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10:イルナの誤算(二回目)

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「グレリオ、この料理の魚はどうやって運んできたの? 凄く新鮮に感じるけど、海は遠いよね?」

 ジークが、イルナを口説こうとするグレリオを先制するように、そう質問した。

「おや、流石はジーク王子、お目が高い。これはね、氷魔術を使った新しい輸送方法で持ってこさせた魚でね。まるでついさっき揚がったみたいだろ?」
「うん、凄い」
「こういう新しいこと俺は色々とやっているのさ。だけど、新しいことってのは常に失敗とそして金が付き纏う。だから国の支援が重要なんだ」
「なるほど……確かに食が豊かになるのは良いことだもんね」
「その通り! 食の豊かさは国の豊かさに繋がるのさ! そこに気付ける為政者は案外少ない」
「イルナが教えてくれたんだ。良い物を食べろって。こっそり色々美味しい物を食べさせてくれるんだ。だからグレリオの言っていることも分かる。僕らのような上級階級の者だけじゃなくて全国民が美味しい食事を当たり前に取れる国が良いと思う」
「ほう……」

 グレリオが感心したようにジークを見つめた。

 それを聞いて、イルナが椅子から滑り落ちそうになるのを耐えながら、ワインを飲み干した。既にこれで三杯目だ。

 確かにジークにそう教えたのは事実だが、イルナとしてはそれで王子が食欲に目覚めて、豚のように太り、贅沢癖をつけさせようと思ってのことだった。国民には重い税金をかけ、自分達だけ贅沢するという最悪な王に仕立て上げる予定だったのだが……

 結果としてジークは舌が肥えるも、食の大事さを知り、そしてそれを民と共有するというまるで賢王のような考えに目覚めてしまった。

「素晴らしい。その歳でそこまでの考えがあるとは。いやはや、ジーク王子の素質もあるが、イルナさんが優秀すぎるな」
「イルナ先生が全部教えてくれたんだよ」
「なるほど……面白い。実に面白い」
「別に面白くないわよ~」

 酔いが回ってきたイルナは、少し呂律の回っていない口調になりつつあり、もはやヤケクソであった。

「いやあ、ジーク王子。貴方が只者ではないのは命を救われた俺が一番良く分かっているが、ますます気に入った。よし、今日はとことん話そう」
「はい! 実は色々聞きたいことがあって――」

 なんて話が盛り上がっているうちに、イルナは五杯目のワインを飲み干すと同時に――酔い潰れてしまったのだった。
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