14 / 20
14話:(間話)王位を継承する者達
しおりを挟む王都――ティエル・クルス城内。
その豪奢な部屋には、金髪碧眼の四人の男女が集まっていた。
「何です? 兄上の方から我々兄弟全員を呼ぶなんて珍しい」
そう口を開いたのは、魔物の毛皮で出来た絨毯の上にある、革張りのソファに座っている線の細い青年だった。高級品である眼鏡を掛けており、理知的な雰囲気を醸し出していた。
「そう、焦るなよトファース。なに、今後についてそろそろ話しておこうと思ってな」
低い、しかしはっきりとした声でそう言葉を返したのは窓際に立つ武人のような男だった。分厚い胸板に太い腕、凜々しい顔立ちに短く刈り上げた髪。
彼の名は、グラント・クルス。このティエル・クルス王国の第一王子だ。
「今後? まるで父上が亡くなったかのような物言いですね、兄上」
ソファに座る眼鏡の青年――第二王子であるトファースが皮肉げに答えた。
「不敬ですわよ、トファース様」
トファースの向かいに座る美しい少女――第一王女であるサレーナが紅茶を飲みながら静かにそうトファースに告げる。
「文句なら兄上に言いなさいサレーナ」
「くくく……まあ、そうムキになるなよお前ら。ここには俺らしかいない、兄弟仲良くいこうじゃないか」
トファースとサレーナの様子を見て、グラントが不敵に笑う。
そんな三人の様子を、少し離れた位置の壁にもたれかかって見ていた青年――第三王子キルリアッシュは心の中で溜息をついた。
やれやれ、あの脳みそまで筋肉でできているような馬鹿兄は何を言い出すのだろうか。
「だがトファース、お前の言葉はある意味正しい。父上は既に老年期に入っている。今後の国政について考えれば……もう引退しても良い時期だ」
グラントが雄弁に語りつつ、サレーナの横にどかりと座った。サレーナがそのがさつな行動を横目で睨みつつ、座る位置をずらし、グラントから少しでも離れた位置に座ろうとする。
「おい、キルリアッシュ。お前も座れ」
「僕はここで構わない」
「――座れ。お前だけ立っていたら俺達が偉そうに見えるだろうが。兄弟四人……みな平等だろ?」
恫喝するような声を出しておきながら平等を謳うとはね……。キルリアッシュは諦めて、トファースの横に座った。
「単刀直入に言おう。今、この国は危機にある」
「危機? ここ数百年、戦乱に明け暮れていたこの大陸で一番な平和な時代と言われている今世の、そしてこの国が?」
トファースが訝しげに聞き直す。
「そうだ。平和ボケにもほどがある。お前も聞いたことがあるだろ? クルス家は兵士の数よりも蔵書の数のが多い軟弱王家だと」
「そんな揶揄を真正面から受けてどうするんです? それにこう平和であれば最低限の軍備にし、余剰分の資金を民の生活向上の為に使うのが……今の時代の国政でしょうが」
「お前も父上も暢気すぎる。全く見えていないな。なぜこの平和がいつまでも続くと思っている? 帝国はいまだに牙を研いで、こちらの喉元を狙っているぞ」
「そんな事を言いだしたらキリがないですよ、兄上。南のエルヴァン同盟国も怪しい動きがありますしね」
「そこまで知っていてなぜ動かない?」
グラントの言葉に、トファースが嫌々ながら答える。
「……絶塔があるからですよ。かのダンジョンは世界中から冒険者や荒くれ者を呼び寄せている。おかげで、この国は兵士と騎士の数が最低限なのにも関わらず……保有戦力は大陸一と恐れられている」
「そうだ。あのロクデナシ冒険者共がいるおかげで、他の国は手を出してこない。それにうちにはダンジョン産の技術もあるからな。だがな、トファース。考えてみろよ、あいつらは決して俺達王家に忠誠を誓っているわけじゃねえ」
「……我らに刃向かってくると?」
「そうは言わねえが……あまりにも奴らは力を付けすぎている。俺は、危惧しているんだ。もし、あいつらが他国の操作によって……俺達に牙を向けて来た時に――国を守る術を俺達は持っているのか?」
グラントの言葉に、全員が沈黙する。
「……言わんとする事は分かりました。それで、どうする気です?」
「なに、今すぐどうのという話ではないが……俺らはあまりに塔の事を、冒険者の事を知らなすぎる。そう思わないか? この城にいるだけでは見えてこない物もある。そうだろ――キルリアッシュ」
ここに来て、初めて話を振られたキルリアッシュだが、涼しい顔でこの問いを受け止めた。
「特に反対はないさ」
「そうだな。お前はいつもそうだ。王位継承権なぞ自分にはないと決めつけて、のらりくらりやっているようだが……そう甘くはいかないぞ」
含みのある物言いをするグラントの言葉に、トファースが眼鏡の奥で目を細めた。
「何をするつもりですか、兄上。まさか冒険者になって塔を登る、なんて言わないでしょうね」
「――そのまさかだよ。そろそろ王家も塔攻略に本腰を入れるべきだと俺は思う。分かるか? 冒険者共が危険な存在ならば、それすらも取り込んでしまえばいい。あいつらはロクデナシの馬鹿ばかりだが、悪ではない。我ら王家が先頭に立ち、塔を攻略すれば……尻尾も振るだろうさ」
その言葉に、トファースは心の中で舌打ちをしていた。この脳みそ筋肉の兄が、自分と同じ結論に至ったことに対する苛立ちだ。
トファースは既に子飼いの部下に冒険者や塔について探らせていた。未来の事を考えれば、いつか冒険者が塔を攻略してしまうのは必然。その者達は英雄として祭り上げられるだろう。
そしてそれはただですら低い王家へと求心力が更に低くなる事に直結しかねない。
英雄は――我ら王家の誰かであるべきなのだ。
「珍しく、完全に同意しますよ兄上。それで? どうするつもりです?」
「何、簡単な話さ。レースをしようじゃないか。先に塔を攻略した者、それが勝者だ。そしてその者こそが――すなわち次の王となる」
グラントの言葉に――キルリアッシュを除く全員が目をぎらつかせた。
こうして塔攻略に、王家も本格参入を始めるのだった。
これが後に――大きな騒乱となる。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる