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23:監査する男

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「あー魔王軍監査部のガリルだ」
「恋人のライゼでーす! お邪魔しまーす!!」
「……ちっバカンス気分かよ……ではこちらへ」

 ポートポルティアの港内にある魔王軍管理局。

 嫌そうな顔をして管理局を案内しているのは一人のゴブリン族の男だった。その後ろには、何とも言えない表情を浮かべるガリルと、帽子とサングラスを被ってガリルの腕にしだれ掛かっているドライゼが歩いていた。

 二人が管理局へと入る前。

「うっし、お前は監査部の調査員って事にしてるからそういう感じで行け。あたしは変装して一般人の振りをする」
「いやそんなアバウトな感じでいけるのか? そもそもドライゼが一般人ってどういうことだ」
「あたしが喋りすぎるとバレるかもしれないからな。まあ適当にバレないように演技するからよろしく」

 結果がこれだった。

「そもそも急に調査とかされると困るんですけどね……こちらにも色々と準備が」

 ゴブリンの局員が嫌そうな声色を隠さずにそう愚痴る。

「事前に伝えては抜き打ち調査の意味がない。すまないが協力してもらおう」

 ガリルがそう言うと、一つの部屋に案内された。

「やあやあ、いらっしゃい。私は、この港の管理局長のベルラだ」

 部屋の中にいたのは、一見するとただの中年の男性だった。しかし額に角が生えているので、人間では無い事は分かる。

「ガリルだ」
「わざわざこんな田舎まで、いらっしゃるとは……仕事熱心ですな。そちらの女性は?」
「あー、彼女の事はあまり気にするな」
「恋人でーす」

 甘ったるい声色を出すドライゼにガリル内心冷や汗を掻いていた。

「……どうやら見た目ほど堅苦しい人間ではないようですな、ガリル殿は」
「いや……うむ」

 局長がソファに座り、ガリル達に席を促した。

「さて……それでどういった用件でこちらへ? 抜き打ち調査と言われましてもね」
「まずは本日出航予定のある船舶のリストを見せてもらおうか」
「毎日、本部に送らせてもらっていますが……」
「それは分かっている」
「……イルサル君、持ってきたまえ」

 ゴブリンの局員――イルサルがそう指示され、部屋の奥にある机の上から書類を取ると、それをガリルへと渡した。

 それにガリルが素早く目を通していく。サングラスで見えないが、ドライゼも目線だけそちらへと向けていた。

「ふむ……確かに送られてきたものと同じだな」
「そりゃあそうでしょうね」
「……では局長。実際に今日出航した船舶のリストを出してもらおうか」
「何のことでしょうか? そちらのリスト通りですが」
「リストにない船舶が出航しているのは……

 その言葉にベルラが笑顔を浮かべた。

「似たような名前、形の船が多いですからね……見間違えられたのでは?」
「本日出航予定の船舶は6隻。だが、俺がこの港についてから既に4隻近くの船が出航している。それらが全てリストに挙がっている船舶だとして、港で現在出港準備している船舶が2隻以上あるのはどういう事だ?」
「んーどこかの船が出航日時を間違えているかもしれないですね……注意しないと」
「船舶はいつどこを出港し、どこに入港するかは貨物と共に厳密に管理されている。間違えるなどありえない事ぐらいは俺でも分かるぞベルラ」

 ガリルの言葉に、ベルラはため息をついた。そしてイルサルに目配せをする。

「……困りましたねえ。何も知らない人間の調査員如きが何を言い出すかと思えば……この港は魔界における最重要貿易地点と、魔王自ら指定している。当然貴様のような木っ端調査員には到底考えが及ばぬ事情が沢山あるのだよ。分かるか? リストの通り出航はしているし、それ以外に極秘裏に動いている作戦がある。魔王の深謀は貴様のような人間には理解できまい」

 ベルラがガリルを睨みながら言葉を続けた。

「あまり首を突っ込むと痛い目に合うぞ人間。魔族には魔族のやり方がある。変な正義感は出さずにお前はただ、“何も問題ありませんでした”、と報告すればいい。分かったか?」
「その物言いだとまるで魔王の指示で不正をしているみたいだな、ベルラ」

 ガリルが冷静にそう返した瞬間にベルラがテーブルを叩いた。

「黙れ!! 良いか、警告は一度だけだ! これ以上ぐだぐだ言うなら……」
「言うなら?」

 背後で扉が開き、集団が部屋へと乱入してきた。それは剣や銃で武装したゴブリン達で、ガリル達の背後を囲んでいた。一部のゴブリンはドライゼを下卑た目で見つめている。

 ベルラが脅すように低い声を上げた。

「言うなら……?」
「なるほど……理解した。今日は引き下がった方が良さそうだな」

 そう言ってガリルは立ち上がった。ゴブリン達の視線を不快そうにするドライゼを連れてガリルは部屋から出た。

 廊下を歩きながらガリルが小声でドライゼへと話しかけた。

「……管理局までグルのようだな」
「まだ証拠がねえな。倉庫を探るぞ」
「ああ。俺の勘だが……あいつら……相当ヤバイ事に手を染めているな」

 二人は管理局を出て、港の倉庫街へと向かった。

☆☆☆


 そんなガリル達を、ベルラは部屋の窓から見下ろしていた。

「局長。どうします? 今倉庫は例のブツを運んでいる最中ですが」

 イルサルが獰猛な笑みを浮かべていた。

「……。そして海に沈めろ。人間の調査員なんてどうせ捨て駒みたいな物だろう。誰も気にしまい」
「女は?」
。レッサードラゴンだが、あの様子じゃただのあばずれだ。銃で撃てば死ぬ」
「へへ……局長は俺らの事を良く分かってらっしゃる……レッサードラゴンをヤるのは初めてなんで楽しみだ……」

 イルサルの指示で、武装したゴブリン達が動き出した。
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