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22:目のやり場に困った男
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「おい、ガリル! このスクイッド焼きうめえぞ、お前も食え」
「……これは魔獣か? 異様な姿だが……食えるのか?」
「魔獣じゃねえよ! 美味いから騙されたと思って食ってみろ」
「……美味いな」
「だろう?」
ポートポルティア――【白亜海岸】の海辺で、ガリルとドライゼが屋台の串焼きをほおばっていた。その串にはこんがり焼かれた足が10本ある軟体海洋生物が刺さっており、ドライゼは嬉しそうにその足を囓っている。
ドライゼは水着に着替えており、その魅惑的なボディラインのせいで、先ほどから周囲の男性の視線一身に集めていた。本人はそれを自覚していたが、その視線の中に種類の違う視線がある事には気付いていた。
「ところで、なぜ水着なんだ?」
ガリルも水着を着ており、何とも言えない表情を浮かべていた。
「あん? ビーチに来て水着を着ない方がおかしいだろ」
「……ふむそれもそうか」
「お前……本当に銃以外の事は適当だな……納得すんなよ」
「いや、こういう時間も悪くないなと思ってな」
そう言って、砂浜の座ったガリルが水平線を見つめた。海は幼い頃に見た記憶があるが、こうして見ていると不思議と心が落ち着く。隣にいる美女が、目のやり場に困る格好をしているから海ばかりを見ているわけでは決してない、とガリルは心の中で言い訳をしていた。
ドライゼはと言うと、チラチラと港の方を確認している。
「さて……スクイッド焼きには、ビールが合うんだ。さあ飲もうぜ!」
ドライゼが屋台で買ってきたビールの入った瓶を一本ガリルへと投げた。
ガリルはそれを受け取ると栓を開けた。勢いよく弾けた栓が宙を舞い、ビールの炭酸が白い泡となって吹き出してくる。
「アハハ、悪ぃ悪ぃ、持ってくる時に振りすぎちまったな」
「いや構わん……ふむそうか……ガス圧か……」
白い泡を被ったガリルだが、その目は遠いところを見ていた。
「お前が考えている事を当ててやろうかガリル?」
ビールを飲みながら、ドライゼがガリルの顔を覗き込む。目の前に迫るドライゼの谷間となんと言えない良い匂いに気付かない振りをしつつガリルが顔を逸らした。
「どうせ銃の事だろ」
「……まあな」
「本当に、お前は銃馬鹿だよなあ……まあそこが良い所でもあるんだが」
「そういう風にしか生きてこなかった。それ以外の生き方を俺は知らん」
「まだ若いだろうが。生き方なんてたかが二十数年生きたぐらいで決めるんじゃねえよ」
「ふむ、そういえばドライゼは何歳な――いやなんでもない」
目の前から殺気が浴びせられて流石のガリルも言葉を濁した。
「なんでもないなら結構だ。さて、これ飲んだら次は港に行くか。色々と珍品が売っていて面白いぞ」
「他大陸の物か。銃はないのだろうか」
「ないだろうなあ。まあ探してみよう」
そう言ってドライゼは豪快にビールを飲み干し、立ち上がった。
☆☆☆
「ほお……最近の船は機械化が進んでいるんだな」
「あたしの技術開発部は優秀だからな。産業機械に真っ先に金を突っ込んだおかげさ」
「やはりドライゼには先見の明があるな」
「おう、もっと褒めていいぞ」
船着き場での荷下ろしを二人は見学していた。たったいま着いたばかりの船が、半自動化している機械でアンカーを巻き上げていく。それをガリルは時々後ろを振り返りながらも興味深そうに見つめていた。
「さてと……ふうむ。やはり多いな」
「多い?」
「ああ。この港町は、他大陸やこの大陸の各港と交易を行っているんだ」
「ふむ、貿易の要か」
「そうだ。んでよ、当然、船の出入りは魔王軍で管理しているんだが……この時点で出航予定の申請をしていた船の数より、随分と多い数の船が出航している」
水着からいつもより露出の多い服――チューブトップにホットパンツ、足下にはサンダル――に着替えたドライゼが目を細める。ガリルはいつもの格好だが流石に暑いのか白衣は脱いでいた。
「つまりそれは……密航船という事か」
「……魔族が他大陸や人間界にわざわざリスクを負ってまで行くメリットはあまりない。であれば……密航船は何を運んでいるんだろうな?」
「なるほど……それで身分を隠して視察か」
ガリルの言葉にドライゼがニヤリと笑った。その手には、銃身が6つ付いた拳銃【ペッパーミル】が握られていた。ガリルも腰に同じ物を差している。
「さて、潜入捜査開始だ。まずは港の管理局に行こう」
「ああ。それに……尾行されているな」
「ふふふ、楽しくなってきただろ?」
「まあな」
二人は無言で頷き合うと、管理局のある建物へと向かったのだった。
「……これは魔獣か? 異様な姿だが……食えるのか?」
「魔獣じゃねえよ! 美味いから騙されたと思って食ってみろ」
「……美味いな」
「だろう?」
ポートポルティア――【白亜海岸】の海辺で、ガリルとドライゼが屋台の串焼きをほおばっていた。その串にはこんがり焼かれた足が10本ある軟体海洋生物が刺さっており、ドライゼは嬉しそうにその足を囓っている。
ドライゼは水着に着替えており、その魅惑的なボディラインのせいで、先ほどから周囲の男性の視線一身に集めていた。本人はそれを自覚していたが、その視線の中に種類の違う視線がある事には気付いていた。
「ところで、なぜ水着なんだ?」
ガリルも水着を着ており、何とも言えない表情を浮かべていた。
「あん? ビーチに来て水着を着ない方がおかしいだろ」
「……ふむそれもそうか」
「お前……本当に銃以外の事は適当だな……納得すんなよ」
「いや、こういう時間も悪くないなと思ってな」
そう言って、砂浜の座ったガリルが水平線を見つめた。海は幼い頃に見た記憶があるが、こうして見ていると不思議と心が落ち着く。隣にいる美女が、目のやり場に困る格好をしているから海ばかりを見ているわけでは決してない、とガリルは心の中で言い訳をしていた。
ドライゼはと言うと、チラチラと港の方を確認している。
「さて……スクイッド焼きには、ビールが合うんだ。さあ飲もうぜ!」
ドライゼが屋台で買ってきたビールの入った瓶を一本ガリルへと投げた。
ガリルはそれを受け取ると栓を開けた。勢いよく弾けた栓が宙を舞い、ビールの炭酸が白い泡となって吹き出してくる。
「アハハ、悪ぃ悪ぃ、持ってくる時に振りすぎちまったな」
「いや構わん……ふむそうか……ガス圧か……」
白い泡を被ったガリルだが、その目は遠いところを見ていた。
「お前が考えている事を当ててやろうかガリル?」
ビールを飲みながら、ドライゼがガリルの顔を覗き込む。目の前に迫るドライゼの谷間となんと言えない良い匂いに気付かない振りをしつつガリルが顔を逸らした。
「どうせ銃の事だろ」
「……まあな」
「本当に、お前は銃馬鹿だよなあ……まあそこが良い所でもあるんだが」
「そういう風にしか生きてこなかった。それ以外の生き方を俺は知らん」
「まだ若いだろうが。生き方なんてたかが二十数年生きたぐらいで決めるんじゃねえよ」
「ふむ、そういえばドライゼは何歳な――いやなんでもない」
目の前から殺気が浴びせられて流石のガリルも言葉を濁した。
「なんでもないなら結構だ。さて、これ飲んだら次は港に行くか。色々と珍品が売っていて面白いぞ」
「他大陸の物か。銃はないのだろうか」
「ないだろうなあ。まあ探してみよう」
そう言ってドライゼは豪快にビールを飲み干し、立ち上がった。
☆☆☆
「ほお……最近の船は機械化が進んでいるんだな」
「あたしの技術開発部は優秀だからな。産業機械に真っ先に金を突っ込んだおかげさ」
「やはりドライゼには先見の明があるな」
「おう、もっと褒めていいぞ」
船着き場での荷下ろしを二人は見学していた。たったいま着いたばかりの船が、半自動化している機械でアンカーを巻き上げていく。それをガリルは時々後ろを振り返りながらも興味深そうに見つめていた。
「さてと……ふうむ。やはり多いな」
「多い?」
「ああ。この港町は、他大陸やこの大陸の各港と交易を行っているんだ」
「ふむ、貿易の要か」
「そうだ。んでよ、当然、船の出入りは魔王軍で管理しているんだが……この時点で出航予定の申請をしていた船の数より、随分と多い数の船が出航している」
水着からいつもより露出の多い服――チューブトップにホットパンツ、足下にはサンダル――に着替えたドライゼが目を細める。ガリルはいつもの格好だが流石に暑いのか白衣は脱いでいた。
「つまりそれは……密航船という事か」
「……魔族が他大陸や人間界にわざわざリスクを負ってまで行くメリットはあまりない。であれば……密航船は何を運んでいるんだろうな?」
「なるほど……それで身分を隠して視察か」
ガリルの言葉にドライゼがニヤリと笑った。その手には、銃身が6つ付いた拳銃【ペッパーミル】が握られていた。ガリルも腰に同じ物を差している。
「さて、潜入捜査開始だ。まずは港の管理局に行こう」
「ああ。それに……尾行されているな」
「ふふふ、楽しくなってきただろ?」
「まあな」
二人は無言で頷き合うと、管理局のある建物へと向かったのだった。
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