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12:山を登る男

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所在地不明。

「それは、まことか?」
「勿論だとも。王の許可を得ている。俺らはあんたらに絶対の忠誠を誓おう。事が為された暁には王国の東部、つまり大陸の東部は全て献上するつもりだ」

 暗がりの中で、勇者が真剣な表情で誰かと喋っていた。明かりは一切ないが、両者にとっては全く問題ないようだ。

「なるほど……それで? 我らに何をしろと」
「何、簡単な話だよ。俺達が通るのをただ見ているだけでいい。ついでに魔王軍との関係を完全に切ってくれたら助かるけどね。あとはとある武器を量産したいから、それに協力してくれたらありがたいが……まあそこまでは期待していないさ」
「武器か……」
「心配しなくても、あんたらにとっては痛くもかゆくもない奴さ。
「……検討しよう」

 それだけを言って、勇者の前にいた人物の気配が消えた。

「さてさて、どうなるかな? あいつら、【勇者の盟約】を……忘れてないと良いがね」

 一人残された勇者が笑みを浮かべた。


☆☆☆


「転移魔法は使わないのか?」
「使いたいのは山々なんだが、ドラヴァリアは転移阻害が常に掛かっているからな。こうして自力で登るしかない」
「山歩きは得意だから僕はいいけどね」

 険しい山道を3人の人物が歩いていた。
 ドライゼにガリルとイサカだ。ガリルもイサカも護身用に、最新式の銃を携帯しているが、ドライゼは素手のままだ。

 3人の向かう先には巨大な山があった。山の頂上からは黒煙がたなびいており、山が生きている事が良く分かった。

 その山の向こうに竜の本拠地であるドラゴンバレーがあり、そこに目的の鉱脈都市ドラヴァリアがあった。
 山の手前まで転移してきた3人は喋りながら山を登っていく。

「それで、結局ここまで一瞬で来たから事情を聞いていないが、魔王殿は何の用があるのだ?」

 ガリルの質問にドライゼが答える。

「なあに、お前らが悩んでいるみたいだからな。ここらで一つ刺激を与えようと思ってな。まあそれとは別にちっと。あたしがいないと入れて貰えねえし、まあ丁度良いタイミングだったんだわ。あとは執務をサボれる」
「……どうせ執務が溜まるだけで、後でやらなければならない事には変わらないのでは?」
「今だけでもあたしに夢を見させてくれ……西部を領土に取り込んだおかげでただですら多い仕事が更に増えたんだ」

 だが、それよりも優先させるべき事がドラヴァリアにはあるのだろうと、ガリルとイサカは理解していた。なんやかんや言いながらもこの魔王は、抜け目なくやる人物だと良く知っているからだ。

「あーそうだ。一応、ドラヴァリアについて説明しておこう。そこは、竜族の住む都市で外部の者は基本的には入れない。あたしといれば大丈夫だが、残念ながらあたしの魔王という立場はあの場所に限ってはあまり使えない」
「独立領……と聞いたな」
「そう。竜族は排他的だ。自分達以外の存在を下に見ているし、何なら同じ竜族同士でも差別しあっている」

 ドライゼのその言葉には、何とも言えない感情がこもっているようにガリルは感じた。

「差別?」

 イサカの言葉にドライゼが、山道を塞ぐ落石を蹴飛ばしながら答えた。

「竜にもいくつか種類というか、形態があってな。最も偉大とされているのは、【竜体】と呼ばれる姿をしている竜だ。4足歩行しているトカゲに羽をくっつけたような姿だな」
「竜と言われて俺が想像するのはその姿だ。鱗に覆われ、空を飛び、火を吐く」
「ああ。だがその数は圧倒的に少ない。その分、力は絶大だがな……。その次が【竜人】だ。こっちは二足歩行するトカゲのイメージだ。翼が生えている者もいれば、ない者もいる。生えている方が位は上だな。竜族の大部分がこの形態だ」
「ふむ。なるほど、で、魔王殿はそのどれでもないように思えるが?」

 魔王ドライゼが竜族であるとガリルは知っている。だが彼女は鱗もないし、翼もない。尻尾と角が生えているだけで、それ以外の見た目はほぼ人間と同じだった。

「あたしは……レッサードラゴンだ。これは他の種族と混じった竜で、姿形は様々だな。あたしの母は人間だったからあたしは人間に近い見た目になった。レッサードラゴンは最も位が低く、差別される対象だ。奴隷のような扱いさ」

 そう言って、山を見つめるドライゼの縦長の瞳孔に浮かぶ感情をガリルは読めない。それは悲しみにも怒りにも諦めにも見えたからだ。

「……だが、魔王殿は魔族を束ねる王にまでなった」
「色々あったんだよ。まあ結果こうなっただけで、何かが違えばあの山の向こうで一生奴隷をしていたのかもしれねえ。運命ってのはそんなもんだ」

 それから3人は黙って歩き続き、山の頂上へと辿り着いた。

 そしてそこからの眺めを見て、ガリルとイサカは小さく、歓声を上げた。

「おお……これは……凄いな」
「谷が丸々都市になってるよ!」

 巨大な山と山の間にある狭い谷。その谷の両側の絶壁に巨大な都市が築かれており、何本もの巨大回廊でそれぞれが繋がっていた。谷間には飛竜が飛び、谷底には煌々と赤く光るマグマの川が流れていた。

「ようこそ、竜と機巧の鉱脈都市【ドラヴァリア】へ。なーんてな」

 ドライゼがおどけた調子でお辞儀しながらそう言ったのだった。
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