オーク無双2 〜あのオーク無双がパワーアップして帰ってきた!今度の女騎士は群れでやってくる

虎戸リア

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1日目

1話「オーク無双2」

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『あーつまんね』

 そうSNSのプイッターで呟いて俺はベッドに寝転がった。
 やりたくない事は山ほどあるのに、したい事は見つからない。

 ごちゃついたこの自室がまさにその象徴だろう。積み上がった漫画と小説。投げっぱなしのゲームと恥じらいもなく開いたまま床に落ちているエロ本。この部屋に存在する物で最も高価であるVRゲーム機は充電スタンドに置いてあり、充電済みの緑の光を点滅させている。

 カーテンの隙間から光が差しており、辛うじてそれで俺は今が昼だと認識できた。

 ピロンという通知音が鳴り、俺は手首に付いているスマートデバイスからプイッターを起動した。
 目の前に半透明のウィンドウが広がる。

『オーク無双2やろうぜ!』

 俺のプイートにそうリプライを付けたのは、俺のネット上の悪友であるチチパイだった。勿論ハンドルネームだと思うがその頭の悪そうな名前の通り、俺と同類だ。

『なんだそれツマンネ』

 どんな内容か知らないがとりあえず否定から入るのは俺の悪い癖だ。

『知らねーの!? あのレジェンド級のエロゲーであるオーク無双を!?』

 なんだエロゲーか。VRゲーム機が出た際に、最も期待されたジャンルだったがとある理由によって廃れていった。

『エロはいいよ。準備も手続きもめんどい』
『心配すんな、これはR15だからエロゲーじゃねえ。実際にオークになりきって女騎士の群れをばったばったとなぎ倒していくフェミニスト憤死物のゲームだぜ!』

 なにそれ面白そう。

『は? クソゲー臭しかしねえじゃん』
『は? これでクソゲーじゃなかったら逆に凄いだろ。前の会社は倒産して開発会社も変わったんだぜ。あのササ・ゲームクリエイトにな!』
『ササクリに? クソゲー確定だな』 

 俺の手は流れるようにオンラインでゲームを購入、ダウンロードをしていた。
 見ると、確かにR15指定だけだ。

『ダウソしてる』
『おk。中で待ち合わせな』

 俺は、トイレに行って用を済ませると、冷蔵庫からペットボトルを取り出して水分補給。部屋着のままVRゲーム機を被ってベッドに寝転がった。

 VRゲーム機が起動するあの甲高い独特の音が鳴り、目の前に光が溢れた。

 自動的にダウンロードされたゲームが起動される。

 野太い男のタイトルコールと共にオーク無双2のロゴが表示された。
 俺はニューゲームの項目を選ぶと、アバター作成画面へと移動。

『さあ、好きなオークを選ぶのだ!』

 野太い声でそう言われると、目の前に30種類近くのオークの姿が表示された。
 今時珍しいキャラクター選択制のようだ。どうやらプリセットの姿を弄る事は出来ないっぽいな。

 とりあえずそれぞれを見てみる。

『オーク1』
 少しだけ走るのが速い。

『オーク2』
 ちょっとだけ鼻が利く。

『オーク3』
 人参が食べられる。

 目線を向けカーソルをそれぞれに合わせるとこんな感じに表示される。ちなみにグラフィックはというと、全員ほぼ同じである。
 緑色の皮膚。筋肉ムキムキのボディに獣の皮で出来た腰蓑を着ているだけの姿。ブタ鼻に口からは逆向きの牙が出ており、手には棍棒を持っている。

 オリジナリティの欠片もない見事なテンプレオークだ。
 微妙に、腕毛が濃かったり、目や鼻の大きさ、牙の大きさが違うぐらいだろうか。

「いや、それよりもその一言コメントいる?」

 人参が食べられるってなんだよ。

 念の為、30種類全部みていくと……

『オーク27』
 アレがでかい。

 アレって何!? 他の奴と見た目は変わらないぞ!?

 ……なるほど……アレね……なるほど。

 ……クソだな。誰が選ぶんだこんなの?

