34 / 73
【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】
34話「獣化——蔵人視点」
しおりを挟む「ラノア!!」
蔵人が叫ぶ。刃の嵐の前でラノアが耐えるも、HPゲージが削り切られるのも時間の問題だ。
「あほ、ああいう時は事前にポーションで回復せなあかんのに!」
ラノアに吹き飛ばされたミリーが素早く立ち上がり、駆け寄ってくる。
「ダメだ、HPが!」
蔵人がそう叫んだ瞬間に、黒と赤の光が視界を埋めた。
「あれは!!」
「スキルか!?」
「ちゃう! あれは——」
ミリーが凶暴な笑みを浮かべる。
蔵人の視界が戻った瞬間に、ラノアのHPゲージが表示されていた場所に、黒いゲージが現れていた。
「ギャルアアアアアアアアアアアアア!!」
空間内に響く咆吼。
それは、ミリーも蔵人も良く知る声だ。
次の瞬間に、強烈な破壊音と共に、ボスが吹き飛ぶ。
ラノアが、立っていた場所に現れたのは——
「スピノサウルスか!!」
尻尾を振り、ボスを吹き飛ばしたスピノサウルスが咆吼をあげながらボスへと突進。
「ははっ! さすがはアキコや!」
蔵人はこのゲームにあるとある要素を今更思い出した。
【獣化】
それは簡単に言えば、前世になれるシステムである。
スタミナゲージの下に表示されている獣化ゲージが溜まると任意で発動できるが、時間経過で減っていくので溜まったままでいることは出来ない。
ゲージが溜まる条件はいくつかあり、
・攻撃を与える。
・攻撃を受ける。
・特定スキルを使う。
・特定アイテムを使う。
これらを行うとゲージが溜まり発動させると、一定時間前世の姿になり戦闘が可能。
ただし前世によって溜まり具合が違い、強力な前世ほど溜まり辛い設定になっている。
例えば蔵人やミリーの前世であればダンジョン攻略中に数回、ボス戦でも一回は使えるぐらい溜まりやすいが、ラノアのスピノサウルスは別だ。
前世の姿での戦闘については、
・HPゲージは別。獣化ゲージがHPとなり、ダメージや時間経過で減っていき、切れると解除される。
・ステータスの大幅アップ及び専用スキルを使用可。
・装備していた武器によっては専用武器を装備した状態になる場合がある。
となり大幅に強化されるが、一度使うとまた溜め切るのが大変なのでいざという時に使うのがベストなのだが……。
蔵人は完全にこのゲージの事を忘れていた。
ミリーは使うタイミングを伺っていたが、未だ使っていない。
ミリーの前世カラカルは、素早い攻撃が売りの前世だ。このボスのような重装の硬い敵には不向きな前世である事を考慮して、いざとなったら盾代わりに発動させるぐらいの気持ちでミリーはいた。
「じゃあ最後にラノアが使ったのはポーションじゃなく」
「獣化ゲージを少し増加させる獣血剤や」
「そうか、攻撃していたし、何より、ガードしてダメージを受け続けていたからゲージが溜まっていたのか」
「せやけど、ここまで使わなかったって事は……よっぽどゲージが溜まりづらいか、単に忘れてたかのどっちかやな」
「どちらも、ありそうではある。しかし、この土壇場で発動させるとは」
「そもそもあの攻撃をあっこまで受けきれるのはあの武器とラノアの体力の高さのおかげやけどな」
ボスが両手の武器を振るうも、スピノサウルスがそれに合わせて、前脚の爪で弾く。
そのままスピノサウルスが地面を蹴って、宙へと舞う。くるんと一回転してサマーソルトをボスへと叩き込んだ。
蔵人とミリーはもはやそれをただ見つめるだけの観客となっていた。
「あれに飛び込む勇気はないなあ」
「ふん、良く言う」
「アレの怖さを一番よく知っているのはあたし達やろ?」
「……確かにな」
スピノサウルスの猛攻でボスのHPがどんどん削れていくが、ラノアの黒いゲージも減っている。
「倒しきれるか?」
「分からんけど……削りきれなかった時の事を想定して、動こ」
「賛成だ!」
蔵人が疾走を開始。ミリーがそれと並走。
目の前で、スピノサウルスが横薙ぎの尻尾をボスへとぶつけていた。
スピノサウルスが接近する二人に気付き、蔵人達へと視線を向けた。
「いくで!」
「分かってる!」
蔵人が見ると、ボスのゲージが既に2割を切っている。しかし、それと同じぐらいラノアのゲージも減っていた。
スピノサウルスがまるで分かっているかのように、自分へと近づき、地面を蹴った蔵人とミリーへ前脚を差し出した。
二人を乗せた前脚をボスへと振ると同時に突進。ボスの剣と斧へとその身体ごとぶつかっていく。
蔵人の真下で、光とエフェクトがスピノサウルスを包み込んでいくのが見えた。
スピノサウルスの最後の突進で、ボスのHPゲージは残り1割。
「あとは任せたで!」
