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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】
58話「ジュエリーフィッシュ」
しおりを挟む男の首へと斧槍を振り抜き、クリティカルヒットの音と共に男のHPゲージが削れる。
男が驚愕の表情を浮かべるのを見ながら私は斧槍をくるんと回し、柄の反対側にも付いている刃で男の身体を切り裂いた。
男がエフェクトをまき散らせながら消失。
「おお、まあまあポイントゲット。全員HP結構減ってたし、戦闘直後だったのかな?」
最初に倒した2人もHPは半分を切っていた。
「というか、これなんだろ」
私の目の前には、抱き合う3人の少女の石像があった。
周りを見渡しても、やはりこんな場所にあるのは違和感。
「んー。石化なんて状態異常あったっけな?」
少なくとも石化を解くアイテムなんてものは存在しないはずだ。
私はアイテムリストを埋めるのが楽しくて、基本的な消耗品はほとんど作った事がある。
でも石化を解くアイテムはなかった。
「ま、いっか」
上文と重複害はなさそうだし、放っておこう。
私は次なる獲物を求めて、走り出した。
「あーこちらラノア。ミリー達とまたはぐれちゃいましたけど、今暴王のパーティを倒しました」
『……ラノア、それで——何人目だ?』
報告の為に通信をすると、オビ1さんの呆れた声が聞こえてきた。
「えーっと……35人目? くらい? あはは途中からカウントするの止めました」
『信じられん……。ラノア、この【Day1】も残り2時間だ。ポイントもかなり良い感じにそれぞれが稼いでいると思う……ただ先ほど速報で分かったのだが、未だポイント数1位は……暴王だ』
「ええ嘘! さっきも暴王のメンバー倒しましたよ! そこそこポイント持ってたのに」
『おそらくだが、頻繁にパーティを解散させてポイントを【群体】に溜めているのだと推測される』
それは、オビ1さんの群体と混合パーティを作成した際に気付いた仕様。
ポイントはパーティで共有するのだけど、パーティを解散すると、そのポイントは所属する群体のポイントとして加算されて、一旦ゼロに戻るのだ。
だから私達が稼いだポイントはゼロになったけど、【サーベラス】自体にはそれが残っている。混合パーティを作成して倒したボスのポイントも、解散すると、ちゃんと人数で分けられたポイントが群体に入った。
『同じパーティでポイントを溜め続けると他のプレイヤーに奪われる危険性がある。だから、奴等はこまめに解散して、ポイントを奪われないように群体に溜めていたのだろう』
んーその仕様を知ってからはそうするようにした方がいいとオビ1さんも言ってたけど、やっぱり皆考える事は同じなのだろう。
『奴等は数だけはあるからな。おそらく同盟も組んでいるだろう』
「んー暴王を全員見つけ出して倒すのは?」
『ポイントを稼いだ時点でパーティ解散をしているだろうから、今から仮に全員倒しても、奴等のポイントが増えるのを防げても、減らす事はできない』
なるほど。じゃあもうやることは一つしかない。
「じゃあ、とにかく倒しまくって、私達が稼ぐしかないですね!」
『その通りだ。それよりラノア、さっさとミリー達と合流しろ。ソロでも強いのは知っているが、そのうち手も足も出ない奴等が出てくる。そうなる前に合流してパーティ解散してそのポイントを溜めておけ』
「了解!」
そう言って、通信を切った。
そう、パーティ解散は全員が一定範囲内にいないと出来ないのだ。だから、今の状況は危険なのだけど。
「だけどなあ……ぶっちゃけ死ぬ気しないんだよね」
プレイヤー達を倒していて思ったのは、このゲーム、装備と前世の補正が強すぎる。
特に装備は、少しでも相手より上位の素材を使っていると、かなり有利になる。
向こうの攻撃にダメージ減衰補正が入り、こちらの攻撃にはダメージ補正が上乗せされる。
体力と防御力に特化し、武器とスピちゃん補正で元々高い攻撃力が合わさって、ぶっちゃけ負ける気がしないんだよね。
そんな事を考えながら、私は谷底を抜けて、西にある荒れ地へと足を踏み入れた。マップの東の方は沼や湖ばかりで、水棲の前世持ちが有利な場所なので行くのをやめた。そこはポル爺さん達が向かったはずだ。
荒れ地は昔何かの映画で見た、戦場跡って感じで地面は爆弾や砲弾でえぐれており歩きにくい。
大きな鉄の塊や岩などの障害物がごろごろしており、見通しも悪い。
「まあ逆に言えば、ソロで狩るには適した場所なわけで」
一応ミリー達には現在地を送ってあるので、こちらに向かってきているはずだ。移動速度を考えても私が向かうよりも向こうがくる方が早い。
殺風景な荒れ地。色彩が失われたその場所で、その異様さに私はすぐに気付いてしまった。
「え? なにあれ」
私から10mほど離れた朽ちた戦闘機らしき鉄塊の上に、白い少女が立っていた。
白い、ゴシック調のフリフリがいっぱいついたドレス。
頭には、まるでクラゲのような半透明のかさを被っており、ピカピカと光る触手が垂れている。
何よりも、指から、頭、首、腕と、いたるところにちりばめられた極彩色の宝石がギラギラと怪しく輝いている。
空を見ても、赤黒い雲が渦巻いているだけ。頭上にはあの空中戦艦があるが、どうやらこのエリアには爆弾を降らせないみたいだ。
「太陽も出てないのに……なんであれ光っ——あれ?」
そのギラギラと輝く白い少女を見ていると、眩暈に一瞬襲われた。
なんだろ? こんな感覚初めてだ。頭がクラクラする。
「ねえ破隕君。占いフェスティバルが開催されると言ってたからやってきたけど……会場はどちらかしら?」
その少女が割と大きめな声でそう誰かに声をかけた。
「あーパプリカさんシーッ!! 位置バレるから!」
「何の話かしら?」
「いいからそこで突っ立っててください! ああもう! みんな! 予定変更!」
「了解です」
「はーい♪」
まずい、あの白い少女に気を取られて、油断した!
気付けば、私の周りに、数人のプレイヤーの気配があった。
私は武器を構えようとした。
「あ……れ?」
指先に力が入らず、武器がゆっくりと、地面へと落ちるのが見えた。
「……かか……今……油……!」
周りから聞こえるはずの声が途切れ途切れに聞こえる。
身体が動かない……あれ、これまずくないかな?
私はそんな状況でも、ギラギラ輝く白い少女から目を離せなかった。
気付けば、剣が私へと振り下ろされるのが見えた。私は反応すら出来ず、ただそれを見つめているだけだった。
やばい。ミリー、蔵人さん、誰か——助けて。
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