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8:グレリオ・セベールという男

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 セベール家の屋敷は城下町の中でも一等地である貴族街にあった。

 立派な屋敷であり、馬車が巨大な門を抜けて、玄関前に止まると、イルナ達が降りてくる。

 彼女達を待っていたのは、褐色の青年――グレリオだった。

「ジーク王子ようこそいらっしゃいました。それに……おお、なんと美しい。まるで星空のような美しさだ……良いドレスをお持ちで。それ、スターシルク製じゃないですか?」
「イルナです。今日はお招きいただきありがとうございます、グレリオ様。ドレスについてはまた後ほど」

 イルナがニコリと笑って、軽く会釈する。

「いやあ、失礼失礼。商売柄、良い物にはつい目が行ってします。しかも着ているのが美女となると特にね。さあさあ、ジーク王子もイルナさんもどうぞ入ってください。昼食はまだですよね? 今日は南のランス産の海産物を用意していましてね。当家自慢の料理人が腕を振るってくれますよ」

 グレリオが軽快に話しながら、屋敷の中を案内していく。

「……凄い」

 屋敷の中は、豪華ながらも品の良い調度品を設えており、成り上がり商人にありがちな豪奢さを前面に押し出したような嫌みさは一切ない。

 ジークは、歴代の王の方針で飾りは最小限にしている質素な城の中しか知らないだけに、ここはまるで博覧会のような場所だった。

 本来、教育係であればここでジークに、〝あまりキョロキョロしていると下に見られるので堂々と歩きなさい〟などと耳打ちすべきなのだろうが、当然イルナはそんなことを言わない。

 むしろ、〝もっと子供らしくもっとはしゃげ、どうせならなんか一つや二つ壊せ!〟と邪悪な願望を抱いていた。

 だが先を行くグレリオが、そんなジークの様子を見て、嬉しそうにしていることにイルナは気付かない。

「さあさあ、どうぞどうぞ。良いワインを用意してありますよ。北部の山間で造らせているワインなんですがね、甘くて美味しいですよ。ジーク王子も少しは飲まれます? もちろん、王には内緒で……」

 応接間のテーブルへと案内され、座ったジークとイルナに、グレリオが悪戯っぽい笑みを浮かべながらワインを勧めた。

「いえ、まだ成人していませんので」
「あら、残念。イルナさんは?」
「職務中ですので、少しだけ」

 イルナが心中では、ジークも飲めば良いのに! と叫ぶも、グレリオの前で教育係である自分が酒を飲ませるわけにもいかなかった。

 透明なワインがイルナとグレリオのグラスに注がれ、昼食会が始まった。

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