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12話:鍛冶屋レギン
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「ドワーフ? なんだグリンの知り合いか?」
グリンにそう聞いてみるが、ドワーフとはまた変わった響きの名前だ。外国人っぽいけど……。
「いえ、アヤトさん……違います……ドワーフは――種族名です」
「は? 種族名?」
なんて暢気に僕らが、会話しているとそのドワーフのおっさんが口を開いた。
「人の家の前でグダグダ喋ってんじゃねえよ……なんだ、あいつらの仲間じゃねえのか?」
そのぶっきらぼうな口調と共にそのドワーフのおっさんが小屋の奥を親指で差した。
「あいつら……?」
覗き込むと小屋の奥の部屋にダイバースーツを着た人間が数人、床に寝かされていた。何やら怪我しているのか、ダイバースーツに血がこびり付いている。
何より、一番手前で苦しそうにしている男に――僕は見覚えがあった。
「っ! アツシか!?」
金屋《カネヤ》アツシ。僕が元いたAランクダイバーチーム【アルビオン】のメンバーだ。20代半ばで、ドレッドヘアーに筋肉質な身体。一見怖そうな印象を受けるが、誰よりもチームメンバーの事を気に掛けているのを僕は知っている。そんなアツシが、なぜこんなところに?
僕はお邪魔します! っという言葉を置き去りに小屋の中に駆け入って、アツシの元に向かった。
背後で、
「やっぱり仲間じゃねえか……」
ってドワーフのおっさんの言葉が聞こえたが、無視する。
「アツシ! どうしたんだよお前! なんでこんなとこに!! ナナは!? ショウジはどうした!?」
見れば、他の寝かされている者も【アルビオン】のメンバーばかりだ。
「ううう……アヤトの声が聞こえる……これが死に際の幻聴か……」
「しっかりしろ!」
僕はしゃがみ込んでアツシの頬を軽く叩く。すると、血に汚れた顔のアツシがゆっくりと目を開いた。
「……? っ! アヤトか!? なんでここに! って痛つつ……」
僕の顔を見てガバッと起きあがったアツシだったが、傷を負っているのか胸を強く押さえた。
「無理すんじゃねえよ若造。死にかけだったんだぞお前」
僕の後ろに立っていたドワーフのおっさんの不機嫌な声。振り返ればユーリとグリンが、入口の近くでどうしたらいいか分からず視線をキョロキョロさせていた。
「えっとドワーフ……さん? これは一体何があったんだ?」
僕がそう聞くとドワーフのおっさんは小さな椅子にどかりと座り、パイプを取り出して煙草を吸い始めた。
「ドワーフドワーフ呼ぶんじゃねえよ、人間の若造。俺の名はレギン、鍛冶屋だ。そいつらは、ステュクスの川辺に流れ着いていたから拾って怪我の治療をしてやったんだ。仕事の邪魔だからさっさと連れて帰ってくれ」
どうやら、レギンはアツシ達を助けてくれたようだ。無愛想なおっさんだが、悪い人ではなさそうだ。
いや、ぶっちゃけ色々と気になる事がありすぎるが、それよりも【アルビオン】だ。
Aランクのアツシ――しかもどちらかといえば前線ではなく斥候や遠距離から援護を得意とするアツシがこれほどの重傷を負う事自体が異常だ。
「アツシ、何があった?」
僕はアツシの背中を支えながら、何が起きたかのを聞く。
「……深層を目指してダイブしてたんだ。勿論、アヤトが口酸っぱく言ってた通り、準備は入念に、装備と体調は万全に……。表層……中層の途中までは良かったんだ」
アツシがぽつりぽつりと語っていく。
「ちょうど、【宝物庫】近くだったと思う。地震の影響で見た事のない通路が出来ていて、川が流れていたんだ。そしたらそこから――グレンデルの大群を従えた男が……」
「グレンデル! アヤトの時と一緒だ!」
グリンの言葉に僕は頷いた。
地震で出来た未知の場所、水、そしてグレンデル。気持ち悪いぐらいに僕の時と類似している。
僕は、そこでエンプーサに遭遇した。おそらくその男がエンプーサの立ち位置にいる存在だろう。
「どんなやつだ?」
