25 / 73
【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】
25話「再会——【蔵人】視点」
しおりを挟む【デルトワ鉱山:古竜の寝所B1F】
洞窟内に戦闘音が響く。
「なんだ、こいつ強い!?」
「囲め! 動きは速いが、装備は雑魚だ!」
【暴王】と呼ばれる【群体】のメンバーが一人の青年を相手に戦闘を行っていた。
「ちっ……何人いるんだよお前ら」
「ソロで突っ込んでくるとか舐めてんのかてめえ!」
青年の頭の上には【蔵人】と表示されている。
蔵人は、精悍な顔つきの青年で長めの黒髪を後頭部で束ねており、刀を振るうたびにそれが揺れる。
着流しのような服を着ているのも相まって、侍、という言葉がピタリと合うようなルックスだった。
一つ違和感があるとすれば、背中に小さな黒い翼が生えている点だろう。
彼の振るう刀をしかしよく見れば、相対する【暴王】達の武器と違い、鉄製で少しずつだが刃こぼれしていっている。
持たないな、と蔵人は冷静に判断した。
今敵対している【暴王】は、装備以外は大して強くない、だからこそ、数が厄介だ。
このゲーム、武器に耐久力がどうやら設定されているらしく(普段のプレイだと気付かないが、どうやら摩耗していくらしい)、上位素材による攻撃は、それを著しく削っていく。
蔵人はこのダンジョンの入口から、暴王のメンバーを何人か不意打ちで斬ってきたが、上位素材を使った防具相手には、激しく不利な状況だった。
せめてもう一本持っていれば……と思った蔵人だが、ないものはない。鉄製武器ですら高いし、作れる人もさほど多くない。
「しねえ!」
ハンマーを持った相手が、蔵人の刀へと叩き付けてくる。
手首を返し刀への直撃を防ぐが、そのせいで右脇が空いた。
「おらああ!」
「ぐぅ!」
別の奴の横薙ぎをまともに喰らい、HPゲージが削れる。
「くそ、やはり無理か」
ここが引き際、と蔵人は判断すると刀を仕舞い、全力ダッシュ。
「あ、逃げやがった! 追え!」
「あーくそやっぱり、ソロじゃ無理くせえ」
ダンジョンの入口へとまっすぐ走る蔵人。これまた隠しステータスである、装備重量で考えると蔵人の着流しは軽装なのでこういった競争では圧倒的に有利だった。
さてどうやって、ここを攻略しようかと蔵人が考えながら走っていると、前方で戦闘音。
「ちっ、もうリスポンしたか?」
このフリーダンジョン【古竜の寝所】はやたらと高レベルの魔獣が出現するのだが、プレイヤーがいる一定範囲内はリスポンしないルールになっている。
だから【暴王】のメンバーは入り口から順番にメンバーを配置し、リスポンしないようにしていたのだがそれを蔵人が倒してしまった為、魔獣が沸いたようだ。
「脇差しだけでいけるか……?」
腰に刺していた短刀を抜いて、覚悟を決めた蔵人。
「キャイン!」
前方で、【フレイムドッグ】が情けない声を出しながら斬殺されるのを見て、蔵人が反射的に脇差しを振った。
金属音と火花が目の前で散り、蔵人は脇差しが折れるのを犠牲に、目の前へと飛来する斧を打ち落とした。地面へと落ちたはずの斧が消える。
「あっやば! ごめんなさい!!」
「一発で折れた……?」
折れた脇差しを思わず見てしまった蔵人が、少女の声でハッと気付き、顔を上げた。
「やっと出たな暴王! 見敵必殺!」
さきほどとは違う声と共に、蔵人の目の前へと飛び込んできたのは、まるで野獣のような少女だ。猫耳に尻尾と一見可愛らしいが、その表情には殺気が宿っている。奥には先ほどの斧を投げたらしい少女が叫んでいる。
「あーミリーストップ! その人違う!」
その言葉では止まらず、野獣がその両手の爪で襲いかかってくる。
蔵人は冷静に、その爪による斬撃の嵐を避けた。
全て躱したと思った蔵人だったが、HPゲージが少しずつ削られていっている。
「思ったより速いな」
こいつも、俺と同じタイプか? と蔵人は思考し、一気に間合いを詰めた。
「うそやろ」
少女の驚愕の顔を見ながら、蔵人はその少女の手を掴み——一本背負いをかけた。
ビタン! と盛大に音を出しながら地面へと叩き付けられた少女だったが、HPゲージの減りが極端に少ない。
蔵人がよく見れば、その少女の武器防具共に、見たことがない素材を使っている。
「お前ら……何者だ?」
「うわああ! もうミリー違うって言ってるのに! ああごめんなさい!!」
慌てて駆けつけて蔵人に謝ってきたのは、長い黒髪の少女だった。同じように未知の素材で作ったであろう一対の手斧と防具を身につけている。
名前を確認しても、群体名は付いていない。ということは【暴王】のメンバーではなさそうだと彼は判断した。大方自分と同じようにここを攻略しようとしに来たのだろう。
「いたたた……何今のスキル……」
猫耳の少女も起き上がり、背中をさすっている。
「ミリー! やたらと人を襲っちゃだめって言ったのに!」
「いやだってここに【暴王】以外おるとは思わなくて……」
頬を膨らませて怒る手斧の少女も猫耳少女も、顔だけで言えば、アイドルのようなルックスだったが、蔵人は、この二人が只者ではない事に気付いていた。
「あー済まない、そこの二人。俺は【暴王】の奴等に追われててな、逃げてる最中なんだ。なんせ武器も無くなった」
「ごめんなさい! 私の投げた斧当たっちゃって壊れましたよね!?」
「ラノア、あんたの武器、武器破壊スキルまで付いてるんか?」
「いや、付いてないけど、当たって壊れたの見えたし」
どうやらこの子達は武器の耐久力について知らないようだ。ゆっくりと説明したいところだが……と蔵人が考えたところで、背後からの声。
「いたぞ! 仲間もいやがる!」
「全員殺せ! ここまで侵入されたってアキコ様にバレたらやべえ」
蔵人が振り向けば、【暴王】のメンバーが数人こちらへと走ってきていた。その顔には必死な表情が浮かんでいる。
「えっと、なんて読むのかな? ぞうにん? くらにん? さん?」
「……くらうどだ。ネタネームだからなんでも構わん」
「私達、あいつら倒しますけど、武器壊したお詫びは後でもいいですか? どういう武器を使ってました?」
「ん? 普段は刀がメインだが、槍でも薙刀でも小刀でも一通りは使える」
「あ、じゃあ良かったら、一旦これ使ってください」
そう言って手斧の少女が、手渡してきたのは一本の刀だった。
蔵人がそれを訝しながら受け取ると、入手アイテム欄にこう表示された。
【魔鉱刀“仇討”】
「……なんじゃこれ」
「あーすみません! それはとりあえずの奴なんであとでもっと良い奴を!」
手斧の少女が謝罪を重ねるが、すぐ後ろに、【暴王】が迫っている。
「じゃあ、お兄さんどいててな。軽くやったるわ」
猫耳少女が臨戦態勢に入ったのを見て、蔵人は白銀に光る刃を抜きながらこう二人に告げたのだった。
「いや、いい……下がってろ。あいつらの相手は——俺だけで十分だ」
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
ツインクラス・オンライン
秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
理不尽に紡がれる仮想世界《TOCO》
kitikiti
SF
ある開発者は言った
『理不尽。それは劣った者の言う戯言だ。できる者にとっては普通のことであり、果てには緩いと感じる者もいる。
だが考えてみたまえ。そんな劣った者達が考える理不尽を足掻き、血反吐を吐きながらも乗り越えた先に見ることのできる光景を!
それはさぞかしロマンに溢れ、心が喜びに満たされるだろう。さぁ、来訪者よ!泣いて、喚いて、足掻こうという意志があるというのならこの世界に舞い降りよ!』
そんな喧嘩腰に発表されたゲームの名は
【トラベラーオブシティオンライン】
そして、そのゲームをプレイしたβテスター達は新規プレイヤー達に向けてこの一言を残していった。
「初心者に優しいのが普通のゲームじゃないのか?はっ、そんな寝言をいうなら別ゲーに行け。」
『『『この世界は甘くない』』』
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
異世界×お嬢様×巨大ロボ=世界最強ですわ!?
風見星治
SF
題名そのまま、異世界ファンタジーにお嬢様と巨大ロボを混ぜ合わせた危険な代物です。
一応短編という設定ですが、100%思い付きでほぼプロット同然なので拙作作品共通の世界観に関する設定以外が殆ど決まっておらず、
SFという大雑把なカテゴリに拙作短編特有の思い付き要素というスパイスを振りかけたジャンクフード的な作品です。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
サイバーパンクの日常
いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。
派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。
楽しめたところがあったら、感想お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる