15 / 20
15話:護衛依頼です!
しおりを挟むミラルダのギルド襲撃事件から数日が経った。
「ヘカティよー。そろそろ二階層攻略にいこうぜ~。一階層の依頼や魔石集めばっかりで飽きちまうよ」
ギルドの酒場で、ビールを飲みつつルーケが目の前で、美味しそうにソーセージを頬張っているヘカティへと声を掛けた。
「んー? そうだねえ。お金も結構溜まってきたし、そろそろかな?」
「何を待っているんだよ。別に金がなくなって、あたしらなら余裕で突破できるだろ」
呆れたような声を出すルーケに、ヘカティは笑顔を浮かべた。そんなヘカティの下へと一人の冒険者がやってきた。使い込んだ鎧と剣を見る限り、かなり熟練の冒険者だということが分かる。
「――ついに確認できたぞ」
その冒険者がヘカティにそう告げる、ニヤリと笑った。
「ほんとですか!?」
「ああ。この目で見てきた」
「ありがとうございます! えっと、報酬を……」
ヘカティが革袋から金貨を出そうとするが、冒険者は笑って首を横に振った。
「いらん。何、黒魔女様に恩を売れただけで報酬みたいなもんだ。また何かあったら手を貸してくれ。じゃあな」
そう言って、冒険者が去っていく。
「……で? 何を頼んだんだ? 黒魔女様は」
悪戯っぽい笑みを浮かべてからかうルーケへとヘカティが拗ねたような声を出した。
「もう! ルーケまで黒魔女様って呼ばないでよ。何って勿論、二階層の階層主についてだよ」
「階層主っていうとあれか。一階層のあのでっかい植物みたいなやつか」
「うん。どうせ二階層突破するならさ――階層主を倒したいでしょ?」
そう不敵に笑うヘカティを見て、ルーケは目を丸くしたあとに、同じような笑みを浮かべたのだった。
「かはは……良いねえ。そうだな、確かにそうだ。どうせなら、コソコソいない隙に通り過ぎるより、きっちりぶっ殺してから突破する方が気持ち良いもんな」
「うんうん。というわけで、誰かに倒される前に行こうか」
「善は急げだな! うっし、あたしの力を見せてやる! あ、ヘカティは手を出すなよ。お前がやると一発で終わるからつまらねえんだよ」
「えー。私も色々新技考えているから使いたい!」
「じゃあ今回は私で、次復活したらヘカティって感じにしようぜ。どうせなら二体同時に出てくればいいのに」
なんて物騒なことをルーケが話していると、一人の青年がヘカティ達の下へと歩んでくる。
「階層主を二体同時になんて言うのは君達ぐらいだよ……やあ、ヘカティにルーケ。少し良いかい?」
そう言って、口元を微笑ませていたのは狼の仮面を被った青年――キースだった。
「あ、キースさん! もちろん、大丈夫ですよ。どうしました?」
「いや何、実は、君達二人に折り入って頼みがあるんだ」
「あん? なんだよ頼みって。あたしらこれから二階層に行くから忙しいぞ」
「いや、うん。それに関係にすることなんだが……」
煮え切らないような物言いのキースに、ヘカティはなんだか珍しいなと思った。嫌々、いや渋々お願いするといった感じだ。
「……ちと厄介な事になってね」
「厄介?」
「ああ。実は、君達にさる御仁の護衛をお願いしたいんだ」
「護衛? おいおいそういうのは騎士の仕事だろ」
ルーケの言葉にキースが頷いた。
「普通ならそうだけどね……場所と目的が悪いんだ」
「どういうことですか?」
「その方は、三階層を見たいそうだ。その為にはそこまで護衛しつつかつ二階層の階層主を突破できる戦力が必要なんだ」
「……んな物見遊山する場所じゃねえだろ、あそこは」
ルーケが目を細めた。塔は決して遊び半分で登って良い場所ではない。
「分かっているし、全面的に僕も同意したいんだけどね。そういうわけにもいかないんだ。だから、君達にこうして直接、内密にお願いしているんだよ。言わば、僕からの個人的な依頼ってことさ。もちろん報酬は出すし、更にこれは君達にとっては大きなプラスにもなると保証しよう。まあ……その……大変だと思うけど……」
キースの言葉にルーケは難色を示すが、ヘカティは笑みを浮かべた。
「構いませんよ。キースさんには大変お世話になっていますし。その依頼引き受けましょう」
「お、おい良いのかよヘカティ! 護衛って大変だぞ」
「私達ならできるよ」
ヘカティが自信たっぷりにそう言い切った。もう何度も二人で塔に潜っているが、ヘカティは確信していた。三階層はともかく、二階層については全く問題ないことを。
「……ありがとうヘカティ。正直言うと、本当に助かる。僕自身で出来れば良いのだけど……そういうわけにいかなくてね」
「じゃあキースさんは今回は付いてこないんですか?」
「ああ。ちと下手に動けない状況になりそうでね……やれやれだ」
疲れ切ったような声を出すキースを見て、ヘカティは、きっと何やら色々あるのだろうと察した。
「早速だが、1時間後にここに向かってくれ。そこで落ち合う手筈になっている。繰り返すが俺は付いていけない。具体的にどう動くかはその依頼人から聞いて、自分達で判断してくれ」
「分かりました」
「すまんな、ヘカティ。あーそうだ、報酬とは別で、これを渡しておく」
「……? なんですこれ」
キースが渡してきたのは、分厚い本だった。
「……【グラビトン】と呼ばれる物について、とある魔術師が記録した古い魔術書だ。きっと、ヘカティの力になると思うから、時間があれば読むといい」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、任せたよ――【グラビトンの魔女】さん」