「……デカい剣を持った男で……機械みてーな尻尾と翼が生えてたぜ……とにかく、やたらめった強くてよ……あのナナが純粋な剣術で負けていたんだ……ありえねえだろ? しかもグレンデルの大群を指揮してやがって、俺らはあっけなく壊滅した。腕を負傷したナナとショウジは新人を引き連れて撤退したが、斥候として前に出過ぎてた俺らは追い詰められちまった。だから一か八で川に飛び込んだんだ。そっからは記憶がねえが……気付いたらここにいて、そこのおっさんに助けられていた」
「どれぐらいだ。それからどれぐらい時間が経った!」
僕の問いに、レギンがアツシの代わりに答えた。
「……俺がそいつらを拾ったのは昨日だ。どれぐらいあの川にいたかは知らねえが、【上界】から下ってくる分にはさほど時間は掛からねえし、傷を見た限りさほど時間が経っていたとは思えねえ」
「だとすれば……まだナナ達は中層にいる可能性がある」
身軽な僕やユーリと違い、負傷してかつ新人を連れて地上まで戻るのはかなり難しい。ショウジならきっと、ある程度動けるようになるまでどこか安全な場所に留まる事を選択するだろう。ナナの負傷具合も気になる。腕を負傷してしまったのなら固有武装も満足に振れていない可能性がある。
「くそ……! やはりこっちにも影響があったか」
僕は密かに推測していた事が的中した事に嫌気が差した。【太陽の塔】ですら影響があったのだ、ウメダダンジョンに影響が無いわけない。
しかしよりによってナナ達がそれに出くわすとは。
「アヤトさん。おそらくですが、そいつはエンプーサの仲間でしょう。何者かは不明ですが……」
「……グレンデルを従える大剣を持った男だ? それに翼と尻尾があるなら……そいつは……【抱擁する者】だ」
レギンがそう言って、煙を吐いた。その顔には苦い表情を浮かべている。
「カドラー……何者ですか? 初めて聞く名前です」
ユーリの質問にレギンは力無く首を振った。
「……宝の守護者……黄金を抱える者……色々と名はあるが……真名は……失われている」
「グリン、聞き覚えは?」
そいつが何者か分からないが、知識があれば対処が出来る。無ければ……非常に厄介な事になる。
僕にとって……知識は武器なのだ。
「ごめん、分かんない。姿を見ればまた分かるかもしれないけど……」
「そうか。まあ仕方ない。よし、じゃあ行くか」
僕は既に、ナナ達を救出しに行く気でいた。明らかに異常事態だ。いずれにせよ上に戻らないと行けないしね。
「アヤト……お前まさか」
「ナナ達は高確率でまだ中層に留まっている。多分だが、まだどこかで戦っているはずだ。あいつらは――しつこく追ってくる。身をもって体験しからね」
「……なんか、表情変わったなアヤト」
「そうか? まあ色々とな」
僕は苦笑いを浮かべながらアツシをゆっくりと床に横たえて、立ち上がった。
とりあえずここにいればアツシ達は安全だろう
「レギンさん。こいつらの面倒、任せてもいいか? まずは安全に地上に戻る経路を確保しないと運ぶのは無理だ」
「……ちっ。条件がある」
「飲んだ」
「即答か小僧」
「アヤトだよ。僕の名前」
「じゃあ、アヤト。――カドラーを殺してくれ。あいつは……生きてちゃいけない奴なんだ」
レギンの声には複雑な感情が含まれている事に僕は気付いた。何かしら事情があるのだろう。ま、深くは聞くまい。いや、本当は色々聞きたいけど、今は時間が惜しい。
「分かった。どうせ、倒す事になるさ。倒せれば……だけど」
「ならいい。こいつらの傷が治るまでは面倒みてやる」
アツシが、悔しそうな顔で僕を見つめた。気持ちは分かる。チームの危機に何も出来ない自分の無力さは――僕が一番良く知っている。
「アヤト……俺……」
「お前はさっさと傷を治せアツシ。絶対に迎えに来る」
「ああ……すまねえ。ナナ達を……助けてやってくれ……」
「任せろ」
さてと……問題は……。
「……勝手に話を進めていますけど……私は地上に戻る事を優先するつもりですが」
そうユーリさんが言いやがりました。今の僕とアツシの感動的なやり取り見て、よくそんな事言えるよね!
