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14:新たな工房を与えられた男
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「ようこそ【スチールダウン】へ! ここがコルトと師匠の工房だよ!」
スチールダウンの街中をドライゼの妹――コルトの案内で進んでいくと、煙突の突き出た小さな工房があった。
言われるがままにそこに入るガリル達。その先には鉄くずや機械らしき物がそこら中に散乱していて、辛うじて、奥へと歩ける道があった。
「邪魔する」
「お邪魔しまーす」
「懐かしいな。グロックの奴は元気か?」
ドライゼがその工房をキョロキョロと見つめていると、奥から大柄な竜人が出てきた。蒼い鱗は煤で覆われて黒ずんでおり、背中の翼は根元から千切れたのか痛々しい傷跡が残っている。
「相変わらず急だな、ドライゼ」
「グロック! ずいぶんと老けたな!」
「うるせえ。お前もシワが増えたんじゃねえか?」
「ぶっ殺すぞジジイ」
ドライゼが嬉しそうにその蒼い竜人――グロックと拳を突き合わせた。
「ふふふ、コルトの師匠とお姉様は仲良しなの」
それを見て、嬉しそうにコルトがガリルとイサカへと笑いかけた。
「仲良くねえよ」
「そうだぞコルト。んで、ドライゼ、そいつらは?」
グロックがギロリとガリル達を睨むが、その目線はすぐに二人が持っていた銃へと向かった。
「あたしご自慢の技術者さ。色々と刺激を受けられると思ってね」
「……なるほど。上がれ、茶を出そう」
グロックがそう言って、奥の部屋へと戻っていった。
「あいつはこのスチールダウンでも一番の技術者兼発掘屋だ。偏屈で気難しいところはあるが……まあお前らなら馬が合うだろうさ」
ドライゼの言葉を受けて、ガリルとイサカは頷いた。ドライゼにはゴミにしか見えないが、さっきから工房の各所にある機巧や部品を見て、二人はワクワクしていた。それは、宝物を前にした冒険者の姿とよく似ていた。
奥の部屋はどうやら事務所のようで、ソファとテーブルが置いてあった。
コルトに言われるがままにそこに座るガリル達。
「お前が来た理由は知っている。長老に会いに来たんだろ」
お茶を出しながら、グロックがそうドライゼへと話しかけた。
「ああ。色々あってな。ちと話さないといけない事がある」
「長老ももう限界が来はじめている。今、上層部は今後について争っているぞ。まあ俺ら底辺には関係ないがな」
「そうだ、グロック、ここをこいつらにしばらく使わせてやってくれないか?」
「……その持っている武器らしき物の知識と交換だ」
「話が相変わらず早くて助かるぜ」
話がどんどん進んで、付いていけないガリル達だったが、コルトがニコニコとお茶を差し出してくるのでそれを飲んでとりあえず黙っている事にした。
「ガリル、イサカ。あたしは少しここを離れる。多分、あたしの用事はそこそこ時間が掛かるからここで研究開発の続きをしてくれ。材料、器具、その他諸々はグロックとコルトが世話してくれる。道具は持ってきているんだろ? まあ最悪、転送魔法でなんか開発室から取り寄せるが。転移は無理だがちょっとした道具なら転送は可能だぞ?」
「最低限必要な物は持ってきている」
「そうか。なら、あとは技術者同士、仲良くやってくれ。何かあればすぐに戻る」
そうして細々した事を打ち合わせると、足早にドライゼは去っていった。コルトはそれを名残惜しそうに見つめていたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「さて、お互いに分からねえ事はあると思うが、技術者同士だ。技術で語ろうじゃねえか」
そう言って、グロックは顔を歪ませたのだった。
こうしてガリルとイサカの新たな生活がはじまった。
☆☆☆
「まさかほんとに来るとはな。しかも人間とドワーフを連れてとは……馬鹿にしているのか貴様は!!」
ドラヴァリア最上層、【アッパーミスリル】と呼ばれるこの街の中に、特権階級の者しか入れない場所があった。そこは竜族の長老である【白啓竜ラゼランシア】の寝所であり、かつこの街の最高意思決定機関でもある【竜の爪牙】の本部でもあった。
その中にある謁見の洞窟手前の部屋にゲオルスの怒声が響き渡った。
「うるせえなあ。別に兵士でもなんでもないんだから良いじゃねえか」
それを心底嫌そうな表情でドライゼが返した。
「そういう問題ではない! やはり貴様のようなレッサードラゴンに長老は会わせられないな」
「あん? 長老はあたしが来る事を知っているはずだ。お前の意思なんてどうでもいいんだが?」
そういえば、普段は5人いるはずの幹部達の姿が見えない。居るのはゲオルスのみだ。
「今、【竜の爪牙】の議長を俺がやっている。つまり俺がダメだと言えば……お前が謁見する権利は無くなる」
「おいおい……何を言っているんだ? 長老の命令は絶対だろうが。長老に来いって言われたから来たんだぞ?」
「貴様の勘違いであろう」
「話にならねえな。他の幹部共は何をしている」
「会いたいか? なら会わせてやるさ。牢獄でな! 反逆者だ。捕らえろ」
ドライゼが気付いた瞬間には、周囲を兵士に囲まれていた。兵士達は先端に雷が迸る槍を装備しており、その穂先を彼女へと向けていた。
「お前……まさか」
しかしゲオルスは既にドライゼの言葉を聞いておらず、下卑た目でその身体を見つめていた。
