありがとう」
「出口はあそこにゃん」
油断なく日傘ボウガンを構えたユーナちゃんが差した先には、長方形に淡く光によって暗闇が切り取られていた。その先には外の様子が見える。どうやら外は夜のようだ。
念の為、一番体力と防御力が高い私がその出口から外へと出た。
「おお……おお! 凄い! 綺麗!」
「……ははは……これはまたテイストの違う感じできたな」
その部屋は、高く細長い塔の頂上にあった。
私達の眼下には無限とも思える夜の黒い砂漠が広がっていた。
朽ちた遺跡が砂に埋もれており、遠くにはピラミッドらしき物が見える。
目の前に広がる夜空には、もはや日本で見る事が叶わないほどの数の星が宝石のようにちりばめられていた。
「あはは……手を伸ばせば届きそうだよ」
私は、夜空でまるで猫の目のように金に輝く大きな満月へと手を伸ばした。
「しかし、降りる場所はなさそうやな。落ちろって言うのか?」
ぐるりと塔の頂上を回ったミリーが首を捻っている。ここには私達が出てきた部屋以外に何もなく、降りるにしても飛び降りるぐらいしか方法はなさそうだった。
「俺ならダメージ無しで降りられそうだが……完全に獣化しないと戻ってこれそうにないほど高いなここは」
「それは最終手段ニャン。鳥系の前世持ちしかクリアできない訳ないにゃん」
「んーどうしたらいいんだろう?」
そう悩んでいる私達の耳に、不思議な歌が聞こえた。優しいけど、悲しい、遠吠えのような歌。
「今のは!?」
「魔獣にゃん?」
「いや……多分アレや!」
ミリーが指を差した先。夜闇の中からぬるりと現れて、こちらへと向かって来たのは——一匹のクジラだった。
全長30mぐらいかな? ちょっとしたバスより大きく、その背中は不自然なほど広く平らだった。
「……あれ、生物じゃないにゃん。機械だにゃん。それにHPゲージも名前もない」
近付いてきたクジラを見れば、その意味が理解できた。表皮は鉄板でボルト止めされておりカクカクしているし、ヒレをまるで人力飛行機のように歯車によって羽ばたかせていた。尻尾の近くでは複数のパイプが出ていてモクモクと煙を出している。
そんな機械仕掛けのクジラが、塔の頂上の端へとその背中を寄せた。
「なるほど……砂漠の夜の飛行か……直球にゃん」
「乗れってことか」
「クジラタクシー!」
「凝ってるなあほんま」
私達はそのクジラの背に乗った。ちょっとした部屋より広いスペースだ。
「まあここで戦えってことやな!」
ミリーの言うとおりだろうなあ。
【百の夜を越えられし者のみが楽園へと辿り着ける——Ready?】
クジラの歌声が止むと同時、そう空中に大きく表示され——クジラが加速した。
砂漠の夜風が、私の髪を煽る。景色があっという間に後ろへと流れていく。
「百の夜な。ええやんなんぼでも越えたろやないか!」
「ワクワクしてきた!」
「遠距離攻撃は役に立ちそうにゃん」
「みんな落ちるなよ?」
こうして私達の砂漠の夜間飛行が始まったのだった。
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