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2:イルナの計画
しおりを挟む深夜。星も月も出ていない夜の王城の屋根の上で、黒い影が蠢いていた。
「あはは!! 最高の滑り出しだわ! そうでしょザザ!」
「相変わらず趣味が悪いなあ……イルナ様は」
その影はイルナだった。男装ではなく黒いローブを纏っており、頭には大きな三角帽子が乗っていた。
肩にはスズメ――イルナの使い魔であるザザ――がとまっており、呆れた声を出していた。本来は鴉の姿なのだが、鴉を連れ歩くとあまりに魔女的だとイルナに言われ、渋々スズメに姿を変えている。
「王子を愚王に仕立て上げて国を亡ぼそうなんて……流石は千年も嫌がらせに徹してきた女、格が違う」
「何よ、その言い方。普通に潰すのはもう飽きたもの……ふふふ、無事に経歴も詐称できたし、ジークにも懐かれたし、〝愚王育成計画〟も一歩前進だわ!」
「気の長い話だなあ……」
ザザが器用に翼をすくめた。それは何とも人間臭い挙動だった。
「悠久の時を生きる魔女には、たった十数年なんて一瞬よ、一瞬。うふふ……楽しみだなあ。ジークが圧政を敷いて民を虐げる姿が目に浮かぶわ~」
恍惚の表情を浮かべるイルナだったが、ザザは、一抹の不安を覚えていた。
「そう上手くいくかなあ……」
「行くわよ。まずは教育は最低限にして、サボり癖をつけて遊びを覚えさせる。次に金をやって金銭感覚を失わせる。最後に女を与えて堕落させて終わり」
「そうなんだけどね……まあいいや。僕はこれが上手くいこうがいこまいがどっちでもいいし」
「ちょっと、あんたも協力するんだから、もうちょっと気合いを入れなさいな」
「はいはい」
「ふふふ……明日はどんな悪い遊びを教えようかしら!!」
「いつもみたいに、見当違いの方向に行かないといいけどね~」
そのザザの予感は――的中するのだった。
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