いや、うん。至極全うな意見です。
「あー。これは僕の都合だからね。仕方ない! ここで分かれよう! 短い間だったけど楽しかった! じゃ僕はこれで――うげっ!」
さっさと扉から出ようとする僕の後頭部に硬い何かが突きつけられている。黒くてゴツい何かの銃口に違いない。
僕は素早くホールドアップ。つい、場を茶化そうとするのは僕の悪い癖だ。
「何、しれっと逃げようとしているんですか貴方は……。管理局に連行するまで、私は貴方の傍から離れるつもりはありません」
「おお……覚えていたのね」
「当たり前です。それと……グレンデルの大群に、そのカドラーという男。執行騎士の仕事ではありませんが……管理局の一員として見過ごせません」
「ならユーリ、手を貸してほしい。僕は――仲間を救いたいんだ」
僕はユーリへと振り向いて、なるべく真面目な顔をして手を差し出した。これは改めて、協力関係を築く為の儀式だ。
「はあ……どうも貴方といると調子狂いますね……分かりました。管理局に戻るまでの間は協力します」
ユーリはため息を付いたあと、おずおずと僕が差し出した手を握ってくれた。
それを見ていたアツシがぽつりと呟いた。
「……ナナにチクったろ」
「怪我人は寝てろ!」
僕は慌てて大声を出したが、ユーリが目を細めている。
「……そういえば、そのナナさんについて、あまり話を聞いていませんでしたね。あとで、たっぷりと聞かせてもらいますね」
あ、笑顔が怖い。
「うん、あたしも聞きたいんですけど」
あれ、なぜかグリンまで同じ表情だ。
「あー、うん。よし、とりあえず上に向かおう。レギンさん、どこから上に?」
「……この林を抜けた先に洞窟がある。そこを進めば【上界】に出られる」
「洞窟ね。うっし、じゃあ改めて……行きますか」
こうして僕とユーリは、【アルビオン】救出と【抱擁する者】討伐に向かったのだった。
それが、想像を絶する死闘になる事を――この時の僕はまだ知らない。
グリンにそう聞いてみるが、ドワーフとはまた変わった響きの名前だ。外国人っぽいけど……。
「いえ、アヤトさん……違います……ドワーフは――種族名です」
「は? 種族名?」
なんて暢気に僕らが、会話しているとそのドワーフのおっさんが口を開いた。
「人の家の前でグダグダ喋ってんじゃねえよ……なんだ、あいつらの仲間じゃねえのか?」
そのぶっきらぼうな口調と共にそのドワーフのおっさんが小屋の奥を親指で差した。
「あいつら……?」
覗き込むと小屋の奥の部屋にダイバースーツを着た人間が数人、床に寝かされていた。何やら怪我しているのか、ダイバースーツに血がこびり付いている。
何より、一番手前で苦しそうにしている男に――僕は見覚えがあった。
「っ! アツシか!?」
金屋《カネヤ》アツシ。僕が元いたAランクダイバーチーム【アルビオン】のメンバーだ。20代半ばで、ドレッドヘアーに筋肉質な身体。一見怖そうな印象を受けるが、誰よりもチームメンバーの事を気に掛けているのを僕は知っている。そんなアツシが、なぜこんなところに?
