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18話:アスカロンの少女
しおりを挟む「徒手空拳で何が出来る?」
【回帰に至る剣】をキャッチしたユーリと僕を見て、ジークフリートが笑った。
「いやさ、本当に悩んだんだよね。竜殺しの剣って逸話はあるんだけど、名前のない剣も多いしさ。あっても条件が整わない奴ばっかりで。ところが一つあるのよ、とっておきの竜殺しの剣が。ただ参ったことに、あんたは不完全な竜だからそのまま再現するには条件が足りないんだ」
「結局、自暴自棄になるのが答えなのか? くだらん。失望したぞ」
ジークフリートが剣を持って疾走を開始する。ユーリが僕の横へと立ち、【回帰に至る剣】を構えた。
「本当にいけるんですか!? 固有武装は本人にしか使えないんですよ!!」
そう。本来なら固有武装は本人にしか使えず、僕がユーリにそれを渡したところで何も起きない。
だからこそ――使えるのだ。
「アヤト! ユーリ!」
ナナの言葉と同時に、ジークフリートが踏み込みバルムンクをこちらへと薙ぎ払っていた。
「ユーリ! 僕に続いて詠唱してくれ。名前は、知っているだろ?」
「はい!」
僕はユーリの【回帰に至る剣】を持つ手に右手を重ね、柄を掲げながら詠唱した。
「“再現せよ――」
「「――【竜を聖伐せし剣】”」」
僕とユーリの声が重なり、エーテル光のまばゆい青い光が【回帰に至る剣】の柄から放たれた。
僕は手を離し、ユーリがそれをジークフリートへと振り下ろした。
「馬鹿な……」
それは――巨大な片刃剣だった。緩く湾曲しており、いわゆるファルシオンと呼ばれるタイプの剣だ。
そしてアスカロンによる一撃はいともたやすくジークフリートの剣を弾き、その腕を切断した。
「ありえん……なぜ貴様は他者のエーテル武器を使えるのだ」
ジークフリートが目を見開いて、アスカロンを構えているユーリを見つめた。
「それは、彼女が、ユーリ・ギオルグだからさ」
「どういう事だ?」
「僕の【回帰に至る剣】は再現する為には色々な条件を整えなくてはいけなくてね。アスカロンは、聖ゲオルギウスの伝説に出てくる竜殺しの剣なんだけど……その竜の詳細は後世に伝わっておらず姿も名前も不明。なので、あんたがただの竜であればおそらく僕でも再現出来た」
だけど、ジークフリートは英雄混じりの竜なので人型なのだ。おそらくそれでは再現する条件は整わない。
「だから――違う条件を整えた。聖剣アスカロンの持ち主の名はゲオルギウス。ユーリという名前も、ギオルグという名前も、どちらもゲオルギウスの派生なんだ」
「……そうか……固有武装は本人にしか使えないという特性を逆手に取ったのか」
「そう。ユーリは、ゲオルギウスだから、当然アスカロンを扱える。僕じゃあダメなんだ」
「なるほど……本人が使えば当然、威力も上がる……か」
ユーリは再びアスカロンを掲げた。
「というわけで私も良く分かりませんが、貴方を倒させていただきます!」
「最後まで……我は足掻くぞ!」
身体ごとぶつかってこようとするジークフリートへとナナが剣を一閃。
「やられてばかりは性に合わない!」
それによりジークフリートの足が切断され、ジークフリートが無様に地面へと落ちた。
「さようなら、古の英雄」
ユーリがジークフリートへとアスカロンを振った。
「――良き闘争であった。さらばだ英雄達よ」
アスカロンからエーテル光が溢れ、それに飲まれながらジークフリートが笑った気がした。
こうして僕達はファーヴニルとジークフリートが融合した伝承体を見事討伐できたのであった。
☆☆☆
その後、無事救出されたアツシや、意識を取り戻したショウジとの再会を果たした。
彼らとナナは、今回の事件でメンバーが半分にまで減ってしまった【アルビオン】へ復帰して欲しいと求めてきたが、僕は迷った末に断った。
更に、執行騎士にならないかと強く誘われたが、僕はそれも断った。僕はやはりどこまでもルインダイバーなのだ。
僕には目的が出来た。
伝承体とは何なのか。異海とは何なのか。
あの女神は一体何者なのか。
それを調査し、答えを得るまで、僕はチームを組まない事にした。
またいつ、あのジークフリートのような存在に襲われるか分からないしね。
だから今日も僕はグリンと共にウメダダンジョンに挑むのだ。
「で、ユーリ。なんで君が付いてくるんだい」
「貴方の固有武装とグリンは危険な存在だと我々は認識しています。そこで、私は監視員として貴方と行動を共にせよという命令を受けました」
「なるほど、調査を手伝ってくれると」
「そうは言っていません!」
こうして僕はユーリと共に異海の中へと再び潜っていったのだった。
異海の紡ぐ物語の続きを求めて。
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