「お前ら、肌を傷付けるなよ? 後でたっぷりと俺自らがいたぶってやるつもりだからな」
ドライゼは逃げるか否かを考えているうちに、その身体へと槍が殺到した。
スチールダウンの街中をドライゼの妹――コルトの案内で進んでいくと、煙突の突き出た小さな工房があった。
言われるがままにそこに入るガリル達。その先には鉄くずや機械らしき物がそこら中に散乱していて、辛うじて、奥へと歩ける道があった。
「邪魔する」
「お邪魔しまーす」
「懐かしいな。グロックの奴は元気か?」
ドライゼがその工房をキョロキョロと見つめていると、奥から大柄な竜人が出てきた。蒼い鱗は煤で覆われて黒ずんでおり、背中の翼は根元から千切れたのか痛々しい傷跡が残っている。
「相変わらず急だな、ドライゼ」
「グロック! ずいぶんと老けたな!」
「うるせえ。お前もシワが増えたんじゃねえか?」
「ぶっ殺すぞジジイ」
ドライゼが嬉しそうにその蒼い竜人――グロックと拳を突き合わせた。
「ふふふ、コルトの師匠とお姉様は仲良しなの」
それを見て、嬉しそうにコルトがガリルとイサカへと笑いかけた。
「仲良くねえよ」
「そうだぞコルト。んで、ドライゼ、そいつらは?」
グロックがギロリとガリル達を睨むが、その目線はすぐに二人が持っていた銃へと向かった。
「あたしご自慢の技術者さ。色々と刺激を受けられると思ってね」
「……なるほど。上がれ、茶を出そう」
グロックがそう言って、奥の部屋へと戻っていった。
「あいつはこのスチールダウンでも一番の技術者兼発掘屋だ。偏屈で気難しいところはあるが……まあお前らなら馬が合うだろうさ」
ドライゼの言葉を受けて、ガリルとイサカは頷いた。ドライゼにはゴミにしか見えないが、さっきから工房の各所にある機巧や部品を見て、二人はワクワクしていた。それは、宝物を前にした冒険者の姿とよく似ていた。
奥の部屋はどうやら事務所のようで、ソファとテーブルが置いてあった。
コルトに言われるがままにそこに座るガリル達。
「お前が来た理由は知っている。長老に会いに来たんだろ」
お茶を出しながら、グロックがそうドライゼへと話しかけた。
「ああ。色々あってな。ちと話さないといけない事がある」
「長老ももう限界が来はじめている。今、上層部は今後について争っているぞ。まあ俺ら底辺には関係ないがな」
「そうだ、グロック、ここをこいつらにしばらく使わせてやってくれないか?」
「……その持っている武器らしき物の知識と交換だ」
「話が相変わらず早くて助かるぜ」
話がどんどん進んで、付いていけないガリル達だったが、コルトがニコニコとお茶を差し出してくるのでそれを飲んでとりあえず黙っている事にした。
「ガリル、イサカ。あたしは少しここを離れる。多分、あたしの用事はそこそこ時間が掛かるからここで研究開発の続きをしてくれ。材料、器具、その他諸々はグロックとコルトが世話してくれる。道具は持ってきているんだろ? まあ最悪、転送魔法でなんか開発室から取り寄せるが。転移は無理だがちょっとした道具なら転送は可能だぞ?」
「最低限必要な物は持ってきている」
「そうか。なら、あとは技術者同士、仲良くやってくれ。何かあればすぐに戻る」
そうして細々した事を打ち合わせると、足早にドライゼは去っていった。コルトはそれを名残惜しそうに見つめていたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「さて、お互いに分からねえ事はあると思うが、技術者同士だ。技術で語ろうじゃねえか」
そう言って、グロックは顔を歪ませたのだった。
こうしてガリルとイサカの新たな生活がはじまった。
☆☆☆
「まさかほんとに来るとはな。しかも人間とドワーフを連れてとは……馬鹿にしているのか貴様は!!」
ドラヴァリア最上層、【アッパーミスリル】と呼ばれるこの街の中に、特権階級の者しか入れない場所があった。そこは竜族の長老である【白啓竜ラゼランシア】の寝所であり、かつこの街の最高意思決定機関でもある【竜の爪牙】の本部でもあった。
その中にある謁見の洞窟手前の部屋にゲオルスの怒声が響き渡った。
「うるせえなあ。別に兵士でもなんでもないんだから良いじゃねえか」
それを心底嫌そうな表情でドライゼが返した。
「そういう問題ではない! やはり貴様のようなレッサードラゴンに長老は会わせられないな」
「あん? 長老はあたしが来る事を知っているはずだ。お前の意思なんてどうでもいいんだが?」
そういえば、普段は5人いるはずの幹部達の姿が見えない。居るのはゲオルスのみだ。
「今、【竜の爪牙】の議長を俺がやっている。つまり俺がダメだと言えば……お前が謁見する権利は無くなる」
「おいおい……何を言っているんだ? 長老の命令は絶対だろうが。長老に来いって言われたから来たんだぞ?」
「貴様の勘違いであろう」
「話にならねえな。他の幹部共は何をしている」
「会いたいか? なら会わせてやるさ。牢獄でな! 反逆者だ。捕らえろ」
ドライゼが気付いた瞬間には、周囲を兵士に囲まれていた。兵士達は先端に雷が迸る槍を装備しており、その穂先を彼女へと向けていた。
「お前……まさか」
しかしゲオルスは既にドライゼの言葉を聞いておらず、下卑た目でその身体を見つめていた。
「お前ら、肌を傷付けるなよ? 後でたっぷりと俺自らがいたぶってやるつもりだからな」
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