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【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】

34話「獣化——蔵人視点」

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「ラノア!!」

 蔵人が叫ぶ。刃の嵐の前でラノアが耐えるも、HPゲージが削り切られるのも時間の問題だ。

「あほ、ああいう時は事前にポーションで回復せなあかんのに!」

 ラノアに吹き飛ばされたミリーが素早く立ち上がり、駆け寄ってくる。

「ダメだ、HPが!」

 蔵人がそう叫んだ瞬間に、黒と赤の光が視界を埋めた。

「あれは!!」
「スキルか!?」
「ちゃう! あれは——」

 ミリーが凶暴な笑みを浮かべる。
 蔵人の視界が戻った瞬間に、ラノアのHPゲージが表示されていた場所に、が現れていた。

「ギャルアアアアアアアアアアアアア!!」

 空間内に響く咆吼。

 それは、ミリーも蔵人も良く知る声だ。

 次の瞬間に、強烈な破壊音と共に、ボスが吹き飛ぶ。

 
 ラノアが、立っていた場所に現れたのは——


!!」

 尻尾を振り、ボスを吹き飛ばしたスピノサウルスが咆吼をあげながらボスへと突進。

「ははっ! さすがはアキコや!」

 蔵人はこのゲームにあるとある要素を今更思い出した。

 【獣化】
 それは簡単に言えば、前世になれるシステムである。
 スタミナゲージの下に表示されている獣化ゲージが溜まると任意で発動できるが、時間経過で減っていくので溜まったままでいることは出来ない。
 ゲージが溜まる条件はいくつかあり、
 ・攻撃を与える。
 ・攻撃を受ける。
 ・特定スキルを使う。
 ・特定アイテムを使う。

 これらを行うとゲージが溜まり発動させると、一定時間前世の姿になり戦闘が可能。
 ただし前世によって溜まり具合が違い、強力な前世ほど溜まり辛い設定になっている。

 例えば蔵人やミリーの前世であればダンジョン攻略中に数回、ボス戦でも一回は使えるぐらい溜まりやすいが、ラノアのスピノサウルスは別だ。
 
 前世の姿での戦闘については、

 ・HPゲージは別。獣化ゲージがHPとなり、ダメージや時間経過で減っていき、切れると解除される。
 ・ステータスの大幅アップ及び専用スキルを使用可。
 ・装備していた武器によっては専用武器を装備した状態になる場合がある。

 となり大幅に強化されるが、一度使うとまた溜め切るのが大変なのでいざという時に使うのがベストなのだが……。

 蔵人は完全にこのゲージの事を忘れていた。
 ミリーは使うタイミングを伺っていたが、未だ使っていない。

 ミリーの前世カラカルは、素早い攻撃が売りの前世だ。このボスのような重装の硬い敵には不向きな前世である事を考慮して、いざとなったら盾代わりに発動させるぐらいの気持ちでミリーはいた。

「じゃあ最後にラノアが使ったのはポーションじゃなく」
「獣化ゲージを少し増加させるや」
「そうか、攻撃していたし、何より、ガードしてダメージを受け続けていたからゲージが溜まっていたのか」
「せやけど、ここまで使わなかったって事は……よっぽどゲージが溜まりづらいか、単に忘れてたかのどっちかやな」
「どちらも、ありそうではある。しかし、この土壇場で発動させるとは」
「そもそもあの攻撃をあっこまで受けきれるのはあの武器とラノアの体力の高さのおかげやけどな」

 ボスが両手の武器を振るうも、スピノサウルスがそれに合わせて、前脚の爪で弾く。

 そのままスピノサウルスが地面を蹴って、宙へと舞う。くるんと一回転してサマーソルトをボスへと叩き込んだ。

 蔵人とミリーはもはやそれをただ見つめるだけの観客となっていた。

「あれに飛び込む勇気はないなあ」
「ふん、良く言う」
「アレの怖さを一番よく知っているのはあたし達やろ?」
「……確かにな」

 スピノサウルスの猛攻でボスのHPがどんどん削れていくが、ラノアの黒いゲージも減っている。

「倒しきれるか?」
「分からんけど……削りきれなかった時の事を想定して、動こ」
「賛成だ!」

 蔵人が疾走を開始。ミリーがそれと並走。

 目の前で、スピノサウルスが横薙ぎの尻尾をボスへとぶつけていた。

 スピノサウルスが接近する二人に気付き、蔵人達へと視線を向けた。

「いくで!」
「分かってる!」

 蔵人が見ると、ボスのゲージが既に2割を切っている。しかし、それと同じぐらいラノアのゲージも減っていた。

 スピノサウルスがまるで分かっているかのように、自分へと近づき、地面を蹴った蔵人とミリーへ前脚を差し出した。

 二人を乗せた前脚をボスへと振ると同時に突進。ボスの剣と斧へとその身体ごとぶつかっていく。

 蔵人の真下で、光とエフェクトがスピノサウルスを包み込んでいくのが見えた。

 スピノサウルスの最後の突進で、ボスのHPゲージは残り1割。

「あとは任せたで!」

 ミリーがそう言って、回転しながら蹴りをボスの頭部へと叩き込もうとする。しかしそれを払おうと武器を振ったボスによって阻まれた。ちゃっかりガードして吹き飛ぶミリー。

「はあああ!!」

 ミリーのおかげで致命的な隙が出来たボスの頭部へと蔵人の一撃が叩き込まれた。

「ガガガガガ……」

 ボス——【眠り守りしスクハザ】が、部品を巻き散らせながらダウン。

 赤いターゲットマークが表示されている。

「これで! おしまい! だっ!!」

 姿が戻ったラノアが大上段に振り上げたハンマーをその赤いターゲットマークへと叩き付けた。

 爆炎と蒸気を吹き上げながらボスがバラバラに分解され、そして消えた。
 
 【Lullaby Stoped and Slaughted】

 と、いつもの効果音と共に表示された文字を見て、蔵人はようやくボスを倒せたと認識した。

『【蒸気の歯車】を入手』

 というメッセージを見て、

「よっしゃあああああ!! 倒した!」

 思わず叫んでしまった蔵人。侍キャラではなく素が出てしまったが、この達成感の前では仕方ないだろう。

「みんな!」

 自然とラノアの元に蔵人とミリーが集まる。

「ラノア! あんたもう! 流石や!」

 ミリーがそう言いながら、ラノアに飛びつく。
 それを嬉しそうに受け止めるラノア。

「いやあ、ポーションと間違ってあの変な黒いの出しちゃった時は焦ったよー」
「……へ?」
「……らしいな」

 ラノアが照れ笑いを受かべながら言った言葉にミリーは目を見開き、蔵人はやっぱりかとため息をついた。

「……まあ……勝てたしええか」
「うんうん。へへへー久々にスピちゃん動かせて楽しかった」
「いやああれは……やっぱり規格外やけど、味方になった時の頼もしさが段違いや」
「さてそろそろ、あの扉の先、行ってみないか?」

 蔵人が指差した先の機械仕掛けの扉が、ゆっくりと開いていく。

「レア素材! お宝! もしくはなんかのイベント! はよいこ!」
「レア素材掘りたい!」

 スキップしながら進む二人を見て、蔵人は

「こいつらと組んで良かった……俺も負けてられないぞ」

 と小さく呟いた。

「どしたん! はよいくで!」
「蔵人さんいこ!」

 傷だらけで汚れまみれだったが、二人の笑顔は何よりも蔵人には眩しかった。
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