ミリーがそう言って、回転しながら蹴りをボスの頭部へと叩き込もうとする。しかしそれを払おうと武器を振ったボスによって阻まれた。ちゃっかりガードして吹き飛ぶミリー。
「はあああ!!」
ミリーのおかげで致命的な隙が出来たボスの頭部へと蔵人の一撃が叩き込まれた。
「ガガガガガ……」
ボス——【眠り守りしスクハザ】が、部品を巻き散らせながらダウン。
赤いターゲットマークが表示されている。
「これで! おしまい! だっ!!」
姿が戻ったラノアが大上段に振り上げたハンマーをその赤いターゲットマークへと叩き付けた。
爆炎と蒸気を吹き上げながらボスがバラバラに分解され、そして消えた。
【Lullaby Stoped and Slaughted】
と、いつもの効果音と共に表示された文字を見て、蔵人はようやくボスを倒せたと認識した。
『【蒸気の歯車】を入手』
というメッセージを見て、
「よっしゃあああああ!! 倒した!」
思わず叫んでしまった蔵人。侍キャラではなく素が出てしまったが、この達成感の前では仕方ないだろう。
「みんな!」
自然とラノアの元に蔵人とミリーが集まる。
「ラノア! あんたもう! 流石や!」
ミリーがそう言いながら、ラノアに飛びつく。
それを嬉しそうに受け止めるラノア。
「いやあ、ポーションと間違ってあの変な黒いの出しちゃった時は焦ったよー」
「……へ?」
「……らしいな」
ラノアが照れ笑いを受かべながら言った言葉にミリーは目を見開き、蔵人はやっぱりかとため息をついた。
「……まあ……勝てたしええか」
「うんうん。へへへー久々にスピちゃん動かせて楽しかった」
「いやああれは……やっぱり規格外やけど、味方になった時の頼もしさが段違いや」
「さてそろそろ、あの扉の先、行ってみないか?」
蔵人が指差した先の機械仕掛けの扉が、ゆっくりと開いていく。
「レア素材! お宝! もしくはなんかのイベント! はよいこ!」
「レア素材掘りたい!」
スキップしながら進む二人を見て、蔵人は
「こいつらと組んで良かった……俺も負けてられないぞ」
と小さく呟いた。
「どしたん! はよいくで!」
「蔵人さんいこ!」
傷だらけで汚れまみれだったが、二人の笑顔は何よりも蔵人には眩しかった。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
ツインクラス・オンライン
秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
理不尽に紡がれる仮想世界《TOCO》
kitikiti
SF
ある開発者は言った
『理不尽。それは劣った者の言う戯言だ。できる者にとっては普通のことであり、果てには緩いと感じる者もいる。
だが考えてみたまえ。そんな劣った者達が考える理不尽を足掻き、血反吐を吐きながらも乗り越えた先に見ることのできる光景を!
それはさぞかしロマンに溢れ、心が喜びに満たされるだろう。さぁ、来訪者よ!泣いて、喚いて、足掻こうという意志があるというのならこの世界に舞い降りよ!』
そんな喧嘩腰に発表されたゲームの名は
【トラベラーオブシティオンライン】
そして、そのゲームをプレイしたβテスター達は新規プレイヤー達に向けてこの一言を残していった。
「初心者に優しいのが普通のゲームじゃないのか?はっ、そんな寝言をいうなら別ゲーに行け。」
『『『この世界は甘くない』』』
アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~
桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。
Dive
日向 和
SF
[穴の中の子グマ大界を知る。されど……]
自分の世界が家の中だけだった女の子が、小学校入学して広い世界を知っていく話。
注意点
・主人公が出てこない事が多い(頭に×のある話は出ません)
・サイエンスフィクションというよりサイエンスファンタジー
・子グマは少しチートかもしれません
・大熊は一部バグってるかもしれません
・話の展開はゆっくりです
・恋愛<成長
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
異世界×お嬢様×巨大ロボ=世界最強ですわ!?
風見星治
SF
題名そのまま、異世界ファンタジーにお嬢様と巨大ロボを混ぜ合わせた危険な代物です。
一応短編という設定ですが、100%思い付きでほぼプロット同然なので拙作作品共通の世界観に関する設定以外が殆ど決まっておらず、
SFという大雑把なカテゴリに拙作短編特有の思い付き要素というスパイスを振りかけたジャンクフード的な作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる