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20:勇者を苛立たせた男

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「銃歩兵隊、進め!! 相手は同じ銃だ!」

 ドラヴァリアの南部。斜面を横切るように進軍するのは王国軍の銃歩兵隊だ。

 狙うのは魔王軍のアンデッド部隊。

 銃歩兵隊の隊長は200m先に、アンデッド部隊が展開しているのが見えた。なぜかその部隊は地面に伏せた状態で銃口をこちらへと向けている。

「しょせんはアンデッドか。確かに銃歩兵に対し匍匐ほふくは有効だと聞いたが……立たねば装填は出来ないぞ!!」
「進みますか?」
「奴らが撃ったら最後だ。装填する為に立ったところへ、銃弾を叩き込んでやれ」

 王国軍の銃歩兵隊が銃を構えて進む。どうせ相手は装填の為に立つのだからと、伏せたアンデッド部隊に銃口を向けてすらいない。

 両者の距離が100mを切ったところで、先に動いたのはアンデッド部隊だった。

「う、撃ってきました!! ひっ! か、貫通してます!」

 見れば、撃たれた兵士を貫通した銃弾は、後ろに立っていた兵士にも着弾。一発で二人の兵士の命が消えたのだ。

 アンデッド部隊によって一斉に撃たれた銃弾によって、銃歩兵隊の前列が崩壊する。

「ぐぬぬ……弾が違えど、装填は同じだ! 奴らが装填する前に撃て!!」

 生き残った銃歩兵が銃を撃つも、伏せたままアンデッドに中々銃弾は当たらない。

「た、隊長! あいつら伏せたまま装――ぎゃっ!」

 伝令が最後まで言い終わる前に頭が吹っ飛んだ。後から銃声が山に響く。

「馬鹿な!? 一体どれほどの遠距離から撃ってきている!?」
「奇襲!! 斜面下より騎兵が向かってきます!!」
「なぜ、今まで見逃していた!!」
「突然現れたんです!!」
「ええい右翼をそちらへと展開して対応させろ! 近付けさせるな!」

 しかし、伏せたままなぜか装填が行える上に、異様にそのスピードが速いアンデッド部隊の銃弾は止まず、王国軍は撃たれる一方だった。

 結果、斜面下より駆け上がってきた騎兵の接近を許してしまった。半透明の馬に乗ったスケルトン達が短い銃身を持つ銃を構える。

「ま、待ってく――」

 側面から突撃してきたアンデッド騎兵。そして前面にいたアンデッド部隊の異常な装填速度と貫通力のある弾丸によって張られた弾幕。

 それらを対処する事も出来ず、王国軍の銃歩兵隊はあっけなく潰滅したのだった。


☆☆☆


「南部の銃歩兵隊も全滅……しました」

 竜族の兵士より報告を受けて、ドライゼが満足げに頷いた。

「あっさり騎兵突撃が成功したぞガリル!」
「ホースレイスを使った霊体化からの奇襲突撃だ。あれならば散弾の短い射程も十分に補える」
「いやあしかし……後装銃を使った部隊運用は効果絶大だな。最初は相手も銃を使っているからってもうちょっと苦戦するかと思ったが。流石だガリル」
「相手の開発スピードが遅すぎる。何より愛が違う」
「愛?」

 ドライゼが首を傾げた。

「銃に対する……愛だ」
「……お、おう」

 ドライゼの苦笑を見ながら、ガリルは自分とイサカの考えた運用方法が正しかった事を知った。

 自身でも使ってみて分かったのだが、後装銃の強さはやはり圧倒的な装填速度だろう。更に、弾頭と火薬を一体化させた銃弾のおかげで、立って装填する必要がない為に伏せ撃ちが可能なのが強みだ。

 この二つによって、相手が銃で武装したところでこちらが圧倒的有利なのは覆らない。

「それで、魔王殿。これからどうする?」
「とりあえずドラヴァリアは既にあたしに服従を決めている。その辺りのゴタゴタを片付けないとな。めんどくせーがこれで、しばらくは王国軍の進撃も止まるさ」
「俺とイサカはしばらくドラヴァリアで開発を行いたいんだが」
「好きにやってくれ。例によって必要な物はなんでも言え」
「感謝する。では、俺は早速改良案まとめてくる。各魔族へ対応した専用銃の開発も着手しないと……やはりまずはミスリルの反応を固定させて……いやそれよりも遺産の有効活用を……」

 ブツブツと呟きながら、ガリルが去っていった。

 その後ろ姿を見て、ドライゼは思案する。

「んー……あれはちとまずいな。落ち着いたら何とかしないとな」

 そう独り言を言いつつ、ドライゼはこれからやらねばならない事が山積みな事に、改めてため息をついたのだった。


☆☆☆


 ソルド王国、王城。
 勇者の私室。

「ドラヴァリア攻略……失敗したんだってね。何やら策を使っていたにもかかわらずだ。段々と無能を露呈させて来たんじゃない勇者君?」
「……黙れクソエルフ」
「お前のせいで順調だった東部戦線は硬直。西部戦線は崩壊。結果、中央軍は包囲を恐れて足を止めた。完全に魔界征服の計画が停滞……いや後退すらしている可能性があるね」
「黙れって言ってるだろ」

 不機嫌な勇者が剣を抜いた。その剣は長身の美しい青年の喉元でピタリと停まった。金髪に蒼い瞳。細長く尖った耳。
 その青年はエルフと呼ばれる種族の代表で、王国とは同盟を組んでいる為にこうして王城に滞在しているが、本来は大陸北東部の大森林が本拠地だ。

「敵はこちらより遙かに進化した武器を持っているよ勇者。賢者は再起不能で王国の魔術師部隊の質は低下しているし。打つ手無しなんじゃないか?」

 エルフの青年は勇者の剣に臆する事なく挑発をした。

「……奴らは一気に領土を広げすぎた。しばらくは内政に忙しいだろうさ。その間にこちらも対策と開発を行う。確かに今は先を行かれているが……すぐに追い付くさ」
「対策と開発、ね。まあ精々頑張って――では僕は失礼するよ」

 そう言って、エルフの青年は去っていった。

 独り、部屋に残された勇者は叫びたいのを我慢して手前にあった椅子を剣で切りつけた。

 その行為に――何の意味もなかった。
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