僕はお邪魔します! っという言葉を置き去りに小屋の中に駆け入って、アツシの元に向かった。
背後で、
「やっぱり仲間じゃねえか……」
ってドワーフのおっさんの言葉が聞こえたが、無視する。
「アツシ! どうしたんだよお前! なんでこんなとこに!! ナナは!? ショウジはどうした!?」
見れば、他の寝かされている者も【アルビオン】のメンバーばかりだ。
「ううう……アヤトの声が聞こえる……これが死に際の幻聴か……」
「しっかりしろ!」
僕はしゃがみ込んでアツシの頬を軽く叩く。すると、血に汚れた顔のアツシがゆっくりと目を開いた。
「……? っ! アヤトか!? なんでここに! って痛つつ……」
僕の顔を見てガバッと起きあがったアツシだったが、傷を負っているのか胸を強く押さえた。
「無理すんじゃねえよ若造。死にかけだったんだぞお前」
僕の後ろに立っていたドワーフのおっさんの不機嫌な声。振り返ればユーリとグリンが、入口の近くでどうしたらいいか分からず視線をキョロキョロさせていた。
「えっとドワーフ……さん? これは一体何があったんだ?」
僕がそう聞くとドワーフのおっさんは小さな椅子にどかりと座り、パイプを取り出して煙草を吸い始めた。
「ドワーフドワーフ呼ぶんじゃねえよ、人間の若造。俺の名はレギン、鍛冶屋だ。そいつらは、ステュクスの川辺に流れ着いていたから拾って怪我の治療をしてやったんだ。仕事の邪魔だからさっさと連れて帰ってくれ」
どうやら、レギンはアツシ達を助けてくれたようだ。無愛想なおっさんだが、悪い人ではなさそうだ。
いや、ぶっちゃけ色々と気になる事がありすぎるが、それよりも【アルビオン】だ。
Aランクのアツシ――しかもどちらかといえば前線ではなく斥候や遠距離から援護を得意とするアツシがこれほどの重傷を負う事自体が異常だ。
「アツシ、何があった?」
僕はアツシの背中を支えながら、何が起きたかのを聞く。
「……深層を目指してダイブしてたんだ。勿論、アヤトが口酸っぱく言ってた通り、準備は入念に、装備と体調は万全に……。表層……中層の途中までは良かったんだ」
アツシがぽつりぽつりと語っていく。
「ちょうど、【宝物庫】近くだったと思う。地震の影響で見た事のない通路が出来ていて、川が流れていたんだ。そしたらそこから――グレンデルの大群を従えた男が……」
「グレンデル! アヤトの時と一緒だ!」
グリンの言葉に僕は頷いた。
地震で出来た未知の場所、水、そしてグレンデル。気持ち悪いぐらいに僕の時と類似している。
僕は、そこでエンプーサに遭遇した。おそらくその男がエンプーサの立ち位置にいる存在だろう。
「どんなやつだ?」
「……デカい剣を持った男で……機械みてーな尻尾と翼が生えてたぜ……とにかく、やたらめった強くてよ……あのナナが純粋な剣術で負けていたんだ……ありえねえだろ? しかもグレンデルの大群を指揮してやがって、俺らはあっけなく壊滅した。腕を負傷したナナとショウジは新人を引き連れて撤退したが、斥候として前に出過ぎてた俺らは追い詰められちまった。だから一か八で川に飛び込んだんだ。そっからは記憶がねえが……気付いたらここにいて、そこのおっさんに助けられていた」
「どれぐらいだ。それからどれぐらい時間が経った!」
僕の問いに、レギンがアツシの代わりに答えた。
「……俺がそいつらを拾ったのは昨日だ。どれぐらいあの川にいたかは知らねえが、【上界】から下ってくる分にはさほど時間は掛からねえし、傷を見た限りさほど時間が経っていたとは思えねえ」
「だとすれば……まだナナ達は中層にいる可能性がある」
身軽な僕やユーリと違い、負傷してかつ新人を連れて地上まで戻るのはかなり難しい。ショウジならきっと、ある程度動けるようになるまでどこか安全な場所に留まる事を選択するだろう。ナナの負傷具合も気になる。腕を負傷してしまったのなら固有武装も満足に振れていない可能性がある。
「くそ……! やはりこっちにも影響があったか」
僕は密かに推測していた事が的中した事に嫌気が差した。【太陽の塔】ですら影響があったのだ、ウメダダンジョンに影響が無いわけない。
しかしよりによってナナ達がそれに出くわすとは。
「アヤトさん。おそらくですが、そいつはエンプーサの仲間でしょう。何者かは不明ですが……」
「……グレンデルを従える大剣を持った男だ? それに翼と尻尾があるなら……そいつは……【抱擁する者】だ」
