9 / 15
9話:銀月の熊
しおりを挟む
二人が森の中を進むと、前方に巨大な神殿が見えた。しかし、ここ最近は人の手が入っていないせいか神殿に植物が絡みつき、まるで森と一体化しているような姿だった。
「騎士達がいますね。どうも神殿の扉を開けるのに苦労しているようです」
「ああ。あそこに囚われているのは狩人か?」
茂みに隠れている二人の前方。神殿の手前には広場があり、騎士達が十数人、神殿の扉を開けようとアレコレ試しているが、扉はビクともしなかった。
広場の中央には、縛られたアミスラ村の狩人らしき姿の青年達が座っていた。
「貴様ら!! さっさと扉の開け方を吐け!!」
「だから、俺らは知らねえって! 中に入った事すらないんだよ!」
「嘘を付け! 入った事は無くても、開け方は知っているはずだ!」
尋問していた騎士は苛立ち、ついに一人一人を蹴り始めた。
「吐け! 吐け!」
その光景を見たエミーリアが飛びだそうとするのをミネルヴァが抑えた。
「助けないと!!」
「分かってる。だが流石にあの人数は私でもすぐに制圧は難しい……万が一狩人達を人質にされたら大変だ」
「……すみません、そこまで考えていませんでした」
しゅんとうなだれたエミーリアの頭をぽんぽんと優しく叩きながらミネルヴァは前方を注視する。
「あいつら……爆薬仕掛けているな」
「ななな、なんという罰当たりな……許してはおけぬ……こうなれば聖女のみに伝承されるというセイント神拳を使う時が……」
「ふむエミーリアは武術を嗜んでいるのか」
感心したかのように頷くミネルヴァを見て、エミーリアは苦笑いを浮かべた。
「あ、いえ……なんかすみません」
「ん? 何も謝る事はないぞ。だが、やはり戦力が2人に増えたところで、危険な事には変わらないな」
「いや、そういう事じゃなくて……あ、ミネルヴァ様見て下さい!」
一人の騎士によって爆薬が着火された。次の瞬間に爆発が起き、爆風が周りの木々を揺らす。
同時に、何かが崩れる音と――
「ギャオオオ!!」
咆吼が響き渡った。
「っ! ミネルヴァ様! これは!?」
「ん? この鳴き声は……」
爆薬によって崩れた神殿の扉から大きな影が飛び出してきた。
「なんだこいつは!! 迎撃しろ!!」
それを端的に表現すると巨大な熊だった。銀色の毛皮を纏い、その眼は殺意によって赤く染まっている。騎士達がボーガンを構え、一斉に放つが全て毛皮に弾かれた。
銀熊が森の木々の幹よりも太い腕を薙いだ。それだけでまるで紙くずのように騎士達が吹き飛ばされていく。
「なにあれ!! 可愛い!!」
「そうか……?」
どう見ても凶暴な獣だが……。と思ったミネルヴァだが、口には出さなかった。
「あれが聖獣なんですね!」
「ああ。聖獣というか……」
銀熊が大暴れしているうちに、騎士達はバラバラと森の中へと走り去っていく。
「あ、騎士達が逃げましたね」
「よし。では行こうか」
「え? あ、ミネルヴァ様、危険ですって!」
ミネルヴァがスタスタと茂みから出て、神殿へと向かう。その後ろをエミーリアは慌てて追いかけた。
ミネルヴァは広場の中央の狩人達へと声を掛けた。騎士達は銀熊にやられたが、彼ら狩人はなぜか無事だった。
「怪我はないか? いや蹴られていたか。災難だったな」
「あああ、あんた後ろに聖獣が!!」
「ミネルヴァ様!」
エミーリアの声でミネルヴァが振り返ると、目の前で銀熊が仁王立ちし両腕を振り上げていた。その目は殺意と怒りで濁っている。
「久しいなカリスト」
しかしミネルヴァの声で、銀熊の目が赤から青に変わり――
「ぎゃおん!!」
銀熊はごろんと背後に倒れるとお腹をミネルヴァへと晒した。
「馬鹿な!? あれは何百年もこの森と神殿を守る聖獣……それが……服従のポーズを取っただと!?」
「よしよし……デカくなったなカリスト。元気で良かった」
「ミネルヴァ様……?」
「ああ……こいつは」
ミネルヴァはこの銀熊の正体を知っていた。
あれは300年ほど前だろう。まだミネルヴァが天界にいた頃、アーミスがどこぞから子熊を拾ってきたのだ。アーミスはそれを大層可愛がったのだが、可愛がるほどに子熊はアーミスの神力を蓄え、どんどん身体が大きくなっていった。
大きいのは可愛くないと言ってアーミスはその熊を射殺そうとしたので、ミネルヴァがこっそり保護して下界へと避難させたのだ。
どうやら下界に降りた後もアーミスの匂いを感じてこの神殿に辿り着いたのだろう。いつか……アーミスが迎えに来ると信じて。
「カリストちゃん健気……なんかその話だけ聞くとアーミス様がすごい性格悪い女神に聞こえますね……」
エミーリアが目を細めて話を聞いていたが、ついそう口に出してしまった。
「ちょっと飽き性なだけだぞ!」
「はあ……まあミネルヴァ様がそう仰るなら」
「ぎゃおーん!」
ミネルヴァへと頬ずりするカリストが甘えたような声を出している。
「あの……貴女達は……?」
もはや何が何やらさっぱり分からない狩人達だった。
「騎士達がいますね。どうも神殿の扉を開けるのに苦労しているようです」
「ああ。あそこに囚われているのは狩人か?」
茂みに隠れている二人の前方。神殿の手前には広場があり、騎士達が十数人、神殿の扉を開けようとアレコレ試しているが、扉はビクともしなかった。
広場の中央には、縛られたアミスラ村の狩人らしき姿の青年達が座っていた。
「貴様ら!! さっさと扉の開け方を吐け!!」
「だから、俺らは知らねえって! 中に入った事すらないんだよ!」
「嘘を付け! 入った事は無くても、開け方は知っているはずだ!」
尋問していた騎士は苛立ち、ついに一人一人を蹴り始めた。
「吐け! 吐け!」
その光景を見たエミーリアが飛びだそうとするのをミネルヴァが抑えた。
「助けないと!!」
「分かってる。だが流石にあの人数は私でもすぐに制圧は難しい……万が一狩人達を人質にされたら大変だ」
「……すみません、そこまで考えていませんでした」
しゅんとうなだれたエミーリアの頭をぽんぽんと優しく叩きながらミネルヴァは前方を注視する。
「あいつら……爆薬仕掛けているな」
「ななな、なんという罰当たりな……許してはおけぬ……こうなれば聖女のみに伝承されるというセイント神拳を使う時が……」
「ふむエミーリアは武術を嗜んでいるのか」
感心したかのように頷くミネルヴァを見て、エミーリアは苦笑いを浮かべた。
「あ、いえ……なんかすみません」
「ん? 何も謝る事はないぞ。だが、やはり戦力が2人に増えたところで、危険な事には変わらないな」
「いや、そういう事じゃなくて……あ、ミネルヴァ様見て下さい!」
一人の騎士によって爆薬が着火された。次の瞬間に爆発が起き、爆風が周りの木々を揺らす。
同時に、何かが崩れる音と――
「ギャオオオ!!」
咆吼が響き渡った。
「っ! ミネルヴァ様! これは!?」
「ん? この鳴き声は……」
爆薬によって崩れた神殿の扉から大きな影が飛び出してきた。
「なんだこいつは!! 迎撃しろ!!」
それを端的に表現すると巨大な熊だった。銀色の毛皮を纏い、その眼は殺意によって赤く染まっている。騎士達がボーガンを構え、一斉に放つが全て毛皮に弾かれた。
銀熊が森の木々の幹よりも太い腕を薙いだ。それだけでまるで紙くずのように騎士達が吹き飛ばされていく。
「なにあれ!! 可愛い!!」
「そうか……?」
どう見ても凶暴な獣だが……。と思ったミネルヴァだが、口には出さなかった。
「あれが聖獣なんですね!」
「ああ。聖獣というか……」
銀熊が大暴れしているうちに、騎士達はバラバラと森の中へと走り去っていく。
「あ、騎士達が逃げましたね」
「よし。では行こうか」
「え? あ、ミネルヴァ様、危険ですって!」
ミネルヴァがスタスタと茂みから出て、神殿へと向かう。その後ろをエミーリアは慌てて追いかけた。
ミネルヴァは広場の中央の狩人達へと声を掛けた。騎士達は銀熊にやられたが、彼ら狩人はなぜか無事だった。
「怪我はないか? いや蹴られていたか。災難だったな」
「あああ、あんた後ろに聖獣が!!」
「ミネルヴァ様!」
エミーリアの声でミネルヴァが振り返ると、目の前で銀熊が仁王立ちし両腕を振り上げていた。その目は殺意と怒りで濁っている。
「久しいなカリスト」
しかしミネルヴァの声で、銀熊の目が赤から青に変わり――
「ぎゃおん!!」
銀熊はごろんと背後に倒れるとお腹をミネルヴァへと晒した。
「馬鹿な!? あれは何百年もこの森と神殿を守る聖獣……それが……服従のポーズを取っただと!?」
「よしよし……デカくなったなカリスト。元気で良かった」
「ミネルヴァ様……?」
「ああ……こいつは」
ミネルヴァはこの銀熊の正体を知っていた。
あれは300年ほど前だろう。まだミネルヴァが天界にいた頃、アーミスがどこぞから子熊を拾ってきたのだ。アーミスはそれを大層可愛がったのだが、可愛がるほどに子熊はアーミスの神力を蓄え、どんどん身体が大きくなっていった。
大きいのは可愛くないと言ってアーミスはその熊を射殺そうとしたので、ミネルヴァがこっそり保護して下界へと避難させたのだ。
どうやら下界に降りた後もアーミスの匂いを感じてこの神殿に辿り着いたのだろう。いつか……アーミスが迎えに来ると信じて。
「カリストちゃん健気……なんかその話だけ聞くとアーミス様がすごい性格悪い女神に聞こえますね……」
エミーリアが目を細めて話を聞いていたが、ついそう口に出してしまった。
「ちょっと飽き性なだけだぞ!」
「はあ……まあミネルヴァ様がそう仰るなら」
「ぎゃおーん!」
ミネルヴァへと頬ずりするカリストが甘えたような声を出している。
「あの……貴女達は……?」
もはや何が何やらさっぱり分からない狩人達だった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
普段は厳しい先輩が、忘年会で酔っちゃって後輩にお持ち帰りされる百合
風見 源一郎
恋愛
教育係の工藤春香にいつも怒られてばかりの姫嶋桜子。厳しく指導されて、それでも想いは隠しきれない。年の瀬を迎え、忘年会が開かれたその日。酔った春香を送ろうとしていた桜子は、不意打ち気味に抱きつかれた衝撃に耐えることができず、自宅へとお持ち帰りしてしまう。
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
かしましくかがやいて
優蘭みこ
恋愛
紗久良と凜はいつも一緒の幼馴染。夏休み直前のある日、凜は授業中に突然倒れ救急車で病院に運び込まれた。そして検査の結果、彼は男の子ではなく実は女の子だったことが判明し、更に男の子のままでいると命に係わる事が分かる。そして彼は運命の選択をする……
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる