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7:馬車の中
しおりを挟む「え? 今日も剣の訓練はないの? 最近ずっとそうだけど……王ならやっぱり剣ぐらいは……」
「必要ありません! 時代遅れにも程があります! 王が先頭に立って戦うなんてリスクが多過ぎますから。ジーク様は後ろでドーンと構えていれば良いのです」
「うーん……そうかなあ……」
最近、賢くなってきたジークは時々こうしてイルナの発現を疑うようになった。
実際は疑っているのではなく、その言葉の真意を探っているだけなのだが、イルナには疑っているように感じられた。
「そうです! これからの時代の王に必要なのは剣でありません!」
「剣ではない……」
「ですので、訓練は今後もありません。さ、ほら、今日はセベール家に訪問する日ですよ」
「うん。楽しみだなあ……色々聞きたいことがあるんだ」
ジークがワクワクしている姿を見て、とりあえず剣の訓練については誤魔化せたとイルナは一安心した。
そして今日行う、とある計画について再度頭の中で確認していた。
まず、セベール家訪問。ここは下手な動きは出来ない。なので動くならその後、戻ってくる時だ。
王城に戻る前に、ジークと夜の城下町を探索することをまずは提案する。そしてわざと裏路地ではぐれるようにする。独りになったジークを、貧民層の少年ギャングに襲わせる。
そうすればジークは己の弱さに気付くし、そして得た自信を無くしてしまうだろう。あとは適当なところで助けて、襲われたことは口止めすればいい。
「我ながら完璧……」
「そうかなあ……止めた方が良い気がするけど」
ザザの言葉を無視して、イルナはジークと共に馬車に乗った。
ガタガタと揺れる馬車の中で、ジークが頬をほんのりと赤らめていた。その視線は、時折イルナの方へと向いているが、すぐに逸らされた。
「ん? どうしました?」
「あ、いや……その……イルナ先生の……ドレス姿。初めて見たから……その……素敵だなって」
俯きながら、恥ずかしそうにそう言うジークを見て、イルナがそういえばそうだったなあと納得した。今日は、セベール家に招待されているので、一応ドレスアップしていた。
黒のドレスに細かい銀の装飾が施されており、いつもと違い、化粧もしていれば胸元も露出しているので、より一層色気が増していた。
「ふふふ……ジーク様ありがとうございます。でもそういう褒め言葉は、フィアンセに取っておいてください」
「ふぃ、フィアンセ!?」
「ええ。ああ、そういえばそろそろ婚約者となる人を決める、聖女選定の時期でしたね。ふふふ、ジーク様はどういう女性が好みですか?」
到着までの間に根掘り葉掘り聞いてやろうと思ったイルナだったが、ジークはその質問に答えず俯いたままだった。
「……ねえイルナ先生。聖女選定で選ばれた子が……僕の婚約者になるんだよね」
「そういうしきたりですからね。ジーク様の母上でもある王妃もそうして選ばれました」
「それって……拒否できないのかな」
「へ? 拒否?」
「だって……僕は……イルナ先生の……その……あの……ことが……」
それは駄目だ。イルナはジークの言葉を最後まで聞かず、焦っていた。
聖女選定――それはこの〝愚王育成計画〟において、とても重要な要素だった。選ばれるのは、ジークの婚約者であり後々の王妃となる存在だ。当然、愚王に相応しい愚鈍で扱いやすい女になるように仕向けるつもりでいたが、そもそもの聖女選定を本人に拒否されてしまうと、現在進行形で行っているとアレコレが台無しになってしまう。
だから、イルナは思っている以上に強い口調でこう言い切ってしまった。
「駄目です。それはありえません。聖女選定で選ばれた聖女を婚約者にする。これは絶対です」
「……分かった。なんでもない」
「で、あれば良いのです」
ニコリと笑ったイルナだったが、その後、セベール家に着くまで、しばし気まずい空気が流れたのだった。
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