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6話:階層主ってのがいるみたいです
しおりを挟む【絶塔クスラ・ティリス】――第一階層五階。
「そういえばヘカちゃん」
「……キースさん、私をそう呼ぶの止めてくれません?」
「良いじゃない、ヘカちゃんって呼び方可愛いでしょ」
「……もう良いです」
ぷいっとそっぽを向いて、ヘカティは石柱が立ち並ぶ道を進んで行く。この階まで来ると木々は少なく、石で出来た遺跡が広がっていた。
仮面の青年――キースは金属の鎧を纏っており、腰には細いロングソードが差してあった。金属鎧の重量は相当なものであり、細身の身体のわりにその歩みは軽やかだった。
ヘカティはいつもの制服にローブと、黒水晶の短剣を装備していた。
「しかし、ほんとその魔術便利だね~。なんで学院から追放されたの?」
「私が聞きたいですよ」
「おかげで、魔物との戦闘もほとんどないし、助かるわ~。その上、鎧の重量まで軽くしてくれるとか神? いや女神様か。ヘカちゃん、めちゃくちゃ可愛いしね。将来は美人になるだろうなあ。あ、僕の恋人にならな――あっ!……ちょ……重……」
「なりません」
鎧の重量を三倍にして、ヘカティが地面に跪くキースを放置して進んでいく。
「……凄いな」
ヘカティの姿が遠のくと、自然と鎧の重量が元に戻ったので、キースが立ち上がった。
「……有効距離はざっと10mほどか。んー、まず接近戦では勝ち目はないね。強いなあ」
仮面から覗く碧眼が細められた。その瞳には軽薄な雰囲気はなく、理知的な光が宿っている。
「ふっ、実力を見るのが楽しみだよ――ヘカちゃ~ん、ちょっと待ってよ! 悪かったって!!」
ヘカティを追いかけるキースだったが、近付くと今度は鎧が軽くなったのを感じて、どうやら許してくれたようだと一安心した。
「……それより早くダウンストリームについて教えてください」
前を向いたまま、こちらに一瞥もくれないヘカティにキースは肩をすくめた。
「あー。そういえばまだ説明していなかったね。ダウンストリームってのは、この塔で時々起こる現象でね。上層の魔物が突如下層に現れるんだよ」
「レックスベアみたいに?」
「そう。その原因ってのは大体、その魔物が元々いる階層で起こっている事が多くてね。こうして僕や君みたいな冒険者に調査の依頼が回ってくるのさ」
「そういえば、キースさんってパーティを組んでいないんですか?」
「組んでないね。まあ、色々と事情があってね~」
その言葉には、色々な感情が含まれていたが、ヘカティはそれについて聞かない事にした。軽薄なフリをしているが、キースが決してそれだけの人でないことを既に彼女は見抜いていた。
そうして二人がしばらく進むと、この階で最も大きな遺跡が見えてきた。
「この五階が一階層の最後でね。あの遺跡の奥にある転送装置を使って二階層に行くのだけど……その前に障害があるんだよね~」
「障害ですか?」
「階層主と言ってね。まあ言うなれば二階層への道を守る門番みたいなものさ。こいつは他の魔物同様に、倒しても一定周期で復活するんだ。運良くいない時に通ればノーリスクで二階層に行けるけど、もし復活していたら……めんどくさいね」
「やっぱり強いですんか?」
「そりゃあもう。推奨ランクはE~D。ここまで辿り着ける実力があるパーティならあるいは……ってところかな。あ、ヘカちゃんの魔術は反則なだけで、本来はここまで来るのも大変なんだよ? だからパーティじゃなくてソロ冒険者である僕や君に依頼が来たんだよ。集団行動はどうしても目立つからね」
「なるほどー」
そうして二人が樹のツタや根が這っている遺跡の内部へと入っていく。
中では、二足歩行する樹――レッサートレントが襲いかかってくるが、ヘカティが魔力を強めるだけで、それらの魔物は地面へと這いつくばるように倒れた。
「えげつない魔術だね。しかも味方には影響がないときてる」
「めんどくさいんですよ? 周りの人に効かないようにするのって。一人の時は絶対にしません」
「ん? じゃあ一人の時に敵が現れたらどうするんだい?」
「いや、自分に掛けている加重の魔術の範囲を広げるだけです」
「……はは……なるほど」
キースは冷や汗を掻いた。あの、強靱な力を持つレッサートレントがひれ伏すほどの重力を常に自分にも掛けている?
それは……ありえない力だ。
「こりゃあとんでもない化け物かもしれないぞ……まったくマスターも人が悪い」
思わずそうキースが呟いてしまった。
「何か言いました?」
「いや……なにも。さあ、もうすぐ階層主の広間だ」
数体のレッサートレントが身動き取れないのを尻目に通り過ぎて行くと――巨大な広間に辿り着いた。天井は崩れ、空が覗いている。
「あちゃー。やっぱり復活してたか」
キースがそう言って、額に手を当てた。
「あれが階層主?」
「そう。【絶塔クスラ・ティリス】……第一階層【樹海遺跡】の階層主である――ドラゴンプラントだ」
その広間の中央には、巨大な植物が生えていた。まるで竜の胴体のような太い茎には翼のような大きな葉が四枚生えている。そしてその茎が鎌首をもたげ、その先にあった巨大な蕾が花開いていく。
「ビギャアアアオ!!」
その極彩色の花びらの内側には牙がびっしりと生えており、よだれを撒き散らしながら咆吼を上げた。
「さて……やりますか」
キースがそう言って抜刀。
「うわあ! 綺麗な花!」
それに対し、武器すら構えずにヘカティは目をキラキラさせているだけだ。
二人によるドラゴンプラント戦が始まる。
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