そう言い残して、キースが足早に去っていった。彼が置いていった待ち合わせ場所と時間が書かれたメモをヘカティは大事にポケットへとしまった。本は無限ポーチへと仕舞う
「なんだよそのグラ……なんとかの魔女って」
「さあ? じゃ、用意していこっか」
「おう! しかし、さる御仁って誰なんだろうなあ」
「誰だろうね……ま、誰でもいっか」
そんな二人の疑問は――待ち合わせ場所で、驚きと共に消える事になった。
待ち合わせ場所である、塔の入口から少し離れた場所に二人が向かうと、そこには、やけに上質で仕立ての良い服の上に新品らしき上等な革鎧を身につけ、帽子を深く被って顔を見えなくした少女が立っていた。
周囲には屈強な騎士が取り囲んでおり、如何にもな雰囲気を醸し出している。
「あれだろ」
「だね」
二人がその少女に近付くと、少女がその様子に気付き、帽子を上げた。その端正な顔と碧眼、そしてふわふわの金髪を見て、ルーケが絶句した。
「げっ……」
「こんにちは! 私達が護衛を行う者です。貴女が依頼人ですか?」
しかし何も知らないヘカティは、同い年らしきその少女に親しみを込めた笑顔を浮かべ、そう声を掛けた。
その言葉に周囲の騎士がぴりつく。一人の騎士が前に出て、尊大な声を出した。
「貴様!! 誰に向かって口を利いている!! 頭が高いぞ!」
「へ? なんで?」
しかしどういうことか分からず、ヘカティはキョトンとした表情をするだけだった。
「あー。キースの野郎……そういうことか」
ルーケはようやく事の重大さを察した。
「――構いません。私は、今はただの冒険者ですから。上も下もありませんわ。そうよね……グラビトンの魔女さん?」
そう言って笑うその少女は、この国の第一王女――サレーナ王女その人であった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!
寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】
「ハズワケ!」あらすじ。
ギフト名【運び屋】。
ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。
その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。
しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。
けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。
仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。
※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。
※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑)
※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。
「私のために死ねるなら幸せよね!」と勇者姫の捨て駒にされたボクはお前の奴隷じゃねえんだよ!と変身スキルで反逆します。土下座されても、もう遅い
こはるんるん
ファンタジー
●短いあらすじ。
勇者のイルティア王女の身代わりにされ、魔王軍の中に置き去りにされたルカは、神にも匹敵する不死身の力にめざめる。
20万の魔王軍を撃破し、国を救ったルカは人々から真の英雄とたたえられる。
一方でイルティアは魔王の手先と蔑まれ、名声が地に落ちた。
イルティアは、ルカに戦いを挑むが破れ、
自分を奴隷にして欲しいと土下座して許しをこう。
ルカは国王を破って、世界最強国家の陰の支配者となる。さらにはエルフの女王にめちゃくちゃに溺愛され、5億人の美少女から神と崇められてしまう。
●長いあらすじ
15歳になると誰もが女神様からスキルをもらえる世界。
【変身】スキルをもらったボクは、勇者であるイルティア王女に捨て駒にされた。
20万の魔王軍に包囲された姫様は、ボクを自分に変身させ、身代わりにして逃げてしまったのだ。
しかも姫様は魔王の財宝を手に入れるために、魔族との戦争を起こしたと得意げに語った。
魔法が使えないため無能扱いされたボクだったが、魔王軍の四天王の一人、暗黒騎士団長に剣で勝ってしまう。
どうもボクの師匠は、剣聖と呼ばれるスゴイ人だったらしい。
さらに500人の美少女騎士団から絶対の忠誠を誓われ、幻獣ユニコーンから聖なる乙女として乗り手にも選ばれる。
魔王軍を撃破してしまったボクは、女神様から究極の聖剣をもらい真の英雄として、人々から賞賛される。
一方で勇者イルティアは魔王の手先と蔑まれ、名声が地に落ちた。
これは無能と蔑まれ、勇者の捨て駒にされた少年が、真の力を開放し史上最強の英雄(♀)として成り上がる復讐と無双の物語。
勇者姫イルティアへのざまぁは16話からです。
イルティアを剣で打ち負かし、屈服させて主人公の奴隷にします。
彼女は主人公に土下座して許しをこいます。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる