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9:騎兵用の銃も用意していた男

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 ガリルとドライゼが丘上に戻ると、丘の中腹では第2魔術師部隊が奮戦していた。

「ウォール隊は防壁を張れ! それ以外は【ファイア・ボール】を放て!」

 歩兵を盾に、後方から火球を放つ魔術師達の攻撃で魔王軍の土壁が崩れ、爆発が起きた。

 銃に込める火薬に引火したのだ。当然、火に弱いアンデッド達は一瞬で灰となり消滅していく。
 それによって空いた弾幕の穴に別の魔術師が更に火球を叩き込む。

 スケルトンロード達が放つ狙撃弾も【ウォール】の魔法が張り続けられており、弾かれてしまう。

 それを丘の上から眺めていたベネリが更にアンデッドを召喚し向かわせるが、焼け石に水だ。

 イサカは【ペッパーミル】とは別の試作銃の最終調整を終えて、それを投入するタイミングを伺っていた。

「んー、やっぱりあいつら精鋭っぽいだけあって上手いなあ。【ウォール】と【ファイア・ボール】だけのシンプルな戦術だけど強い。騎兵を先に潰せていて良かったよ」
「アンデッドは……火に弱い……火薬に引火したのは痛い……すまない」

 ベネリの謝罪にガリルは首を横に振った。

「仕方ないさ。あれは中々にやり手だ。正直最初からあいつら出て来ていればもっと苦戦していたかもしれん……ベネリ、、いけるか?」

 ガリルの言葉にベネリが頷いた。

「無論……既に待機させている……命令も入れてある」
「うんうん。それで、多分勝ちかな? これもせっかくだし使って見ますかー」

 イサカが調整を終えて、軽々と肩に担いでいるのは――2だった。それは口径が50ミリほどもある、銃というよりも砲と形容した方が良い見た目をしている。常人であれば持ち上げる事すら不可能なほどの超重量を誇るこの銃も、ドワーフであるイサカにとってはハンマーを持つのとさして変わらない感覚なのだ。

 そんなイサカの前で隊列を為しているのは、犬のような姿の骸骨とそれに乗るスケルトンの部隊だった。

 彼らは【ボーンライダー】と呼ばれるアンデッドで、機動力があるが、耐久性に難があった。その全員が剣の代わりに、銃身の短い銃を装備していた。

「よし、全員、【Sカービン】を装備しているな。ベネリ、イサカが乗れそうなアンデッドはいないか? どうしても自分で試し撃ちしたいと言ってイサカが聞かないんだ」
「だってガリルは【ペッパーミル】使ったんでしょ? 僕だって自分の開発した奴使いたいんもん」
「じゃあ間を取ってあたしが……」
「それはダメです」

 ドライゼが志願するも速効で却下された。

「では、これを……【サモン・アンデッド】」

 ベネリが地面から召喚したのは、半透明で骨が透けて見える一体の馬だった。その頭部は骸骨になっており眼孔には蒼い炎が揺れている。

「【ホースレイス】です……騎乗者も一緒に霊体化できるので、近付くまでは安全です。ただし攻撃するには実体化する必要があるので……注意を……」
「あー、うん。から大丈夫」

 そう言って、イサカが器用にホースレイスへと騎乗する。担いでいる銃の重量でホースレイスの蹄が地面へとめり込む。

「さあ、【銃騎兵デッド・ドラグーン】の力を見せ付けてやろうか――行くよ」

 ボーンライダー達と、イサカが出陣した。

 
☆☆☆


「よし、あとちょっとだ! さあ丘上でふんぞり返ってる奴らを焼き尽くすぞ!!」
「隊長! 新手です! あれは――騎兵か?」
「あん?」

 第2魔術師部隊の隊長が見ると、骨の犬に騎乗したスケルトン20騎が左右に分かれて、こちらを挟むように向かってきていた。

「銃を持っているぞ! 先に撃たせてやればあとはやりたい放題だ。牽制で数発【ファイア・ボール】を撃ったらウォールを維持して限界まで引き付けて、近付いたところを一気に【バーン・ブレイズ】で狩るぞ」

  隊長の指示通り、魔術師達は牽制として数発火球を放つ。しかし予想よりも機敏な動きで交わすアンデッド騎兵には当たらず、数体のみ爆ぜて消えた。

「お前らビビるなよー」
「撃ってこないですね」
「向こうも一発撃ったら終わりだからな。だがな、命中率を考えろ。あんな揺れる上で撃って当たるとでも思うのか? お前ら限界まで引き付けろ!!」

 左右から第2魔術師部隊に迫るアンデッド騎兵。その距離は200m……100m……と近付いてくる。

「まだだぞ……」
「撃ってきませんね」
「……【バーン・ブレイズ】、用意!」

 アンデッド騎兵との距離が100mを切った所で、魔術師達が魔力を込め始めた。【バーン・ブレイズ】は射程距離が短い代わりに広範囲に炎を放つ魔法で、もし目の前で撃たれたらアンデッドならひとたまりもないだろう。

「……隊長、撃ってきますよ」
「たかが10騎ずつだ。当たりはしねえ! お前ら一気に【バーン・ブレイズ】を叩き込め!」

 隊長がそう指示した瞬間に、左右から迫るアンデッド騎兵の銃口が火を噴いた。バーンブレイズを撃つ為に【ウォール】の魔法は切れている。

「え?」

 それは、ありえない光景だった。左右それぞれ10騎から放たれたとは思えないほどの、無数の銃弾が魔術師達を挟むように襲ったのだ。

 それらは極小の弾だが、魔術師の魔法を中断させるには十分なほどの威力を持っていた。

「アアアア!! 痛え!!」
「助けてくれええ!!」

 バーンブレイズは不発に終わり、アンデッド騎兵は方向転換し、去っていく。

 そこに残されたのは阿鼻叫喚の地獄だった。全身から血を噴き出す者、右腕が吹っ飛んだ者、頭部が半分無くなっている者。

「何が起こった!!」

 部隊の真ん中にいた隊長と魔術師達は幸い無傷だったが、それ以外の魔術師は既に潰滅状態だった。

「わ、分かりません! 数え切れないほどの銃弾が……」
「くそがあああああ!! だが一発撃ったらなら終わりだ!! 俺の火炎魔術で焼き払ってやる!!」

 隊長がありったけの魔力を込めて、空へと掲げた手に巨大な火球を出現させた。

 そんな隊長を冷気を纏う風が撫でた。そこでようやく彼は、アンデッドの馬に乗った赤毛の少女がとんでもなく巨大な銃をこちらへと向けている事に気付いた。

「な……んだ……それは」
「君達には恨みはないけれど……銃開発の礎になってね――バイバイ」

 その少女が引き金引くと同時、轟音。その反動で、少女は乗っていた馬から後方へと吹っ飛んだ。

 50ミリの銃口から放たれたのは極小の弾を中に詰めた巨大な銃弾だった。それは銃口を出た瞬間に破裂し、それによって解き放たれた小さな死神達は、前方へと破壊と死を撒き散らす。

 白煙と土煙が消えた時――そこには肉片しか残っていなかった。

 第2魔術師部隊は丘の中腹までは前進できたものの、結果、全滅したのだった。
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