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2話:カフェを作りました
しおりを挟む~1週間後~
「暇ねえ……ちょっとベルフェ、ちゃんと看板出してる?」
「出してるってば。疑うなら自分で確認しなよ~。新しいお店なんだからそう簡単に客は来ないって」
午後2時。お店のカウンターの内側から突っ伏して暇を持て余していた私は、従者であるベルフェと今日何度目か分からない会話をしていた。
あまりに暇なので、お店の内装をチェックする。カウンターの向こうには、丸テーブルと椅子。天井からは私のお気に入りであるアネモネの柄の入ったシェードの魔光石ランプがぶら下がっている。
壁紙は乳白色で、壁際にある棚には本がびっしりと詰まっていた。その上の瓶に、隣の花屋さんで今朝買った花が生けてあった。
カウンターの中には、紅茶やコーヒーなど一通りの飲み物が提供できるように用意している。
私の正面には、色ガラスで作ったステンドグラスが嵌まった扉の横には大きな窓があり、このお店、【アネモネ亭】がある裏通りが良く見えた。
人通りはまばらで、お客さんは来そうにない。カウンターのお客さん側の端っこにベルフェが座っていて、何をするでもなくいつも通りだらけていた。
「わざわざ帝都に降りてきて、暇するなんて贅沢な怠惰だよねえ。んー流石はビーチェ、分かってるぅ」
ベルフェは帝都にいる時に限り、私の事をベアトリスではなく、その愛称であるビーチェと呼んでくれる。まあベアトリスなんて名前は溢れているので、それで正体はバレないと思うけど……。
「私はあんたとは違うの! もう、困ってる人が来ないんだったら私から探しに行こうかしら」
カウンター横のキッチンのガラス棚を見ると、反射して私の姿を映し出していた。
長い黒髪に銀縁の眼鏡を掛け、黄土色のワンピースを着ている化粧っ気のない若い女性――そんな姿だ。ワンピースにはワンポイントでアネモネの柄が付いており、私は勝手にお店で着る制服だと思っている。
ベルフェの変装魔術は、顔と身体付きだけは変えられないそうなので、眼鏡をかけて、なるべく目立たない格好をしているのだ。
「行くのは良いけど、その間は店閉めるからね~。いってらっしゃーい」
私が店を出る支度をしていると、ベルフェからそんなやる気のない声が投げられた。ほんとにこの子、どこでもだらけている。
流石は、帝国一怠惰な従者と呼ばれるだけはある。
「ベルフェも一緒に行くの! 従者でしょ!」
「ええ……めんどくさー」
「ほら、さっさと動く!」
カウンターから中々離れないベルフェを剥がすように無理矢理立たせると、そのまま引っ張って一緒に外へと出ようとした。扉を開け外へ出ようとした時、何か柔らかい感触が足下にあった。
「……?」
足を上げると、そこには一人の青年が倒れていた。どうやらその青年を私は踏んづけてしまったようだ。
「うわああ!! ごめんなさい! まさかお客さんがドアの外で寝てるだなんて!」
私は思わず悲鳴を上げ、青年が生きているかどうか確認しようとしゃがみ込んだ。
「……どう考えてもお客さんじゃないと思うけどなあ」
ベルフェはそうぽつりと呟いたのだった。
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