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2話:冒険者になりました!

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 王都内、冒険者ギルド。

 ミラルダの仕事は早かった。

 ヘカティは無事安宿を見付け、その翌日に冒険者ギルドに向かい、そこで冒険者登録を終えた。

 そこまでは良かったのだが……。

「ん? ヘカティ……? あんたまさか【無能の魔女】か? ダメだダメだ、そんな奴をパーティに紹介したら魔術師協会にどやされちまうよ」

 ヘカティの目の前で王都の冒険者ギルドのマスターであるベアルがそう言って、手を払った。

 熊のように大きく、髭もじゃな強面だが、なぜか親しみの持てる雰囲気……というのが彼に対するヘカティの第一印象だった。

「……何とかなりませんか?」

 食い下がりながらも諦めきれないヘカティの言葉に、ベアルは髭を撫でながら考えるも、首を横に振った。

「ならんな。あんた魔術師見習いだろ……いやそれも剥奪されているのか。まあとにかく魔術で仕事していくなら、魔術師協会の許可がないとな。よほど、能力があるなら……裏魔術師として使うパーティもあるだろうが」
「裏魔術師?」

 ヘカティがキョトンとした顔でそう聞くので、ベアルが仕方ねえなとばかりに説明していく。

「要するに、魔術師協会の許可なく魔術を使う奴だよ。あんたみたいに追放されたり、もしくは束縛されたりするのを嫌がって自ら協会から抜けた奴とかな」
「なるほど。であれば、それで構いません」
「……やめとけ。裏魔術師は、それだけで嫌われるし、何より保障もなにもないからな。裏社会の連中に言いように使われて終わりだよ。あんたみたいな若い年ごろの娘がなるもんじゃねえ」
「ですが……それ以外に仕事がなさそうでして」

 自分には魔術しかない。なので、それを取り上げられたら、本当にただの無能になってしまうとヘカティは思い込んでいた。

 なんとしてでも、仕事を取らないと。それならば、やはり冒険者になるのが手っ取り早いと考えていたのだ。

 王都の近くには巨大ダンジョンがあった。世界中からそのダンジョンの踏破を夢見て冒険者がこの王都にやってくるという。だから王都において、冒険者は重要な客であると同時に英雄と同義であり、色々なところで優遇される仕事でもあった。

 宿屋も冒険者の証であるギルドカードを見せるだけで割引があるほどだ。だが、ギルドカードもただではない。毎月、一定金額をギルドに納めないといけないので、登録して終わりというわけにはいかなかった。

「で、あんた、何が出来るんだ?」
「えっと……物を軽くしたり……重くしたり」
「……なんだそれ」
「【重力】って魔術なんですけど」

 ベアルが顔をしかめた。

「俺は長いことマスターをやってるがよ……そんな魔術は聞いた事がねえよ」
「……私も私以外の使い手を見た事ありません。過去を調べてもいなさそうで」
「ふむ……たまにそういう魔術師が現れるんだよな。大体が、英雄になるか、悪魔になるかのどちらかだ。知っているだろ、【極光のローザ】」
「名前だけは」

 確か十年ほど前に王都を騒がせた冒険者の名だ。ダンジョンの第三層を初めて突破した英雄として祭り上げられたが、その後、豹変したかのように犯罪を繰り返し、最後には処刑されたという。

 ヘカティもかろうじてその名前の経歴だけは知っていた。

「あいつも、結局、悪に堕ちたからな。うっし、分かった。パーティはとりあえず俺が探してやる。だからまずはソロ冒険者として、経験を積んでみるのはどうだ? 大した依頼はねえが、そういうとこからコツコツ始める方がいい」

 そう言って、ベアルが不器用な笑みを浮かべた。

「……っ! はい! 頑張ります!!」

 ヘカティが太陽のように表情を明るくすると何度も頭を下げた。

 そんなヘカティに――ベアルは、かつて同じようにやってきた若かりし頃のローザの姿を重ねていた。あの時にむげに断ったせいで、ローザは裏魔術師として犯罪ギルドに所属して、後に悪の道に走り……結果処刑された。

 もし、自分があの時何かしていれば……ローザは処刑を免れ、真の英雄として活躍していたかもしれない。

 だから、同じ後悔をしたくなかった。

 それになぜか……この少女には、何か、期待させるような雰囲気を纏っているように感じたのだ。

「とりあえず一番下のFランクからスタートだな。まずは、これをこなしてみろ」

 そう言ってベアルは一枚の依頼書を取り出した。

「ダンジョンの一階層の一階に生えているヒーリングカズラの実の採取だ。採取用の袋を渡すからこれが一杯になるぐらいの量を採取すれば依頼分になる」
「やった……! ありがとうございます!」
「一階は大した魔物もいないし、魔術師なら問題ないと思うが、危なくなったらすぐに冒険者か見回りしている兵士に助けを求めろよ」
「はい……!」

 こうして、ヘカティの冒険者としての初めての依頼が始まったのだった。
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