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18:復讐する魔王に力を与えた男
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ドライゼが右手に持つ砲身とでも言うべき部分が雷を帯び始め、変形を始めた。
それはまるで怒れる竜が顎を開くが如く、上下に分かれて展開していく。上顎と下顎の間の空間に牙のような赤い雷撃が走った。
「そ、そんなものを撃ったら、このガキが死ぬぞ!」
ゲオルスがコルトを盾にして射線を塞ごうとするが――
「――【スワップ】」
ドライゼがファーヴニルの引き金を引く直前に、魔法を使い自分とコルトの位置を入れ替えた。
「は?」
一瞬で目の前に現れたドライゼに、ゲオルスは目を開く。
あまりの出来事に反応出来ずにいるゲオルスの腹部にファーヴニルの銃口があてられた。
「お願いだ……助け――」
「拷問さ、効かないからと言って痛くないわけじゃないんだぜ? だからよ……お前は死んどけ」
ドライゼの言葉の後に響き渡ったのは、まさしく竜の怒号とでも言うべき轟音だった。
砲身内部で電磁加速された大口径専用弾は、ゲオルスの腹部をあっさり貫通。音速を遙かに超える速度で進む銃弾は衝撃波を生みつつ大広間で背後に控えていた兵士達すらも貫通し壁を破壊。
「……すげえ」
反動で銃が吹っ飛びそうなのを筋力で無理矢理抑えたドライゼが思わず感嘆の声を上げた。
ゲオルスは、腹部に大穴を開けて絶命しており、その射線上には、衝撃波によって起きた破壊の跡が生々しく残っていた。運悪く射線付近にいた兵士は皆倒れており、目や耳や鼻から血を流している。
「まさか本当に撃てるとはな……」
コルトを護るように抱えたグロックがその様子を見て、呆れたような声を出した。
「 ……【黒竜咆】は火薬を使わない銃の一つの答えだ。ベースとなった銃……いやもはや砲か……この砲身とバックパックは坑道で見付けた竜の遺産を改造したもので、砲身にミスリルを使う事で、魔王殿の魔力で起こる雷を原動力として弾を電磁加速させる。それにより、火薬よりも遙かに速くそして効率良く弾を発射できるんだ。難点は、機巧が複雑なので大型化させざるを得ず、取り回しと携帯性が悪く、専用弾を作成するのに時間が掛かりすぎる点だな。だが火力は……絶大だ」
ドライゼが両手の砲身に魔力を込め始めた。
再び赤い雷牙を見せ付けるように左右の砲身が上下に開く。
「うわあああああ!!」
「あんなの聞いてないぞ!!」
「撤退!!」
王国軍の兵士も竜人の兵士も慌てふためいて、逃げていく。
「……背中を撃つのは好きじゃねえな」
そう言って、ドライゼは魔力を収めた。ファーヴニルの砲身が静かに閉じられていく。
大広間にガリル達以外には死体と気絶した兵士しか残っていなかった。
「さてと……とりあえず長老の安否を確かめないとな」
そう言って、ドライゼはファーブニルを装備したままスタスタと歩いて行く。
「俺達も行こう」
ガリルの言葉にイサカ達が頷いた。
☆☆☆
「やはりか……」
巨大な玉座とでも言うべき祭壇の上には、白い竜の死体があった。それはこのドラヴァリアの、そして竜族の頂点である【白啓竜ラゼランシア】だった。
その頭の目の部分に大きな穴が空いており、傍らには銃が落ちていた。
「……魔法も刃も矢も効かないが……銃弾は効くだろうって事か」
ドライゼの言葉が祭壇の間に響く。
「いやあ……まさか本当に殺しちまうとは……俺もびっくりだよ」
突如聞こえてきたその声にガリルは聞き覚えがあった。
「……!? お前は」
ガリル達の視線が竜の死体の上へと集中した。
そこには――勇者がいた。
「いやあ、まさかまだ生きているとはね……驚きだよガリル」
「お陰様でな。あの時は世話になった」
「本当にさ……困ったもんだよ。銃は歴史を加速させてしまう。お前さ、自覚あんの? お前のせいでこれからどれだけの人間が、魔族が死ぬと思っているんだ? お前みたいな、たかが人間がどう責任取るつもりだ? 剣と魔法で乳繰り合っているだけ世界で在り続ければ良かったものを……」
勇者の言葉が響く。
「知るか。俺は……銃を作り続けるだけだ」
「例え、それで無実の民が簡単に死のうと、兵士達が苦痛にもがき苦しもうと、お前に罪はないと。そう言うのか?」
「そうだ。俺は開発しただけに過ぎない。それをどう使うかは……お前ら次第だ。武器とは、兵器とは、そういう物だろう」
ガリルは表情を変えずにそう言い切った。
もう、そんな迷いはとうの昔に捨てている。
「詭弁だな。お前はお前自身から生み出される死の螺旋から目を剃らしているだけに過ぎない」
「だったらどうする? 今度こそ俺を殺すか?」
「そうしたいんだけどな。流石にこの状態で魔王とやり合うのは些か分が悪い」
勇者は、ファーヴニルを装備しているドライゼへと視線をチラリと投げかけた。
「逃がすとでも思うのか?」
ドライゼがファーヴニルを勇者へと向けた。
「逃がすさ。俺と遊んでる場合じゃないぜ? 王国軍はすぐそこまで来ているぞ」
勇者の言葉と共に、爆発音が響き渡った。
「今のは?」
「爆薬の音だね」
ガリルの問いにイサカが答えた
「おい、王国軍が攻めてきているのなら不味いんじゃねえか?」
グロックがコルトを抱きかかえながらそうドライゼに声を掛けた。
既に勇者の姿はなく、ドライゼは砲身を下げた。
「……今はドラヴァリアの防衛を優先させる。どうせあれは勇者の幻か何かだろう。ここは転移阻害されているからな。行くぞお前ら――この街を護るぞ」
それはまるで怒れる竜が顎を開くが如く、上下に分かれて展開していく。上顎と下顎の間の空間に牙のような赤い雷撃が走った。
「そ、そんなものを撃ったら、このガキが死ぬぞ!」
ゲオルスがコルトを盾にして射線を塞ごうとするが――
「――【スワップ】」
ドライゼがファーヴニルの引き金を引く直前に、魔法を使い自分とコルトの位置を入れ替えた。
「は?」
一瞬で目の前に現れたドライゼに、ゲオルスは目を開く。
あまりの出来事に反応出来ずにいるゲオルスの腹部にファーヴニルの銃口があてられた。
「お願いだ……助け――」
「拷問さ、効かないからと言って痛くないわけじゃないんだぜ? だからよ……お前は死んどけ」
ドライゼの言葉の後に響き渡ったのは、まさしく竜の怒号とでも言うべき轟音だった。
砲身内部で電磁加速された大口径専用弾は、ゲオルスの腹部をあっさり貫通。音速を遙かに超える速度で進む銃弾は衝撃波を生みつつ大広間で背後に控えていた兵士達すらも貫通し壁を破壊。
「……すげえ」
反動で銃が吹っ飛びそうなのを筋力で無理矢理抑えたドライゼが思わず感嘆の声を上げた。
ゲオルスは、腹部に大穴を開けて絶命しており、その射線上には、衝撃波によって起きた破壊の跡が生々しく残っていた。運悪く射線付近にいた兵士は皆倒れており、目や耳や鼻から血を流している。
「まさか本当に撃てるとはな……」
コルトを護るように抱えたグロックがその様子を見て、呆れたような声を出した。
