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7:最前線に来た男
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ローサ丘陵、魔王軍陣地。
「これまた大勢で来たねえ。隠蔽魔法を使っているっぽいが後方にいるのは新しい魔術師部隊か? 賢者もいるんじゃねえかな」
「魔王様……城に戻りますよ。執務が滞っています」
「まあそう言うなって。ちょっとだけ……な?」
「ダメです」
ドライゼと側近が言い合う中、西戦線の指揮官であるベネリとガリルが、丘下に展開されている王国軍の陣形を観察していた。
魔王軍はこの西戦線を押し戻したのは良いもの、どうやらそれが王国軍側を強く刺激したようで彼らは一大兵力をこの地に集結させてきたのだ。よほど、前線基地を潰されたのが痛手だったらしい。
例によって、ドライゼは見に行こうぜと言って前線である丘上の魔王軍陣地にガリルとイサカを連れてやってきたのだった。
「歩兵に、弓兵、騎兵が百騎ほど。で、後方に魔術師部隊か」
「弓と魔法によるの牽制……騎兵の突撃……後詰めの歩兵で蹂躙……そんな古典的な戦術でしょうね……我々アンデッドだけですと、かなり厳しいです……すみません……」
「ふうむ。歩兵や騎兵は【銃死隊】による防御陣を敷けば問題ないが、やはり魔術師部隊と賢者か」
そんなやり取りをする二人を尻目に、イサカは臨時の工房を組み立てとある試作銃の最終調整を行っていた。
「お、何それ……変な見た目だな!」
ドライゼがイサカが弄っている銃を見て、目を輝かせた。それは、魔界の東方に位置する島国を治める鬼族が好んで食べる植物の根――レンコンに良く似た銃身を持つ拳銃だった。
「変じゃなくて機能美です! 性能が不安定なので量産にはまだまだほど遠いけどね」
「良いなあそれ。あたしに使わせてくれよ! 試験運用はまだなんだろ?」
「ダメだぞ魔王殿。不安定でまだ検証が不十分な武器を他人に使わせないのが俺とイサカの信条だ。こればっかりは曲げられない」
会話を聞いていたガリルがそう言って、その拳銃を手に取ろうとするドライゼを止めた。
「んだよー、ずりぃよお前らばっかり、試作品撃てて。スポンサーのあたしにも撃たせろ!」
「暴発するかもしれないし、危険な試作品なんだ。今回持ってきたのは俺とイサカの護身用の為だ」
「護身用?」
「ああ。俺やイサカのような非戦闘員でも万が一があった際にすぐに撃てるし、見た目通りこれまでの銃の弱点を克服しているはずだ」
ガリルが慈しむような眼差しでその拳銃を撫でた。それを見てドライゼが拗ねたような声を出した。
「むー。よし、じゃあ、お前がそれを使う機会を作ってやろう。何、安全はあたしが保証してやる」
「えっと、魔王様? 僕達は技術者だよ?」
イサカの言葉にドライゼがニヤリと笑った。
「心配すんな。あたしがいる限り、相手が賢者なら勝利は確定だ。あとはどうあいつらをおちょくるかだけだからな」
☆☆☆
「騎兵部隊潰滅!!」
「歩兵も近付けません!!」
「火矢で数を減らせ!!」
「届かねえから歩兵は前に出ろって言っているんだよ!!」
王国軍、陣地。怒号と悲鳴が飛び交い、隻腕の指揮官は青ざめた顔で必死に指揮を飛ばしていた。
丘の中腹にはベネリの魔法によって作られた背の低い土の壁が出来ており、その隙間から銃身が針のように無数に突き出ていた。
突進してきた騎兵は皆その銃身から放たれた弾幕の前で沈み、歩兵達は分厚い盾を構えて、亀よりも遅い速度でしか前進出来なかった。時折放たれる狙撃弾は盾すらも貫通し、歩兵達を恐怖に陥れる。
相手の陣地が丘の上というせいもあって、弓は届いても威力が減衰しており、全く効果がなかった。
「け、賢者様……」
隻腕の指揮官が恐る恐る、後方で座っていた賢者へと話しかけた。賢者は貧乏揺すりをしており、苛立ちを隠しきれていなかった。
「お前ら……ほんと僕らがいないと何にも出来ないんだね」
「も、申し訳ございません!」
「ふん、見せてやるよ、魔術師の素晴らしさを……魔法の偉大さをね!!――第2魔術師部隊、出るよ。まずはお前らだけで蹂躙してやれ。最後の仕上げは僕の極大魔術で丘ごと吹っ飛ばしてやるさ」
そう宣言する賢者の背後に、突如ローブを着た集団が現れた。
「ほんと、魔法の使えねえ凡人共には呆れかえるね。ま、賢者様が言うなら仕方ねえ。行くぞお前ら」
王国軍の精鋭である第2魔術師部隊の部隊長が指示を出し、魔術師達が前線へと向かっていく。
「あんな壁なんて、魔法を数発撃てば終わりさ」
賢者がそう呟くと、目の前に立っていたはず指揮官が尻餅をついて、背後を指差していた。
「ま、まままま――」
「グズが……何を慌て――」
呆れた声を出しつつ振り返った賢者の目の前には――
「よお、賢者。遊びに来たぜ、お前にちっとばかし用がある奴と一緒によ」
魔王ドライゼと――
「久々だな、賢者。あんたのおかげで良い職場が見付かって感謝している。恨みはないが……これはほんの些細なお礼だ」
6つの銃身が一つになったような拳銃を構えたガリルが――引き金を引いた。
「これまた大勢で来たねえ。隠蔽魔法を使っているっぽいが後方にいるのは新しい魔術師部隊か? 賢者もいるんじゃねえかな」
「魔王様……城に戻りますよ。執務が滞っています」
「まあそう言うなって。ちょっとだけ……な?」
「ダメです」
ドライゼと側近が言い合う中、西戦線の指揮官であるベネリとガリルが、丘下に展開されている王国軍の陣形を観察していた。
魔王軍はこの西戦線を押し戻したのは良いもの、どうやらそれが王国軍側を強く刺激したようで彼らは一大兵力をこの地に集結させてきたのだ。よほど、前線基地を潰されたのが痛手だったらしい。
例によって、ドライゼは見に行こうぜと言って前線である丘上の魔王軍陣地にガリルとイサカを連れてやってきたのだった。
「歩兵に、弓兵、騎兵が百騎ほど。で、後方に魔術師部隊か」
「弓と魔法によるの牽制……騎兵の突撃……後詰めの歩兵で蹂躙……そんな古典的な戦術でしょうね……我々アンデッドだけですと、かなり厳しいです……すみません……」
「ふうむ。歩兵や騎兵は【銃死隊】による防御陣を敷けば問題ないが、やはり魔術師部隊と賢者か」
そんなやり取りをする二人を尻目に、イサカは臨時の工房を組み立てとある試作銃の最終調整を行っていた。
「お、何それ……変な見た目だな!」
ドライゼがイサカが弄っている銃を見て、目を輝かせた。それは、魔界の東方に位置する島国を治める鬼族が好んで食べる植物の根――レンコンに良く似た銃身を持つ拳銃だった。
「変じゃなくて機能美です! 性能が不安定なので量産にはまだまだほど遠いけどね」
「良いなあそれ。あたしに使わせてくれよ! 試験運用はまだなんだろ?」
「ダメだぞ魔王殿。不安定でまだ検証が不十分な武器を他人に使わせないのが俺とイサカの信条だ。こればっかりは曲げられない」
会話を聞いていたガリルがそう言って、その拳銃を手に取ろうとするドライゼを止めた。
「んだよー、ずりぃよお前らばっかり、試作品撃てて。スポンサーのあたしにも撃たせろ!」
「暴発するかもしれないし、危険な試作品なんだ。今回持ってきたのは俺とイサカの護身用の為だ」
「護身用?」
「ああ。俺やイサカのような非戦闘員でも万が一があった際にすぐに撃てるし、見た目通りこれまでの銃の弱点を克服しているはずだ」
ガリルが慈しむような眼差しでその拳銃を撫でた。それを見てドライゼが拗ねたような声を出した。
「むー。よし、じゃあ、お前がそれを使う機会を作ってやろう。何、安全はあたしが保証してやる」
「えっと、魔王様? 僕達は技術者だよ?」
イサカの言葉にドライゼがニヤリと笑った。
「心配すんな。あたしがいる限り、相手が賢者なら勝利は確定だ。あとはどうあいつらをおちょくるかだけだからな」
☆☆☆
「騎兵部隊潰滅!!」
「歩兵も近付けません!!」
「火矢で数を減らせ!!」
「届かねえから歩兵は前に出ろって言っているんだよ!!」
王国軍、陣地。怒号と悲鳴が飛び交い、隻腕の指揮官は青ざめた顔で必死に指揮を飛ばしていた。
丘の中腹にはベネリの魔法によって作られた背の低い土の壁が出来ており、その隙間から銃身が針のように無数に突き出ていた。
突進してきた騎兵は皆その銃身から放たれた弾幕の前で沈み、歩兵達は分厚い盾を構えて、亀よりも遅い速度でしか前進出来なかった。時折放たれる狙撃弾は盾すらも貫通し、歩兵達を恐怖に陥れる。
相手の陣地が丘の上というせいもあって、弓は届いても威力が減衰しており、全く効果がなかった。
「け、賢者様……」
隻腕の指揮官が恐る恐る、後方で座っていた賢者へと話しかけた。賢者は貧乏揺すりをしており、苛立ちを隠しきれていなかった。
「お前ら……ほんと僕らがいないと何にも出来ないんだね」
「も、申し訳ございません!」
「ふん、見せてやるよ、魔術師の素晴らしさを……魔法の偉大さをね!!――第2魔術師部隊、出るよ。まずはお前らだけで蹂躙してやれ。最後の仕上げは僕の極大魔術で丘ごと吹っ飛ばしてやるさ」
そう宣言する賢者の背後に、突如ローブを着た集団が現れた。
「ほんと、魔法の使えねえ凡人共には呆れかえるね。ま、賢者様が言うなら仕方ねえ。行くぞお前ら」
王国軍の精鋭である第2魔術師部隊の部隊長が指示を出し、魔術師達が前線へと向かっていく。
「あんな壁なんて、魔法を数発撃てば終わりさ」
賢者がそう呟くと、目の前に立っていたはず指揮官が尻餅をついて、背後を指差していた。
「ま、まままま――」
「グズが……何を慌て――」
呆れた声を出しつつ振り返った賢者の目の前には――
「よお、賢者。遊びに来たぜ、お前にちっとばかし用がある奴と一緒によ」
魔王ドライゼと――
「久々だな、賢者。あんたのおかげで良い職場が見付かって感謝している。恨みはないが……これはほんの些細なお礼だ」
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