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8話:神殿
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「帝国騎士……はいないみたいです あいつらどこ行ったんだろう?」
村のすぐ横は深い森になっており、その木陰からミネルヴァとエミーリアは村の様子を伺っていた。
「まあ、居ても問題はないが……」
「ですね! 今度こそ天罰を! 神に反した愚かな狼に、死の鉄槌を!」
「いや、死を与えるのは私の仕事ではない……他神の領分を侵すのは良くない」
自分の冗談に真面目に答えるミネルヴァを見て、エミーリアは思わず笑ってしまう
「ふふふ……ミネルヴァ様は慈悲まで持ちあわせていらっしゃるのですね! メモしとかないと!」
「無用な殺生は私の好むところではない。ただですら血生臭い“戦”という概念を背負っているんだ。せめて私自身は……」
「はい。それは私も同じ気持ちです。では、行きましょうか!」
「ああ」
エミーリアを先頭にアミスラの村へと入っていく。
そこは辺境の村としては極々一般的な村であり、狩りで生計を立てている者が多い。その証拠に軒先には獣の肉や皮が干されていた。
どうやらまだ銃はこの辺りでは普及しておらず弓やボーガンの練習台が置いてあり、子供達が練習している。
「良い村だ。だが、何かに怯えているな」
「ですね。大人達の顔色が悪いです。それにここ……アーミス信仰が盛んだったと聞いていましたが……イコンが一切ないです」
イコンとはその神を示し象徴であり、また分かりやすい信仰の証である。例えばミネルヴァの場合は槍と盾がイコンなので、それらを組み合わせた小さなレリーフを窓や軒先など、空が見える場所に飾っておくと、自分はミネルヴァに信仰を捧げていますという証拠になる。
そこから考えればアーミスのイコンである、三日月と矢のレリーフがこの村の家々にあってもおかしくはない。
だが二人がいくら探せども、それらは見当たらない。
「ミネルヴァ様……見て下さい。あの広場の像……ひどい……」
エミーリアが駆け寄った先には、ちょっとした広場があり、その真ん中に大きな石造りの像があった。しかしそれは地面へと倒されており、周りには炭と化した薪が散乱している。
像の頭の部分は粉々に砕け、燃やされたのか表面が黒く変色していた。更にミネルヴァが良く見れば、その周りに無数の歪んだイコンが落ちてあった。
「これは……」
「……この村のイコンを全て集め、おそらくアーミス様をかたどった像を破壊し、一緒に燃やしたんでしょう。村人達がこんな事をするとは思えません。きっと……帝国の奴らの仕業です」
エミーリアが眉間にしわを寄せていた。
その表情は怒りというより悲しみの感情の方が多いようにミネルヴァには見えた。
「貴女達は……?」
そんな二人の背後から話しかけてきたのは一人の老人だった。立派な髭を蓄えた白髪の老人で、杖をついているが、その眼光は鋭い。おそらく相当腕の良い弓士だったのだろうとミネルヴァは推測する。
「私はオルデン教会所属、巡礼執行官および聖女指定を受けているエミーリア・グラーツェフです。こちらは私の護衛である【戦神のミネルヴァ】です。貴方はこちらの村の責任者でしょうか?」
エミーリアの雰囲気ががらりと変わり、ミネルヴァは内心驚いていた。
更に何やらな自分に肩書きが付いているが……。老人はそれを二つ名か何かだと勘違いして特に自分の正体に気付いている様子はない。ホッとする反面、自分には神の威厳というものがあまりないのかもしれないと少し落ち込むミネルヴァだった。
「いかにも私がこの村の長をしております……まさか聖女様を生きているうちに拝める日が来るとは……ようこそ狩人の村アミスラへ……ですが……少し遅かったようですね」
村長は深いため息をついて、倒されたアーミス像へと視線を向けた。
「先日帝国騎士団が現れて、安全と平和を引き換えにアーミス信仰を手放せと脅したきました。結果が……これです。ですが、村人に罪はありません。どうか、罰は村長である私だけにお与えください……聖女様、ミネルヴァ様」
