グラビトンの魔女 ~無能の魔女と言われ追放されたので、気ままに冒険者やりたいと思います。あれ? 何もしていないのにみんなが頭を垂れ、跪く~

虎戸リア

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9話:私も二つ名が欲しいです

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 ドラゴンプラント討伐から数日後。

 受けた依頼の報告をする為に、冒険者ギルドにヘカティは一人やってきた。

「あれが噂の魔女か? 強そうに見えないな」
「いやいやそれよりめちゃくちゃ可愛いぜ……ソロらしいしうちのパーティに誘おう!」
「お前、鼻の下が伸びてるぞ」

 最近、ヘカティが冒険者ギルドに来るといつも周囲がざわついた。

 ヒソヒソと遠くで自分の事を話されるのは学院時代の時からよくあったが、その時と違って、今は不思議とそれが嫌ではなかった。

「こんにちは、ベアルさん! 依頼終わりましたよ~」
「おう、ご苦労さん。ったく、Bに上がったんだから、ヒーリングカズラの実の採取なんざ駆け出しに任せたら良いんだぜ?」

 そう言ってベアルが笑顔で、ヘカティが差し出す採取袋を受け取って中身を確認していく。

「何言っているんですか、ベアルさん。私は駆け出しですよ」
「がっはっは! 確かにそうだな! だけどな、ちったあ誇っても良いぞ。こんな短期間でBランクに上がったのは、お前か【極光のローザ】ぐらいだ」

 笑いながら、ベアルが報酬をヘカティへと渡す。報酬額自体は大したことないが、毎日やれば暮らすのに不自由のないぐらいの金額は貰えるので、ヘカティは満足していた。

 ヘカティは、ドラゴンプラントをほぼソロで討伐したというキースの報告によって、Bランクに上がっていた。一階層を、階層主の突破も含めソロで出来る冒険者は一握りであり、Aランク冒険者であるキースの強い推薦もあって、昇格申請が通ったのだ。

「だけどな、ここからはそう簡単にはいかねえぞ。Aランクからは【踏破者会議】で、過半数の賛成を取らないと申請が通らないからな。ギルドマスターの裁量で決められるはBランクまでだ」
「んー。なんか実感ないんですけどね」

 ついこないだまで冒険者ですらなかったヘカティにとっては、いまいちこのランク制度が理解できない。ただ単に実力があれば上がるのはBランクまでということだけは分かった。

「しかし、あれだな。魔術学院も最近、評判が悪いと聞いていたが、こんな逸材を【無能の魔女】扱いとはな」
「……学院にいた時には、人に対して使わなかったですから。無能扱いも仕方ないですよ」
「ま、冒険者になって伸びるタイプの人間もいるからな。魔術学院については忘れるこった。あれこれ口出してきても俺がガツンと言ってやるさ」
 
 そう言ってベアルがニカッと笑い、白い歯を見せた。それに対し、ヘカティはほほ笑み返した。

「ふふふ……頼りにしてますよベアルさん」
「あー、そうだ。珍しく【狼騎士ヴォルフリッター】の奴がな、お前を名指しで共同依頼を受けていてな」
「ぼ、ぼるふりったー?」
「ヴォルフリッターな。狼の騎士って意味だ。あん? なんだよあいつ、そんな事も話していないのか。キースの二つ名だよ」
「あー、キースさんか。そういえば狼っぽい仮面被ってますもんね」
「それでついた二つ名だよ。高ランクの冒険者には、大体二つ名が付くんだよ。【血脈士グレア】とか【狼騎士】とか、【曲槍のエクス】とかな」

 ベアルが嬉しそうにその名を告げた。まるで自分の子供の事を自慢しているようで、ヘカティはなんだかおかしくて笑ってしまった。

「誰が名付けるんですか?」
「別に誰って決まってない。強いていえば、誰が言い始めてそれが定着したら、それになるって感じだな」
「私にも付くんですかね!?」

 ワクワクするヘカティの様子を見て、ベアルが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そうだな……【ヒーリングカズラ探しの達人】とかどうだ」
「長い上に語呂が悪いじゃないですか!」
「そればっかり依頼を受けるからだろ? じゃあ……【重い魔女】とかどうだ」
「女子に重いは禁句! 重くない!」

 なんて二人が話し合っていると、向こうからキースがやってきた。相変わらず狼の仮面を被っている。

「マスター、いつまで立ち話する気だよ」
「おっと、待ちくたびれたか」
「あくびが出たさ……。やあ、久しぶりだねヘカティ。元気だったかい」

 そう言って口角を上げたキースを見て、ヘカティがニコリと笑った。

「ええ。キースさんも元気そうで。それで依頼ってのは?」
「僕とは、雑談してくれないんだね……」

 しょんぼりした様子でキースが溜息をついた。

「そんな事でしょげないでください……ほら、道すがら話を聞きますから」
「ヘカちゃんも随分と小慣れてきたね……まあとにかくまずは二階層に向かうよ。今回の依頼は――調だ」

 こうして二人が酒場から去って行く。

 その様子をジッと見つめる存在がいた。酒場の奥で息を潜ませていたのは、黒いローブを纏い、フードを深く被っているせいで顔が見えない男だった。

「次は……第二階層か。くくく……殺るには……丁度良い場所じゃないか……」

 その後、その場から黒ローブ男が音もなく去った事に、気付いた者は誰もいなかった。
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