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15話:護衛依頼です!

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 ミラルダのギルド襲撃事件から数日が経った。

「ヘカティよー。そろそろ二階層攻略にいこうぜ~。一階層の依頼や魔石集めばっかりで飽きちまうよ」

 ギルドの酒場で、ビールを飲みつつルーケが目の前で、美味しそうにソーセージを頬張っているヘカティへと声を掛けた。

「んー? そうだねえ。お金も結構溜まってきたし、そろそろかな?」
「何を待っているんだよ。別に金がなくなって、あたしらなら余裕で突破できるだろ」

 呆れたような声を出すルーケに、ヘカティは笑顔を浮かべた。そんなヘカティの下へと一人の冒険者がやってきた。使い込んだ鎧と剣を見る限り、かなり熟練の冒険者だということが分かる。

「――ついに確認できたぞ」

 その冒険者がヘカティにそう告げる、ニヤリと笑った。

「ほんとですか!?」
「ああ。この目で見てきた」
「ありがとうございます! えっと、報酬を……」

 ヘカティが革袋から金貨を出そうとするが、冒険者は笑って首を横に振った。

「いらん。何、黒魔女様に恩を売れただけで報酬みたいなもんだ。また何かあったら手を貸してくれ。じゃあな」

 そう言って、冒険者が去っていく。

「……で? 何を頼んだんだ? 黒魔女様は」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうルーケへとヘカティが拗ねたような声を出した。

「もう! ルーケまで黒魔女様って呼ばないでよ。何って勿論、二階層の階層主についてだよ」
「階層主っていうとあれか。一階層のあのでっかい植物みたいなやつか」
「うん。どうせ二階層突破するならさ――を倒したいでしょ?」

 そう不敵に笑うヘカティを見て、ルーケは目を丸くしたあとに、同じような笑みを浮かべたのだった。

「かはは……良いねえ。そうだな、確かにそうだ。どうせなら、コソコソいない隙に通り過ぎるより、きっちりぶっ殺してから突破する方が気持ち良いもんな」
「うんうん。というわけで、誰かに倒される前に行こうか」
「善は急げだな! うっし、あたしの力を見せてやる! あ、ヘカティは手を出すなよ。お前がやると一発で終わるからつまらねえんだよ」
「えー。私も色々新技考えているから使いたい!」
「じゃあ今回は私で、次復活したらヘカティって感じにしようぜ。どうせなら二体同時に出てくればいいのに」

 なんて物騒なことをルーケが話していると、一人の青年がヘカティ達の下へと歩んでくる。

「階層主を二体同時になんて言うのは君達ぐらいだよ……やあ、ヘカティにルーケ。少し良いかい?」

 そう言って、口元を微笑ませていたのは狼の仮面を被った青年――キースだった。

「あ、キースさん! もちろん、大丈夫ですよ。どうしました?」
「いや何、実は、君達二人に折り入って頼みがあるんだ」
「あん? なんだよ頼みって。あたしらこれから二階層に行くから忙しいぞ」
「いや、うん。それに関係にすることなんだが……」

 煮え切らないような物言いのキースに、ヘカティはなんだか珍しいなと思った。嫌々、いや渋々お願いするといった感じだ。

「……ちと厄介な事になってね」
「厄介?」
「ああ。実は、君達にさる御仁の護衛をお願いしたいんだ」
「護衛? おいおいそういうのは騎士の仕事だろ」

 ルーケの言葉にキースが頷いた。

「普通ならそうだけどね……場所と目的が悪いんだ」
「どういうことですか?」
「その方は、三階層を見たいそうだ。その為にはそこまで護衛しつつかつ二階層の階層主を突破できる戦力が必要なんだ」
「……んな物見遊山する場所じゃねえだろ、あそこは」

 ルーケが目を細めた。塔は決して遊び半分で登って良い場所ではない。

「分かっているし、全面的に僕も同意したいんだけどね。そういうわけにもいかないんだ。だから、君達にこうして直接、内密にお願いしているんだよ。言わば、僕からの個人的な依頼ってことさ。もちろん報酬は出すし、更にこれは君達にとっては大きなプラスにもなると保証しよう。まあ……その……大変だと思うけど……」

 キースの言葉にルーケは難色を示すが、ヘカティは笑みを浮かべた。

「構いませんよ。キースさんには大変お世話になっていますし。その依頼引き受けましょう」
「お、おい良いのかよヘカティ! 護衛って大変だぞ」
「私達ならできるよ」

 ヘカティが自信たっぷりにそう言い切った。もう何度も二人で塔に潜っているが、ヘカティは確信していた。三階層はともかく、二階層については全く問題ないことを。

「……ありがとうヘカティ。正直言うと、本当に助かる。僕自身で出来れば良いのだけど……そういうわけにいかなくてね」
「じゃあキースさんは今回は付いてこないんですか?」
「ああ。ちと下手に動けない状況になりそうでね……やれやれだ」

 疲れ切ったような声を出すキースを見て、ヘカティは、きっと何やら色々あるのだろうと察した。

「早速だが、1時間後にここに向かってくれ。そこで落ち合う手筈になっている。繰り返すが俺は付いていけない。具体的にどう動くかはその依頼人から聞いて、自分達で判断してくれ」
「分かりました」
「すまんな、ヘカティ。あーそうだ、報酬とは別で、これを渡しておく」
「……? なんですこれ」

 キースが渡してきたのは、分厚い本だった。

「……【】と呼ばれる物について、とある魔術師が記録した古い魔術書だ。きっと、ヘカティの力になると思うから、時間があれば読むといい」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、任せたよ――【グラビトンの魔女】さん」

 そう言い残して、キースが足早に去っていった。彼が置いていった待ち合わせ場所と時間が書かれたメモをヘカティは大事にポケットへとしまった。本は無限ポーチへと仕舞う

「なんだよそのグラ……なんとかの魔女って」
「さあ? じゃ、用意していこっか」
「おう! しかし、さる御仁って誰なんだろうなあ」
「誰だろうね……ま、誰でもいっか」

 そんな二人の疑問は――待ち合わせ場所で、驚きと共に消える事になった。

 待ち合わせ場所である、塔の入口から少し離れた場所に二人が向かうと、そこには、やけに上質で仕立ての良い服の上に新品らしき上等な革鎧を身につけ、帽子を深く被って顔を見えなくした少女が立っていた。

 周囲には屈強な騎士が取り囲んでおり、如何にもな雰囲気を醸し出している。

「あれだろ」
「だね」

 二人がその少女に近付くと、少女がその様子に気付き、帽子を上げた。その端正な顔と碧眼、そしてふわふわの金髪を見て、ルーケが絶句した。

「げっ……」
「こんにちは! 私達が護衛を行う者です。貴女が依頼人ですか?」

 しかし何も知らないヘカティは、同い年らしきその少女に親しみを込めた笑顔を浮かべ、そう声を掛けた。

 その言葉に周囲の騎士がぴりつく。一人の騎士が前に出て、尊大な声を出した。

「貴様!! 誰に向かって口を利いている!! 頭が高いぞ!」
「へ? なんで?」

 しかしどういうことか分からず、ヘカティはキョトンとした表情をするだけだった。

「あー。キースの野郎……そういうことか」

 ルーケはようやく事の重大さを察した。

「――構いません。私は、今はただの冒険者ですから。上も下もありませんわ。そうよね……グラビトンの魔女さん?」

 そう言って笑うその少女は、この国の第一王女――サレーナ王女その人であった。
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