村のすぐ横は深い森になっており、その木陰からミネルヴァとエミーリアは村の様子を伺っていた。
「まあ、居ても問題はないが……」
「ですね! 今度こそ天罰を! 神に反した愚かな狼に、死の鉄槌を!」
「いや、死を与えるのは私の仕事ではない……他神の領分を侵すのは良くない」
自分の冗談に真面目に答えるミネルヴァを見て、エミーリアは思わず笑ってしまう
「ふふふ……ミネルヴァ様は慈悲まで持ちあわせていらっしゃるのですね! メモしとかないと!」
「無用な殺生は私の好むところではない。ただですら血生臭い“戦”という概念を背負っているんだ。せめて私自身は……」
「はい。それは私も同じ気持ちです。では、行きましょうか!」
「ああ」
エミーリアを先頭にアミスラの村へと入っていく。
そこは辺境の村としては極々一般的な村であり、狩りで生計を立てている者が多い。その証拠に軒先には獣の肉や皮が干されていた。
どうやらまだ銃はこの辺りでは普及しておらず弓やボーガンの練習台が置いてあり、子供達が練習している。
「良い村だ。だが、何かに怯えているな」
「ですね。大人達の顔色が悪いです。それにここ……アーミス信仰が盛んだったと聞いていましたが……イコンが一切ないです」
イコンとはその神を示し象徴であり、また分かりやすい信仰の証である。例えばミネルヴァの場合は槍と盾がイコンなので、それらを組み合わせた小さなレリーフを窓や軒先など、空が見える場所に飾っておくと、自分はミネルヴァに信仰を捧げていますという証拠になる。
そこから考えればアーミスのイコンである、三日月と矢のレリーフがこの村の家々にあってもおかしくはない。
だが二人がいくら探せども、それらは見当たらない。
「ミネルヴァ様……見て下さい。あの広場の像……ひどい……」
エミーリアが駆け寄った先には、ちょっとした広場があり、その真ん中に大きな石造りの像があった。しかしそれは地面へと倒されており、周りには炭と化した薪が散乱している。
像の頭の部分は粉々に砕け、燃やされたのか表面が黒く変色していた。更にミネルヴァが良く見れば、その周りに無数の歪んだイコンが落ちてあった。
「これは……」
「……この村のイコンを全て集め、おそらくアーミス様をかたどった像を破壊し、一緒に燃やしたんでしょう。村人達がこんな事をするとは思えません。きっと……帝国の奴らの仕業です」
エミーリアが眉間にしわを寄せていた。
その表情は怒りというより悲しみの感情の方が多いようにミネルヴァには見えた。
「貴女達は……?」
そんな二人の背後から話しかけてきたのは一人の老人だった。立派な髭を蓄えた白髪の老人で、杖をついているが、その眼光は鋭い。おそらく相当腕の良い弓士だったのだろうとミネルヴァは推測する。
「私はオルデン教会所属、巡礼執行官および聖女指定を受けているエミーリア・グラーツェフです。こちらは私の護衛である【戦神のミネルヴァ】です。貴方はこちらの村の責任者でしょうか?」
エミーリアの雰囲気ががらりと変わり、ミネルヴァは内心驚いていた。
更に何やらな自分に肩書きが付いているが……。老人はそれを二つ名か何かだと勘違いして特に自分の正体に気付いている様子はない。ホッとする反面、自分には神の威厳というものがあまりないのかもしれないと少し落ち込むミネルヴァだった。
「いかにも私がこの村の長をしております……まさか聖女様を生きているうちに拝める日が来るとは……ようこそ狩人の村アミスラへ……ですが……少し遅かったようですね」
村長は深いため息をついて、倒されたアーミス像へと視線を向けた。
「先日帝国騎士団が現れて、安全と平和を引き換えにアーミス信仰を手放せと脅したきました。結果が……これです。ですが、村人に罪はありません。どうか、罰は村長である私だけにお与えください……聖女様、ミネルヴァ様」
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