 あーチチパイはこういうの好きだから選びそうだな。アイツ馬鹿だし。

 俺は違う。エロには少しこだわりがあるし、下品なのは好かない。

 しかし、もはやどれでも良い気がする。どれでもいいなら、カーソルを合わせたこいつでもいいのでは?
 良く見れば少しだけ顔が凜々しい気がするし……。

 ん、よし決定。

 一応俺の尊厳の為に言っておくが、アレがでかいからこいつに決めたわけでは決してない。

 断じてない。


☆☆☆


 ゲームが始まると、俺は、えらく原始的な村のど真ん中に突っ立っていた。
 周りには俺と同じようなオーク達がたくさんいた。

「よお、やすみん。お前も短小で悩む同士だったか。親近感沸くぜ」

 俺が必ず使うハンドルネーム『やすみん』の名前を呼びながら近付いてきたのは、『オーク27』の姿をしたプレイヤーだった。
 ネームの欄にチチパイと表示されている。

「は? ちげーよ! お前と一緒にするな。俺はたまたまカーソル合わせたのがこいつだっただけで……」
「はいはい。あー見た目については今は一緒だが、後からカスタマイズ出来るらしいぜ」
「まあオークの見た目の時点で、このゲームでの外見への興味は既にない」

 周りをよく見れば確かに他のオークは角が生えていたり、タトゥーを入れていたりと見た目のバリエーションが豊かだ。

 中には虹色に光ってるやつもいた。ゲーミングオークかよ。

「んで、どうすんだ? 何するゲームだよこれ」
「とりあえず人間の村を襲わないとダメみたいだぜ。さっき村長が言ってた」

 ゲームシステムをチチパイから説明してもらい、理解した。
 ざっくり言うと、こうだ。

 ・基本的にステータスはなく、動きもプレイヤー依存。AIアシストなんて上等な物はない。
 ・スキルなども一切無し。
 ・キャラの強化方法は装備のみ。装備を作るには素材が必要で、素材はフィールドの魔物を倒す、もしくは人間を襲う事で手に入る。
 ・人を襲う、もしくは村や町を襲撃すると、ヘイト値が溜まる。ヘイト値が一定値以上になると女騎士が出現するようになる。女騎士を倒すと、KKポイントが溜まり、これが溜まるとランクが上がる。ランクが上がると、新要素や行けるフィールドマップが増える。

「あーつまり、人間殺しまくって、女騎士を出現させる。これを倒して新マップを解放させて……の繰り返しか。KKポイントってなんだよ」
「お前は頭わりぃなあ。そんなもん……くっころポイントに決まってるだろぉ? 女騎士がまあボス戦みたいなもんだ。あー早く女騎士と戦いてー。俺のビッグオークマグナムをブッパしたいぜええ」
「その水鉄砲はしまっとけ」

 俺らはそんな会話をしながら、一通り村を見終わった。

 ずっと壁に向かって歩き続けるNPCや、話すたびに顔がバグる商人オークなど、このゲーム中々最初から飛ばしている。

 とりあえず俺達は初期装備のままフィールドに出た。

「おお、結構本格的だな!」

 でっかい骨で出来た門をくぐると、目の前には草原が広がっていた。左には鬱蒼とした森。右には川が流れており、その向こうには山が見える。門からは、ちょっとした道がまっすぐに伸びている。

 遙か先を注意して見れば、煙が上がっていた。

「ミニマップすらないから、とりあえず歩いて覚えようぜ」
「よしきた」

 俺達は走りながらとりあえず、道なりに進んであの煙の場所へと向かった。

「お、雑魚敵はっけーん」

 チチパイが指差す方を見ると、道からスライムらしき魔物が湧いてきた。

 意志を持って動く半透明の粘液といった感じの見た目で、中には丸いコアが見えた。あーどうせあれが弱点だろ?

 名前も『スライムlv1』だ。まさに雑魚中の雑魚だろう。

「オークあたっくうううう」

 そんな技はないが、そう叫びながらチチパイが嬉しそうに棍棒をスライムへと振り下ろした。

「あれ?」

 チチパイの棍棒がスライムの身体に沈む。

「あ、抜けねえ」

 棍棒を絡め取られたチチパイが棍棒を抜こうと力を入れるが、逆にスライムが身体を変化させ、棍棒を取り込みはじめた。

「うわ、きも!」

 棍棒の柄まで飲み込んだスライムを怖がってチチパイが棍棒から手を離した——その瞬間。

「は?」

 パンッ! という何かが爆ぜる音が聞こえ、チチパイの頭部が消えていた。身体がゆっくりと地面へと倒れる。

 スライムを見ると、飲み込んでいたはずの棍棒は既にない。

 俺はゆっくりとスライムとチチパイの死体へと視点を移動させ、後ろを振り返るとチチパイの棍棒が遠くの地面の上に転がっているのが見えた。

「えっと……うん……なにそれ」

 スライムがゆっくりと触手を伸ばしていく。

 嫌な予感しかない。俺は逃げようか攻撃しようか迷っているうちに1m以上伸びたスライムの触手が、突然ブレた。
 ヒュンと風を切る音と共に俺が最後に見た光景は……首を刎ねられた哀れなオークの姿だった。

 デデーンという腹が立つ効果音と共に視界が赤く染まり、デカデカと『死』という文字が表示された。

 その下にはこう書いてあった。

『死因:スライムにより斬死』
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