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1章:ルーチェ幼少期
7話「少しでも共有したいから」
しおりを挟むそもそもエルドアと王都に行くイベントなんてのはゲームにはなかった。だから、なおさら警戒しないと。
まあ……元々ゲームでも、学校に入る12歳までの間の幼少期では、さほど死亡フラグは建たない。とはいえ油断できないのだけど……。
しばらくすると、馬車の振動が変わった。
外を覗くと、街道が舗装された石畳になっている。
街道の両側に平原が広がっており、ところどころに林がある。平原では、兵達が何かの訓練なのか声を出して演習を行っている。矢を撃ち合ったり、剣で戦ったりと割と本格的だ。
窓から顔を出して、馬車の向かう方向を見る。
「おい落ちるなよ!」
乗り出した私の身体を支えるようにエルドアが手を添えた。落ちないってば。
「おお!! 生で見ると凄い!!」
街道の先には巨大な門が見えて、そこから城壁が左右に伸びていた。
門の奥には、巨大な城が見えた。白い壁に青いとんがり屋根。尖塔があちこちから伸びており、まるでおとぎ話に出てくるようなお城だった。まだ距離があるはずなのに、その威容はここまで伝わってくる。
「あれが、ミールディア王の住まう白亜の城……メルヴィン城。それを囲むように広がるのが王都だ」
メルヴィン城! ああ、何度あの城で殺されそうになったか。でも、見た目だけは素敵だ! あれは壊さないでおこう。
「さて、そろそろ顔を引っ込めろ。軍事演習の流れ矢にでも当たったら俺が殺される」
「はいはい」
私が渋々身体を引っ込めた瞬間に、ヒュンという風を切る音が聞こえた。
「っ!」
エルドアが咄嗟に私の身体を引っ張った。丁度さっきまで私が顔を出していた位置を矢が通り過ぎる。
手を引っ張られた私は、勢いあまって座席から落ちそうになりそれをエルドアが胸で受け止めた。
「……ありがとうエルドア」
「……言わんこっちゃない。模擬矢でも当たれば痛い。窓はもう閉めとけ」
「はい」
彼に抱えられような形でする会話に少しドキドキする。だめだぞ私。これは矢に当たりそうになったせいでドキドキしているだけだぞ!
エルドアが、失礼、と言いながら私の身体を離した。私は少しスカートの裾を直して、座り直す。
「さあ、そろそろ王都だが……聞かせてくれ。なぜ地下牢獄なんざに行きたがる。誰に会いたいんだ? 誰がいるんだあんなところに」
エルドアが真面目な顔して聞いてくるので、正直に答える事にした。ここから先が上手くいくかは彼次第なのだから。
「大賢者ライデルに会いに行くのがメインイベント。あとはハーフエルフのショタっ子とフラグを立てないと。この二つが最低限こなすべきイベントあと、できれば宝物庫に行きたいけど、これはまあ最悪後で取りに行ってもいい」
「まてまて……頭が追い付かん。詠唱するな。ちゃんと分かる言葉で説明してくれ……」
私の早口に付いて来られないようなので、もう一度分かりやすく説明した。
「大賢者ライデルっていうと、辺境を彷徨うあの、【揺蕩うライデル】か!?」
どうやらエルドアはあのおっさんの事を知っているようだ。へえそんな二つ名あったんだ。
「同じ名前の違う人でなければそうじゃない? とりあえずなんか魔術とかそういうのにやたら詳しい年齢不詳のおっさん」
「……仮に偽名だとしてもライデルを名乗る奴なんざこの国にはいねえよ。しかしライデルが地下牢獄に囚われているなんざ俺は知らんぞ。うちの親父でも知らないんじゃないか?」
「あー囚われているというか……住んでる? 的な?」
「……まあいい。それはとりあえず一旦良しとしよう。問題はだ。そんな情報を——どこで知った」
エルドアの視線が鋭くなった。まるで、剣を握っている時みたいだ。一分の隙も見逃さない。そんな目線だ。
「信じてくれるか分からないけど……私ね、未来が見えるの」
こうしか言えない。いくらなんでも前世でやりまくったゲームの世界なんで分かるんです、と言っても理解できないだろう。
「……嘘は、付いてないな。ただ、真実も言っていない」
「それが正解。あのね、私はエルドアに会う前に……とある禁術書を読んでしまったの」
「禁術書?」
「そう。それには恐ろしい魔術や禁呪の知識がたくさん書かれていたのだけど……その副作用なのか分からないけど……未来が見えた」
「どういうことだ?」
「私も未だに理解出来ていないのだけど……とにかく、未来の事が何となく分かるの」
「そうか……じゃあこうなるってのもわかっていたのか?」
そう言ったエルドアの顔付きに、少し怒りを感じた。
うん、そうだよね。それは当然の反応だと思う。
私だって嫌だ。自分の意志で動いたつもりが実は相手の思惑通りだと気付いたら不快だ。
「それがね。そうじゃないの。私の知っている未来ではこうやってエルドアと喋る事はなかった。だから未来は確実に変わっているの。でも、細かい流れが変わっても、大本の流れはきっと一緒。だから、私は私の未来の為に出来る限りの事はしたいの。騙したみたいでごめんなさい。でも私……」
喋ってて、なんだか悲しくなってきた。私は自分が生きる為に、彼に危害を加えようとしていたのだ。
結果そうならなかったけど、私の勝手な都合で彼の人生がめちゃくちゃになっていたかもしれない。
泣きそうになりながらそれを言おうとした私にエルドアが手を向けてきて、首を振って言葉を止めた。
「いい。俺が悪かった。すまん。ルーチェが何やら色々抱えているのは知っていた。だから少しでも力になれればと思っていた。だから、それのほんの端っこだけでも俺は分かったからもう満足だ。これ以上は聞かん」
「……ありがとう」
「その代わり、やばい事については予め言え。協力が欲しいなら遠慮するな」
そう言って、エルドアが出していた手を握手の形にして差し出してきた。
私は少し迷ってから、でもその大きいけど、繊細そうな細い指へと手を絡めた。
「ありがとうエルドア。頼りにしてるね」
私の言葉にエルドアは、ただ神妙に頷くだけだった。
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