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14話:(間話)王位を継承する者達

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 王都――ティエル・クルス城内。

 その豪奢な部屋には、金髪碧眼の四人の男女が集まっていた。

「何です? 兄上の方から我々兄弟全員を呼ぶなんて珍しい」

 そう口を開いたのは、魔物の毛皮で出来た絨毯の上にある、革張りのソファに座っている線の細い青年だった。高級品である眼鏡を掛けており、理知的な雰囲気を醸し出していた。

「そう、焦るなよトファース。なに、今後についてそろそろ話しておこうと思ってな」

 低い、しかしはっきりとした声でそう言葉を返したのは窓際に立つ武人のような男だった。分厚い胸板に太い腕、凜々しい顔立ちに短く刈り上げた髪。

 彼の名は、グラント・クルス。このティエル・クルス王国の第一王子だ。

「今後? まるで父上が亡くなったかのような物言いですね、兄上」

 ソファに座る眼鏡の青年――第二王子であるトファースが皮肉げに答えた。

「不敬ですわよ、トファース様」

 トファースの向かいに座る美しい少女――第一王女であるサレーナが紅茶を飲みながら静かにそうトファースに告げる。

「文句なら兄上に言いなさいサレーナ」
「くくく……まあ、そうムキになるなよお前ら。ここには俺らしかいない、兄弟仲良くいこうじゃないか」

 トファースとサレーナの様子を見て、グラントが不敵に笑う。

 そんな三人の様子を、少し離れた位置の壁にもたれかかって見ていた青年――第三王子キルリアッシュは心の中で溜息をついた。

 やれやれ、あの脳みそまで筋肉でできているような馬鹿兄は何を言い出すのだろうか。

「だがトファース、お前の言葉はある意味正しい。父上は既に老年期に入っている。今後の国政について考えれば……もう引退しても良い時期だ」

 グラントが雄弁に語りつつ、サレーナの横にどかりと座った。サレーナがそのがさつな行動を横目で睨みつつ、座る位置をずらし、グラントから少しでも離れた位置に座ろうとする。

「おい、キルリアッシュ。お前も座れ」
「僕はここで構わない」
「――。お前だけ立っていたら俺達が偉そうに見えるだろうが。兄弟四人……みな平等だろ?」

 恫喝するような声を出しておきながら平等を謳うとはね……。キルリアッシュは諦めて、トファースの横に座った。

「単刀直入に言おう。今、この国は危機にある」
「危機? ここ数百年、戦乱に明け暮れていたこの大陸で一番な平和な時代と言われている今世の、そしてこの国が?」

 トファースが訝しげに聞き直す。

「そうだ。平和ボケにもほどがある。お前も聞いたことがあるだろ? クルス家は兵士の数よりも蔵書の数のが多い軟弱王家だと」
「そんな揶揄を真正面から受けてどうするんです? それにこう平和であれば最低限の軍備にし、余剰分の資金を民の生活向上の為に使うのが……今の時代の国政でしょうが」
「お前も父上も暢気すぎる。全く見えていないな。なぜこの平和がいつまでも続くと思っている? 帝国はいまだに牙を研いで、こちらの喉元を狙っているぞ」
「そんな事を言いだしたらキリがないですよ、兄上。南のエルヴァン同盟国も怪しい動きがありますしね」
「そこまで知っていてなぜ動かない?」

 グラントの言葉に、トファースが嫌々ながら答える。

「……絶塔があるからですよ。かのダンジョンは世界中から冒険者や荒くれ者を呼び寄せている。おかげで、この国は兵士と騎士の数が最低限なのにも関わらず……と恐れられている」
「そうだ。あのロクデナシ冒険者共がいるおかげで、他の国は手を出してこない。それにうちにはダンジョン産の技術もあるからな。だがな、トファース。考えてみろよ、あいつらは決して俺達王家に忠誠を誓っているわけじゃねえ」
「……我らに刃向かってくると?」
「そうは言わねえが……あまりにも奴らは力を付けすぎている。俺は、危惧しているんだ。もし、あいつらが他国の操作によって……俺達に牙を向けて来た時に――国を守る術を俺達は持っているのか?」

 グラントの言葉に、全員が沈黙する。

「……言わんとする事は分かりました。それで、どうする気です?」
「なに、今すぐどうのという話ではないが……俺らはあまりに塔の事を、冒険者の事を知らなすぎる。そう思わないか? この城にいるだけでは見えてこない物もある。そうだろ――キルリアッシュ」

 ここに来て、初めて話を振られたキルリアッシュだが、涼しい顔でこの問いを受け止めた。

「特に反対はないさ」
「そうだな。。王位継承権なぞ自分にはないと決めつけて、のらりくらりやっているようだが……そう甘くはいかないぞ」

 含みのある物言いをするグラントの言葉に、トファースが眼鏡の奥で目を細めた。

「何をするつもりですか、兄上。まさか冒険者になって塔を登る、なんて言わないでしょうね」
「――そのまさかだよ。そろそろ王家も塔攻略に本腰を入れるべきだと俺は思う。分かるか? 冒険者共が危険な存在ならば、それすらも取り込んでしまえばいい。あいつらはロクデナシの馬鹿ばかりだが、悪ではない。我ら王家が先頭に立ち、塔を攻略すれば……尻尾も振るだろうさ」

 その言葉に、トファースは心の中で舌打ちをしていた。この脳みそ筋肉の兄が、自分と同じ結論に至ったことに対する苛立ちだ。

 トファースは既に子飼いの部下に冒険者や塔について探らせていた。未来の事を考えれば、いつか冒険者が塔を攻略してしまうのは必然。その者達は英雄として祭り上げられるだろう。

 そしてそれはただですら低い王家へと求心力が更に低くなる事に直結しかねない。

 英雄は――我ら王家の誰かであるべきなのだ。

「珍しく、完全に同意しますよ兄上。それで? どうするつもりです?」
「何、簡単な話さ。。先に塔を攻略した者、それが勝者だ。そしてその者こそが――すなわち次の王となる」

 グラントの言葉に――キルリアッシュを除く全員が目をぎらつかせた。

 こうして塔攻略に、王家も本格参入を始めるのだった。

 これが後に――大きな騒乱となる。
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