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4話:神話
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「み、ミネルヴァ様!!」
「うわっ!?」
床からバネ仕掛けの人形のように飛び起きたエミーリアがミネルヴァの胸へと飛び込んでくる。そのまま頭を思いっきりミネルヴァが装備している胸甲へとぶつけ、気絶。倒れそうになるエミーリアをミネルヴァは慌てて抱きしめた。
「……凄い子、助けちゃったね」
グラウの言葉にミネルヴァは無言で何度も頷いた。
「き、貴様! 我ら帝国騎士団に楯突くとどうなるか分かっているのか!」
手を打ち抜かれた騎士が、ミネルヴァに向かってそう言葉を吐くが、彼女は涼しい顔でそれを受け止めた。帝国がどうした、こちとら天界一怖い冥府の神に追放されたんだぞ? 怖い物なんてあるわけがない。
「知らんな。命だけは取らずにおいてやるからさっさと失せろ」
なので、ミネルヴァはそう啖呵を切ったのだった。
「く、その顔、覚えたからな! 行くぞお前ら!」
捨て台詞を吐いて、騎士達が教会から逃げていく。
「おとといきやがれ、馬鹿騎士! 雄生命体!」
ミネルヴァは胸元で声がすると思って下を見ると、いつの間にか意識を取りもどしていたエミーリアが騎士達の背中に罵倒を浴びせていた。
「元気そうで何より……だが……」
ミネルヴァが手を広げてもエミーリアはくっついたままだ。
「へへへ……胸甲があったのは残念だけど、その上からでも豊穣が感じられる……これが神の抱擁……」
「……えっと、あの、離してくれる?」
「もう少しだけ……あ、あたし、エミーリアです。一応聖女です」
「あ、ああ。私はミ――」
自分の名前を口にしそうになったミネルヴァの口をグラウが塞ぎ、首をブンブン振った。
使い魔と仕える神の間だけで使えるテレパスで、“絶対に神ってバレない方がいいって!”という叫びを聞いたミネルヴァは偽名を使う事にした。
「み、ミーネだ!」
「ミーネ様! なるほど、ミネルヴァ様の略称はミーネなのね……ああ……また貴い知識が増えた……」
「あ、いや略称でなくて」
「これでもあたし、聖女でして! 貴女様が戦と都市守護の女神ミネルヴァ様なのはすぐに分かりました! だって魂が輝いている! それにミミズクも! ミネルヴァ様の使い魔はミミズクって相場は決まっているもの!」
緑色の目をキラキラとさせて見上げるエミーリアからミネルヴァは微かな神力を感じたのだった。
「あちゃあ……ミネルヴァ、この子よりにもよって神眼持ちだよ。流石に隠し通すのは無理かも」
「ミミズクが喋ったっ!! やっぱりミネルヴァ様なんですね! あ、いえ! 分かりますよ! 神という立場を忍んでこの愚かしい下界を視察に来られたのですよね? それともまさか……終末のラッパを!?」
「あー、まあ、休暇? みたいなものだ。ゆっくり旅でもしようかと思って……」
永遠に続く休暇なんだがな……とミネルヴァは心の中でため息をついた。
しかしこの一言がいけなかった。
「た、旅ですか!! これはまさに運命ですね! 運命の神アラス様もにっこりでしょう!」
「いや、アラスはあんまり笑わない奴で……」
「多分そういう意味じゃないよミネルヴァ……」
「あたしも! 旅の! 真っ最中! でして! まあ騎士団に追われての逃亡の旅ですけど……世界に神々の信仰を取り戻す救世の旅でもあるんです」
「素晴らしい目的だ。だが……」
それも無駄に終わる……とは言えないミネルヴァだった。信仰したところで、色欲に溺れた神々にその祈りがもう届かない事を彼女は知っていた。今の天界で、信仰を受けてそれ相応に下界の為に真面目に働く神は彼女含め極々少数だからだ。そして自分はもはや下界に堕ちてしまった。
「私への信仰はもはや意味を為さない……だからそんな危ない旅は止めるんだ。少女が一人旅なんていくら平和な下界とはいえ危険過ぎる」
エミーリアを諭すミネルヴァだったが、エミーリアはその言葉を聞くとようやく自分からミネルヴァの胸元から離れた。
そして、廃協会の祭壇――ミネルヴァの像がある場所まで行くと、くるりとターンをした。
ふわりと広がるワンピースの裾。そしてエミーリアは満面の笑みを浮かべ、こう言ったのだった。
「意味はあった!! だってミネルヴァ様はあたしを救ってくださったもの!」
崩れた天井。
雲間から差す光。
光の中で手を広げるエミーリア。
それはまるで神話の一場面のようだ――不覚にもミネルヴァは、そう思ってしまったのだった。
「うわっ!?」
床からバネ仕掛けの人形のように飛び起きたエミーリアがミネルヴァの胸へと飛び込んでくる。そのまま頭を思いっきりミネルヴァが装備している胸甲へとぶつけ、気絶。倒れそうになるエミーリアをミネルヴァは慌てて抱きしめた。
「……凄い子、助けちゃったね」
グラウの言葉にミネルヴァは無言で何度も頷いた。
「き、貴様! 我ら帝国騎士団に楯突くとどうなるか分かっているのか!」
手を打ち抜かれた騎士が、ミネルヴァに向かってそう言葉を吐くが、彼女は涼しい顔でそれを受け止めた。帝国がどうした、こちとら天界一怖い冥府の神に追放されたんだぞ? 怖い物なんてあるわけがない。
「知らんな。命だけは取らずにおいてやるからさっさと失せろ」
なので、ミネルヴァはそう啖呵を切ったのだった。
「く、その顔、覚えたからな! 行くぞお前ら!」
捨て台詞を吐いて、騎士達が教会から逃げていく。
「おとといきやがれ、馬鹿騎士! 雄生命体!」
ミネルヴァは胸元で声がすると思って下を見ると、いつの間にか意識を取りもどしていたエミーリアが騎士達の背中に罵倒を浴びせていた。
「元気そうで何より……だが……」
ミネルヴァが手を広げてもエミーリアはくっついたままだ。
「へへへ……胸甲があったのは残念だけど、その上からでも豊穣が感じられる……これが神の抱擁……」
「……えっと、あの、離してくれる?」
「もう少しだけ……あ、あたし、エミーリアです。一応聖女です」
「あ、ああ。私はミ――」
自分の名前を口にしそうになったミネルヴァの口をグラウが塞ぎ、首をブンブン振った。
使い魔と仕える神の間だけで使えるテレパスで、“絶対に神ってバレない方がいいって!”という叫びを聞いたミネルヴァは偽名を使う事にした。
「み、ミーネだ!」
「ミーネ様! なるほど、ミネルヴァ様の略称はミーネなのね……ああ……また貴い知識が増えた……」
「あ、いや略称でなくて」
「これでもあたし、聖女でして! 貴女様が戦と都市守護の女神ミネルヴァ様なのはすぐに分かりました! だって魂が輝いている! それにミミズクも! ミネルヴァ様の使い魔はミミズクって相場は決まっているもの!」
緑色の目をキラキラとさせて見上げるエミーリアからミネルヴァは微かな神力を感じたのだった。
「あちゃあ……ミネルヴァ、この子よりにもよって神眼持ちだよ。流石に隠し通すのは無理かも」
「ミミズクが喋ったっ!! やっぱりミネルヴァ様なんですね! あ、いえ! 分かりますよ! 神という立場を忍んでこの愚かしい下界を視察に来られたのですよね? それともまさか……終末のラッパを!?」
「あー、まあ、休暇? みたいなものだ。ゆっくり旅でもしようかと思って……」
永遠に続く休暇なんだがな……とミネルヴァは心の中でため息をついた。
しかしこの一言がいけなかった。
「た、旅ですか!! これはまさに運命ですね! 運命の神アラス様もにっこりでしょう!」
「いや、アラスはあんまり笑わない奴で……」
「多分そういう意味じゃないよミネルヴァ……」
「あたしも! 旅の! 真っ最中! でして! まあ騎士団に追われての逃亡の旅ですけど……世界に神々の信仰を取り戻す救世の旅でもあるんです」
「素晴らしい目的だ。だが……」
それも無駄に終わる……とは言えないミネルヴァだった。信仰したところで、色欲に溺れた神々にその祈りがもう届かない事を彼女は知っていた。今の天界で、信仰を受けてそれ相応に下界の為に真面目に働く神は彼女含め極々少数だからだ。そして自分はもはや下界に堕ちてしまった。
「私への信仰はもはや意味を為さない……だからそんな危ない旅は止めるんだ。少女が一人旅なんていくら平和な下界とはいえ危険過ぎる」
エミーリアを諭すミネルヴァだったが、エミーリアはその言葉を聞くとようやく自分からミネルヴァの胸元から離れた。
そして、廃協会の祭壇――ミネルヴァの像がある場所まで行くと、くるりとターンをした。
ふわりと広がるワンピースの裾。そしてエミーリアは満面の笑みを浮かべ、こう言ったのだった。
「意味はあった!! だってミネルヴァ様はあたしを救ってくださったもの!」
崩れた天井。
雲間から差す光。
光の中で手を広げるエミーリア。
それはまるで神話の一場面のようだ――不覚にもミネルヴァは、そう思ってしまったのだった。
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