上 下
13 / 73
【VerΑ編第1章〜ラノアのマイホーム】

13話「リリース前夜」

しおりを挟む

「鈴木さーん、本当にこれでいいんすか?」
「……いい、構わん」
「まあ、あのままだとマンネリしますしね。了解っす」

 株式会社クロム・ソフトウエア
 
 小さな会社ゆえに、社長室はなく窓際に社長である鈴木の席があった。
 すぐ近くの席のチームリーダーの確認をパソコンから顔を上げずに鈴木は答える。

 鈴木は、【前々前世オンラインverβ】に寄せられた様々な要望や意見を再度見直していた。

 正式版のリリースが間近に迫っている。
 リリースしてしまえば、大きな仕様変更は出来ない。

 鈴木はリストアップした問題点を注視する。

 ・前世の姿による有利不利が大きく、多少のステ振りや進化を駆使しても覆せない。
 ・種族間のバランス調整。特に古代種と呼ばれる種族は強く設定しすぎた。
 ・獣という姿である為、出来る事が限られてくる(スキルや、実装予定の装備アイテム等)
 ・ストーリークエストを導入した際の導線(それぞれの姿に合わせた導線を用意する時間も人員もない)
 ・ただのPvPだとマンネリ化して、プレイヤーが減る可能性。
 ・プレイヤー同士でコミュニケーションが取りづらい。

「ふう……まあ急ごしらえだったから仕方ない」

 今回の正式版——VerΑ。
 
 鈴木達が本来開発していたVRMMOのVer.αを大幅変更し前世の姿で遊べる仕様に変えたのが【前々前世オンラインverβ】だった。

 RPG要素を増やした結果、元々のVer.αに言うなれば先祖返りしたのが今回リリースする物だ。

 前々前世オンラインの……いわば前世……そういう意味を込めて鈴木はこの正式版をVerΑと名付けた。

 VerΑにおける新要素、Verβとの変更点は多岐にわたるが、一番の変更点はアバターの姿だろう。

 文字通り三日三晩議論を重ねた結果、ゲーム内での標準の姿は前世ではなく——人の姿となる。

 これには反対意見も多かった。前世の姿で遊べるからこそ、あそこまで盛り上がったという意見も理解出来る。

「だが、人の姿であれば問題点が解決する。あとはこれまでに開発し実績のあるVRMMOのように作ればいい」

 もちろん、前世の姿でゲームプレイをするという要素は残す。残すが、それをメインには据えないという判断を鈴木は下した。

 ただ、あのある意味人の本能を刺激する、獣同士の戦いはとっておきとして残してある。

 それが吉と出るか凶と出るか……。

 鈴木はPCモニターから顔を上げ、窓の外を見つめた。そういえば、外を見たのは何日ぶりだろうか。いい加減家に帰らないとな。

 この正式版を心待ちにしているユーザーが何人もいることを知っている。

 本当に大変なのは——ここからだ。
 
 正式版リリースがすぐそこまで迫っていた。

 
☆☆☆

「はーやっとやなあ……」
「どうした?」
「なんでもないよお兄ちゃん」
「ほなさっさと着替えてき。飯にするで」
「はーい」

 自宅のソファで寝そべりながら答えたのはショートカットにした茶髪の少女だった。日本人らしい顔立ちの美少女だったが、染められていない自然な茶色の毛に青い瞳が、彼女が純日本人でない事を証明していた。

 彼女——見藤けんどうミリアはセーラー服を着ており、持っている携帯デバイスを注視していた。

「いよいよ今夜から……ああ楽しみやなあ……とりあえずまず【アキコ】探さないと」
「ほどほどにしとけよ。勝手に俺のアカウントで遊びやがって。あーあ俺も戦いたかったなあ【アキコ】」
「途中で仕事入って無理矢理私にやらせたのはお兄ちゃんやん」
「しゃあないやろー」
「あーそういえば、ハンドルネーム変えるからね。【ビリけん】はダサい。安直過ぎるで。あと謎の大阪人キャラ。うち、兵庫やん」
「ええぞ。どうせ俺忙しくてやれんし。ミリアの好きにしたらええ」

 ミリアは自分の兄である、見藤ビリーのVR機器を勝手に取り出すと自室のベッド脇に置いた。

「あー私の前世なんなんやろなあ……楽しみ。まあどうせサーベルタイガーにするんやけどな!」

 ミリアはワクワクしながら、正式版のリリースを待っていた。


☆☆☆

【リリース】前々前世オンライン【くるぞ】 Part668


22 名前:前世は負け犬
リリースマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

23 名前:前世は負け犬
アバターはVRオンラインアバター準拠か
英断だな
前世をどう絡めてくるか楽しみ

24 名前:前世は負け犬
>>23
お前の糞面みる方が楽しみだわ

25 名前:前世は負け犬
>>24
VR用のアバター作っててすまんな
ワイのクソブサ顔は現実だけで十分や

26 名前:前世は負け犬
>>25
あれ、どやって設定するの?

27 名前:前世は負け犬
初期設定は現実の姿になっているから
VRアバターを買うか、作成

設定で、アバター変更をタッチ

なりたいアバターに変更

こんな糞みたいに簡単な事もできねえからハゲるんだよ
あと、VRアバター使ってるってのは他人にはバレてる(表示されてる)から注意な

28 名前:前世は負け犬
アキコはVRアバターかな?

29 名前:前世は負け犬
そもそもやるかどうか
ニセアキコ事件の時も本物現れなかったしな

30 名前:前世は負け犬
アキコ……BBAだったら幻滅する

131 名前:前世は負け犬
期待すんな
マジで

…………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ツインクラス・オンライン

秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

理不尽に紡がれる仮想世界《TOCO》

kitikiti
SF
ある開発者は言った 『理不尽。それは劣った者の言う戯言だ。できる者にとっては普通のことであり、果てには緩いと感じる者もいる。 だが考えてみたまえ。そんな劣った者達が考える理不尽を足掻き、血反吐を吐きながらも乗り越えた先に見ることのできる光景を! それはさぞかしロマンに溢れ、心が喜びに満たされるだろう。さぁ、来訪者よ!泣いて、喚いて、足掻こうという意志があるというのならこの世界に舞い降りよ!』 そんな喧嘩腰に発表されたゲームの名は 【トラベラーオブシティオンライン】  そして、そのゲームをプレイしたβテスター達は新規プレイヤー達に向けてこの一言を残していった。 「初心者に優しいのが普通のゲームじゃないのか?はっ、そんな寝言をいうなら別ゲーに行け。」 『『『この世界は甘くない』』』

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界×お嬢様×巨大ロボ=世界最強ですわ!?

風見星治
SF
題名そのまま、異世界ファンタジーにお嬢様と巨大ロボを混ぜ合わせた危険な代物です。 一応短編という設定ですが、100%思い付きでほぼプロット同然なので拙作作品共通の世界観に関する設定以外が殆ど決まっておらず、 SFという大雑把なカテゴリに拙作短編特有の思い付き要素というスパイスを振りかけたジャンクフード的な作品です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

サイバーパンクの日常

いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。 派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。 楽しめたところがあったら、感想お願いします。

処理中です...