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【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】

25話「再会——【蔵人】視点」

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【デルトワ鉱山:古竜の寝所B1F】

 洞窟内に戦闘音が響く。

「なんだ、こいつ強い!?」
「囲め! 動きは速いが、!」

 【暴王】と呼ばれる【群体】のメンバーが一人の青年を相手に戦闘を行っていた。

「ちっ……何人いるんだよお前ら」
「ソロで突っ込んでくるとか舐めてんのかてめえ!」

 青年の頭の上には【蔵人くらうど】と表示されている。

 蔵人は、精悍な顔つきの青年で長めの黒髪を後頭部で束ねており、刀を振るうたびにそれが揺れる。
 着流しのような服を着ているのも相まって、侍、という言葉がピタリと合うようなルックスだった。
 一つ違和感があるとすれば、背中に小さな黒い翼が生えている点だろう。

 彼の振るう刀をしかしよく見れば、相対する【暴王】達の武器と違い、鉄製で少しずつだが刃こぼれしていっている。

 持たないな、と蔵人は冷静に判断した。
 今敵対している【暴王】は、装備以外は大して強くない、だからこそ、数が厄介だ。

 このゲーム、武器に耐久力がどうやら設定されているらしく(普段のプレイだと気付かないが、どうやら摩耗していくらしい)、上位素材による攻撃は、それを著しく削っていく。

 蔵人はこのダンジョンの入口から、暴王のメンバーを何人か不意打ちで斬ってきたが、上位素材を使った防具相手には、激しく不利な状況だった。

 せめてもう一本持っていれば……と思った蔵人だが、ないものはない。鉄製武器ですら高いし、作れる人もさほど多くない。

「しねえ!」

 ハンマーを持った相手が、蔵人の刀へと叩き付けてくる。
 手首を返し刀への直撃を防ぐが、そのせいで右脇が空いた。

「おらああ!」
「ぐぅ!」

 別の奴の横薙ぎをまともに喰らい、HPゲージが削れる。

「くそ、やはり無理か」

 ここが引き際、と蔵人は判断すると刀を仕舞い、全力ダッシュ。

「あ、逃げやがった! 追え!」
「あーくそやっぱり、ソロじゃ無理くせえ」

 ダンジョンの入口へとまっすぐ走る蔵人。これまた隠しステータスである、装備重量で考えると蔵人の着流しは軽装なのでこういった競争では圧倒的に有利だった。

 さてどうやって、ここを攻略しようかと蔵人が考えながら走っていると、前方で戦闘音。

「ちっ、もうリスポンしたか?」

 このフリーダンジョン【古竜の寝所】はやたらと高レベルの魔獣が出現するのだが、プレイヤーがいる一定範囲内はリスポンしないルールになっている。

 だから【暴王】のメンバーは入り口から順番にメンバーを配置し、リスポンしないようにしていたのだがそれを蔵人が倒してしまった為、魔獣が沸いたようだ。

「脇差しだけでいけるか……?」

 腰に刺していた短刀を抜いて、覚悟を決めた蔵人。

「キャイン!」

 前方で、【フレイムドッグ】が情けない声を出しながら斬殺されるのを見て、蔵人が反射的に脇差しを振った。

 金属音と火花が目の前で散り、蔵人は脇差しが折れるのを犠牲に、目の前へと飛来するを打ち落とした。地面へと落ちたはずの斧が消える。

「あっやば! ごめんなさい!!」
「一発で折れた……?」

 折れた脇差しを思わず見てしまった蔵人が、少女の声でハッと気付き、顔を上げた。

「やっと出たな暴王! 見敵必殺!」

 さきほどとは違う声と共に、蔵人の目の前へと飛び込んできたのは、まるで野獣のような少女だ。猫耳に尻尾と一見可愛らしいが、その表情には殺気が宿っている。奥には先ほどの斧を投げたらしい少女が叫んでいる。

「あーミリーストップ! その人違う!」

 その言葉では止まらず、野獣がその両手の爪で襲いかかってくる。
 蔵人は冷静に、その爪による斬撃の嵐を避けた。

 全て躱したと思った蔵人だったが、HPゲージが少しずつ削られていっている。

「思ったより速いな」

 こいつも、俺と同じタイプか? と蔵人は思考し、一気に間合いを詰めた。

「うそやろ」

 少女の驚愕の顔を見ながら、蔵人はその少女の手を掴み——をかけた。

 ビタン! と盛大に音を出しながら地面へと叩き付けられた少女だったが、HPゲージの減りが極端に少ない。
 蔵人がよく見れば、その少女の武器防具共に、見たことがない素材を使っている。

「お前ら……何者だ?」
「うわああ! もうミリー違うって言ってるのに! ああごめんなさい!!」

 慌てて駆けつけて蔵人に謝ってきたのは、長い黒髪の少女だった。同じように未知の素材で作ったであろう一対の手斧と防具を身につけている。

 名前を確認しても、群体レギオン名は付いていない。ということは【暴王】のメンバーではなさそうだと彼は判断した。大方自分と同じようにここを攻略しようとしに来たのだろう。

「いたたた……何今のスキル……」

 猫耳の少女も起き上がり、背中をさすっている。

「ミリー! やたらと人を襲っちゃだめって言ったのに!」
「いやだってここに【暴王】以外おるとは思わなくて……」

 頬を膨らませて怒る手斧の少女も猫耳少女も、顔だけで言えば、アイドルのようなルックスだったが、蔵人は、この二人が只者ではない事に気付いていた。

「あー済まない、そこの二人。俺は【暴王】の奴等に追われててな、逃げてる最中なんだ。なんせ武器も無くなった」
「ごめんなさい! 私の投げた斧当たっちゃって壊れましたよね!?」
「ラノア、あんたの武器、武器破壊スキルまで付いてるんか?」
「いや、付いてないけど、当たって壊れたの見えたし」

 どうやらこの子達は武器の耐久力について知らないようだ。ゆっくりと説明したいところだが……と蔵人が考えたところで、背後からの声。

「いたぞ! 仲間もいやがる!」
「全員殺せ! ここまで侵入されたってアキコ様にバレたらやべえ」

 蔵人が振り向けば、【暴王】のメンバーが数人こちらへと走ってきていた。その顔には必死な表情が浮かんでいる。

「えっと、なんて読むのかな? ぞうにん? くらにん? さん?」
「……くらうどだ。ネタネームだからなんでも構わん」
「私達、あいつら倒しますけど、武器壊したお詫びは後でもいいですか? どういう武器を使ってました?」
「ん? 普段は刀がメインだが、槍でも薙刀でも小刀でも一通りは使える」
「あ、じゃあ良かったら、一旦これ使ってください」

 そう言って手斧の少女が、手渡してきたのは一本の刀だった。

 蔵人がそれを訝しながら受け取ると、入手アイテム欄にこう表示された。

 【魔鉱刀“仇討”】

「……なんじゃこれ」
「あーすみません! それはとりあえずの奴なんであとでもっと良い奴を!」

 手斧の少女が謝罪を重ねるが、すぐ後ろに、【暴王】が迫っている。

「じゃあ、お兄さんどいててな。軽くやったるわ」

 猫耳少女が臨戦態勢に入ったのを見て、蔵人は白銀に光る刃を抜きながらこう二人に告げたのだった。

「いや、いい……。あいつらの相手は——俺だけで十分だ」
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