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12話:ライトニングの少女

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「えっと……え? どういうこと?」

 その少女の言っている事が分からず、思わずそう聞き返すヘカティだったが、少女は怒っており、聞く耳を持たない。

「問答無用!」
「っ!!」

 少女から閃光が放たれるが、今度はヘカティもキースも目を庇って防ぐ。

 キースが咄嗟に出した剣で、迫る曲剣を弾く。

「へえ……あたしの速さに反応できるんだ!」
「こう見えても結構僕は強くてね! ヘカティ!」

 キースが少女を足止めしている隙に、ヘカティが【レビテーション】の魔術を発動。

 しかし――

「そんなクソみたいな魔術――

 少女が閃光を放つと同時に、ヘカティの魔術範囲内にいるにも関わらず、まるで雷撃のような速度でキースの横を通り過ぎると、いつの間にかヘカティへと接近。

 曲剣が迫る中、ヘカティは驚いていた。

 なぜ、魔術が効かないのだろうか。軽量化が効かないということは、加重も効かない可能性もある。

 だが、ヘカティは難しい事を考えることを止めた。なんだか分からないけど、ケンカを売られている事がよく分かったし、何より、少し怒っていた。

「私の魔術は――クソなんかじゃない!!」

 ヘカティは自身に掛けていた加重魔術を解放。目の前に迫る曲剣を黒水晶の短剣で弾く。

 そして弾く瞬間に短剣に加重を掛けて衝撃力を強化。

「っ! うっそだろ」

 少女の手から曲剣が弾かれた。くるくると回転しながら飛んでいく曲剣に気を取られた少女へと、ヘカティは流れるような動きで右足を叩き付けた。

 今度は加重を加減して、ダメージを最低限に抑える。

「うっ!」

 少女は迫る足を腕を上げてガードするが、ガードの上から衝撃が伝わり、立っていられずに吹き飛ぶ。

 だが、その瞬間にヘカティとキースは確かに見た。

 少女の身体が空中で――姿

 雷光を放ち、飛んでいった曲剣の下へと、雷撃となった少女が空中を駆ける。

「……なんだあれ」
「多分、身体を雷に変えることが出来るんでしょうね。私のこれまでの経験上、雷やら光やらは重力バリアで存在そのものを消失させるか、もしくは、を掛けないと、魔術の効果が出ません」
「はは……あの子もまた化け物か」

 キースは既に、今の攻防についていけてなかった。Aランクという称号が恥ずかしいほどだ。

「……名前を聞いてやる、黒いの」

 少女が元の姿になって曲剣を拾って構えつつ、そうヘカティに声を投げかけた。

「ヘカティ。そっちは?」
「ルーケだ。参ったな……あんた強いよ。まさか接近戦もできるとは予想外だった。ここから勝てるビジョンが見えねえ」
「私もびっくりだよ。【重力】が効かないなんて。あのさ、なんで私を狙うの? 短剣をどうのって言っていたけど」

 少女――ルーケが曲剣を下ろした。その視線がヘカティが握る黒水晶の短剣へと向けられた。

「……その短剣。それ【光喰スコル】って名前で、あたしの母さんの形見なんだ。母さんから譲り受けてずっと身に付けていたんだが……前にレックスベアに奇襲を受けてな。そんときに咄嗟に使って刺したところまでは良いんだが、そのままレックスベアが逃げてしまったんだ。すぐに追いかけるつもりだったが、運悪く違う魔物に襲われて、気付けば見失っていた」
「ああ……この短剣は私が倒したレックスベアに刺さっていたからきっとそうだね」
「で、ずっとそのレックスベアを探していたんだが、いくら探しても見つからなくて……その時に街で噂を聞いたんだ。駆け出しの黒い魔女がレックスベアを倒したって話を。だから、きっとそいつが持っているに違いないと思って、探していたんだ」

 そう言って、ルーケが溜息をついた。

「レックスベアを倒すほどだからな。きっと二階層にいるに違いないと、ここで待っていた」
「なるほど……だからといって手当たり次第冒険者を襲うのはよろしくないな。現状、やられたという報告だけで誰も怪我をしていないし何も取られていないから、ギルドも危険視はしていないけど……時間の問題だったと僕は思うよ。それにレックスベアに刺さっている武具は倒した者に所有権が移る。君の物だったかもしれないが、今はヘカティの物だ。それを無理矢理奪うのは――間違っている」

 キースの言葉に、ルーケが俯く。
 だけど、ヘカティが笑みを浮かべると口を開いた。

「じゃあ――。だって元々ルーケの物なんだし」

 ヘカティがそう言うと、ルーケに歩み寄って短剣――【光喰スコル】を差し出した。

 しかしルーケはそれを見て、首を横に振った。

「……いや。こんな形で受け取ったら、母さんに笑われちまう。ヘカティ、あんたが持っていてくれ。もっと強くなって……あんたにきっちり勝って、取り返すよ」

 そう笑うルーケを見て、ヘカティが不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあ、その日は一生来ないと思うよ。だって私……まだまだ強くなれるもん」
「はあ!? あたしだって成長期だし!! まだまだ強くなるし!」
「それも私も一緒」
「ぐぬぬ……」

 睨み合う二人の少女を見て、キースはどうすればいいか分からなかった。

「――ぷっ……あははは!」
「わははは! ヘカティ、あんた面白いな」
「ルーケもね!」

 なぜか二人が突如、笑い声を上げて、キースはますます何が何やら分からなくなった。

 だが、ヘカティとルーケはなぜかお互いに妙な親近感を覚えていた。似たもの同士、と言った方が早いかもしれない。

「ねえ、ルーケは冒険者?」
「あん? あー、まあな。塔に入る為に登録だけはしてるが依頼もやってねえし興味ねえ。あたしはただ……母さんを超えたいだけなんだ」
「超える?」
「母さんが成し遂げた、第三階層突破を超える――をあたしは目指しているんだ」
「まさかそれって……」

 キースはその言葉で、ルーケの事を察した。母親ってのはまさか……。

「ああ。あたしの母さんの名はローザ。【極光のローザ】と言えば、分かるだろ?」
「ローザさんに……娘がいたなんて」

 キースが絶句しているが、ヘカティはそれがどうしたという顔で何かを考えていた。

「多分、誰も知らないだろうな。だからべらべら喋るなよ、変な仮面の騎士」
「……それってもしかして僕のこと?」
「他に誰がいるんだよ」
「仮面、変えようかな……」

 落ち込むキースを尻目に、ヘカティは自分の中で出た結論に納得するように頷いた。

「うん、やっぱりそれがいい。ねえルーケ。提案があるんだけど」
「あん? なんだよ。【光喰スコル】なら受け取らねえぞ」

 そう釘を刺すルーケに向かって、ヘカティは飛びっきりの笑顔を向けた。

「そうじゃなくてさ。第四階層突破を目指すんでしょ? だったら――
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