レギンがそう言って、煙を吐いた。その顔には苦い表情を浮かべている。
「カドラー……何者ですか? 初めて聞く名前です」
ユーリの質問にレギンは力無く首を振った。
「……宝の守護者……黄金を抱える者……色々と名はあるが……真名は……失われている」
「グリン、聞き覚えは?」
そいつが何者か分からないが、知識があれば対処が出来る。無ければ……非常に厄介な事になる。
僕にとって……知識は武器なのだ。
「ごめん、分かんない。姿を見ればまた分かるかもしれないけど……」
「そうか。まあ仕方ない。よし、じゃあ行くか」
僕は既に、ナナ達を救出しに行く気でいた。明らかに異常事態だ。いずれにせよ上に戻らないと行けないしね。
「アヤト……お前まさか」
「ナナ達は高確率でまだ中層に留まっている。多分だが、まだどこかで戦っているはずだ。あいつらは――しつこく追ってくる。身をもって体験しからね」
「……なんか、表情変わったなアヤト」
「そうか? まあ色々とな」
僕は苦笑いを浮かべながらアツシをゆっくりと床に横たえて、立ち上がった。
とりあえずここにいればアツシ達は安全だろう
「レギンさん。こいつらの面倒、任せてもいいか? まずは安全に地上に戻る経路を確保しないと運ぶのは無理だ」
「……ちっ。条件がある」
「飲んだ」
「即答か小僧」
「アヤトだよ。僕の名前」
「じゃあ、アヤト。――カドラーを殺してくれ。あいつは……生きてちゃいけない奴なんだ」
レギンの声には複雑な感情が含まれている事に僕は気付いた。何かしら事情があるのだろう。ま、深くは聞くまい。いや、本当は色々聞きたいけど、今は時間が惜しい。
「分かった。どうせ、倒す事になるさ。倒せれば……だけど」
「ならいい。こいつらの傷が治るまでは面倒みてやる」
アツシが、悔しそうな顔で僕を見つめた。気持ちは分かる。チームの危機に何も出来ない自分の無力さは――僕が一番良く知っている。
「アヤト……俺……」
「お前はさっさと傷を治せアツシ。絶対に迎えに来る」
「ああ……すまねえ。ナナ達を……助けてやってくれ……」
「任せろ」
さてと……問題は……。
「……勝手に話を進めていますけど……私は地上に戻る事を優先するつもりですが」
そうユーリさんが言いやがりました。今の僕とアツシの感動的なやり取り見て、よくそんな事言えるよね!
いや、うん。至極全うな意見です。
「あー。これは僕の都合だからね。仕方ない! ここで分かれよう! 短い間だったけど楽しかった! じゃ僕はこれで――うげっ!」
さっさと扉から出ようとする僕の後頭部に硬い何かが突きつけられている。黒くてゴツい何かの銃口に違いない。
僕は素早くホールドアップ。つい、場を茶化そうとするのは僕の悪い癖だ。
「何、しれっと逃げようとしているんですか貴方は……。管理局に連行するまで、私は貴方の傍から離れるつもりはありません」
「おお……覚えていたのね」
「当たり前です。それと……グレンデルの大群に、そのカドラーという男。執行騎士の仕事ではありませんが……管理局の一員として見過ごせません」
「ならユーリ、手を貸してほしい。僕は――仲間を救いたいんだ」
僕はユーリへと振り向いて、なるべく真面目な顔をして手を差し出した。これは改めて、協力関係を築く為の儀式だ。
「はあ……どうも貴方といると調子狂いますね……分かりました。管理局に戻るまでの間は協力します」
ユーリはため息を付いたあと、おずおずと僕が差し出した手を握ってくれた。
それを見ていたアツシがぽつりと呟いた。
「……ナナにチクったろ」
「怪我人は寝てろ!」
僕は慌てて大声を出したが、ユーリが目を細めている。
「……そういえば、そのナナさんについて、あまり話を聞いていませんでしたね。あとで、たっぷりと聞かせてもらいますね」
あ、笑顔が怖い。
「うん、あたしも聞きたいんですけど」
あれ、なぜかグリンまで同じ表情だ。
「あー、うん。よし、とりあえず上に向かおう。レギンさん、どこから上に?」
「……この林を抜けた先に洞窟がある。そこを進めば【上界】に出られる」
「洞窟ね。うっし、じゃあ改めて……行きますか」
こうして僕とユーリは、【アルビオン】救出と【抱擁する者】討伐に向かったのだった。
それが、想像を絶する死闘になる事を――この時の僕はまだ知らない。
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