「 ……【黒竜咆】は火薬を使わない銃の一つの答えだ。ベースとなった銃……いやもはや砲か……この砲身とバックパックは坑道で見付けた竜の遺産を改造したもので、砲身にミスリルを使う事で、魔王殿の魔力で起こる雷を原動力として弾を電磁加速させる。それにより、火薬よりも遙かに速くそして効率良く弾を発射できるんだ。難点は、機巧が複雑なので大型化させざるを得ず、取り回しと携帯性が悪く、専用弾を作成するのに時間が掛かりすぎる点だな。だが火力は……絶大だ」
ドライゼが両手の砲身に魔力を込め始めた。
再び赤い雷牙を見せ付けるように左右の砲身が上下に開く。
「うわあああああ!!」
「あんなの聞いてないぞ!!」
「撤退!!」
王国軍の兵士も竜人の兵士も慌てふためいて、逃げていく。
「……背中を撃つのは好きじゃねえな」
そう言って、ドライゼは魔力を収めた。ファーヴニルの砲身が静かに閉じられていく。
大広間にガリル達以外には死体と気絶した兵士しか残っていなかった。
「さてと……とりあえず長老の安否を確かめないとな」
そう言って、ドライゼはファーブニルを装備したままスタスタと歩いて行く。
「俺達も行こう」
ガリルの言葉にイサカ達が頷いた。
☆☆☆
「やはりか……」
巨大な玉座とでも言うべき祭壇の上には、白い竜の死体があった。それはこのドラヴァリアの、そして竜族の頂点である【白啓竜ラゼランシア】だった。
その頭の目の部分に大きな穴が空いており、傍らには銃が落ちていた。
「……魔法も刃も矢も効かないが……銃弾は効くだろうって事か」
ドライゼの言葉が祭壇の間に響く。
「いやあ……まさか本当に殺しちまうとは……俺もびっくりだよ」
突如聞こえてきたその声にガリルは聞き覚えがあった。
「……!? お前は」
ガリル達の視線が竜の死体の上へと集中した。
そこには――勇者がいた。
「いやあ、まさかまだ生きているとはね……驚きだよガリル」
「お陰様でな。あの時は世話になった」
「本当にさ……困ったもんだよ。銃は歴史を加速させてしまう。お前さ、自覚あんの? お前のせいでこれからどれだけの人間が、魔族が死ぬと思っているんだ? お前みたいな、たかが人間がどう責任取るつもりだ? 剣と魔法で乳繰り合っているだけ世界で在り続ければ良かったものを……」
勇者の言葉が響く。
「知るか。俺は……銃を作り続けるだけだ」
「例え、それで無実の民が簡単に死のうと、兵士達が苦痛にもがき苦しもうと、お前に罪はないと。そう言うのか?」
「そうだ。俺は開発しただけに過ぎない。それをどう使うかは……お前ら次第だ。武器とは、兵器とは、そういう物だろう」
ガリルは表情を変えずにそう言い切った。
もう、そんな迷いはとうの昔に捨てている。
「詭弁だな。お前はお前自身から生み出される死の螺旋から目を剃らしているだけに過ぎない」
「だったらどうする? 今度こそ俺を殺すか?」
「そうしたいんだけどな。流石にこの状態で魔王とやり合うのは些か分が悪い」
勇者は、ファーヴニルを装備しているドライゼへと視線をチラリと投げかけた。
「逃がすとでも思うのか?」
ドライゼがファーヴニルを勇者へと向けた。
「逃がすさ。俺と遊んでる場合じゃないぜ? 王国軍はすぐそこまで来ているぞ」
勇者の言葉と共に、爆発音が響き渡った。
「今のは?」
「爆薬の音だね」
ガリルの問いにイサカが答えた
「おい、王国軍が攻めてきているのなら不味いんじゃねえか?」
グロックがコルトを抱きかかえながらそうドライゼに声を掛けた。
既に勇者の姿はなく、ドライゼは砲身を下げた。
「……今はドラヴァリアの防衛を優先させる。どうせあれは勇者の幻か何かだろう。ここは転移阻害されているからな。行くぞお前ら――この街を護るぞ」
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