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11:悩む男

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 ローサ丘陵の戦いから一か月後。

 魔王城。大会議室――通称【四天王の間】にて。

「――というわけで、限定的な運用だったが銃の有用性は証明されたって事だ。今後は随時【銃死隊ガンデッド】の各戦線への配備を行っていくのと同時に、それぞれの種族や戦線に合った銃を――」

 円卓を時計として見ると、12時の位置に座っているドライゼが喋っているのを3時の位置に座る一人の魔族が口を挟んだ。

「我が人形達に使える物があればいいのだが。でれば、すぐにでも中央戦線は押し返せるな――多分」

 金属質の石を積み上げた作った歪な人間のような見た目の彼の名はタロス。彼は魔王軍の四大幹部である四天王の一人であり、ゴーレムによって組織された軍団である【魔装人形劇団マギエル・ドーラス】のトップである。ゴーレムでありながらも自律しており、魔族の中でも随一の演算能力を持ちあわせている。

「銃ねえ……俺っちからすりゃあ、近付いて噛み千切る方が早いんじゃね? って思っちゃうけどなあ」

 5時に位置にいる、銀色の体毛を持つ狼男が事前に資料用として渡されていた、銃を訝しむ目で見つめていた。彼もまた四天王の一人であり、名はスコル。彼は魔界西部に広がる大森林を根城とする魔獣軍【魔獣行進ビースト・マーチ】を率いて、日々戦線を駆け回っている。

「魔法を使った方が速そうなのに。わたくし達には必要なさそうですわ」

 7時の位置に座っているのは黒い喪服のようなドレスを着て、被っている帽子から下がる黒地の布のせいで顔の見えない女性だった。病的なほど肌が白い彼女の名はエンローザ。【魔女の揺籠クレイドル】と呼ばれる妖魔族を中心に構成されている軍団を束ねており、魔王軍の中では、もっとも魔法に精通している人物である。

「……くだらねえな」

 そして最後にそう吐き捨てたのは、9時の位置に座る、赤い鱗を纏った竜人だった。二足歩行する竜のような見た目で、翼が生えた筋骨隆々の身体と顔付きは歴戦の戦士を思わせた。

 彼の名はゲオルス。魔界東部に連なる火山山脈を縄張りとする竜族の代表として四天王ではないが、この場にいた。最後の四天王である、ベネリは欠席している。

「そもそもよ、裏切り者の人間が作った物なんざ信用出来ねえ。いくら火薬で撃ったところで、俺らの鱗を貫通できるとは思えねえし、何の役に立つんだ? 花火でも上げる用か? 馬鹿馬鹿しい」

 小馬鹿にしたような口調でゲオルスはそう言うと持っていた銃を無理矢理、腕の筋肉だけでへし曲げ、円卓へと投げ捨てた。

「大体、俺ら誇り高き竜族はあんたみたいなに指図される気はねえ。長老も怒ってるぜ? 鉱石を取り過ぎだってな」
「口を慎めゲオルス。魔王様を侮辱するな」

 タロスが口を挟むが、ゲオルスはそれを鼻で笑う。

「黙れよ石くずが。何、対等だと思っているんだ? 俺ら竜族は何よりも強く、そして何者よりも上の存在なんだ。お前含め、ここにいる全員が俺らと対等だと決して思うなよ。俺は、わざわざこのレベルまで下がってきてやってるって事を忘れるんじゃねえ」

 ゲオルスに言葉に、全員が呆れた表情を浮かべた。

「俺ら竜族は、お前らの戦争に協力する気はない。どうしても助けが欲しいんだったら――お前が直接、媚びにこっちまで来いよドライゼ」

 ゲオルスはそれだけを言い残すと、そのまま会議室から出て行ってしまった。

 ドライゼはそれを止める事もなく黙って聞いているだけだった。
 

☆☆☆


「あのボケぇえええええええ!!」

 射撃場に轟音と共に魔王ドライゼの咆吼が響く。彼女はイサカがローサ丘陵で使っていた巨大な試作銃――付けられた名称は【黒鳥墜としオディール】――を撃っては装填し撃っては装填しを繰り返していた。そのたびに的となった、二足歩行するトカゲっぽく成形された土ゴーレムが吹っ飛んでいく。

 作業しつつそれを聞いていたガリルが、隣で銃を分解しているイサカへと声を掛けた。

「魔王殿、ずいぶんと荒れているな」
「四天王会議が荒れたらしいよ。オディールは連発する仕様になってないから、バカスカ撃つの止めて欲しいんだけどなあ……」
「あれの反動で吹っ飛ばずに連続で撃てる魔王に俺は驚くがな……ふふふ、さてどんな専用銃を作ろうか……魔王殿に相応しい、美しさ、そして火力を……」
「ガリル……目が怖いよ」

 そうは言いつつもガリルは悩んでいた。試作銃は色々と出来上がりつつあるものの、各魔族専用の銃については中々進捗しなかった。

「やはり素材……加工技術……何かが一歩足りていない気がする」
「んー。やっぱり、一度【ドラヴァリア】に行く必要があるかもね」
「……聞いた事はあるな」
「魔界東部にある火山山脈の谷間……通称ドラゴンバレーにある鉱脈都市だよ。この辺りでは出回らない稀少な鉱石が採掘されるし、竜族だけが保有する加工技術もあるから、僕も見聞の為に行きたいんだけど……」

 そこでイサカが言葉を濁した。

「問題があるのか?」
「竜族は排他的で、外部の者を受け入れる事はほとんどないからね。魔王軍には一応便宜上、属してはいるけど、実質的には独立領さ。ドライゼ様が竜族だから、今は何とか敵対せずに鉱石や資源を安く譲ってもらっているらしいけど……」
「なるほどな。しかし、ブレイクスルーの為にも一度行ってみたいものだな」

 そこでガリルは、射撃場が静かになっている事に気付いた。

 と同時に、射撃場へと繋がる扉が勢いよく開いた。

「話は聞かせて貰った!! お前らすぐに用意しろ! そこまで言うなら行こうではないか――へ!!」

 そこから出てきたドライゼはそう宣言し、満面の笑みを浮かべていたのだった。
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